父の友人と名乗るテルとの対面
来條が誰も居ないのに、声の主を紹介する。
「玲人さんの友人であり、星ノ川銀河評議会の一員である輝人さんです」
言い終えた瞬間、来條の横に、ヒュンっと男性が突然姿を現した。
「う、うわぁぁ!」
僕は驚いて声をあげてしまう。
「あはは、おかしいな!そんな驚くことなくない?お前だって、同じようなもんだろう?」
男性は僕が驚いた様子を見て笑い出した。
瞬時、この人は不躾な奴だなっと感じてしまい、怪訝な顔をしてしまう。
「あはは、その目。懐かしいな」
だけどその男性は、そんな僕の態度まで楽しんでいた。
「俺が玲人の友人である輝人。通称『テル』だ。宜しくな!結人、ここな」
テルは僕たちに、白い歯を見せて、ニカリと笑いかけた。
目の前の男性は『テル』だと名乗ったけれど、すぐにそれを信じるには違和感があった。
恵利華に送られてきた文面をいくつか見せてもらったけれど、こんなチャラい感じの印象が無い。もっとシビアで落ち着いた人というイメージだ。
「恵利華を監視している『テル』と同じ人ですか?別人みたいですね」
僕は表情を緩めず、淡々とした声で訝しむ。
「そのしっかりと洞察しているところ。結人らしいね!」
テルは嬉しそうな表情をした後、すっと人が変わったようにその表情を変化させた。
さっきまでニカニカしていた頬のゆるみが消える。目も口も動作を無くしてしまったロボットのような顔になり、そのすぐ後には目元をキリっと強張らせた。冷淡冷酷と思わせる視線を僕にギンと向けてくる。
僕はその目に囚われた瞬間、身体がぎゅっと縮こまって恐怖を覚えるくらいには身構えた。
「監視しているとは心外だが、恵利華に連絡をとっているのは私ですよ」
声色さえも変えて、目の前のテルは僕を見据える。僕の身体は固まり、もう動けなかった。
「あはは、そんな怖い顔すんなよ!結人!俺はこっちの話し方が楽だから、こっちでいいよな!」
そしてまた一気に、冷たい表情から、さっきのフレンドリーなニコニコした顔に戻す。僕は目を瞬かせて、頭を抱えたくなった。
この人はいったいなんだんだ!
警戒したほうがいいのか、信用したほうがいいのか、もうよく分からなくなる。
「立ち話もなんですから、輝人さんもお座りください。私は輝人さんに飲み物を用意いたしましょう。何を飲まれますか?」
「えー、そうだなぁ。今日はコーヒーの気分だな。コーヒーベルト地域にある南半球側の豆を使って、フレンチプレスで飲みたいな」
テルが発言した言葉に驚愕した。ここはコーヒーショップじゃないはずだ。
単にコーヒーをお願いしますだけで良いのではないか?
明らかに注文が多すぎる。
「分かりました。ではさっそく準備しましょう」
だけど、来條は特にその注文を気にせず受けてしまうから、更に驚くしかない。
「俺、自分で入れるよ」
テルは立ち上がった来條を追いかけて、コーヒー豆が入っている棚を開け始める。来條とのそのやり取りを見ていると、テルは単純にそのコーヒーが飲みたいらしい。
テルのその遠慮のない注文は、見ている側の気持ち次第でいろんな風に取られるだろうなと思ってしまった。
『もっと遠慮しろよ』『図々しいだろう』と思われるか。それとも『素直に自分の好みを言える人だな』と思われるか。
「南半球のコーヒーって美味しいんですか?私、まだコーヒーを飲んだことがないから、比べることもできないんですけど」
テルの飲み物に興味を示しているここなはきっと後者だろう。
「えー?まだ飲んだことないの?そういえば来條グループは紅茶派が多いって玲人が言ってたな」
テルの口から、呼び捨てされた父の名前がすらっと出てきた。友人だというテルに父のことを聞きたいという衝動にかられる。
「あ、輝人さん」
「結人。俺の呼び方は『テル』でいいよ。恵利華もそう呼んでるし。んで?なに?」
「あの。父のこと、よく知ってるのかなと」
「ああ、もちろん。玲人とはもうだいぶ長い付き合いだからね。よく知ってるよ」
「父って、どんな人なんですか?」
「そうだな。一言で言えば、愛情深いやつだよ。結人、お前のこともとても気にしていたよ。会えないけど、会えないなりにね」
「そうなんですか……」
母にも言われたが、僕はやっぱりいまいちピンとこない。
「先生は今、どこにいるか知っていますか?」
「俺もここ数ヶ月は連絡を取ってないんだ。だから何処にいるかは知らない。だけど心配しなくていい、もちろん無事だから。どうやら俺が知らない案件で動いているみたいなんだよね。また何かしでかしたのかなぁ」
テルはさらっと気になることを言う。
「また何かしでかしたっていうのは?」
「今、何をしでかしているかは、俺は知らないよ?以前しでかしたのは、なかなか大変なことだったな~」
テルが意味ありげな目をして、僕のことをじっと見た。
「大変なことですか?」
その目が気になり、僕はその続きが気になって、身を乗り出す。
「輝人さん、あれは玲人さんだけのことではないはずですよ。主たる要因を作ったのは私なんですから」
「そうだったな」
来條とテルが、コーヒーを用意して、僕たちの前のソファに座る。
「今の来條さんから想像が付かないだろうけどね。若かりし頃の来條さんはそりゃあまぁ、ヤンチャでさ。周りの人とは違うことをするのが趣味だったんだよな」
「えぇ。そうですね。本当、無鉄砲でしたね」
「えぇ……、来條さんがヤンチャ?無鉄砲?想像つかないです」
ここなが目を見開いて驚く。
「何をしたんでしたっけ?」
「そうですね。まずは自分のやるべきことを放棄してみましたね」
「やるべきことを放棄ですか?」
「住人全員が分担している農業とか家事の類ですよ。それらをやらなかったらどうなるか、試しました」
「え?来條さん、毎週たった2回の農作業とか、美化清掃すら、やらなかったんですか!?」
ここなが声をあげる。
「ええ。システムに逆らったらどうなるのか試してみたかったんですよ。ここなさんやしずくは農業(食)を選択していますが、それ以外にも裁縫業(衣)、建築業(住)を選ぶこともできます。
自分の好きなもの得意なものをたった週2回、しかもたった4時間、作業すればいいのだから、本人のストレスは少ないはずです。だけど、私はそれすらしないでみました。
行くと申請して行かないとか、申請すらしないとか、いろいろ試しましたね。そんなこんなで、この世界に逆らうようなことをしていたんです。
そしてその当時の私は、ここなさんや結人さんと同じように、この世界は一つではないことを知りました」
来條は過去、僕らと同じ体験をしたことがあったのか。だから、僕がこうしてこの世界に迷い込んだ時も驚いていなかったのかもしれない。
「僕もこの世界に来て、世界が二つあることを知りました」
「結人、実はな。世界は二つだけじゃないんだよ」
「二つだけじゃない?」
「お前はまだ知らないだろうけれど、この世界は人間の数だけの世界がある」
「人間の数だけ?」
「同じ場所に存在しているように見えて、実はまったく同じ場所に存在していないんだ。そして明らかに思考の次元が違うと、まったく見た目が違う異世界になる。結人の世界とここなの世界みたいにな」
恵利華が言っていたオーラの色のことを思い出す。
隼人や僕の周りにいる人たちはオーラが寒色系。ここなは暖色系。
その大きな色の違いが、次元の違いや世界の違いを表していたりするのだろうか。
「まぁ、そういうのは体感しないと分からないだろう。そのうち分かるようになるさ。な、来條さん」
「そうですね。ですが、その世界の違いにのめり込み過ぎるのも、あまり良くないですね。私みたいに……」
来條がその続きに言葉を飲み、テルの方を見る。
「来條さんがその続きを話したいなら話していいよ」
「……そうですか。では、お二人のためになるように、話しましょうか」
来條は一度、間を置き、とても静かに暗い表情になる。
「私は世界の違いにのめり込んでしまい、それを調べることに夢中になってしまったんです。その結果、一緒に世界の違いを調べていた同士たちとその家族を失うことになりました」
「失った?」
どういう意味だろう。来條の表情からして、良くないことだ。
「結人さんの世界で表現すれば、『死』ということになるのでしょうね」
「………」
僕は何も言えなくなる。
「私は大切なものを自身の過ちにより失ってしまったんです。それは異なる世界を跨いで起きた事件になりました。それでその事件の始末に対応してくれたのが玲人さんです。
玲人さんはその事件からの付き合いで、それから私をサポートしてくれる存在となりました。私はこれまでの自分を顧みて、しっかりとこの世界に奉仕しよう、貢献しようと思ったんです」
来條がそう締めくくって、静かに微笑む。
「まぁ、そういうこったよ。単なる探求心は身を滅ぼすから気を付けろよ~、お前らも」
テルはコーヒーをゆっくりっと味わうように口に運んで、「うん。やっぱりこの時期のここのコーヒーは上手いな~」と、場の空気とはズレた声を出し、一人和んでいた。
テルは来條の過去の話の後、その後の来條がこの世界にどんな風に貢献してきたかを話してくれた。
そしてそれをしている過程で、アカシアを読めるようになった機会があったという。
そんな来條をサポートしてきたのが僕の父。来條と父は、異なる世界を跨いで起きる事象・事件の解決のために動いてきたそうだ。
事象・事件の内容。それは、僕とここなが出会うキッカケになった図書コーナーの失せ物探し、隼人が行方不明になった神隠し、そういった類のものも含まれるそうだ。
過去に起こしてしまったことは無しにはできない。だけど、それ以上に同じことが起きないよう、来條は尽くしてくれたとテルは話してくれた。
「さて、今日のところはひとまず。来條さんのことはこの辺でいいかな」
「ええ、十分なくらいです。お恥ずかしい限りですね」
テルと来條が顔を見合わせて、笑い合う。
「じゃあ、俺はもうちょっと結人と話をしたいんだけど、いいかな?」
「ええ、今日はそれが目的だったはずですからね。ここなさん、ちょっと私と一緒に来てくれますか?お願いしたいことがあるんです」
「え……、あ、はい」
僕たちは顔を見合わせて、繋いだ小指を見た。この繋いだ指を外せば、来條は僕が見えなくなる。テルはどうなのだろう。そっと小指を放す。
「では、ここなさん。行きましょう」
「はい。じゃあ、また後でね。結人くん」
「ああ」
来條とここなが部屋から出ていくのを見送る。
ふとテルを見ると、テルは離れていくここなを一瞬険しい顔で見ていたような気がした。だけどそれは一瞬だったから、見間違いかもしれない。
テルは二人が完全に居なくなった後で、しっかりと僕を見る。
「僕が見えるんですね」
「そりゃあね。俺も結人と同じように、違う世界の住人が見えるよ。玲人も以前はそうだった」
「以前は?」
「今は残念ながら見えなくなった。だから、ゆりさんのことはもう見えない」
テルから母の名前が出てきて、ドキリとする。母の名前も知っている。そして父が母と一緒に暮らせない理由を知った。互いに見えないなら、共に生活はできない。
そして僕は、もう父が持っていないその能力を受け継いだのかとも思う。
「結人だけの能力じゃなくて、残念か?」
「いえ、逆です。僕だけじゃないと分かって、ホッとした気持ちの方が大きいです」
「結人は、その能力があってつらいか?」
テルに真剣な声で聞かれて、僕は自分がどう思っているか考えた。
そして遥か昔、僕が幼い時、誰かに『つらいか?』と聞かれ、『うん』と答えた僕の姿がフラッシュバックした。
だけどあの頃に比べたら、僕はずいぶんこの自分の体質を受け止めてきている。
「昔よりもつらくは感じなくなりました。だけど、そんな能力があって、じゃあ僕はどうするんだっていう戸惑いはあります。ここなの世界の存在を知ってしまったからこそ、尚更」
「まぁ、そうだろうな。そこでな。提案があるんだ」
「提案ですか?」
「結人。お前のその能力、役立てないか?あの家を拠点にして、俺が持ってくる問題の解決にあたって欲しい」
「問題解決ですか?」
「俺が所属している星ノ川銀河評議会からの任務をお前に手伝って欲しいんだ」
「任務の手伝い?」
「ああ。異なる世界を跨いでおきる事象っていうのは割と合ってな。若い頃の来條さんも玲人と一緒にそれを解決していたっていうのは話しただろう。僕らはその事象や事件を『Cross-World-Case/通称CWC』と読んでいるんだが、それの解決を結人にもお願いしたい」
「それは強制ですか?」
「拒否権はある。だけど結人は断らない。だって知ってしまったから落ち着かないし、心配になったら動いてしまう性格だろう?」
「うっ……」
隼人と同様、テルにもそんな風に言われてしまうと、やはり言い返せない自分がいる。
「その問題解決についてはお前が信頼できる仲間に頼っていいい。ひとりで解決しようとせず、周りを頼れ。俺も力になるよ」
「だけど僕はこの世界のことは知らないことばかりで、いろんな問題に対応できるほど知識もないです」
「おぉ、そこでな。ここに鍵がある」
テルがとても小さな鍵を指に摘まんで、ちらつかせる。
「この鍵は結人が受け継いだあの家のどこかの鍵だ」
あの家で鍵が必要なところといったら。
「まさか、二階の開かない部屋ですか?」
「正解。知識や術を知らないということならばだ。来條さんがこの世界の秘密をまとめた資料があの部屋の中に保管してある」
「そんなものがあるんですか?」
「ああ。玲人が大切に保管してたんだ。お前がこれから先、人を助けたいと思った時、役立つ資料ばかりだと思う。どうだ、読むか?」
図書コーナーの本探しや隼人の神隠し。他の人に見えない存在が視える僕だからこそ誰かを助けることができるのならば、それは本望だ。
だけど、父が回収して鍵を掛けて保管していたことや、来條が同士を死に追いやったという過去があるからして、禁忌に当たるような資料もありそうな気がする。
「……読んでもいいのなら」
「お前ならいいよ。だけど約束して欲しい。その書庫部屋にはお前以外は入らないこと。部屋内の資料は外に持ち出さないこと。だけど、お前が読んで知ったことは、お前の裁量で他の奴らに話してもいい」
やはりタブーな内容なのだろう。僕以外は使用できない。結構な条件を付けられた。
「僕だけはいいんですか」
「俺、結人のことを、実は結構、知ってるんだ」
「会ったのは今日が初めてです」
「まぁ、そうだな。だけど、こうやって面識がなくても、お前のことを知る方法はいくらでもあるだろう。お前の世界には探偵とかいうのもいるじゃんか」
テルがニヤリと意味深な目をして見せる。まぁ、恵利華をこっそり監視しているようなテルなだけに、僕も同じようなことをされていたとしてもおかしくない。
「まぁ、この鍵は結人が持っておけ」
テルが差し出してきた鍵を僕は受け取る。
「テルは星ノ川銀河評議会の一員なんですよね。その評議会ってどういう組織なんですか?」
「うーん、結人の世界の知識で説明すると、宇宙人の集まりみたいな感じか?」
「う、宇宙人?」
宇宙人って、地球以外の宇宙空間に存在するかしないかも分かっていない地球外知的生命体とか呼ばれているものだ。
「本気で言っていますか?ふざけていますか?」
テルのチャラっとした感じが本当か否かの判断をできなくさせる。そもそもそんなものが存在しているのか……。
いや、だけど。僕自身もここなの世界を体験したり、恵利華のようなオーラが見えるとか、神社の門番だとか、オカルトなことが実際に起きているんだし、まったく無いとは言い切れないのか?
「これに関して信じるか否かは結人次第だからな~。俺が本当だと言い張ったところで変わるもんではないだろう?」
テルの意見はごもっともだ。そして宇宙人であることは否定しないのか。
「まぁ、そういうことで。これから宜しくな!」
こうして僕は、辻村家二階の開かない部屋の鍵を手にし、宇宙人のテルが持ってくる『Cross-World-Case/通称CWC』を解決する役割を得てしまった。
引き続き、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
テルの正体が宇宙人って聞いて、どう思ったでしょうか?笑。
アメリカ大統領のトランプさんも、宇宙人の存在を明かしましたし、
意外とふつうにその辺にいるかもね!
そして、結人に与えられた任務。
結人はこれから、異世界の跨いで起きる事件や事象にかかわっていくことになります。
果たして、どうなっていくのか、お楽しみに!
是非、感想コメントお待ちしております!
次回の更新は明日12時30分の予定です。
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