叡智と深淵の愛を舞え 3
舞の習得は一朝一夕でできるものではない。呪術の舞をコンプリートしたら、次は魔法の舞が待っている。鈴音姉さんと叡智テンライと深淵テンライのスパルタダンスレッスンで何とか間に合わせるとして……ティアラ達がいるギルドの地下に存在する訓練場にて、問題が発生していた。
「だぁああああああ!! クソが! 使い難いぞこの武器!!」
前にソフィアから渡された刀と短剣――――【鹿竜の角刀】と【迎戟の短剣】に絶賛振り回されている。この武器、とんでもなく使いにくいのだ。
まだ短剣は使える。パリィに特化していますという自己主張が激しい形状をしているから、使い勝手もなんとなく分かる。ただ、パリィ成功判定がクリティカルのみになるという超シビアな短剣だ。まぁ、判定がシビアになるだけで問題なし。だが、刀! こっちが曲者過ぎる!! 俺が扱えるのは居合刀と呼ばれるタイプの刀と、よくある模擬刀みたいな刀。しかしこいつはどう見てもその刀の姿からかけ離れている。
「七支刀なんて使ったことねぇよ……!!」
鹿竜ケリュネイア、その角を使って作ったのであろう刀は、光に翳すと淡い黄金色に輝く美しい刀だ。あと鈴がシャランシャランと鳴る。しかし七支刀。確か儀式刀だったはずだが、俺は使ったことがない刀であり、実物を見たこともない。
「んー……鈴があるってことはマジで武器としては使えない説……?」
でも、データ上、巨骸骨刀以上の火力は有している……ということは使える……しかし、いくら藁人形に攻撃を叩き込んでも斬り裂けない……ならば俺の使い方が悪いのか? 俺の使い方が悪いとするなら、どう使うのが正解なんだ……巨骸骨刀の使い方はほぼ刀と変わらない。八割が打撃属性で二割が斬撃属性という不思議な刀ではあるが、刀の使い方で問題なし。ではこの鹿竜の角刀は? どう扱うのが正解なのか。
「うーん……?」
「アオヘビさん、少しよろしいですか」
「んあ? もう時間?」
このギルドの地下練習場は、ギールを支払うことで貸し切り状態にすることができる。貸し切る時間によって支払う金額が変わるが、微々たるものなのでそこまで気にすることはないだろう。今回貸し切りにした時間は二時間。そもそも練習場に訪れるプレイヤーがいないのでほぼ貸し切りなのだが、貸し切りにしておけば、この武器についてとか色々聞かれることもなくなるので貸し切った。
「いえ、あと一時間あります」
「ならどうして来た――――おおっ!?」
ジリジリと焼けるような殺気がティアラから放たれた直後に体を捻ると、いつの間にかティアラが握っていた剣がそこにあった。
「なるほど、これを避けますか」
「いきなりどうした!?」
え、何か俺トリガー踏んだ!? 敵対ルートのフラグ建設した!? どこで!?
「では、こちらはどう対処しますか?」
首! 腕! そんでもって足首ぃ!!? 明らかに動きを殺しに来やがったぞこの無表情エルフ!? 避けられてなかったら間違いなく死んでたぞ!!
「これも対処しますか。素晴らしい研鑽を重ねているようで何よりです」
「そりゃあどうも!」
そもそもなんだあの剣……! 見た目は簡素なロングソードを細身にした感じで、若干の装飾があるだけのシンプルなデザインなのに、明らかに喰らっちゃいけない雰囲気を纏っている! 喰らったら死ぬ! 色んなゲームで培ってきた経験がガンガンとやかましいくらいに警鐘を鳴らしている……あれは絶対に喰らってはいけない何かがあると!!
「ふむ……弾く技術、躱す技術は及第点以上……なるほど、彼らと相対するための素養はお持ちのようですね」
「あ?」
彼らだぁ? 誰のことだよ。
「ならば、私程度に後れを取ってはいけないでしょう」
「話が全く見えないって話をしてもいいか?」
本当に勘弁してください。説明を……説明をしてくれ……! 話をせずに進むと話が拗れてややこしくなって、親子とか兄弟関係がギスギスし始めて心が死んでいくゲームをいくつかプレイしたことがあるが、あの時と同じ気配がして胃がキリキリと痛み始めるから……!! あれほど二度とストーリーをスキップして進まないと決心したゲームは無かった……なおちゃんとストーリーを追って進めれば、最高の家族愛や人間賛歌を謳うストーリー性のあるシミュレーションゲームだった。シリーズが15まで出ているからな。良ゲーと言っていいのではなかろうか。
「ゆえに、私のような未熟者の技程度に後れを取らないように。……行きますよ」
「とりあえず話をしてくれるとありがた――――!!?」
シャラン、シャラン、とティアラの剣から鈴の音が鳴り、見覚えしかない剣技――――剣舞――――否、舞が放たれた。見間違えるはずがない。この舞は、俺が死ぬ気で練習している、叡智テンライが舞う『呪術の舞』そのものだ。
「木の舞……!?」
「の、紛い物です」
「嘘吐けぇ!?」
お前の舞が紛い物なら俺の舞はなんだよ! 盆踊りだよ! ハイクオリティ過ぎるだろ! キレが違うぜ、キレが。うーむ、見事な舞踏。そもそもの話、なんでティアラがこの舞を踊れるんだよ。普通に考えれば、長命なエルフだからテンライの舞をどこかで見たとかそこらだろうが、それでも言わせてほしい。
「ティアラ、お前何者だよ!?」
「ギルドの受付嬢です」
「ギルドの受付嬢がこんなに強くてたまるか!? おおうんっ!?」
木が来たと思ったら次は火かよ!? いや、落ち着け俺……火の舞はしっかり覚えている。激しい舞だ。激しいが、それでいて優雅な舞だ。フラメンコとかタンゴみたいな情熱的なダンスの気配が強く出ている舞の初動は上段からの大振り! からの足技を混ぜた大胆な舞!! 攻撃のタイミングは足を地面に打ち鳴らしたタイミング!! うーむ、凄く分かりやすい。教科書通りの動きって感じで、凄く、凄く分かりやすい。なんというか……そう、鈴音姉さん曰く、ダンスにおいて必要なのはパッション。情熱的な踊りのためには、ダンスを楽しみたいという熱いパッションが必要なのだという。
パッションとは何ぞや、というのはあるが、とりあえずティアラのダンスは教科書通りというか、見たままの動きというか……感情が乗っていない感じがする。
「情熱が足りてねぇぜティアラ!」
なので、ティアラと同じくダンス初心者の俺が、彼女のリードをしてやろうじゃないか。大丈夫、お互い初心者だ。お互いに何かをミスしても笑って許していける。
「情熱……」
「もっと感情乗せていこうぜ! 俺はまだ軽くしか踊れないけど!! ダンスって、もっと楽しく踊るものだぜ!!」
ティアラの剣舞を躱したり、受け流したりしながら笑う。ほら、スマイルだよスマイル。鈴音姉さん直伝、ダンスの心得その一!!
「笑え! 楽しめ! その方が心が弾む! 体も踊る!」
そぉら、楽しくなってきた! ゲームもダンスも笑って楽しんだ者勝ちなんだ! NPCだってそうだろうさ! きっと笑って踊った方が楽しいに決まってる。
「誰が怒るでもなし! 遊ぼうぜ、ティアラ!」
「遊ぶ……ですか」
「あ、舞は真剣にやるのは当然だけどな! 人生遊びも大事だぜ!」
時刻は午前二時。深夜テンションで精神が高揚してきた頃だ。この高揚感を全面に出してゲームを楽しんでいこう! 朝の倦怠感とか寝不足とかには目を瞑る形で。ソフィア達はカリュドーン戦に向けて英気を養うという名目でお休み中だ。俺はまだまだ突き詰めたいのでこうしてここにいる。
「というわけでスパルタレッスンを楽しんだ上で習得した金の舞と木の舞を受け取るがいい!!」
硬く、堅く。叡智テンライと深淵テンライが愛し合っていたのは、間違いない。恋をして、結ばれて。そうしてお互いの舞を教え合って。それらをイメージしずらいけど、楽しくて、思い出すだけで心躍るような思い出を胸に、叡智テンライは舞っていた。
俺は、それを実感として理解することはできないけれど、思いを馳せることはできる。その気持ちを忘れないことがこの舞を成功させる秘訣な気がする。
「楽しんで踊れば結構上手くいくもんだ――――おお!!?」
突然、右手に握っていた鹿竜の角刀が雷を纏う。え、何? いきなりどうした? …………あ、もしかしてこの七支刀――――
「舞によって真の力を発揮する系か!?」
普通に使ってもただの鈍だが、正しい使い方をした途端に真価を発揮する武器だとは思わなかった。木の舞をした直後に雷を纏ったということは、舞うのを止めたら……うん、予想通り雷が消えた。そして再び舞を始めると雷を纏う。なるほど、これは間違いなくテンライ戦の鍵を握る武器だわ。
「……」
「うーん、素晴らし――――って、どうしたティアラ!?」
なぜ泣く!? さっきからこのNPCのことが分からない。分かるのは、とんでもなく強いであろうことと、呪術の舞が踊れること――――って、そうだ、なんで舞えるんだよ。
「…………失礼しました。年甲斐もなく、涙を流すとは」
「別にいいけどさ……頼むから話をしてくれないか? コミュニケーション大事だぞ?」
ロールプレイをするにしても、そのNPCがどんな存在なのかを何となく知っておかないと、どうやってロールプレイをせよというのか。ソフィア達からよく俺はどういうわけかパーフェクトコミュニケーションを発生させまくると言われているが、キャラがどんな存在なのかを知っているからこそできるパーフェクトコミュニケーションが発生するのだ。
そんなことを考えながら、ティアラの正面に腰かける。何を話せば、このNPCの好感度とかを上げることができるのだろう?
「……その舞いは、私にとって、思い出なのです」
思い出……? あ、これはもしかして、相槌を打つことが正解? ならちゃんとしっかり聞いて相槌を打たせていただきましょう。
「魔法の舞も、呪術の舞も、私が初めて教えてもらった……最初で最後の舞です。他の舞も、教えてくれると言っていましたが、そうはなりませんでした」
「……うん」
やはりティアラは叡智テンライと深淵テンライの関係者のようだ。テンライのギミックがどんなものなのかは知らないが、それを解明することができるかもしれないし、できないかもしれない。まぁ、NPCとの交流は意外と好きだし、ティアラが何者なのかは知りたいからギミックが分からなくてもいい。何度でも挑戦して倒してやるからな!
「呪いを解くことができず、死ぬことも、進むこともできず、ひたすらに苦しむ姿を私は、見ていられませんでした」
「……」
「二人の思い出を穢す者があれば、たとえ自分の幻影であっても倒してほしい。最後に頼まれたのは、そんなことでした」
「だから、俺達解放者に依頼を出してたのか?」
「あの場所に行くことが、私はできなかった。だから、あなた方に依頼を出して、代わりに約束を果たしていた卑怯者です」
辛いことに向き合うのは凄く精神を削るから、その選択を取っても恥ずべきではないと思う。逃げたい時は逃げていいと思うし。
「アオヘビさん、その刀を握り、あの二人に挑むのであれば、お願いします。あの人達を、どうか安らかな眠りにつかせてあげてください。永遠を生きる二人に、優しい終わりを……宴の幕引きを、伝えてあげてください」
「……ああ、分かった。任せろ。まあ、まだ全部舞を踊れてないけどさ、ちゃんと終わらせてやるよ」
祭りってのは、終わるから楽しいものなのだから。
祭の幕引きを目指せ。




