恵利華が感じること
「あの人、纏っているオーラがめっちゃ暗いくせに、感情の色と表情がまったく合ってないの。嘘つきを身体全体に貼り付けている感じ。私、そういう人を見ているのがキツイのよ」
恵利華はその人が纏っているオーラと、感情の変化を表すシナスタジアが見える。その能力の影響で、学校生活がままならなくなるのだ。
「纏っているオーラが暗いっていうのは、どういうこと?」
「私たちのオーラは寒色系を纏っているんだけど、その色にも違いがあるの。たいがいは緑系か青系が多いんだけど、黒やグレー系の人も居る。そういう色を纏っている人は性格が暗かったり、攻撃的だったり、逆に無気力だったり、生気がなかったりするわ」
「だとすると、阿砂先生はぜんぜん違くないか?めっちゃ明るいし、いつも楽しそうに笑っているし、な?」
「ああ、阿砂先生が暗い人だとは思えないけど……」
「でしょうね。良い意味で洗練された大人ってことよね。だけど私にとっては、色がすべてなの。だから、あの人が居なくならない限り、教室にはいかないわ」
恵利華が抱えている能力によるしがらみは、僕よりもだいぶ重たいようだ。
2.
「テルさんが言っていた教育実習生さんは、どんな感じ?」
放課後。いつものように辻村家に寄った僕は、ここなから阿砂のことについて聞かれた。
「名前は阿砂唯さん。美術の彫刻科を専攻している方で、学校では僕たちのクラス担任の補佐と、美術の授業を担当することになった。話した感じ、気さくで明るい女性だよ。恵利華はオーラが暗いとは言っていたけどね」
「オーラが暗い?」
「ああ。僕も詳しいことは分からないんだけど、オーラが暗い人は性格が暗かったり、逆に無気力だったりするらしい。だけど、阿砂先生はまったくそんな人じゃないんだ。生徒たちと楽しく会話しているのをよく見かけてる」
テルからの任務どおり、できる範囲で阿砂の様子を観察していた。とはいえ、ただ観察し続けるというのは、なかなか難しい。
阿砂の担当する教科は美術だけだ。週に何回もある授業ではない。朝と帰りのホームルームでは顔を合わせるが、それ以外はまるで接点がなかった。
休み時間に阿砂を探して見つからずに終わるということもあった。今後、どう観察を続けていくかは考えないといけない。
「結人くんの学校の先生となると、私には見えないし、今回は手伝えることがないのかな?」
「『CWC』がいつ起こるか分からないとなると、今のところは。だけど、ここなにお願いしたいことができたら相談する」
「うん!いつでも言ってね!」
ふと、リビングのドアの向こうから、僕が聞いたことがない声が聞こえた気がした。
「すみませーん。ここなさん、居ますかー」
ここなの名を呼んでいた。方向的にも、ここなの世界の玄関の方からだ。
「え?しずく?」
「しずくさん?」
ここなはソファから立ち上がるとドアへと歩き出した。僕もとりあえずここなの後を追い、少し離れたところから様子を伺うことにする。
玄関の戸は既に開いていた。そこには以前、図書コーナーで紹介された眼鏡を掛けたツインテールの女の子が立っていた。
「しずく、どうしたの?」
「ここなさんに相談したいことがありまして」
「相談したいこと?」
しずくが僕の存在に気付いたらしく、僕としっかり目が合った。
「ここなさん。後ろにいる方はどなたですか?」
「彼が結人くんだよ」
「しずくさん。初めまして」
僕は軽く頭を下げる。
「……本当に存在してる」
しずくはそう呟いて、僕のことをじっと見つめてきた。
* * *
「確かに玲人先生の面影がありますね」
リビングへと場所を移した僕たちは、改めて自己紹介をし合った。
「しずくさんも父さんに会ったことがあるの?」
「しずくは私の友達だけど、家族でもあるの。だから、私たちは幼い頃から一緒に生活してきて、そして先生も一緒に暮らしていた」
「玲人先生は、私のお父さんでもあります」
「そっか。ここなだけじゃなく、しずくさんのお父さんでもあるわけか」
ここなたちの世界の家族体系は、僕の世界の家族体系とはまるで違う。僕の世界では基本、自分の身体の元になっている両親がそのまま家族になる。
だけど、ここなたちの世界では、身体の元になっている両親が必ずしも家族になるわけではない。どちらかというと稀だそうだ。家族は平均20人くらい。お父さんとお母さんはそれぞれ二人以上。兄弟はそれ以上。家族に血のつながりは関係なく、成長段階に合わせて、両親は変わるそうだ。
そして僕の父は、僕が産まれる前から僕の世界を他界し、ここなの世界で先生と呼ばれ、ここなの父親代わりをしていた。
「おじゃましまーす。結人~、ここなちゃ~ん。いるか~?」
聞きなれた声が今度は僕の世界の玄関から聞こえてきた。すでにこれまでもこの家を根城のように扱っているもう一人がリビングの中に入ってくる。
「あれ?今日は新しいお客さんがいる!」
隼人はここなの隣に座っているしずくに気付く。やはりこの家の中だと、隼人もしずくを普通に見ることができるようだ。
「ここなの友人のしずくさん」
「しずくちゃんって言うのか!ここなちゃんに続き、可愛い子が増えたな!」
「か、可愛い……?」
しずくが小さなか細い声を出して、顔を赤める。
「よろしくな!しずくちゃん!」
「……は、はい」
隼人は女の子の見た目に対しても、素直に言える口らしい。
「それでしずく。私に相談ってなんだったの?」
「……あっ!実は、ここなさんに相談しようと思ったんですが、それは結人さんにお願いしたいことでもあったんです」
「僕にお願いしたいこと?」
「はい」
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