恵利華の友達を作るためにも。
2.
校門前には、美化清掃に参加する生徒たちが集まっていた。軍手にゴミ袋、火ばさみ。体操服姿の生徒たちは思い思いに話しながら開始を待っている。
「ゴミは俺が誰よりも一番集めてやる!景品はお前らなんかに渡さねーぞ!勝負するかー?」
クラスでお調子者代表と名高い菊池健也が、周囲にいる男子たちと楽しげに盛り上がっている。
「同じ班になる女子を私に選ばせてくれてたら、最高の班になったのになぁ」
近くに集まっていた僕たち全員を流し見た井上桃花が、甘ったるい声でぼやいている。
「はぁ……」
桃花に不服満々の目を向けられた恵利華が、思いっきり嫌そうな溜息をついた。僕と隼人は目を合わせて、苦笑い。
学校行事で地域のゴミ拾いをすることになった僕たちは男子三人、女子三人の班に分けられた。健也と桃花は、今回僕たちと同じ班になった。
「桃花ぁ。俺さえ居れば、他のメンバーなんてどうでもいいじゃんかぁ」
「なんで寄ってくるのよ。離れなさいよ」
健也と桃花が、僕たちの前でじゃれ合い始めたのを見ていると、もう一人、同じ班になった門田楓が、優しく恵利華に微笑みかけた。
「恵利華さん、今回は宜しくね」
「え……、あ、うん。よろしくね。楓さん」
恵利華は声をかけてくれた楓に戸惑いながらも、ちゃんと言葉を返していた。その様子に、僕はホッとする。
クラスメイトの女友達を作りたい。そう言った恵利華のために、今回の行事を役立てようと、隼人が班のメンバーを考えてくれた。どうしてこのメンバーになったのかは知らないが、桃花はともかく、楓とは会話が成り立ちそうだ。
楓は朗らかな雰囲気があって、クラスの中では落ち着きがある生徒だ。物静かな印象があるけれど、誰とでも話ができるし、友人が多い。楓が同じ班ならば、恵利華の話し相手になってくれるだろう。
「ねぇ、柏木くん」
さっきまで健也と一緒にいたはずの桃花が、僕に話しかけてくる。猫が懐いてくるかのような雰囲気を肌で感じる。
「柏木くんって、お休みの日は何しているの?桃花、今度一緒に遊びたいなぁ」
「……え?」
同じクラスメイトではあったけれど、今日まで桃花と、そんなに話したことはない。それなのに、急に一緒に遊びたいと言われても、正直困る。
「結人は最近、従妹のお姉さんの相手で忙しいんだよ。まぁ、俺も一緒にいるけどな」
「私の相手もして欲しいなぁ。隼人も一緒でいいからさ」
隼人が僕と桃花の間にすぐに入ってくれて、桃花の甘ったるい目線から解放される。
「桃花。そんときは俺も行くからな」
健也も混ざってきたから、さらにその場の空気が変わる。
「あんたは来なくていいの!」
そうしてまた、健也と桃花がワチャワチャとし始めたから、僕は桃花への返答を免れた。
僕は隣にいる隼人に、小さな声で話しかける。
「今回の班、隼人が決めたんだよね。どうやって決めたんだ?」
健也と桃花はクラスの中でも賑やかなことを好む方だと思う。隼人となら話は盛り上がるかもしれないが、僕には縁が遠そうな二人だ。もうちょっと静かな生徒が同じ班になるのかなと勝手に思っていた。
「楓ちゃんだけは俺から本人にお願いした。恵利華に、クラスメイト中で俺たちみたいに一緒に居ても大丈夫そうな子をあげてもらったんだ。それは楓ちゃんだっていうからさ」
つまり楓は、恵利華の友達作りのための本命ということだ。それならば、二人が上手くいくように見守りたい。
「あとの2人は、向こうから一緒の班にしてくれって言われたから入れたぜ」
「え?向こうから?」
それは意外だった。健也と桃花からの同じ班に申し出てきたとは思いもしなかった。僕は隼人がわざと、クラスメイトの中でも僕たちが仲良くなりずらい一番の難問を仕組んだのかと思っていたから、どういうつもりなのか聞こうと思っていたのに。
「まぁ、そういうことだから、結人も頼むな」
「分かってるよ」
この班のリーダーは隼人だった。恵利華の友達作りのために、隼人から提案されたことには出来るだけ協力するということになっている。テンションが高い健也や桃花と、どう話したらいいか戸惑うが、向こうから同じ班になってくれたのならば、僕も歩み寄れるようにしたい。
「ゴミをたくさん集めるなら、繁華街にいこーぜ!」
「景品をもらうために、トップ3には入らないと!」
開始の号令と共に、健也と桃花はやる気を見せた。彼らは美化清掃の上位者のみ与えられる景品目当て。最初から僕とは意気込みが違うなぁと、性格の違いを見せつけられる。
美化清掃に参加した各班の行動は、この時点で三パターンに分かれるだろう。健也や桃花みたいに上位をガチに狙いにいく班。
景品に興味を示さず、サボることに有意義をもつ班。
あとはどっちでもないその場の流れに合わせる班。
僕と恵利華だけの班だったら、恵利華の意向に合わせてサボる班だったに違いない。隼人が加わったとして、ガチに行くぞと言ったとしても、結果的にはその場流れ班になっているはずだ。
だけど、今回は件の二人が居るから、僕が願う行動にはならない。
「よぉーし!じゃあ、この町の一番の繁華街に行くしかないな!」
なあなあに済ませたい僕の気持ちとは裏腹に、班長である隼人も意気揚々と声をあげた。
「恵利華さん。ひとまず私たちも頑張ってみる?」
楓が三人の様子に合わせて、恵利華にそう投げかける。
「……そ、そうね」
恵利華は楓からの申し出を断ることはしないようだ。そうなれば僕も従うほかない。
ふぅと大きく息を吐き、頑張るぞと気持ちを切り替えることにした。
* * *
繁華街に足を運んだのは、ここなを案内した時ぶりだった。
それまではこの場所には滅多に来なかった。何故かというと僕の特異体質のせい。この一帯は他世界の住人が集まっている場所でもあるのだ。
ここなと一緒に来た日は、はしゃぐここなのことばかり見ていた。だから周りをほとんど見なかったから、今回は意識して周囲を見渡す。
やはり多くの人達が普通ではありえない位置を浮かぶように座っている。走ってくる車にぶつかりそうな人を見た時は息が止まったが、何事もなく車がすり抜けるのを見たら、ホッとした。シャッターが降りた店の入り口に丁度良く消えていく人を見たら、不法侵入かよと自分で突っ込んで、笑えもした。
僕が心配しなくても彼らは安全で、彼らなりの生活がそこにある。そう思ってしまえば、これまで不気味で訪れるのを避けていたこの場所は、いろいろ考察が楽しめる所に変わった。
なんであんな位置に居るんだろう、あの場所に道でもあるのかな。変な恰好しているけど、何をしている人なんだろう。彼らの世界を想像するのを意外と楽しめてしまった。
「柏木くん、何を見てるの?」
そんな僕を見ていたのだろう。桃花が聞いてくる。
「この辺はあまり来ないから、景色を楽しんでる」
彼らのことは伝えずに、素直にそのまま答えたら、「へぇ、そうなんだ!」と変に思われなかった。
なるほどこれでいいのかと、やたら話しかけてくる桃花のおかげで、返答の仕方のコツを覚える機会になった。
そんな僕とは正反対に、恵利華が能力のせいで追いつめられていることに気が付いたのは、通路に人だかりができていたときだった。
恵利華が突然立ち止まり、その場で目をギュッと瞑った。顔色はかなり悪い。僕はすぐに察する。それは幼かった僕が初めてここに来た時にやった行動と重なったからだ。
『見たくない』『この場から離れたい』。そんな恵利華の思いを直感的に受け取った。
恵利華が目を瞑ったまま、大きく辛そうに息を吐く。おそらく、この繁華街の人達の感情に酔ってしまったのだろう。教室にだって、ずっと居ることができないくらいだ。他人の感情を色で意識することで、伝染してしまうのかもしれない。立ち止まった恵利華のすぐ横に僕は立ち、声をかけた。
「恵利華。目を瞑ったまま、歩けばいいよ。僕に掴まって」
「は?いいわよ。平気よ!」
恵利華はすぐに口では拒否したが、表情はまったくそう語っていなかった。
「平気って顔はしてないよ。ほら」
僕は恵利華の手首をつかんで、僕の腕を掴ませる。
続きは明日の朝7時の予定です。




