こころつよい助っ人たち
朝食前の空き時間。手がかりを求め、隼人とキャンプ場を歩き回った。僕らの宿泊地から少し外れた場所に、学校のジャージ姿ではない男性が数名、こちらに歩いてくるのが見えた。
年齢はだいぶ年上。昨日は見かけなかった。管理人から貸し切りだと聞いていたが、今日は僕ら以外の宿泊客がいるのだろうか。
テルが助っ人を用意してくれると言っていた。異世界の住人かもしれない。彼らの身体をじっと見るが、太陽の光が当たっても透けていない。それならば、僕の世界の住人ということになる。
「結人、どうした?」
「今日は僕たち以外に宿泊客が居るらしい」
「え?どこに?」
僕は彼らを指さす。
「そこには誰もいないよ」
隼人にそう言われ、僕は驚いた。
僕はその男性たちに走り寄った。彼らは僕にまったく気付かない。彼らの会話は聞こえない。もう一度、じっくり身体の透け具合を確認する。
触れられそうなくらいにくっきりと映っていた。恐々と彼らに手を伸ばす。僕の手はあっさりと彼らの身体をすり抜けた。
ふと、ある日のことを思い出した。神道神社に居たここなのこと。あの日のここなも同じようにくっきりしていた。
その時、彼らの向こうにふわりと女の子が現れた。見慣れた可愛らしい顔が視界に映り込む。
同時に向こうも目を見開いて、声をあげようとした。僕はハッとして、口元にバツを作る。その合図に状況を理解したようだ。口を閉じて、笑顔で小さくウンウンと頷いた。
「隼人、ここながいる。ちょっと会話してくる」
「ここなちゃんが?じゃあ俺は一回、皆のところに戻ってるな」
隼人を軽く見送った後、ここなにあっちで話そうと合図する。
ここなは目の前にいる男性たちに断りを入れる。僕らは誰も来なそうな場所を探して、その場を離れた。
* * *
キャンプ場は僕らの住んでいる町よりもだいぶ離れた場所にある。敢えて来ない限り、会えない場所だった。
「どうしてここに、ここながいるの?」
「テルさんに頼まれたの」
助っ人はここなのことだったらしい。
「今日から二日間だけ、自然調査員の役割をいただきました!」
ここなも僕と同じように肩書をもらったようだ。自然調査員は神職の内の一つだそうだ。その名のとおり、各地周辺の自然を見て回り、環境保全の役割も担っている。
神職というものは、僕らの世界の仕事に置き換えると、公務員に似ている気がした。
「ここなの今いる場所からは、何が見える?」
「ここは森林地帯だよ」
ところどころ違いはあったが、樹木が立っている位置や種類が同じようだ。まったく同じとまではいかないけれど、共通点は多い。
書庫部屋の資料に、『地球にある世界は互いの位置により、条件を満たすと干渉する』と書かれていた。
もしかするとこのキャンプ場は、二つの世界の干渉度合いが高い可能性がある。
「ここなはテルから、今回の任務についてどれくらい聞いてる?」
「結人くんを手伝ってくれってだけ」
「それだけ……?」
「うん!」
説明しないテルもテルだが、それでOKするここなもここなだ。
僕はここなにテルからの任務と昨日起きた現象を説明する。
「ということは、私が見える景色を結人くんに伝えて、それが起きている原因を探れば良さそうだね!」
二日目の予定は、イベント実行委員は午後のレクレーションのための準備。他の生徒たちは近隣の川下りアウトドア体験に出掛けることになっていた。
多くの生徒たちが居ない間に、今回の任務を解決してしまいたい。
ここなを連れて、隼人と恵利華と合流する。昨日、現象が起きた場所を一緒に回って欲しいとお願いした。
生徒たちはまだ出発していない。僕とここなが、違和感なく会話をするために、二人の存在が必要だった。
「ここなさん、居るの?」
「ああ、居るんだよ。俺達には見えないけどな」
「本当に見えないわ」
恵利華は僕が一人で話している様子をじっと見る。
「これは確かに周囲の目線が痛いわね。結人が一人で居たら、怪しい人だわ」
「まぁな。でも互いに見えて話せるのはここなちゃんだけらしいぜ」
二人がそんな会話をしていることに、僕は気付いていなかった。
ここなが見えている景色を確認すればするほど、この『CWC』の要因が見えてきたからだ。
「恵利華。本当に申し訳ないんだけど、テルと連絡を取ってもらうことはできる?」
「テルに連絡?そんなの簡単よ。空に向かって、文句をいえばいいわ」
恵利華はまだテルのこと怒っているようだ。『私にも姿を見せなさいよー』と空に怒鳴る。
空に話しかけるというのもなかなか人目を気にする行動だが、致し方ない。
僕は、テルに確認したい内容を空に投げた。
すぐに恵利華のスマホの通知音が鳴る。
僕らは恵利華のスマホの画面をのぞき込み、隼人が関心して声を漏らす。
「へー。そうなんだー」
「でもそれなら、いけるかもしれない」
希望が見えてきた。気持ちが前のめりになっていく。
「なによ!『その時が来たら』って!こないだだって、そう言ってたわよ!それはいつよ!」
恵利華は、テルからの返信にまた空に怒鳴っていた。
「解決策が決まった!住み分けと交通整理をする」
僕は三人に、力のこもった真剣な目を向けていた。
「なるほど!その計画いいな!」
「それなら出来なくはないわね」
「私、頑張る!」
三人は同意してくれる。
「だけど、人手が足りなすぎるわ」
「そういう時こそ、俺の出番。もう準備してある。任せておけ。」
隼人はスマホを取り出して、どこかに連絡し始めた。
「ようー。おー、そうそう。じゃあ、流し台のところに頼む」
僕たちが今いる場所を言って、通話をきる。
誰と連絡をしていたのだろうと思っていたら、すぐにゾロゾロと六、七人の生徒が歩いてきた。
「よう柏木。今回は急に大役を押し付けられて災難だな。まぁ、俺たちが手伝うから安心しろよ」
「河合くん」
隼人の呼びかけに集まってくれたのは、テニス部員の仲間だった。河合は以前、隼人が行方不明になった時以来、挨拶くらいはするようになっていた。
「男子がこれだけいれば、力仕事も何とかなるだろう?」
隼人がどうだ?っと鼻を高くする。
「ああ。ありがとう、河合くん。テニス部の皆さん」
僕は頭を下げる。
「私たちも手伝うよ。バーベキューの食材の準備なら私たちに任せて」
「柏木くんの役に立てるなら、何でもするよ」
話したことはないけれど、クラスメイトの女子が数人、僕に笑顔を向けてくれる。
「ありがとう。本当に助かる」
僕が彼女たちにも頭を下げると、彼女たちは小さな黄色い悲鳴を零し、嬉しそうな顔を返してくれた。
これまで接点なんて無かったのに、皆なんて優しいんだろう。
隼人の人望もあるのだろうけれど、こんな風に協力をしてくれる人がいるなんて。
「結人はここなちゃんと相談しながら、指示を出してくれ。俺たちで動くからさ。小さな独り言をしゃべっているようにして、平然としてればいい。誰も変に思わないから、な!」
隼人が小さな声で教えてくれる。そのアドバイスは僕にとって発見だった。
第三者の視点を気にして、普通に見えるように考えて振る舞う。
周囲と関わっていくために必要な前向きな試み。
「分かった、そうする」
他の人には見えないものが視える僕が、僕の世界を違和感なく過ごしていくために身に付けるスキル。僕はまだまだ、そのために行動できることがあるんだと気付かされた。
引き続き、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
自分の能力(結人にとっては嫌だったもの)を受け入れ、
それも踏まえて、周囲と関わっていこうとするとき、
自分の中の心構えみたいなもの(スキル)が必要になってきますよね。
結人の成長を見守ってくださり、ありがとうございます。
次回、仲間も増えて、解決へ……?
ぜひ、皆様の感想・コメントお待ちしております。
次回更新は明日12時30分です。
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