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視えちゃう僕は、異世界の君と、この世界の謎を解く  作者: HiKaRi
◆第二部◆ 第一章 Mystery in the Art Room
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美術室の怪異とは?

 辻村家から見える窓の外は、すでに夜に向かっていた。本来なら自宅に帰る時間。だけど今宵は急ぐ必要はない。しずくに頼まれた読書会をお泊りしながら行うことになったからだ。


 前回、ここなが僕の家に泊まった日のことを思い出せば、お泊り会なんて何を考えているんだ!と思う部分はある。


僕は休日の昼間でも良かったのだ。だけど隼人は放課後も休日も部活がある。だからってそれを理由に、事情を知っている隼人を一人仲間外れにするのは嫌だった。


 考えた結果、夜遅くなることを気にしなければ、ゆっくりと読書会ができるのではないかと思いついた。それを三人に提案したら、それならお泊り会をしよう!ということになったのだ。


 ここなとしずくが前のめりに同意している。それなら、従うほかないと思う。僕に下心なんて、いっさい無い……はずだ。


 ここなとしずくはまだ来ていなかった。お泊りするとなると準備がいろいろあるんだろう。

 僕は待っている間、隼人に阿砂から聞いた例の話を聞いてみることにした。

「隼人はうちの学校の『美術室の怪異』は聞いたことある?」


「おお、美術室の怪異か。もう卒業しちゃった美術部の先輩が言っていた話かな。『割れた像が復活すると願いが叶う』っていうやつ」


「そう、それだ。さすがよく知っている」

 阿砂からも、その話をされたのだ。


「だけど、その話はもう廃れた話だぜ」

「オカルト話に廃れたなんてあるの?」


「話題になるからには、その火種になるものが必要だろう。俺は基本、実際に体験している人が居ないオカルト話は認定しないことにしてるんだ。そうじゃなきゃ、この世にはその手の話題が溢れすぎてる」


 オカルト好きな隼人だが、隼人なりの定義があるようだ。


「だって実際、目の前にガチのオカルトがあるんだからな」

「確かに」


 僕はまさにオカルト:科学的に証明できない超常現象を体感し続けている。


「それで、その『美術室の怪異』がどうかしたのか?」

「阿砂先生はそれを体感した当事者らしい」


「え?まじか」

「ああ。阿砂先生が在校生だった時、実際に起きた話なんだって」


「阿砂先生が高校生だった時となると、何年くらい前の話なんだ?」

「10年以上前の話だって」


「っていうことは、阿砂先生って、一度大学を卒業しているのか」


 阿砂が当時体験した出来事。それは、あの窓辺に割れた石膏像を置いておいたら、翌日、元通りになっていたというものらしい。


しかもその割れて復活した石膏像というのが、まさに今回割れた石膏像そのものだそうだ。だから阿砂はゴミ置き場からわざわざ回収し、怪異が起きるのを期待して、あの場所に置いていたのだという。


 隼人に今日の阿砂の行動や会話を話すと、隼人は例のごとく、目の色を変化させていった。


「実際に起きた怪異と観察対象の阿砂先生。この二つが重なるなら、『CWC(クロスカ)』が関係しているんじゃないか?」

「隼人もやっぱりそう思う?テルも『CWC(クロスカ)』は起きるって言っていたし、いやもう既に起きたのかもしれない」


 美術室にいる僕にしか視えない男性は、あの時、慌てていた。彼の世界ではいったい何が起こっていたのだろう。


「結人くん、隼人くん。お待たせー。夕飯の材料、持ってきたよー。お腹が空いたよね。さっそく作ろう~」


 ここなとしずくがリビングに入ってきた。ここなが重たそうな大きなトートバックを持っているから、僕はすぐに駆け寄り、それを受け取る。


「ありがとう、結人くん。中身はすぐに使うから、冷蔵庫に入れなくていいよ。調理台に置いてくれる?」

「ああ、分かった」


「聞いてよ。大変なことがあってね」

「大変なこと?」


「しずくが演奏するはずだった楽器が壊れちゃってたの」

「え?」


「原因はよく分からないんだけど、楽器保管庫の人の話だと、楽器のケースごとヒビが入っちゃってたんだって」


 それを聞いて、僕はしずくを見る。しずくはリビングのソファに二人分のお泊りセットが入っているのであろうバックを置いていた。


「しずくさん。楽器が壊れちゃったなら、演奏はどうするの?」


「壊れちゃったのは本番の時だけ使っている楽器なので、練習用の楽器はあります。音階はちょっと少なくなるので、本当なら、その楽器の方が良かったんですけれど……」


「しずくちゃんは何の楽器を演奏しているんだ?」

「マリンバです」


「マリンバか!マリンバって棒で叩いて音を出すんだよね。それが楽しいって聞いてる」


「そうなんです!棒や手で叩いたり、触ったりすることでいろんな音が出るんです!だから、他の楽器と違って、いろんな音色が出るから、私好きなんです!」


 しずくは楽器のことを話し出すと、途端に明るい顔をした。その顔からも好きという思いが伝わってくる。


「葵も打楽器を担当していて、木琴が好きだって言ってたよ」

「隼人くん。葵ってだあれ?」


「俺の妹。今日も読書会だって言っちゃったら、行きたいってうるさくってさ。なんとか置いてきたんだよ」


「隼人さんは、妹さんがいるんですね。しかも私と一緒で打楽器なんですね。なんか嬉しいです」


「隼人くんの妹さんが打楽器をやっているなら、しずくがマリンバを演奏しているところも聞かせてあげたいね。打楽器の中でも、やっぱりマリンバがとっても音が綺麗なの。壊れちゃったマリンバはマリンバの中でも一番音色が素敵な楽器だったんだ」


「その楽器は修理できないの?」

修復する(なおす)ことはできます。だけど条件が……。私にはハードルが高いんです」


 しずくは眉を下げ、唇を歪ませた。


「条件?」

「そのマリンバを修復(なお)してもらう代わりに、私が差し出す対価です」


「金額が高いのか?」

 隼人が対価と聞いて、尋ねる。


「ここなの世界にはお金がないんだ。だから金額が高いっていうことではないと思う」

「え?お金がない……?」


 お金がないことに頭がハテナになっている隼人は置いておいて、僕はしずくに更に尋ねる。


「差し出す対価はどんなものなの?」

「その修復(なお)したマリンバを使って、演奏を披露してほしいって言われました」


「なるほど」・「おぉぉ!」


 楽器を修理するお礼が演奏だというのなら、それはとても良い対価だと思えた。お金がないここなたちの世界では、そういう相互利益(ギブアンドテイク)が成り立っているのか。


「私は誰かのために人前で演奏するなんて、まだ無理です。だから、練習用の楽器で演奏しようと考えています」


「やればいいじゃない。しずくなら出来るよ」

「そんな簡単に言わないでください」


 しずくはどうやら自信がないようだ。マリンバを修理してもらえるほどの価値を、演奏で返す勇気がないのかもしれない。


だけどもし、僕がその楽器を修理する技師だったとする。僕が楽器を修理して、演奏者がその楽器でただ楽しそうに音を奏でている。それを想像しただけで、修理した価値があったと思える気がした。


「私がここなさんのように上手かったら良かったんですけど」

 しずくの発言を聞いていると、そういう安易な発想では成り立たないということなのだろうか。


「ここなちゃんは上手いのか?」

「ここなさんはピアノなんですけど、とっても上手ですよ。リサイタルだってやったことあります」


「「リサイタル!?」」

 僕と隼人は同時に声をあげてしまった。


 リサイタルと言えば、一人でホールを貸し切って、演奏しているイメージがある。ここなの世界でもそんな感じなのだろうか。


「しずく、私のことはいいから……」

「よくないです。ここなさんは才能があります。なのに、最近、ピアノにすら触れもしなくなって……」


 しずくがちょっと険しい顔をして、ここなを見つめた。ここなはしずくから目を反らす。


「しょうがないじゃない。何のために演奏するのか、分からなくなっちゃったんだもん」


 ここなのボソボソと零した元気のない声。聞いたことがない話だったから、僕はその続きが知りたくなった。音楽学校に通っているとは聞いていた。


だけど、それ以上ここなの学校生活のことについては、話をしてもらったことがなかった。


「さあ!この話は終わりにしよう!ご飯、作ろう!」

 それなのに、ここなは笑顔を無理やり作って、その話を切り上げようとした。


「……そうだな!ここなちゃん、俺、野菜切るよ。しずくちゃんは何する?」

 隼人はすかさず、それにのっかって、ここなの調子に合わせてしまった。


「じゃあ私は、お皿の準備をします」

「しずく。フルーツもあるから、それも切ってくれる?」


 仕方なく、僕も周りの流れに合わせることにした。


「じゃあ、僕は何をしたらいい?」

「結人くんは、味見係!」

「味見って、まだだいぶ先だと思うんだけど」


 僕は苦笑いをしながら、ここなのことをじっと見た。ここなは僕のそんな顔をみて、「ん?」と何事もなかったかように笑顔で首をかしげてくる。それが何故か、僕の胸をざわつかせた。


「……ここな、さっきの話だけど」

「隼人くん!なんか今、結人くんに味見させられるものはないかな?」


 だけど、ここなは僕が言いかけた言葉をしっかりと区切ってきた。


「今、味見?うーん、そうだな。生野菜を一個づつ、味見させるか?」

「それいいね!」


 気持ちが完全に切り替わらない僕に気付いていない隼人が、ここなのノリに合わせて、生の玉ねぎや人参を差し出してふざけてくる。


「やめてくれ」

 僕は仕方なく、自分一人で気分を切り替えようと、その場から逃げることにした。


 * * *


 食事の後、僕らは順番に風呂に入った。寝る準備が全員整ったら、読書会を始めるという算段だった。男二人はさっとシャワーで済ませて、すでに身支度済み。今はここなが入浴中だ。


 隼人はどうやら2階の部屋に布団の準備をしに行ってくれているようだ。何とも気の利く奴である。


「結人さん。ちょっといいですか?」


 リビングのテーブルに、『THE LITTLE PRINCE 』と書かれた分厚いしずくの絵本と、母に借りてきた『星の王子さま』と書かれた文庫本の二冊。それを用意していた僕に、しずくが近づいてきた。


「どうかした?」

「ここなさんのことで話したいことがあるんです」


「ここなのこと?」

「それと、玲人先生のことも」

「父さんのことも?」


 しずくは一度、ここなが居る風呂場の方を見た。ここなはまだ出てくる気配はない。ここなには聞かれたくない話なのかもしれない。


次回の更新は本日21時予定です。

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