リアルとゲームが胃を殺しに来ている。
神殺しの霊碑に現れる不埒者を撃破し、ギルドから報酬として序盤の街では破格の魔法、または呪術として優秀なものをゲットできる。それが、俺が調べたサードグロリオで受けることを推奨される『墓荒らしを撃破せよ!』の内容だ。
魔法と呪術、どちらも確認してみたが、確かに優秀だ。魔法は中距離から大弓の矢のようなものを三本発射するもので、呪術は耐久値を9%ダウンさせると共に、状態異常耐性も少しダウンさせるというもの。これを手に入れたからメインジョブを魔法使いや呪術師に変更する、なんてプレイヤーも少なくないらしい。なお、呪術師はスリップダメージとデバフで敵をすり潰すタイプの紙装甲なので、初心者向けではないとのこと。魔法使い? 直接的なダメージソースがあるし、初心者でも使いやすいらしい。紙装甲なのは変わらないが。ヘイズは例外。あんな鎧を着てるやつが魔法使いだとは誰も思うまい。
「んー……やっぱり発生条件が違うな」
そりゃあカレイドモンスターを相手取るクエストだから仕方ないんだけど、ここまで違うものかね。この不埒者というのも深淵テンライが研究していた執念が集まった幻影みたいだし。執念が固まって幻影になるとか怖いわ。
恐らくだが、戦闘を発生させず、ハウリングビーから花摘みの許可を貰って花を採取して、戦闘を行わずに花を添えて手を合わせたことで発生した深淵テンライとのコミュ。そして魔法の舞を踊り切ることで何かが起こるはず……なんだが。それ以上に心が荒みそうになったことがある。
「ダンスレッスン、鈴音姉さん並みってどういうことだよ」
叡智テンライのレッスン、滅茶苦茶厳しい。鈴音姉さん並みに厳しい。そして的確。ぐうの音も出ない程の的確な指摘に心が荒みそうになったが、何とか金の舞を踊れるようになった。リアルだと踊れたが、ゲームの中ではぎこちない、ってあるもんなんだなぁ。
「金は踊れるようになった。叡智テンライに教えてもらったのは水……」
水の舞が中々難しい。流れる水のように、冷たい氷のように、優雅で冷徹な舞を、と言われたのだが、中々難しい。誰だフラメンコと神楽を混ぜ合わせようと考えたやつは。あと獅子舞みたいな動きも混ざってたぞ。誰だあの舞を提案したのは。そして完成させたのはどんな変態だ。仲良くなれそうだから是非お話させてほしいね。
人が見ていないことを確認して、隙あらばあの舞のステップを踏んだりしながら、まだ人通りが少ない商店街を歩いていると、店を開けた肉屋のおじさんがこちらを見た。
「おお、碧君! おはようさん!」
「おはようございます!」
「元気だねぇ! ほれ、コロッケ食べな!」
元気に挨拶すると肉がゴロゴロ入ったコロッケをくれる。うーん、カリッカリのジューシー。家で作ったんじゃこれは作れないな。
「夏休み、悪いことしてねぇか!?」
「しませんよ。夏休みは基本的にゲームと運動と家族サービスです」
「ゲーム……ってなるとあれかい? ニュースとかで見る……オリーブなんとか」
「リーヴラシル・フロントラインですね。オリーブじゃヘルシーに揚げ物ができちゃいますって」
ニュースにも話題として上がるくらい、VRゲームは日本で――――いや、世界中で凄まじい人気を誇っている。前にVRは危険だなんだと言ってた偉い人? が数千万のVRファンに「ソースを説明しろ」、「何を根拠に話してるんだ」、「医療にも使われてますがそのことについては?」、「現実とゲームを混交してるお前の方が異常者だわ」などと押し流されて大炎上するという事件が起こったくらいには、VRは色んな意味で注目されている。
その中でも注目されているのが、リヴラインことリーヴラシル・フロントラインだ。日本でしかリリースされていないこともあって、世界各国のゲーマー達が涎を垂らしてグローバル版の発売を待ち望んでいるこのゲームだが、サプライズグッドラック社は日本版しか発売しないと明言しているそうだ。理由はなんか色々言っていた気がするが、一番は手を広げすぎると疲れるとか何とか。それで許されるあたり、サプライズグッドラック社の大きさと社会貢献力の強さを実感するな。
「うちの親戚の子も夢中になってるって聞くなぁ。面白いかい?」
「滅茶苦茶面白いです」
「ははは! そんな顔するくらいに面白いなら、ゲーム開発者の人達も大喜びだろうな!」
この商店街の人達は、ディスプレイ型ゲームが主流だった時代のゲーマーが多い。VRゲームは性に合わないとか何とかでやっていない人が多かったりするが、ディスプレイ型ゲームでこの商店街のおじさんおばさんに勝ったことがないくらいには、結構なゲーマー達がいる。だからゲームの話題が尽きないので凄く楽しい商店街だ。毎年、夏祭りではディスプレイ型ゲームの大会なんかも開いていて、この商店街で使える商品券なんかが手に入る。
「で、碧君は何か買い物かい?」
「ああ、はい。友人が今日明日忙しいってことで飯作りに行くんですよ」
地獄の二日間がやってきてしまったぜ。メール爆弾を投下するんじゃねぇソフィア。今向かってるっての。
「コレかい?」
「恋人じゃないです。マジの友達です」
俺が青春をゲームに費やしているのは知っているだろうに、この人は。うーん、ひき肉よりもロースの方がちょっとお得だな……ソフィアからお金を貰っているとはいえ、出来るだけ節約したくなるというのが俺と言う人間の性分だ。残った分でアイスでも食べろソフィア。暑い日のアイス、冬の日のこたつアイスは素晴らしいぞ。
「じゃあロース四つください」
「はいよ。支払いはどうする?」
「スマホで」
「はいよ」
チャリーン、と軽快な音が鳴り、電子決済が完了する。うーむ、電子決済、慣れないなぁ……やはり現金支払いに慣れているせいで電子決済に慣れない。どこかすっきりしない感覚にむず痒い気持ちを感じながら肉を保冷バックの中に捻じ込み、次の買い物へ。またもや茶化されながら野菜と果物を買ったあと、すぐにソフィアに指定された場所に向かう。
電車に乗ること大体五分弱。都心から少し離れた場所の、緑と建物が見事に融和しているマンションに辿り着く。……うーん? 指定された場所、ここで合ってるよな? 間違ってないよな? ……いや、間違えている可能性があるな。おーい、スマホやーい。ここで合ってるのかー? …………うん、現実逃避を止めようか、俺。合ってるよ。悲しいことに合ってるよここで。
「……よし、荷物だけ置き配して帰るか」
「何を馬鹿なことを言ってるのかしら」
「ほびょる!?」
驚きのあまり変な声が出た。出迎えがあるとは思ってもいなかったし、まさかこんなクソ暑い中、本当にコンビニに行っているとは思っていなかったのもあって、驚いてしまった。
「おはよう、アオヘビ君。約束はしっかり守ってもらわないと、あることないことSNSで呟くわよ?」
俺が振り向けば、ダボッとした白を基調にした服に身を包んで変装しているソフィアこと天羽星羅がいた。手にはエナドリの入ったビニール袋。カフェインを多く摂取すると具合が悪くなる俺とは縁遠い存在が何本も入っているようだ。
「おはよう、ソフィア。それは社会的に死ぬから全力で拒否させてもらおうか」
「じゃあ付いてきて」
「ついて行くから保冷バックを掴んで引っ張るんじゃねぇ、桃が潰れる!」
「あと、リヴラインも色々やるわよ」
「うーっす」
夏休み最も辛い木金の二日間が始まった音がした。
お互いに「まぁ、こいつは手を出さないだろ。それ以上にゲームに取り憑かれてるし」という思考。お前ら本当に人間か?




