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視えちゃう僕は、異世界の君と、この世界の謎を解く  作者: HiKaRi
◆第二部◆ 第一章 Mystery in the Art Room
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しずくのお願いごと


 しずくは持参していたカバンの中を探り始めた。


「この本のことです」

「あ!その本って図書コーナーで浮いた本じゃないか!」


 隼人がしずくが取り出した本を見て、声をあげた。


 以前、僕の高校の臨時図書コーナーで『CWC(クロスカ)』による騒ぎが起きた。それにともなって、しずくの本が僕の世界に紛れ込んでしまった。無事、しずくの本を見つけ出し、返すことができたのだが、それがこの本、『THE LITTLE PRINCE 』という絵本だった。


「この本がどうかしたの?」

「この本の内容を教えて欲しいんです」

「内容を?」


 しずくからその理由を聞く。しずくはこの絵本をイメージして曲を作ったそうだ。それは完成したけれど、仕上がりに納得できていないらしい。


 作曲したということだけでも凄いことだと驚かされているのに、さらに完成度を意識するなんて。音楽の授業で同じ課題があったら、こんなもんでいいだろうと僕は適当に済ましてしまいそうだ。


「納得できないのは、絵だけで作曲したからだと思うんです。だから内容をしっかり理解できたら、違うのかもしれない。それで、元々本の持ち主だったおじいさんに内容を教えて欲しいってお願いしたんです」


「しずくさんのおじいさんっていうのは、来條さんだよね?」


「はい。だけどおじいさんは、教えてくれませんでした。『私が内容を説明してしまったら、しずくのためにはならない。自分で考えなさい』と言われてしまいました」


 来條はどうしてそんな風に言ったのだろう。家族が相談する際はいつだって的確な助言をくれる人だと聞いていただけに、気にかかる。


「私のためにならないって言われても、その本の文字は読めません。自分で考えなさいって言われても内容が分からないことには無理です。それで、この本は結人さんの世界にも同じものがあるって思い出したんです。だから、ここなさんに相談したくてこの家に来たら、結人さんに会えました」


「なるほど、そういうことだったんだ」

 しずくがこの家に来た理由がよく分かった。


「だけど僕もこの本を読んだことがないんだ。申し訳ないけど、内容を説明できないんだよね」


「じゃあ、本を読んであげればいいんじゃないか。内容を説明しちゃうと、その人の解釈が入っちゃうだろう。しずくちゃんのおじいさんは、それを気にしてるんじゃないか?」


 隼人の提案は的を得ていた。確かにそういう理由であるならば、読んであげるのならば問題ないのかもしれない。


「来條さんには、ここなに相談することは知ってる?」

「はい。『しずくがそうしたいなら、そうしなさい』と言われました」


 来條が承知しているなら、断る理由は見つからない。僕たちはしずくのために、後日、この本の読書会を開くことにした。


 * * *


「母さん。『THE LITTLE PRINCE 』って本、知ってる?」


 夕飯時、僕は何気なく、母に本のことを話題にしてみた。


「『星の王子さま』でしょう?知ってるわ。

そういえば、その本だったら、我が家にあるわよ」

「え?うちにあるの?」

「玲人さんからプレゼントされたの」

「父さんが!?」


「ちょっと待っててね。確か部屋の本棚に……」

 母が食事を一度中断して、本を持ってきてくれる。


「二冊あったと思ったんだけど、一冊しかなかったわ。はい、これよ」


 渡された本はしずくが持っていた大きめの絵本ではなく、白い文庫本。表紙に王子さまと思われる男の子が描かれている。


「絵本もあったはずなんだけど、どこかにいっちゃったみたい」

「どんな話なの?」


「さぁ、読んだことないから知らないわ」

 母のあっけらかんとした物言いに、僕は呆気にとられる。


「父さんからプレゼントされたのに、読んでないの?」


「だって本を読むのはあまり得意じゃないの。玲人さんだって、『ゆりはこの本を読まなくても、ちゃんと大切なものが分かっているから大丈夫』って言ってくれたもの」


「じゃあ、どうしてプレゼントなんてしたんだ」

 母のちょっとした惚気に呆れつつ、父のやっていることも意味が分からない。


 僕は箸を置いて、文庫本を開く。母が読まずに閉まっておいただけあって、本はヨレもなく綺麗なまま。

数ページ開いて、中身を見ていると、本の合間からひらりと一枚の紙が落ちてきた。


 それを拾うと一筆箋で文字が綴られていた。


『”大切なもの”を最初から分かっている君だから、安心して結人を任せられる。僕の大切な友人。 愛する君へ』


 誰が書いたかの明記はないけれど、きっと父だろう。


「母さん。こんな手紙が挟まってたよ」

「あらぁ、玲人さんからね。うふふ。結人はちゃんと育ってるわよ」


 18年ぶりの父との再会かとでもいうように、手紙に向かって嬉しそうに返事をする母。


「プレゼントされたときから、この手紙が挟まっていたんじゃない?」

「きっとそうね。でも気付かなかったから、今この手紙を貰ったみたいで嬉しいわ」


 母がにこやかに笑う。


 母はもう父と会うことはない。一人で育てると決意したと以前、言っていた。だけど父に会えたら会えたで、母はきっとすごく素直に喜ぶのだろうなと感じた。


 父さん。母さんはまだ父さんのことをとっても大切に思ってるよ。

 僕はどこかにいるであろう父に向かって、そう投げかけていた。


  *  *  *


「柏木。美術部が国際的な美術展に参加することにしたんだが、そのサポートをお願いしたい」

 美術主任教諭に呼び出され、開口一番、そう言われた。


「え?僕ですか?美術部員ではないんですが」


「美術部の生徒は皆、作品制作にギリギリまで余裕がない。それで事務的な作業を美術部以外の生徒にお願いすることにした。基本的に阿砂先生に動いてもらうが、彼女も教育実習中なわけで負担も多い。だから、阿砂先生の補佐が欲しい」


「阿砂先生の補佐ですか……」


 観察対象である阿砂の補佐という立場と分かり、すぐにピンときた。これはお膳立てされたということだ。


テルのニヤリ顔が思い浮かんでモヤっとしたが、阿砂の観察をどう続けようかと思案していたところだ。阿砂の近くに違和感なく居れるならば好都合。


理由もなく阿砂の後を追い続けていたら、それこそ阿砂から危ない奴だと思われたかもしれない。


「何をするかは阿砂先生に聞いてくれ。彼女もこの美術展に参加したことがあるから、流れは分かっているだろう。そうそう、この雑誌にな」


 美術主任教諭はデスクの上にあった雑誌に手を伸ばして、あるページを見開く。そこには三十代くらいの男性がスーツ姿でインタビューを受けている内容が記載されていた。


「この浅木律(あさぎりつ)。この高校の卒業生なんだ。当時、美術展に出品した作品が評価されてな。そして今や国際的な彫刻家って奴だ」


 僕はその雑誌を受け取り、浅木律のインタビュー記事を眺める。彼の代表作となっている彫刻が載っている。そこには彼の作品を示す刻印も掲載されていた。


「阿砂先生は美術室にいるだろうから、さっそく打ち合わせてくれ」

「分かりました」


 僕は雑誌を返すと、美術室へと歩き出した。  


 美術室の中を見ると、生徒は誰もいなかった。阿砂が一人、窓辺の棚の前に立っている。阿砂の身体の向こうに白い何かがあるのが見えた。


「か、柏木。な、なんでここに居るんだ」

 僕が阿砂に近づいていくと、その気配に気付いた阿砂が明らかに動揺した様子で振り返った。


「美術展のため、阿砂先生の補佐をするようにお願いされたからです」


 阿砂は背にある白いものを隠す仕草をしたが、近づいてしまえばさすがに隠せない大きさ。それは頬がひび割れた石膏像。


その像の表情を見ればすぐに、先日ゴミ置き場に捨てたあの石膏像だと分かった。だけどあの石膏像は四分割されていたはずだ。目の前の像の胴体は修復され形を取り戻していた。


 何故、一度捨てたはずの石膏像がここに?阿砂先生がゴミ置き場から回収した?そして、わざわざ直した?


 阿砂に確認したいことがありすぎた。僕がじっと石膏像を見ていたせいだろう。

「あ……、えっと……これはだな」


 動揺している阿砂が一度、小さく観念したように息を吐いた。

 どうしてこの石膏像がここにあるのか、説明してくれるのだろうか?


「柏木は、この学校の『美術室の怪異』って聞いたことあるか?」

「……はい?」


 だけど想定外の言葉が阿砂から発せられて、僕の方が動揺することになった。



次回の更新は本日12時の予定です。

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