更に押しかかる新たな問題
「柏木。コレはどうする?」
「それは、ここからあの辺りまで、等間隔に並べていって欲しい」
「柏木くん。準備した食材はどこに保管しておけばいい?」
「キャンプ場の冷蔵庫が借りられることになってる。管理事務所に言って、聞いてみてほしい」
テルの任務と実行委員の段どりを同時進行で進めていく。その目まぐるしさとプレッシャーは大きかった。
だけど、他の人には見えないここなが隣にずっと居てくれる。そのことが、僕の励みになっていた。
目を合わせることができない。話しかけられれば、突然会話を中断する。そんな僕の隣に居るのに、ここなはずっと笑顔だった。
その安心感は半端なかった。そんなここなに失態なんて見せたくない。男の意地みたいなものもあったかもしれない。
何度かテンパりそうになったけれど、僕はなんとか冷静さを保ち、膨大なタスクを処理する気力を持ち続けられた。
「柏木くんのあの真剣な横顔、素敵すぎない?」
「残って正解だったよね。川を下るより、ぜんぜん価値ありだよ」
隼人と恵利華の近くにいたクラスメイトの女子たちが盛り上がっていた。
「……結人って、学校ではそういう立ち位置なの?」
それに反応した恵利華は、隼人の耳元に呟いた。
「本人は気付いていないけどな。結人って見た目が良いけど、ずっと人を寄せ付けない態度を取ってきたんだよ。こういうイベントにもずっと参加しなかった。だから、今回参加するって聞いて、はしゃいでる女子、実は多いんだわ」
いつになく真剣で熱心な僕を見て、隼人が嬉しそうにしていたことに僕が気付くはずもなかった。
* * *
午後が深まってきた頃。生徒たちが帰ってきた。勉強ではなく、川下りを楽しんできたはずなのに、様子がおかしい。生徒たちの足取りは重く、楽しそうな声は聞こえてこない。どんよりしている雰囲気が伝わってくる。
「ねぇ、なんか変よ」
生徒たちの感情の色を見た恵利華が怪訝な目をする。
「空気が重い?」
「そうね。女子たちなんか特に、恐怖の色を放ってるわ」
キャンプ場内をキョロキョロしながら、びくびくしている女子生徒もいる。
「何かあったのかしら?」
僕と恵利華は午後のイベントに向けて最終確認をしているところだった。別の場所で作業していた隼人が走ってくる。
「結人!恵利華!なんか面倒くさいことになってる!」
隼人が珍しく焦っていた。
「こんなキャンプ場に泊まりたくない、今すぐ帰りたいって生徒が訴えてるんだって」
「え?」
管理人が最初に言ってた。摩訶不思議現象のせいで、途中で帰ってしまう客が増えたと。だけど、今朝の生徒たちにそんな様子は見られなかった。昨日だって、大事にならないように僕らは対処してきたはずだ。
「どうやら、生徒たちの間で、要らぬ噂が出まわっちゃったらしい」
「要らぬ噂?」
「とにかく、クラ担が結人、呼んで来いって」
「………」
僕は黙り込む。とっても嫌な予感しかしない。
「柏木、頼む。この後のイベントで、どうにか生徒たちの気持ちを切り替えてやってくれ。さすがに今日の帰りのバスを用意する余裕はないし、理由が理由だしな」
担任から、追加の押し付けを頂いた。勘弁してほしいが、もうここまできたら、やれることをやるしかない。
生徒たちが帰りたいと訴えている理由はもちろん、昨日起きた摩訶不思議現象が影響している。だけど、皆が強く気にしているのは『呪い』だった。
このキャンプ場に『呪い』なんてない。そもそもそんな噂すら、これまでにない。
だけど、どうしてこんな騒ぎになっているか。それは、昨晩テントで怖い体験をした生徒が運悪く川下りでボートから落ちてしまったことが発端のようだ。
プロのインストラクターがしっかり付いていた。もちろん大事には至っていない。ただ、二つの恐怖体験が重なって、精神的にちょっとパニックになってしまったそうだ。気の毒ではある。
そんな出来事があったせいて、今朝まで大きな騒ぎになっていなかった摩訶不思議現象が、根も葉もない『呪い』として、生徒たちに広まってしまったようだ。
「今回、急遽キャンプ場が変更になっただろう。どういうわけか生徒たちは、そう仕向けたのはイベント実行委員だとも言い始めている。申し訳ない。生徒たちから変な言いがかりを言われるかもしれん」
担任が申し訳ないと頭を下げたが、僕はぎくりと冷や汗ものだ。それは一概に間違っていない。心臓に悪すぎる。
イベントの開始時間が近づき、ゾロゾロとキャンプ場の中央広場に生徒たちが集まってくる。
「怖がっている生徒たち、結構いるわね。実行委員を引き受けてくれた女子の明るい色と、他の女子の暗い色の差にクラクラするわ」
恵利華が近くにいる女子たちと、集まってきた女子たちを見比べて、辟易する。
「大丈夫だ!恐怖なんて、楽しさで上書きしちゃえばいい。しっかりと準備したんだからな!イベント成功させようぜ!」
隼人の前向きさが僕の気持ちを落ち着かせてくれる。イベント実行委員で円陣を作り、僕は彼らに視線を配った。
「それではみなさん。さっき追加した流れで、宜しくお願いします」
「おお~!」
実行委員たちは、こぶしをあげてくれた。
* * *
僕がステージ台に立つと、集まった生徒たちの視線が順々に僕の方に向いてきた。
「お、お集まりのみなさん」
拡声器マイクを使った僕の声は小さくても、生徒たちの視線を一気に集めるのに十分な大きさだ。
「えっと……。今回、急遽、イベント実行委員を任されました柏木です」
生徒たちはざわつきながらも、僕の話の続きを待つくらいの注目度は向けられる。顔に冷や汗が垂れる。心臓の音が早い。こんなに多くの目を集めたのは生まれて初めてだ。
「今日の川下りでは、予想外の出来事もあったと先生からは聞いていますが、いかがでしたか?」
『体が冷えたぜー』『川に落ちることがあるなんて、聞いてないぞー』
僕の問いかけに反応してくれたのは、派手な服装をしているような硬派な生徒だった。だけど、誰も反応してくれないよりはずっと良い。
「体が冷えたのであれば、今宵は暖まるキャンプファイアーも予定しています。楽しみにしていてください」
ひとまず最初の挨拶はこれくらいでいいだろうか。次の工程の説明するため、腕に書き込んでおいたカンペに目を向けると、
『このキャンプ場は、幽霊がいるって本当ですかー?』
と、一人の女子生徒が質問してくる。
「それは……」
どう切り返した方が正解だろうか。すぐに答えられずにいると、
『実行委員が敢えて、呪われるキャンプ場にしたんだろう?』
と、今度は男子生徒から明らかな悪意を向けられた。
恐怖と不安が募って帰ることが出来ない生徒たちの鬱憤。それは当てやすい矛先へと向けられる。今はまさに、この僕ということなのだろう。
それを跳ね除けてしまうと余計に彼らが辛くなるのは目に見えている。それなら今回は跳ね除けるより、むしろ……。
僕は一度深呼吸する。
引き続き、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
生徒たちが不安がっている『呪い』
それを結人たちは払拭できるのか?
次回の更新は明日12時30分の予定です。
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