こうして集った仲間たち①
1.
白いハート。水色の星。可愛らしいクッキーが並べられていた。ここなとしずくのはしゃいでいる横顔が、リビングの空気を和ます。
僕たちの拠点である辻村家に、初めて恵利華を招待することになった。色とりどりなクッキーは恵利華をもてなすためのもの。
「ねぇ、結人くん。恵利華ちゃんは飲み物、何が好きそう?紅茶派かな?コーヒー派かな?」
「ジュースが良いって言ったら、今はマンゴーが旬なので、それをおススメしたいですね!」
二人に視線を向けられ、僕はうーんっと首をかしげる。
恵利華が高校の自販機で、いちごミルクを買っていたのはみたことがある。ファミレスでは甘そうなパンケーキを食べていたり、筆箱や財布などの小物は可愛いデザインのものを使っていたりする。
それで以前、二人に好みを聞かれたときは、「甘党」「可愛いもの好き」と答えたのだが、紅茶やコーヒー、マンゴーが好きかどうかまでは知らない。
「恵利華は自宅でよくジュースを飲んでるよ。マンゴーも好きだ。お茶系なら緑茶かな」
「え?」
リビングには三人だけのはずなのに、後方から突然声が落ちてきた。そして次の瞬間、クッキーに手が伸びてくる。
「一個もーらい!」
僕がビクリっと身体を震わせると同時に、テルが真横に現れる。
「テ、テル!」
「よ!結人、ここな。そして初めまして、しずく」
テルはニカリっと笑ったあと、クッキーをパクンと一口で頬張った。
「あなたがテルさんなんですね。おじいさんからお話は聞いています。初めましてです」
しずくは突然現れたことに驚きもせず、テルに丁寧に頭を下げる。
「緑茶かぁ……。茶葉あったかな?」
ここなも同様、スッとその場から立ち上がり、キッチンへと茶葉を探しに歩いていった。僕だけ一人、驚かされたことを恨めしくテルを睨んでしまう。
「……どうしたんですか?また新しい任務ですか?」
「ひゃ、ひょーはほこくだへ」
クッキーを食べているせいで、何て言っているか分からない。
「はい?」
「テルさん。お口の中が無くなってからお話してください。お行儀が悪いですよ」
しずくがテルを叱ると、テルは母親に怒られた子供のような顔になり、テーブルの前に素直にストンと座った。そして、口をもぐもぐしながら、ごめんなさいと言うように頭を深く下げる。
小柄なしずくに、立派な見た目のテルが諭されているのはなかなかに滑稽だ。僕が笑って吹き出すと、テルは僕のせいだと言わんばかりに、横腹を小突いてくる。
「い、痛いです」
だけどテルが明らかに嬉しそうな表情で僕に絡んでくるから、それ以上責める気にもなれなかった。
「アイスコーヒーしかないけど、テルさん飲むー?」
ここながキッチンから声をかけてくる。テルはクッキーをしっかり飲み込んだ後、ここなに振り返った。
「……ありがとう、ここな。もらうよ」
テルはここなからコップを受け取る。
「それで、さっき何て言ったんですか?」
テルはコーヒーで喉を潤わせてから、僕に向き直る。
「今日は予告だけって言ったんだ。地球では、もうすぐ夏至がくるだろう」
「夏至ですか?」
「昼間が最も長くて、夜が最も短くなる日ですよね。一週間後です」
しずくが教えてくれる。
「そう。実はその日は、地球全体のエネルギーが極まる日でもあってな」
「そのエネルギーって、フリーエネルギーのことですか?」
ここなが尋ねると、テルは軽く頷く。
「フリーエネルギーももちろんだが、それ以外もだな。宇宙からのエネルギーもしかり、地球自体のエネルギーもだ。前に、世界は人間の数だけ存在するって話しただろう」
僕はまだ自分がいる世界とここなの世界しか見たことは無い。だけど、世界はそれだけではないそうだ。
「その世界全てのエネルギーが強くなる。その影響で、夏至の前後は特殊な『CWC』が起きやすい時期でもあるんだわ」
「特殊な『CWC』ですか?」
「ああ。どんな『CWC』になるかは、その時にならないと分からないが、評議会は優先的にその対処を行うことになる。だから今は待機。結人たちにも、何かしらお願いすることになると思う」
テルはコーヒーを飲み終わると、コップをここなに返した。玄関の方を見る。
「そろそろ恵利華が来そうだな。じゃあ、俺は消えるわ」
テルが立ち上がると、「もう一個貰っていい?」とクッキーを指差して、しずくからお許しを貰っている。そんなテルを僕はじっと見た。
「なんで、恵利華に会ってあげないんですか?」
恵利華はテルに会いたがっているのに、テルのその言い分は、会いたくないみたいだ。
「いじわるとかじゃないんだ。恵利華のことは、ちゃんと大切にしている。だからこそ、最適な時期というものがあるんだよ」
テルはふざけた様子ではなく、いつになく真面目な声で返してきた。さっきだって、僕が分からなかった恵利華の好みをちゃんと把握していた。
恵利華だって、なんだかんだ文句は言いつつも、テルの言うことを守っている。大切にされていると分かるからこそ、従っているのだと思う。
恵利華とテルの付き合いは、僕なんかよりもずっと長い。テルなりの考えがあるというのなら、僕がとやかく言えるものでもない。
「じゃあ、何か気付いたことがあったら、呼んでくれ」
テルがそう言ったすぐ後、玄関から隼人の声が聞こえてきた。
「結人ぉー!恵利華、連れてきたぜー!」
「恵利華ちゃんが来た!」
ここなとしずくが玄関に駆けていく。テルは僕が玄関に気を取られているうちに姿を消していた。
ここなとしずくに連れられて、恵利華がリビングに入ってきた。キョロキョロと室内を見ている恵利華と目が合う。
「いらっしゃい」
「お招き…、ありがとう」
恵利華がツンっとしつつも恥ずかしそうに言う。会ったときの第一声が素直なのは珍しい。
「恵利華ちゃん、こっちこっち!」
ここなとしずくが、恵利華をテーブルへと誘う。
「このクッキー、恵利華ちゃんのために用意したの!一緒に食べよう?」
「私のために?……わぁ、すごく可愛い!本当、可愛い!」
並べられたクッキーを見た恵利華は、一気にテンションをあげた。可愛いもの好きは間違っていなかったようでホッとする。
「恵利華ちゃんが喜んでくれて良かった!絵柄は、しずくが考えたんだよ。ね!しずく」
「可愛いものは私も好きですからね」
恵利華の様子を見て、二人も嬉しそうだ。
「俺と結人で飲み物は用意するから、三人は先に座ってなよ」
今日は恵利華を二人に会わせるためにセッティングした。隼人の気遣いに僕も頷く。
「ありがとう!恵利華ちゃん、飲み物何がいい?」
ここなたちの注文を聞き、隼人とキッチンに向かった僕は、三人の様子を見る。今日のことを提案した時、恵利華は嫌だとは言わなかったが、緊張や遠慮は感じ取れた。慣れない相手に、つっけんどんな態度をしてしまうところもあるから心配はあったのだけど、三人はさっき初めて会ったとは思えないくらいに、会話ができている。
さすが女の子同士。いやここなたちだからこそなのかもしれない。ここなたちの楽しそうな表情や声に、僕までほんわかする。
「しずくさんの持っているポーチ、可愛いわ」
恵利華はしずくのショルダーポーチを褒める。それはモフモフした生地に可愛いウサギの耳が付いていた。
「これは私の手作りですよ。今度、恵利華さんにも作りましょうか?」
「て、手作りなの!?すごい。あ、でも、え……っと、作らなくていいわよ。私、きっと似合わないから」
「そんなことないです。似合いますよ」
しずくがそう言うも、恵利華は首を横に振る。
恵利華は今日も黒いパーカーに黒のフリルミニスカートを着ている。しずくの持っているポーチは確かにピッタリだ。
「僕もその服に合うと思うけど」
テーブルに戻ってきた僕が恵利華にそう伝えると、恵利華は小さな声で呟く。
「身に付けるのはちょっと……」
「筆箱とか、財布は可愛いのを使ってるのに?」
すかさず疑問を投げかけると、恵利華が途端に顔を赤くした。
「……っ!なんで、知ってるのよ!」
「なんでって……。使っている時に見えたから」
「なんで、見てるのよ!」
「えぇ……?」
なんだか理不尽だ。そういえば確かにカバンの中に常にしまっていたかもしれない。だけど、筆記用具やお金を取り出すときに見えてしまったのだ。だからこそ、可愛いものが好きだと僕は気付いたのだけど、恵利華は隠してるつもりだったらしい。
「……可愛いものは好き。だけど、子供っぽくみられるのも嫌なのよ」
恵利華がぽそりと付け足す。ふむ、女心は難しいのだなと僕は結論づけた。
第二部の続き、公開し始めました。第二部の完結までは、投稿を継続していく予定です。
引き続き、読みに来てくださった方に大感謝です。
是非、お気軽に、コメントお待ちしております。
投稿時間ですが、何時がいいのか判断がつかなくて、みなさん何時が嬉しいですか?
とりあえず、毎朝7時にしておきます♪




