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視えちゃう僕は、異世界の君と、この世界の謎を解く  作者: HiKaRi
◆第二部◆ 第一章 Mystery in the Art Room
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しずくに前に進んでもらうために

6.


「本当に行くんですか?危なくないですか?」

 ある休日の午前中。しずくは僕の世界へ繋がる玄関の前で、うろたえた声をあげていた。


「大丈夫。結人くんと隼人くんの2人がついてる!それに結人くんたちの世界の打楽器を見てみたいでしょ?」

「そ、それはもちろんなのですが……、でもですね!」


 そして、僕ら三人は、そんなしずくを説得している。

 僕たちはこれから、隼人の妹・葵が所属している吹奏楽サークル見学に、しずくを連れて行こうとしているのだ。


「葵に、今日は友達を連れて行くって伝えたら、演奏頑張るって、大張り切りだったぜ。しずくちゃん、是非観に来てやってよ」


 隼人にしずくのことを相談したら、とても親身に考えてくれた。当初は見学だけのつもりだったけれど、演奏会まで開いてくれるようサークル長に掛け合ってくれた。


「それは観に行きたいです!でも誰も居ない世界なのに、そもそも観れるんですか?」


 辻村家には、ここなとしずくを僕の世界に連れていける玄関がある。その玄関から、ここなとしずくが一人で僕の世界に入ると、その世界に人の姿は映し出されない。彼女たちからは僕の世界の人達は見えないし、逆もしかりだ。


 だけど、それを可能にする方法がある。それは手を繋ぐなどの触れ合うこと。


「大丈夫だ。しずくちゃん、手を出して」

「え?」


 隼人がしずくに手を差し出して、しずくがよく分からずに隼人へと手を差し出す。


「よし!もう離さないようにする!」

 その手を隼人がぎゅっと掴んで、玄関へと歩き始めた。


「隼人、頼んだ」

「おお、任せとけ」

「あわわぁぁ~」


 しずくが恐々と声を出す中、隼人としずく、僕とここなは手を繋いだまま、玄関の外へと飛び出した。


「しずく、見て!みんなが見えるでしょう?」

 びくびくしているしずくに、ここなが声をかける。


「あれ?本当ですね。みなさんが見えます!」

 しずくは僕らを見て、安堵の声を出した。


 特殊能力がある僕でないと、ここなやしずくをこの世界に映し出すことができないのかと思っていたが、隼人でも可能であることが最近分かった。


だけど僕と違って、一度手を放してしまったら、再び手を繋ぐことは出来ない。互いに見えていることが、再度手を繋ぐ条件だった。


「隼人、手を離すなよ。しずくさんが目の前から突然消えたら、葵ちゃんたちが怖がる」

「おぉ、分かってる」


 隼人がニカっと笑って、自分の胸を叩く。しずくは四人の中でも一番背が小さくて、幼い顔をしている。隼人は僕よりも背が高く、体格もいい。手を繋いでいる二人を見てると、隼人はなんとも頼もしいお兄さんに見える。


「葵たちは町の公民館に居るから、しずくちゃんに町の様子を見せながら行こうぜ」

「ああ」


 僕とここなは、隼人としずくを前に歩かせて、公民館への道のりをゆっくり歩き出した。


しずくは周囲に居る人達も見えるようで、走り去っていく子供を目で追いかけたり、見たこともない町並みに終始、視線を移動させては、隼人が説明を入れていた。


その様子をここなと見ながら、僕は懐かしさを感じていた。


「ちょっと前のここなを見ているみたい」

「うん。でも私もまだまだ、知らないことたくさんあるよ。アレとか気になってるの」


 ここなが道路の四つ角に祀られている石像を指さした。


「ああ、あれは道祖神(どうそじん)だよ。道を守る神なんだ。ここなの世界には無い?」

「うーん、こういうのは無いかな」


「こっちの世界では八百万やおよろずの神って言葉があって、そういう神はたくさん居るよ」

「私の世界でも神はたくさん居るけど、私の世界では、神って言葉は自分のことを指すんだ」


「自分のことが神?」

「うん」


 ここなの世界で『神』という言葉が『自分』と同義なのだとしたら、ここなが普段使っている『神社』や『神職』の言葉の意味合いも僕が思っていることとはだいぶ違うのかもしれない。ここなの世界のことについては、まだまだいろいろと分からないことが多い。


「そういう話だったら、来條さんと話したら、いろいろ教えてくれると思うよ」

 僕が黙って考えごとをしていたからだろう。ここながそんな僕を見て、提案してくれる。


「そうだね。また話す機会を作ってもらおう」

「おーい、結人、ここなちゃん。いくぞぉー」


 僕たちが道祖神の前で立ち止まっていたことに気付いた隼人が、振り返って僕らを呼ぶ。


「演奏会に遅れちゃったら大変だ。急ごう、ここな」

「うん」


 僕らは少し駆け足になって、隼人としずくの方へと向かった。



 公民館の中から楽器の音が聞こえてくる。吹奏楽サークルの長に挨拶してから室内に入ると、ここなとしずくは楽器を持った子供たちを見て、「あの楽器はきっとフルートっぽいよね。あっちはトランペットかな?」と、二人で盛り上がり始めた。


「ここなの世界の楽器と似てる?」

「うん!まったく同じっていうわけではないけど、似てる!」

「もっと真近で見たいですね!」


 ここなとしずくが、僕の世界の楽器にとても興味深々なのを見て、それだけでも連れて来て良かったと思えた。


「お兄ちゃんのお友達さん、こんにちわ。今日は来てくれてありがとうございます。せーいっぱい演奏しますので、楽しんでください」


 葵を含め、15人くらいの子供たちが弧を書くように並んで、それぞれの楽器を手に持ったまま、お辞儀した。地域の子供による吹奏楽サークルだからか、小学生から中学生の子供が集まっているらしい。


 サークル長が指揮棒を振り、聞き覚えのある音楽が流れ出す。僕の世界の人たちだったら、とても馴染みのある明るく楽しい曲のオンパレード。僕も一緒に口ずさむことができる曲が多かった。


 演奏はすごく上手というわけではないけれど、子供たちは楽しそうに演奏していた。間違った子が居たけれど、それも愛嬌の音で、笑いを交えながら、演奏は進む。 


 上手く綺麗に完璧に奏でることが目的ではなく、一緒に居るみんなと音を重ねることを楽しむ、そんな演奏は、聞いている僕たちも参加したくなるような、そんな楽しい演奏会だった。


 曲の途中から手拍子が聞こえてきて、僕がそっちを見ると、しずくは音楽に合わせて、リズムを取っていた。手を繋いでいない!?と僕は驚いたが、隼人がしっかりとしずくの背中を手で支えていた。


 ここなを見ると、ここなもリズムを取りたがっていたから、「僕らも手を叩く?」と聞く。


「うん。そうしたい!」


 僕らは互いの足をクロスさせて引っかけてから握った手を放す。それから僕らは葵たちの演奏する音楽に身を任せて、身体も動かして、楽しんだ。




「しずくお姉ちゃんも打楽器なんだよね!打楽器叩いてみる?」


 演奏が終わった後、しばらく個人練習になった。自由に見学していいと言われ、打楽器に近づいたしずくに、葵が声をかけてくれる。


「いいのですか?」

 しずくが葵と隼人の顔を交互に見る。


「じゃあ、後ろに倒れないように背中で支えるから、しずくちゃんが好きなものを叩いてみたらいいんじゃないか」

 隼人がしずくに笑いかける。


「本当ですか!じゃあ、この楽器が気になっているんです。これは何て言う楽器ですか?」

 しずくが嬉しそうに、木製の楽器の前へと向かう。


「これは木琴だよ」

 葵が教えてくれる。


「木琴ですか。木で出来ているんですね。形はマリンバに似ています」

「マリンバっていう木琴もあるんだけど、これはシロフォンっていうの」


「木で造られた楽器は初めて見ました。私、これを叩いてみたいです」

「おっけー」


 隼人が葵から木琴を叩くマレットを受け取り、しずくに渡す。隼人はしずくと背合わせに立ってから、手を離した。

 しずくがマレットで、音板をポンポンと叩いて、音を確認する。


「おおぉぉ。私の知っているマリンバより、深みと重さがありますね」

 音板をひとつずつ叩いて、音を鳴らしていく。


「なるほどです。こういう音階なのですね」

「しずく。適当に演奏してみたら?簡単なメロディーの曲なら、音階足りるんじゃない?」


「そうですね。この音階でこの音なら、何がいいですかね」

 しずくがうーんと少し考えてから、曲が思いついたらしい。


「いきます」

 しずくはまれっとを両手に二本ずつ構えた。


 並んだ音板を撫でるように二回鳴らしてから、軽やかな曲が奏でられる。しずくのその軽やかでテンポの早い音楽は、この木琴の音ととてもマッチしていて、その部屋に居た子供たちの視線を全て、一気に引き付けた。


「お姉ちゃん、すごーい!」

 演奏が終わった瞬間、子供たちが木琴の前に集まった。


「他にも弾いてー」

 子供たちがはしゃぎ始める。


「えーーっと、そうですね。次は何にしましょう」


 しずくは少し戸惑いながらも、子供たちの関心がとても嬉しかったようだ。すり寄ってくる子供たちに対して答えながら、その後も楽しそうに音を奏でていた。


 しずくと背中合わせの隼人の顔を見ると、隼人は嬉しそうに微笑んでいた。僕もここなと目を合わせて、同じように微笑み合う。


 しずくが辻村家のリビングで打楽器の話をした時に見せた顔も、楽器が好きなんだなと思ったけれど、こうして今日のしずくの様子を見ていると、演奏するのが好きなんだなとすごく感じた。


しずくの部屋で演奏してくれた時のしずくの顔は、今のような顔ではなくて、渋く緊張した顔をしていたただけに、しずくのこんな表情が見れて、本当に良かったと思う。


 正直、この計画を考えた時、下手をすれば姿が消えてしまうここなたちをこっちの世界の人達に会わせるのはどうかと不安だったし、そもそも会わせていいものなのかも考えてしまった。


 だけど隼人はいつものごとく楽観的で、「しずくちゃんのためになるなら、いいんじゃないか」と後押ししてくれた。今日のことは僕一人ではきっと無理だった。


「しずくさんの演奏を楽しむ顔が見れて本当に良かった」

「うん。まだ音楽を楽しむ気持ちは残っているって分かったね」


「ああ。まずは一段階クリアかな」

「うん」


 僕らは頷いてから、次の計画も上手くいくようにと願う。



引き続き、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。

皆さまの応援がとっても励みになります!


さて、しずくを立ちなおさせるための次の計画へ!

次回の更新は明日の7時です!


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