『呪い』を打ち負かす方法
「……実はこの後、肝試し大会を予定しています。みなさまには、その幽霊がいるキャンプ場を体感して貰います」
生徒たちが一気にざわめき始めた。
嫌だと怖がる生徒も居れば、マジかよっと怒りを見せる生徒もいる。
「呪われたらどうするんだ」と騒ぐ生徒もいた。だけど、コレで良い。
「みなさーん、聞いてくださーい。このキャンプ場に果たして『呪い』があるのか。僕ら全員で検証してみましょう。もちろん、タダでとは言いません。『ご褒美』も用意してあります。これは、肝試しに参加する生徒の皆さんと、実行委員メンバーとの『勝負』でもあります」
僕が『ご褒美』と『勝負』というワードを出すと、生徒たちは一度、静かになってくれた。
「勝敗は肝試しに参加して、失神するか、しないかです。見事、失神せずに乗り越えた生徒へのご褒美は……」
隼人とテニス部の仲間が、ご褒美の品をステージから掲げる。
「バーベキューで使える『高級和牛引き換えチケット』です!」
『おおぉ……』と生徒たちの反応はかなり良かった。さすが、高級和牛。
「そして、この肝試しはかなーり怖いです。ハンデとして、日が明るいうちに始めます!」
かなーり怖いを敢えて強く協調する。
『昼間の肝試しなんて聞いたことないぞー』
『失神するほど怖いなんて、あり得なくない』
『呪いってさ。実行委員たちのやらせなんじゃない?』
『このイベントを盛り上げる演出ってやつか』
『これは高級和牛を確保したな』
『この勝負、勝てるんじゃない』
これまでの生徒たちの暗然たる空気は、打って変わって和らいでいた。怯えていた幽霊に立ち向かってみようという意欲へと変化する。
僕は恵利華と目を合わす。恵利華が首を縦に振った。
それは、|この肝試しを始めて良い《生徒たちの心の準備ができた》というお墨付きをいただいたということだ。
「では始めましょう!」
僕は生徒たちに、肝試しのルートを説明し始めた。
* * *
生徒たちが四人一組になって、用意した肝試しルートを順番に体験する。
肝試し一つ目はランタンが不気味にチカチカし、ユラユラと揺れ動くスポットだ。
杭とロープで区画された通路の上部にはランタンが設置されている。そのランタンは不定期に不安定に点滅を繰り返しながら、時に小さく、時に大きく揺れる。
もちろん日が落ちた後の方がホラー感は増すだろう。だけどLEDの光は昼間でも確認できた。
『揺れ方が不気味』『チカチカ、やばくない』
『なんで揺れてるんだ』『どういう仕組み?』
通路を歩きながら、ランタンを見上げる生徒たちが思い思いに声を出す。一度見てしまえば、見慣れてしまうもの。通路を抜ける頃には冷静になって、『気味悪い』が『どうして』に変わっていく。
何故、ランタンが点滅し揺れるのか。それは、僕の世界の通信用の高周波数と、ここなの世界に漂っているフリーエネルギーが干渉してしまったせいだった。
フリーエネルギーはここなの世界では電気のもとになるものらしい。高周波数とフリーエネルギーは目には見えないし、単独で害を及ぼすものではない。
ただ今回の場所に限っては、通信用のアンテナの位置や森林の風の通り道が重なってしまった。互いの世界が干渉することで不安定な状態を作り出してしまったようだ。
* * *
肝試し二つ目は、地面に寝転がると恐ろしい低音が聞こえるスポットだ。
大きめな広場の中でレジャーシートを敷いて寝っ転がる。すると、唸り声のような音が聞こえてくるのだ。
何故、そんな音が聞こえてくるのか。それは、ここなの世界では動物たちが住み着いている地帯だったせいだ。
彼らの鳴き声は、大地を介して干渉し、更に籠った音になる。時間帯や動物たちが集まっている場所によって、声の聞こえに変化もあった。
動物たちの縄張り範囲が決まっていたことが功を奏した。キャンプ場内では、それを広場として囲ってしまうことにした。
『本当だ。唸り声みたい』『本当に聞こえるんだね』
『この辺は聞こえずらいぞ』『じゃあ、こっちに来てみろよ』
一番最初に何も知らずに体感してしまった生徒は怖かっただろう。
だけど、何が起こるか先に分かってしまえば、それは単なる確認行為に変わる。生徒たちは広場内に各々レジャーシートを敷いて、聞こえる音を探しては体感し合っていた。
* * *
焚き火が消えてしまう現象は、ここなの世界では水場であることが原因だった。湧水がところどころ溢れているのだ。キャンプ場の水洗い場も同じ水源を利用していたが、多くの水場は埋め立てたようだ。今となってはその気配はない。
焚き火を一番湧水が多く出ている位置に設置する。火を使う肝試しは火事の心配があるから、実行委員が実演するという形にした。生徒たちを納得させるための今回だけの処置だ。
キャンプ場の管理人には、水場のある場所を伝え、その場所では火を使う行為ができないように整備してもらうことになった。
そんなこんなで肝試し体験は終了した。怖がっている生徒は居たけれど、失神する生徒は誰一人もいない。怖がりの僕がいう事ではないが、この肝試しは怖くない。
最初に敢えて怖いと強調しておけば尚更、体験前と体験後の落差がある。大したことはないと思ってもらうことを狙いとしたのだ。
摩訶不思議現象が起きている理由をそれとなく科学的根拠を結び付けて説明もする。そうすれば、幽霊さわぎではなく、単なるエンタメでしかなくなる。
生徒全員が高級和牛引換券をゲットした。ちなみに高級和牛は、元々の実行委員が用意してくれていたものだ。僕はそれを肝試しのご褒美に活用させて貰ったのだ。
「住み分けと交通整理。うまくいって良かったな!」
「ああ。ひとまず『テルからの依頼』はなんとかなった!」
今回の現象すべて、自然環境の干渉が要因だった。人工的なものではない。そうなると、取り除くという発想はおかしな話だ。
そこで僕は、現象が起こらない場所と、起こらざるを得ない場所を把握し、区分けした。
現象が起こらない場所は、安心して睡眠・食事が取れる区画。起こらざるを得ない場所は、不思議体験ができるエンタメ区画。
現象と共存していくための、住み分けと交通整理を行ったのだ。
「それにしても『CWC』が起きる場所なのに、人や物が迷い込むことがないこともあるのね」
「図書コーナーや神社での前例があるから、それが一番心配だったけど、このキャンプ場はそれが心配ないって分かって、安心した」
それこそが、僕がテルに確認した内容だった。
図書コーナーや神社のような人工的に作られた『CWC』は、干渉した世界間で人や物が転移する。
その反対に、自然環境によって作られた『CWC』は、人や物を転移させない。
だからこそ、このキャンプ場の現象は無くすのではなく、活かしてしまえばいいと判断した。
管理人には「現象を無くしてほしい」とお願いされていたが、オカルト好きがわざわざ遊びにくることを隼人から聞いていた。区画を分けたことで、キャンプ生活は滞りなく行える。今回の計画を提案した時、管理人もむしろその方が良いと承諾してもらえた。
「さあて。残るは、バーベキューとキャンプファイアーだな!」
「ああ。でも後は気楽なもんだよ。肩の荷はすでに下りた感がある」
バーベキューの会場セッティングと料理の下準備が終わっていた。生徒たちが食事を楽しんでいるのを見守るだけだ。
キャンプファイアー時の催し物だって、台本がある。ただ進行すればいいだけだ。
「結人がそんなことを言うなんて、なんて頼もしくなったんだ」
隼人が驚いたように、目を丸くする。
「そうかな?」
「だってそうだろう?実行委員を押し付けられた直後の結人なんて……」
そう言われて、泣きそうになっていた自分を思い出した。やばい……、恥ずかしい。
「あ、あの時は、本当にどうしたらいいか、分からなかったから……」
つい昨日のことだったはずだ。だけど、だいぶ前のことのように感じる。確かにあの時の自分と今の自分に変化がある。
* * *
バーベキューは生徒たちからは大好評。キャンプファイアーの時間も大いに盛り上がっていた。
最後の催し物は軽音部の演奏。燃え上がる赤い炎の火花と一緒に、ギターとドラムの音、そしてボーカルの声が弾ける。生徒たちが跳ねる。踊る。空気が振動する。その場の一体感が気持ちがいい。
『では、キャンプファイアーを締める最後の歌に入る前に、イベント実行委員の方から挨拶を貰おうかな!』
『イエーイ!』
僕は隼人に背中を押された。
「ほら、最後の挨拶してこいよ」
ステージ台に上げさせられる。最後という隼人の言葉がやけに胸に響いた。これでやり遂げ終える。身体の芯が熱くなる。
「みなさん。今宵の宴は楽しんでいただいておりますでしょうか」
『おぉー』『楽しんでるぜー』『イエーイ』
イベント開始時の反応とまるで違った。軽くて、熱くて、ノリのいい声。その明るい波動を全身で感じて、心も体も嬉しさで身震いする。
「今回のイベントを楽しんでいただけたのは、今日、残念ながら来れなかった本来のイベント実行委員の皆さんのおかげでもあります。彼らに感謝したいと思います」
『お前らにもなーー』『肝試し、楽しかったぜーー』『お疲れさまーー』
生徒たちの反応が僕を労う。頑張った甲斐があった。諦めずに行動して良かった。そう思わせてくれる。
『柏木くーん、手を振ってーー』
女子生徒からのよく分からない要望をされたけれど、言われたとおりに手を振る。ちょっと恥ずかしさもあって、笑みも零れた。
『きゃぁぁぁ』『かっこいいー』
想像もしなかった反応が返ってきて、驚きと共に全身に熱が勝手に込み上げた。
「……え、えええっと」
次に言おうと決めていた定型文が吹っ飛んだ。
「つ、続き、なんだったっけ……?」
思い出せない。一気に調子が狂ってしまった。言葉がまったく出てこない。
「結人ー。閉めちゃえーー」
焦っている僕に、隼人の救いの声が飛んできた。
「……えっと、それでは最後まで楽しんでください」
なんとか言葉を作って、そそくさとその舞台から降りた。とりあえず終わった。ふぅ~と深く長い息が零れる。
「ねぇ、今回の実行委員の人、かっこよくない」
「あんな生徒、居た?」
「いつもクールな顔してるけど、あんな照れた顔すんのな。意外」
「可愛いぃ、そのギャップ、たまらないじゃん」
隼人と恵利華の近くでは、生徒たちがワイワイと話していた。
「クラスメイト以外に結人のファン、増えちゃったんじゃないの?」
恵利華が隼人に呆れた声を出す。
「当の本人は注目なんて浴びたくないだろうけどな。不可抗力で挙動不審な態度が出ちゃうから」
「それが分かっていたのに、なんで舞台に立たせたのよ」
「だって、いつになく結人、頑張ってたからさ。みんなに褒めてもらいたいじゃん。結人はすごいやつだって知ってもらいたいじゃん」
隼人がニンマリする。
「あんた、本当結人のこと好きね」
「あたぼうよ」
隼人は照れた声で吐き出した。
引き続き、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
結人たちは無事、呪いを払拭できました!
そして実感する仲間たちの絆。
第一部の終わりも近くなってきました。
次回の更新は明日12時30分です。
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