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パリィタンクが往く、リーヴラシル・フロントライン  作者: ゼノ
空を見上げ叡智を知り、地を見て深淵を知る。
36/68

対話こそが人間を生かす

「何でここに……とは聞かねぇよ。多分矢が原因だろうし……」


「………………」


「待て待て! あれは俺じゃねぇ!!」


 ガチンッ、ガチンッ、と牙を鳴らし始める蜂騎士に慌てて弁明するが、蜂騎士のガチガチ音は変わらない。証拠を示せとでも言わんばかりに臨戦態勢を取っている蜂騎士――――ハウリングビーを納得させる情報は……


「そこに弓矢落ちてるだろ? それを持ってたのは俺じゃねぇ。俺とは違う人間だって!」


「………………」


「そもそも、ここに来てから戦闘はしてねぇよ。他の動物――――は、さっきので逃げちゃったけど」


 武器を装備しないことで戦う意志が無いことを示すと、ガチガチと鳴らしていたハウリングビーが落ち着いてこちらを見てくる。まぁ、下手な動きを見せたら殺すと言わんばかりに針をこちらに向けてるんだが。まあ、待て、落ち着けアオヘビよ。話の分かるモンスターってのは、どんなゲームにもいるものだろう? 人の姿をしているくせに、全く話が通じないNPCやプレイヤーよりマシじゃないか。


「俺はここに戦闘しに来たんじゃない。花を少し貰いたいんだよ」


「………………」


「青い花を神殺しの霊碑……お前の縄張りの近くにある場所にいくつか持っていきたいんだ」


「………………」


 ジェット機のエンジンのような音を鳴らす羽がやかましいが、攻撃してくる気配はない。ちゃんと言葉を理解してくれるモンスターで助かるぜ……ただ、ここから戦闘に発展する可能性があるからまだ油断はできない。油断せず、突き詰めていけ。


「そこに祀られてるのは、大昔凄いことを成し遂げたやつなんだ。そいつに会うなら、花の一つや二つくらいは――――」


「………………」


 話をし終える前にハウリングビーが俺に近付いてくる。不味いか……? いや、殺気は感じない。攻撃するつもりはないはず……だが、武器を取り出したくなる衝動が……! いや、抑えろ俺! ここで武器を出してハウリングビーと戦うことになったら、今までのロールプレイが水の泡になってしまう! うおおおおおお! 踏ん張れ俺ぇええええええ!!


「………………」


「ぉ?」


 武器を出すまいと踏ん張っていた俺を、ハウリングビーが器用に担ぎ上げた。え、何? 何が起きている!? ロールプレイ成功!? それとも失敗して縄張りでの戦闘!? え、どういう状況だこれは!?

 全身から冷や汗を掻きながら、ここからどうなってもいいように意識を集中させておく。頼むから成功していてくれ、という思いと、まぁ失敗していてもこいつと戦えるなら、という思いが6:4ぐらいの比率で存在しているのを自覚しながら、連れてこられたのは美しい一面の花畑だった。


「ぉぶっ!? いってぇな! 何する――――ん?」


 放り投げられた先、俺の目の前にあったのは、他の青い花よりも深い青と、白い筋が入ったような色の花。一際美しく輝く青い花を見ていると、ハウリングビーが軽い力? で俺を小突いてきた。あっ、ちょっとだけHPが減った!? 合計レベル60越えとはいえ、HPと耐久を振っていない俺には痛い攻撃だぞ蜂騎士ィ!!


「………………」


「これを持っていけってことか……?」


 ほら、さっさと持っていけ。

 そう言われているような気がしてくる動きを見せるハウリングビーに気圧され、その青い花を摘み取る。昔、花音姉さんに教えてもらった花の摘み取り方で採取すると、深い青と白の花はアイテムとなってインベントリに格納された。




【ひときわ青い月鈴花】

 月の光を浴びて成長する花。その中でも一際美しく、強く咲き誇った花。月の光を浴び続け、魔力を帯びたこの花は、風に揺れる度に美しい鈴の音を鳴らす。

 遥か昔、とある者がこの花を想い人へと贈り、想いを告げたという。




 なんだかロマンチックなことが書かれていらっしゃるな、この花のテキスト。これを献花するのか……まぁ、月の光を浴びて成長したって書いてるし、何か神秘的なものなんだろう。献花に使っても文句は言われないはず。……言われないよな? 大丈夫だよな?


「とにかく助かった。ありがとうな、ハウリングビー。これで献花ができるわ」


「………………」


「あー、縄張りからさっさと出て行けってことね。ありがとう、助かった」


 さらばだハウリングビー。次に会う時は敵同士かもしれないが、今はお前に感謝を。PKに絡まれていたし、そこから解放してくれたのもお前だった。お前と戦う時は、タイマンでお願いします。


「うーむ……献花したいけど、件の不埒者は許してくれるのだろうか?」


 地図を見る限り、この先にある大きな岩みたいなのが神殺しの霊碑らしいが……不埒者は神殺しの業を野ざらしな場所で研究してるのか? そもそも、どのタイミングで不埒者が現れるのかが分からない。そのままいるのか、何かに近付くor触れたら現れるのか。ゴースト系だったら攻撃が通らずにゲームオーバーだぞ。回復ポーションがあるから全力で殴るけど。エリクシールもあるぞ。勿体ないけど。


「うーん……蜂騎士に聞いておくべきだったか……?」


 答えてくれるとは思わないが、情報が足りない。もっと集めておくべきだったな……ティアラももっと情報をくれればいいのに……俺がもっと深いところまで質問しなかったのが悪い? それはそう。情報集めをしっかりしなかった俺の落ち度だ。ふふふ……今度からソフィア達を巻き込むとしよう。


「んで、ここが例の場所か……」


 神殺しの霊碑。凄く分かりやすい場所だな……大きな石碑に、この世界の言葉で何やら書いている。えーと、何々?


「『神殺しの英雄、ここに眠る』……ね」


 ご存命のはずなんだけどなぁ、テンライさん。いや、片割れがご存命ってだけで、片割れのテンライさんはもう亡くなっている可能性がある……? うーむ……考察勢、どうにか秘密を解明しておくれ。その間にテンライ関連は全て倒すが。もう全力で薙ぎ倒すが。


「……まぁ、ご存命だろうが何だろうが、とりあえずあんたに贈り物だ、テンライ」


 いかにも花を添えてくださいと言わんばかりの空間に花を添えて、その場で手を合わせる。……ふむ、モンスター特有の殺気みたいなのを放ってくるやつがいる感じはしない。しかし、なんだろうか? 視線を感じるというか、何というか。ハウリングビーに見られているわけではないだろう。あんな巨大蜂が近くにいるのなら、あの時聞えた凄い音の羽音が聞えないのがおかしい。

 じゃあ、誰が俺を見ているのか。PK集団でも、プレイヤーでもないのなら、神殺しの業を研究していらしているという不埒者だろう。いつでも攻撃に転じることができるように準備しながら、振り向くと――――


「ああ……なんて懐かしい……」


 人間とドラゴンが融合したような姿を、魔法使いのような服で包んだ何者かがいた。


「どぉうわあああああ!!?」


 思わず飛び上がって攻撃しそうになったが、その気持ちをグッと堪えて深呼吸を行う。心を落ち着かせて、そいつの姿を見据えて……問う。


「なぁ、あんたは誰なんだ? この霊碑で神殺しの研究をしてるとかいう、不埒者か?」


「む……そうか……そう取られても仕方ない、か……だから解放者達が……ティアラめ……約束を守っているのだな」


 ん? 最後の方だけ聞えなかったぞ? 約束? 誰との……いや、まぁいいや。


「墓荒らしとは違うのかよ」


「違う……と、言いたいが、証拠がない。神殺しについて調べているのは、本当のことだからな」


 んんん……昨日今日のリヴラインは俺の脳みそを酷使し続けているな……頼むからそういうのは考察勢にだけ差し向けてくれ。頭が痛くなるから。クソ暑い中コンビニに行ってアイスクリームを買って食べないといけないくらいに頭がショートしそうになるから。


「とりあえず、私の……いや、私達の家に案内しよう――――む? 君、何か、呪いに蝕まれているな」


「あ?」


「その懐かしい気配……猪竜に会ったのか?」


 懐かしい、だと? 追憶の獣が、猪竜カリュドーンの呪いが懐かしい気配……? おいコラ、ちょっと待ちやがれ。俺の脳がショートする前に凄い発言をしやがったぞこいつ! 今の発言が正しければ、こいつは――――!!


「お前、まさか【叡智の神人テンライ】と何か関係してるのか?」


「む……彼女に会ったのかね?」


「いや、会ったのは俺じゃなくて俺の仲間」


「そうか。……少し話そう。付き合ってくれるか?」



『カレイドクエスト【深淵の地にて愛を知る】が発生しました!』



「私は、【深淵の竜人テンライ】。解放者の君に――――頼みがある」


「……ふぉ?」

【叡智の空にて愛を知る】

神殺しの霊碑に魔法使いor呪術師+剣士のジョブを持ったプレイヤーが戦闘をこのフィールドで一切行っていない状態で訪れ、手を合わせることで発生するクエスト。転送され、【叡智の神人テンライ】との会話を行い、追憶の獣討伐及び舞の習得がクエスト達成条件。条件クリアで【叡智の神人テンライ】と戦える。


【深淵の地にて愛を知る】

【叡智の空にて愛を知る】を受注後、そのプレイヤーのパーティーに参加している男性プレイヤーが神殺しの霊碑に献花(ひときわ青い月鈴花)を行い、手を合わせることで発生するクエスト。なお、この際にも戦闘をするとハウリングビー(レベル80)が敵対して、花自体が手に入らない。さらに、神殺しの業を研究している不埒者こと【深淵の竜人テンライ】の幻影との戦闘が始まってしまう。そもそもこのフィールドは戦うようなフィールドではないのだ。



結論、誰が分かるかこんなもん。

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