迷い込んだここなと先生を探す
僕は、隼人と一緒に屋上に向かった。授業が終わるまで、ここなを屋上で待機させていたからだ。
僕が屋上に現れると、ここなは楽しそうに、屋上から見える景色に指を伸ばした。
「結人くん、見て!あっち側に神社がある!こっちに海!あと、向こうの奥に、白くて大きな山があるでしょ。あの山は私たちの世界でも見えるよ!」
ここなが指さす山は、遠くからでもよく見える富士山だ。
「隼人くんが、私の世界とこっちの世界の景色が同じだって言ってるのを聞いたから、私も神社を出てから、遠くの景色を見ながら歩いてきたの。結人くんの学校は、音楽個人レッスン室と同じ位置だろうと思って、そのあたりを目指してきた。そしたら、他の建物よりも、明らかに大きいこの建物があったから、一個一個部屋を覗いて……」
それで僕のいる教室にたどり着いたというわけか。
「結人くんの世界って、私が住んでいたところとぜんぜん違うんだもん。人が誰も居ないし、建物が多いし。どうなるかと思ったよーー。結人くんが見つかって、本当に良かった!」
ここなの話を聞いて想像するに、なかなか不安だっただろうと思うのに、ここなの声は明るい。
しかし、ここなが僕の世界に来た場合、景色は僕と同じように見えるけれど、住んでいる人の姿は見えないのか。
僕以外、互いに姿が見えない。ここなが僕をちゃんと見つけられたことに、つくづくホッとする。僕と出会えなかったら、どうするつもりだったのだろう。
隼人の時だって、不安でしょうがなかった。ここなまでそうなっていたらと考えたら、僕は生きた心地がしなかった。
「今回は会えたから良かったけど、これからは僕の世界に一人で来るのは止めて欲しい。ここなが僕に出会えずに、こっちの世界で迷子になっていたらと思うと、つらくてしようがない」
ここなは僕を見て、シュンとした。
「うん、そうだね。ごめんね、結人くん。二度としない」
「ああ、頼む。これからは、僕に事前に相談して……って、そういえば。どうやって僕の世界に来たの?」
「結人くんが教えてくれたことを試してみたの!そしたら「門」が開いたんだ」
「あの仮説を試したのか!?」
「うん!」
つまりは、僕の発言のせいで、ここなはこの世界に来てしまったということになる。
「安易に、ここなに仮説なんて、話すんじゃなかった……」
「そんなこと言わないでよぉ。推測は合っていたんだし、こうして会えたんだから。ね!」
まったく、隼人も後先考えないが、ここなもだ。これからは、僕がちゃんと後のことを考えてから話した方がいいと心を改める。
僕が二人に話した仮説は、一の鳥居、二の鳥居、三の鳥居を順番に潜り抜ける。その後、四の鳥居つまりは『開かず門』が開くのであれば、五の鳥居をぬけた時に異世界転移するだろう。という内容だった。
だけど、万が一の可能性だった。神社の参拝客が三つの鳥居をくぐる行為は普通に在り得ること。その度に、『開かずの門』が開いていたら、神隠しに合う人はもっと居てもおかしくない。
だから、『門』が開く条件は別にあると考えていた。それなのに、ここなは『門』を開けてしまったのか。
「神社まで送るよ。同じようにやって、門が開くか確証がないけど、帰れるか、試した方がいい」
ここなは僕の提案に、すぐに同意しなかった。グッと唇を噛み締めて、僕から目を反らす。
「……私、帰れなくてもいい」
「え?」
「結人くん。私、まだ戻りたくない」
決意あるここなの目が僕を捉えてきて、戸惑う。
「なんで?」
「私、先生を探したいの!」
ここなの目は必至だった。
「先生が居なくなって、一ヶ月も経った。私にとって先生は、お父さんでもあるの。先生がこっちの世界に居るかどうかは分からないよ。だけど可能性があるなら、隼人くんの時みたいに、私も探したい!帰るのはその後でもいいの!」
帰ることよりも、先生探しを優先したい。その思いは僕も隼人の時は同じだった。否定することはできない。ここなの先生探しを手伝ってあげたいという思いもある。
ひとまず、ここなの意志を尊重し、先生の探し方を模索してみる。どうやって、先生を見つけたらいいだろうか。来條のような助言者もいない。
「気配を探るのは試してみた?」
「こっちの世界ではまったく気配を感じられなかった。そもそも人の気配すら感じないし、結人くんの気配も探せなかった」
「手掛かりはない?」
「先生が残していたメモがあるの。それには何か文字が書かれてた。だけど私は読めなくて……。それと、近くにコレが落ちてた」
ここなが首元からネックレスを取り出した。双三角錐の形をしたペンダント。不思議な石が嵌められていた。神秘的で、銀河宇宙を閉じ込めたような色をしている。
ここなは僕にそれを見せた後、大切そうにまた胸元に仕舞った。
「読めないメモは持ってる?」
「うん、コレだよ」
メモを受け取る。ここなには読めない文字。だけど僕には読めた。それ以上に、書いてある内容に驚いた。
「僕の自宅の住所だ」
そこには星種町の住所が二つ書かれていて、その一つの番地は僕のアパートの住所だった。だけど、どうして僕の自宅の住所なんだ?
「この文字、読めるの!?」
ここなが僕が持っているメモをのぞき込んでくる。
「これは場所を示す番地が書かれてる。何故かその一つは、僕の住んでいる家の場所なんだ」
「そうなの!?」
僕とここなが二人同時にメモに手を触れた。
「おい結人!俺、ここなちゃんが見える!」
近くで何も言わずに僕を見守ってくれていた隼人が、突然声をあげた。
「え?」
「あれ?私も見える」
隼人の反応に驚き、僕がメモから手を離す。
「あ、見えなくなった」
「私も隼人くん、見えなくなった」
何が起こっているんだろう。訳が分からない。
「でも確かに俺、ここなちゃんが見えたよ。黒い髪を片方に束ねてて、白いブラウスに青い短パンを履いているだろう?」
隼人は間違いなくここなの特徴を言っていた。そういえば、来條も一瞬、僕の姿が見えたと言っていた。見えるようになるキッカケや条件とかがあるのだろうか。
「さっき僕たちは二人でそのメモを一緒に見て」
「そうだね。こんな感じだったと思う」
ここなが僕の左手を掴んで、自分が持っているメモを持たせようとする。
「おい、そのままストップ!」
隼人が僕らの動きを静止させる。ここなが僕の左手を掴んだまま、隼人を見た。
「あー、私もまた隼人くんが見えたー!」
ここなは嬉しそうだ。
僕は今の状態を確認して、ここなが僕の左手を掴んでいることにドキドキした。
もしかして、他の世界の住人たちに姿を見せる条件って……。
「……ここな。僕を掴んでいる手を離してみて」
「うん」
ここなが手を離す。
「お、消えたな」
「うん、見えないね」
やはり、つまり……。僕はその条件を確信して、まじか……と恥ずかしくなる。
「……ここな。ぼ、僕の手、触ってみて」
「うん」
ここなは僕の恥ずかしい気持ちにお構いなしに、さらっと僕の手を触った。
「おぉ、見えた!」
隼人の楽しそうな声。僕は顔を上げられなくなって、下を見るしかない。
「そっかぁ~。私と結人くんがこうやって手をつなぐと、他の人に見えるようになるんだね!」
あっさりそう答えるここなの声に、さらに黙り込むしかない。
「あれ?結人くん、下を見てどうしたの?」
ここなが僕の様子を不思議がる。
「結人。なんか顔が赤くないか?」
下を向いた僕の顔を隼人はのぞき込んで、さらに追い打ちをかけた。
「……うぅ」
こんな条件、僕には恥ずかしすぎるだろう!
女の子に免疫のない僕にハードルが高すぎやしないかと、僕はただ嘆くしかなかった。
引き続き、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
イメージ映像を作ってみました。
結人のドキドキが伝わるといいなぁ。
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続きは明日12時30分の予定です。




