叡智と深淵の愛を舞え 4
これは持論だが、楽しいゲーマー生活は、規則正しい(当社比)生活とバランスの良い食事と適度な運動によって形成される。美味しい朝食は一日のモチベーションを上げるのだ。ゲームでヘビーな話をされて心が死んでも、美味しい朝食を食べたら心が蘇る。
「夏バテ予防だ……食え」
「パンじゃないのね。……あら、とうもろこしご飯」
「最近ハマってるんだ」
朝食のとうもろこしご飯を食べながら、卵焼きをつつく。カボチャを入れた味噌汁も案外美味しいものだ。ティアラのヘビーなお話を聞いたせいで、あまり深く眠ることができなかったが、ソフィアの部屋が少し寒いくらいの室温のお蔭ですぐに眠くなったが、夢にまで出てくるほど、ティアラの話は印象に残っている。あの後も色々と話をした。まぁ、テンライについて話したわけではなく、ティアラの好きなものとかそういった他愛もないことについて話しただけだが……途中でなぜかウルカンもやって来て、酒っぽい何か(ブドウジュース)を飲み、チーズっぽいものを摘まみながら話をした。ティアラがよく解放者にナンパされるとか、ティアラは意外と甘いものに目がないとか、そういう本当に他愛もない会話だったが、ティアラとウルカンの好感度が上がったような気がするので、あのイベントは有意義な時間であったと断言したい。
そしてもう一つ記憶にあるのはテンライの話。死ぬに死ねず、祭りの幕引きを迎えることができない二人のテンライ。何があったのかはよく分からないが、ティアラは叡智テンライと深淵テンライを眠らせてほしいと願った。その願いはティアラがあの二人の弟子か何かだから、なのだろうか。
「叡智と深淵……か」
きゅうりの浅漬けを口に放り込み、食感を楽しみながら呟く。叡智は魔法、深淵は呪術。それらを合わせて【叡淵のテンライ】……むむむ?
「んー……」
「テンライのこと?」
「ああ、うん。ふと思ったんだよな……あの二人、どうして【叡淵のテンライ】なのかなって」
コップに注がれたコーヒーを一口含み、口の中をリセットしていると、ソフィアが怪訝な顔を見せた。
「それは……二人合わせての二つ名だからじゃないの?」
「いや、そう思ったんだけどさ……あの二人、魔法も呪術も使えるんだよな」
「まぁ、二人がそういうキャラでしょうしね。それが?」
「なんで魔術師じゃないんだ?」
テンライは俺達解放者――――つまり、プレイヤーが扱う魔法や呪術の基盤を作ったとされる偉大な存在だとされている。ならば、その功績を讃えるために、多くの人が【偉大なる魔術師】、みたいな二つ名で呼ぶと思うのだが。
「……職業と被るから、っていうメタ的な話ではなく?」
「いや、それは無いだろ。NPCにいるんだろ? 魔術師なんちゃら、みたいなやつ」
「まぁ、いなくはないけど。付与魔術師を名乗るNPCもいたし」
うん、それを聞いたことでさらに疑問が深まった。そんなNPCがいるのなら、テンライ達だってそういった名前で呼ばれているはずなのに、テンライ達は【叡淵】という二つ名を持っている。魔法しか使えない、呪術しか使えない、ゆえに二人合わせて【叡淵】というわけではなく、叡智の神人と深淵の竜人を合わせて【叡淵】なのだ。まだ【叡淵の魔術師】と言われた方が納得がいく。しかしあの二人は魔術師を名乗っていない。
「テンライは魔術師じゃないってこと?」
「それはあり得るとは思うけど……叡淵の……叡淵……」
魔術師と名乗らず、その言葉を名乗り続ける理由。……………………まさか、凄く単純な話なのか?
「もしや言葉遊びか?」
「…………叡淵は、魔法と呪術の二つだけじゃなく……」
「永遠、永いに遠いと書いて永遠とかけてるのか?」
「「…………」」
あり得なくはないと思うんだよな。長い長い時間、あの二人は死ぬに死ねず、愛した人を殺すこともできずに苦しみ続けている。ティアラが言っていた、呪いを解くことができず、死ぬことも、進むこともできず、ひたすらに苦しみ続けるという言葉。永遠を生きる二人に、優しい終わりを。宴の幕引きを、という願い。
永遠と叡淵。永遠に苦しみ続ける二人。叡智に手を伸ばしたテンライと、深淵に手を伸ばしたテンライ。どちらも進めず、止まることもできず、永遠に苦しみ続けている。言葉遊びにも程があるし、なぜ俺達がその結論に辿り着かなかったのかと思う程の単純さ。けれど境遇に合致している言葉遊び説に、俺とソフィアは何とも言えない表情となる。
「単純すぎるけど、あり得なくないわよね……」
「そうなんだよな……というかほぼ確定でいいだろ」
何とも言えない空気が漂う中、その空気を吹き飛ばすように朝食を食べ進めていく。……うん、やはり美味しい食事は面倒なことを全て吹き飛ばしてくれるな。何とも言えない不思議な気持ちも吹き飛び、気付けば完食していた。
「とりあえず、今後はできる限り早く俺が舞を覚えるのと……カリュドーンか」
あいつはいつ現れるのかが分からないから、迂闊に動けないが……ソフィアは秘策アリ、という表情を浮かべている。
「カリュドーンが現れる時間帯は確定してると言ってもいいわ」
「マジ? ランダム出現じゃないのか?」
「そう思っていたんだけど、ちょっと違うみたい」
何でも、ソフィアが倒した追憶の獣のうち二体の出現した時刻に一定の間隔があるそうだ。一体目を撃破した日から一ヶ月後に二体目が現れた。そしてカリュドーンが現れたのはその二ヵ月後だったらしい。つまり……
「結構遠くないか……?」
「いいえ、現れた、という条件が満たされていればいいの。あとは、君があの槍を取り出せば現れるはず」
「ソースは?」
「テンライに直接聞いてきたわ。あなたがぐっすり寝てる間に」
なるほど、テンライが直接教えてくれたのなら間違いないだろう。……フレンドリー過ぎないか、カレイドモンスターって、最強種的な存在なのに。結構人間臭いなぁ。
まぁ、何にせよ……出現させる方法が分かったのなら、それを実行して撃破するまでだ。そろそろドラゴスパイクを修理してやりたいし……ボコボコにされた恨みを絶対に晴らしてやる。
ティアラ
エルフ。甘いものが好き。だけどお酒はちょっと辛い方が好き。プレイヤー人気が高い。




