愛を拗らせている……!!
俺の目の前にいる竜人が名乗った名前に、俺の脳が停止して、言語の理解を拒んだ。落ち着いて深呼吸を行い、リブートを実行せよ。――――――――――――――――――ふぅ。
テンライ。深淵の竜人、テンライ。カレイドモンスターの一人、【叡智の神人テンライ】と似たような――――否、間違いなく、十中八九同等の、恐らく片割れの人。いや人なのか? 竜人とか言ってたけど、そもそもの話、目の前にいる彼は本当に人間か? 見た限り、人間とドラゴンが半々くらいで混ざってるみたいだけど、人間が先か、ドラゴンが先か……お、尻尾も生えてるんだな。翼は無いけど。んで、首に吊るしてるのは指輪っぽいな。
「……大丈夫か?」
「ああ、大丈夫、大丈夫。情報量に耐え切れなくて頭がカリュドーンの雷に焼かれただけだから」
「くくっ、あのカリュドーンの雷を『だけ』と言い切るとはな」
笑いのツボが分からないが、笑ってくれただけ良しとしよう。笑いを取りに行ったわけじゃないが、笑ってくれる人がいると嬉しいというのは変わらないのだ。
「それで、話っていうのは?」
「ああ、そうだな。……ここでは誰に聞かれるか分からない。場所を移そう」
バチンッ、と彼が指を鳴らした瞬間、俺達の足元に大きな魔方陣が展開される。その魔方陣が俺達を飲み込んだ瞬間――――気付けば、見たことがない、穏やかな日差しが差し込む広めの空間に訪れていた。……いや、俺は知っている。この場所を、リアルで見たことがある。ソフィアに、天羽星羅に見せられて、確認している。
「ようこそ、解放者。私達の舞台へ」
……舞台、か。
「俺の勘違いじゃなければ、ここは【叡智の神人テンライ】がいたところだろ」
「ああ、間違っていない。現に今、彼女がここにいる」
指差された方を見ると、こちらをじっと見つめている女性がいた。一言で表すと、ソフィアレベルの怖いくらいの美人。病的なまでに白い肌を隠した巫女の法衣とダンサーのドレスを混ぜ合わせたような服に身を包んだ女性はこちらに近付いて、小さく頭を下げた。
「初めまして、解放者の方。私は【叡智の神人テンライ】。彼と同じく、かつての戦争で死ぬことができなかった者です」
もう頭のキャパシティが耐えられないんだけど。勘弁してください。
というか、なんて言った? 死ぬことができなかった? 死に損ないってこと? うーん……うーん……すまん、言っちゃいけないことなのかもしれないけど、言わせてほしい。
「死ななかったのは誇っていいことだろ。死ななきゃ次がある。何も持っていかれない。命を拾ってくるなんて、一番の儲けものだろ」
しにやすしにやす。HPが一ドットしかなくても、相手に必殺を叩き込んで生きていればこっちの勝ちなのだから、死ななかったというのは一番の儲けもの。勝った方が正義。生きて戦いを切り抜けてる方が勝ち組なのさ。勝てば相手が持っているもの全てを奪えるのだ。
「解放者の尺度では、きっとそれが正解なのでしょうね」
「だが、私達は違った。お互いに、呪いを解いてやれなかった」
呪い?呪いとなると、あれか?
「呪毒とか、そういう類?」
「いいや、そんなものの比ではないものだ」
「うーん……?」
カリュドーンの呪いみたいな、そういう感じの? 呪いの重ね掛けをされているって感じ? だからその姿になってる……みたいな? 説明を、説明をしてくれ。俺は今、頭をカリュドーンの雷に焼かれている。そもそも考察は苦手なんだ。当たり判定があって、ロックオンできてダメージが通るなら敵、ぐらいしか認識していない脳にバーサーカーの魂を飼っている人間は考察が苦手だ。
「我々は、お互いに愛し合っていた」
「だろうな。なんかそういう感じするし」
「ふふ……」
おっと、凄く自慢げだな? 愛妻家で愛夫家かぁ? いいことだ。うちの両親と似たような雰囲気がするぜ。
「結ばれ、幸せを噛み締めていた時、戦争が起こった」
「戦争で、多くが歪んだ。多くが捻じ曲がった」
頼む、もう少し分かりやすく話してくれ……
「私達はもう、地に伏せることすら叶わない」
「私達は、竜と神の力を半端に宿してしまった」
んー……と。半端に、宿す。竜と、神の、力。
竜の力となると、ドラゴン特攻。あともの凄い神特攻。んで、神の力となると、神特攻と、もの凄いドラゴン特攻。(ソフィアからの情報である) それ以外には……うーん……序盤のエリアしか知らないからモンスターについても、この世界についてもあまり理解していないから、竜と神……それぞれが持っている特徴……フラウヤとかにでも聞いておくか。
「ゆえに、私は呪術に縋った」
「だから私は、魔法に縋った」
「呪術ならば、彼女を殺せると」
「魔法ならば、彼を殺せると」
「待って?」
何で愛し合っているのに殺そうとしてるんだよ。殺し愛ってこと? 大昔の人達の愛情表現が情緒不安定過ぎて怖いんだけど。
「けれど、出来なかった。出来るはずが、なかった」
「殺せなかった。殺したくは、なかった」
「そりゃよかった。夫婦の殺し愛とか見たくもないぜ」
「しかし、私はそれでも願う」
「私達は、願ってしまう」
「彼女の終わりを」
「彼の終わりを」
……つまり、だ。
「あんたらはあれか? 死ぬならせめて愛した人の腕の中で眠りたい的な感じか?」
「間違いでは、ないな」
「ええ、間違いではありません」
うーむ……考察なんてろくにしたことがないから何となくのニュアンスで問いかけてみたら、間違いではないというお言葉をいただいた。合っているけど、百点満点ではない、みたいなニュアンスを感じる。
あれ? そういえば【叡智の神人】と言っていたよな、この女性。
「あの、テンライさん?」
「なんだ?」
「なんでしょう?」
「いや、【叡智の神人】の方」
テンライが、というか名前が同じやつが二人いると、こうなる。一々二つ名を呼ぶのも面倒くさいが、ちゃんと話をするなら律儀に付けて呼ぶのがいいだろうな。
「あんた、どうして呪術の舞を踊ってるんだ?」
「あら? ……もしかしてあなたが、ソフィアの言っていた踊り子さん?」
ソフィアよ、この女性に俺のことをどう説明した。ことと次第によってはしっかりお話をしないといけないぞ? 木金の二日にかけて全力で尋問をしなくてはならないぞ?
「俺は踊り子の姿してるか?」
「ふふ、私達の時代では、戦士こそが舞を演じていたのですよ」
時代が変わったというやつか? ん? ということはこの人達も戦士だったということで……まぁ、カレイドモンスターだし、当然最強クラスの力を持っているのは当然か。
「それで、私が呪術の舞を踊っているのか、でしたね」
「ああ、うん。というかあの舞、呪術でいいんだ」
「ええ。彼に教えてもらった、一番最初の舞です」
「じゃあ、あんたが踊ろうとして踊らなかったのは、魔法の舞?」
「ええ、そうです」
おお、当たった。魔法の舞はなんか荒々しい感じというか……男っぽい振付に感じたけれど、もしかしてそう見えるようにアレンジを加えた舞だったりするのかな。呪術の舞は女性っぽさを強く感じさせる優雅な舞で、魔法の舞は男性っぽさを強く感じさせる剛毅な舞……てな感じで。
「あの舞は、私が彼に教えた舞……思い出の舞」
「【深淵の竜人】の方のテンライ、踊れよ。奥さん寂しそうだぞ」
「そうしたいのは、山々なのだが……私は、踊れない。彼女を殺す業を見出すまで、私は舞うことができない」
面倒くさいな、このクエスト。愛を知るとか書いてあったけど、俺達はあれか? こいつらの橋渡し的な役目を果たさないといけない感じか? ……俺の一番苦手なタイプのクエストに分類されるクエストの気配がする。けれど逃げない。逃げられない。逃がされない。
「それならそれでいいんだが……っと、そうだ叡智テンライ」
「え、叡智テンライ……?」
叡智テンライと呼んだ女性の方のテンライが困惑の表情を浮かべる。悪いが俺は面倒くさがりな性分でな。極力、ある程度呼びやすい呼び方をしたい人間だ。
「舞、ちょっと見てくれるか? 魔法の舞も見せてくれるといいんだが……ほら、深淵テンライもとい旦那さん、ヘタレてるというか、拗らせてるから、先に呪術の舞を見てもらおうかなって」
「こ、拗らせて……」
「おう、何か文句あるか深淵テンライ」
「いや……そう取られるのも無理はない……が、少し心外でも――――」
「なら踊れや」
「それはちょっと……」
「ほら拗らせてる」
「ぐっ……」
カリュドーンみたいな化け物を超えた先で戦えるカレイドモンスター、ということでどんな化け物かと思っていたが、話してみると凄く人間味がある存在だ。うーん、もう少しいじってもいいんだけど、それでクエストが中断されてしまったらよろしくないので止めておこう。ここで死んだらここにリスポーンするとは思えないし、ソフィア達にねちねち言われるのは嫌だ。
「というわけで、金しか踊れないけど、ちょっと見てくれるか?」
「ええ、もちろん。ソフィアはちょっと、舞が苦手だったみたいだから」
うーん、無常。
このイベント全てを完遂することで、【叡淵のテンライ】と戦えます。……誰が分かるかこんなもん。
それとアオヘビのスタイルは自分の反射速度とか反応速度の速さとかを利用した弾いて躱して弾いて躱してを繰り返してヘイトを稼ぎ続けて殴りまくるパリィ&回避タンク(DPS担当)です。




