ここなとデート?
2.
僕の世界とここなの世界を行き来できるようになってから、僕は休日になると、ここなを僕の世界へ案内するようになっていた。
目的は先生探し。だけど、ここなの様子を見ていると、そう思えなくなってきた。ここなの興味関心は、先生よりも僕の世界。
辻村家周辺から見て回ってきたけれど、商店街はこれまで以上に刺激的だったらしい。目を離したら、どこかに行ってしまいそうなくらいには、はしゃいでいた。
「あれなあに!?」
ここなは気になる場所へと突き進んでいく。
ここなが近くにいる通行人をすり抜ける。すると、通行人の荷物が肩からずり落ちた。違和感を感じた通行人は辺りを見回し、キョロキョロする。
両方の姿が見える僕は、頬を搔きながら苦笑いしてしまう。
ここなの姿は周囲の人からは見えない。ここなからも僕以外の人は見えていない。だけど、ここなの身体は人以外には干渉する。
これまでは、人通りの少ない場所ばかりだったから、気にしなかった。だけど、通行人の多い場所で姿が見えないのは、危ないし不便。
周囲の人に気付かれず、ここなと会話をするのは一苦労だし……。
ここなが迷子になっちゃったら困るし……。
そんな要らぬ言い訳を並べて、僕は決意する。
ここなを手招きで呼び、一度、人の気配がない路地裏へと連れていく。そして、「ん」っと言って、ここなに手を差し出した。
顔は赤くなっていないだろうか。平然な態度ができているだろうか。
「手を繋ごう」と言えばいいのだけど、まだ僕にそんな余裕さはない。
ここなはすぐに差し出した手の意味を理解してくれた。「えへへ」と笑って、僕の手を握り返してくれる。
「結人くん!行こう!」
繋いだ僕の手をここなが引っ張る。
ここなはすぐにでも、大通りへと戻りたがった。
「あの子、可愛くないか」
「ねぇねぇ、みてみて。可愛いぃ」
通り過ぎる若者たちが、ここなを見てコソコソ話している。
ここなの見た目は、やはり周囲の気を引くらしい。ここなはそんな声が聞こえないくらい街中の景色に無我夢中。
ゲームセンターのクレーンゲームの中身に興奮。ブティックにならぶアクセサリーを見て可愛いとはしゃぐ。ストリートライブをしていたバンドの音楽に聞き惚れる。
ここなは表情はくるくる変わる。僕はそんなここなを見ているのが楽しかった。
「結人くん、あれなあに?真っ白でくるくるしているの」
ここながクレープやアイスを販売している出店を指さした。
「えっと、ソフトクリームのこと?」
「ソフトクリーム?どんな味がするの?」
「甘くて、ミルクの味。冷たいよ。食べてみる?」
「うん、食べたい!」
店に近づいて、ソフトクリームを二つ注文した。ここなにはバニラで、僕はチョコのミックスにした。
「二つで千円になります」
財布の中から千円札を取り出して、店員に渡す。
「結人くん、今渡したのは何?」
「何ってお金だけど」
「お金?お金って何?」
一瞬言葉を失う。ここなはお金を知らない。どこかのお嬢様かと思わせる発言。
だけどそういうとこではない。ソフトクリームに続き、お金も、ここなの世界には無いということなのだ。
「ここなは何か食べたい時、どうやって手に入れるの?その服とかも、どうやってもらう?」
「毎日食べる食材は配給センターに行くと、必要な分だけ貰えるよ。洋服も、服などがいっぱい置いてある配給センターがあって、そこに行くと、欲しい服は貰える」
「貰う代わりに、何か渡さないの?」
「え?渡さないよ。配給センターにあるものは、自由に持っていっていいことになってる」
食材や洋服を手に入れるために、お金がいらない。それって何か凄いことのような気がする。それで成り立っている背景があるということだ。
「はい、お待ちぃ」
店員がソフトクリームを二つ差し出してくる。僕はそれを受け取り、バニラソフトクリームをここなに渡した。
「んん……。美味しい」
ここなはソフトクリームを一口頬張った後、幸せそうな顔をした。それを見るだけで、僕も幸せな気分になってしまう。
魔法にかかったように、ここなといると満たされてしまう。
「こっちの味も味見する?」
「うん!」
僕は自分のチョコレートミックスをここなに差し出す。ここなは僕の手にあるそのソフトクリームを一口頬張って、「こっちも甘くておいしいね!」と笑った。
「ちょっとカカオの味に似てるかな」
ここなが味をしっかり確認しながら言う。
「チョコレートだからね、カカオを使ってると思う」
「そうなんだ!私の知っている味もあるんだね!」
ソフトクリームを知らなくて、カカオの味を知っている。ここなの世界の食事もつかみどころがない。
ここなの口元にソフトクリームが残っていた。
それに気付いて、じっと見ると、ここなは「ん?」と首をかしげてこっちを見た。その顔があどけなくて溜まらなく可愛い。
「口元についてるよ」
「え?ほんとう?」
ここながペロリと口元を舐めた。う…うーん、クラっとする。僕はあさっての方向に目を移す。
手元にあるチョコレートミックスには、ここなの食べかけた跡が残っていた。
僕は顔が赤くなるのを感じながら、ここなに気づかれないようにそれをそっと口に含んだ。
「これだけ人が多いと、先生を探すのも簡単じゃないね。なんて言って、周りの景色が面白過ぎて、人なんて見てなかったけど」
ここながえへへと小さく舌を出した。確かに僕も、ここなばかりを見ていて、先生どころか、周りの人すら気にしていなかった。気にしなければ、気づくことすらない。
今、居る広場から、改めて周囲を見渡した。そしてやっと目についた。
明らかにあり得ない位置に人が立っている。踊っている人すらいる。
気にすれば見える。気にしなければ見えない。
つまりは僕次第っていうことなんだな。僕はこれまでビクビクしていた自分を思い出して、小さく笑った。
* * *
『ここの占い師、めっちゃ当たるんだよ』
再びここなの連れだって歩き出していた僕らは、その聞こえた声に反応した。ずらりと並んだ列。どうやら人気のようだ。
「結人くん、なんでここ、こんなに列ができてるの?」
「『占い』をして欲しい人の列みたいだね」
「占いって?」
「悩み事や判断に困っている時とかにアドバイスをもらうって感じかな」
「私が来條さんに聞くような?」
「うーん、来條さんの神職というものをちゃんと理解しているわけじゃないから何とも言えないんだけど、似ているようでちょっと違う。占いの答えに確証はないし、信じるも信じないも自分次第。まぁ、だけど自分の気持ちを確認したり、行動のキッカケにするとかにはいいのかも」
「結人くん!私、占い、受けてみたい!」
「え……」
ここながキラキラした瞳が僕をまた捉える。僕はここなに気付かれないように、こっそり財布の中身を確認する羽目になった。
「では、そちらにお座りください。占いを受けるのはどちらですか?」
ベールの中の鋭い目が、僕とここなを交互に見た。その目に後退りしたくなるのをこらえる。僕とここなは、占い道具が置かれたテーブルの前に腰を下ろした。
「受けるのは、彼女です」
ここなに話すように促す。ここなは何を聞くのだろう。
「何を知りたいですか?」
占い師がここなに向かって尋ねる。
「私はある人を探しています。手掛かりがなくて困っています。そんな私にアドバイスが欲しいです」
「分かりました。それでは、あなたがこれからどう行動したら、その人に会えるかをみます。それでいいですか?」
「はい」
占い師がたくさんの竹棒の束を手に持ち、目を閉じた。しばらく静止する。なにやら呪文を唱えはじめ、手早く鮮やかに動かした後、結果を言った。
「山沢損上爻と出ました。
今、あなたが出来ることを誰かのためにすることで、望む道は見えてくるでしょう。
それが自分にとっては焦りに感じることであっても、続けていけば、いずれそれは叶います。今、あなたの傍に居る人がその鍵になりそうです」
占い師が抑揚のない声で淡々と解説する。
ここながチラリと僕の方を見た。僕はその視線に「ん?」と返す。ここなは小さく嬉しそうに笑って、占い師に視線を戻した。
「そうやって行動していれば、その人に会えるんですね!」
「はい」
「だって。結人くん」
ここなが僕に嬉しそうに言う。
「そっか。良かったね」
ここなは先生に会うことができる。それならば、僕も父と会うことができるかもしれない。
「相談はこれで宜しいですか?」
「はい。大丈夫です」
「そうですか。では、爾天也以是有徳」
占い師が束ねた竹棒を鳴らし、文言を唱える。きっとこれが締めの挨拶なのだろう。
ここなに僕の身体のどこかに触れてもらいながら、僕は財布からお金を取り出した。占い師に払う。占い師はそれを受け取りながら、僕の目をじっと見た。
「その女性、ここの世界の人じゃないみたいですね」
そう言って、口角をニヤリとあげた。
「え……?」
この人は、どうしてそんなことが分かるんだ?
不気味な笑い方をした黒いベールに身を包んだ占い師が、僕は急に怖くなった。
「い、行こう」
僕は急いで財布をしまうと、ここなの手を取り、その場をすぐに離れた。
引き続き、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
ここなとのデートに、ほっこりしていただけましたでしょうか。
そして、謎の占い師。
次回、ついに進展!
明日の更新をお待ちください!12時30分の予定です。
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