蛇と花摘み、それと蜂
ギルドを出てからも軽く情報収集をしてみたのだが、神殺しの霊碑について目ぼしい情報は手に入らなかった。手に入ったのは、神殺しの霊碑がテンライを祀る霊碑であることや、モンスターが現れないことぐらい。ティアラから仕入れた情報よりも大雑把なことしか分からなかったので、ティアラから前情報を仕入れていなければ考察しながらダンジョンに向かっていたことだろう。うーん、こうして考えてみると、ティアラが有能すぎる。何か知りたいことがあったら、まずはティアラに聞いてみるのが一番手っ取り早いかもしれない。
「献花しとくべきかねぇ……」
テンライ(女性)がまだご存命(仮)とはいえ、霊碑が建っているわけだし、献花くらいはしておくべきだろう。ゲームの世界であっても、死を想えという単語は存在するし、NPCとはいえ戦いで偉業を成し遂げた凄い奴には敬意を示さないと。不埒者だって花を添えることにとやかく言うことはあるまいて。
「となれば食材売り場だな」
このゲーム、料理人とかも存在しているからなのか、食材や花を売っているNPCが存在するのだ。花も食材に含まれているというのはどういうわけだ? ……あ、菊とか菜の花とかも花か。あとは、花音姉さんが前に通販で購入していたエディブルフラワーみたいなものか?
「いらっしゃいませ、解放者さん! 新鮮な食材が揃っていますよ!」
よーし、BMWのNPC相手に鍛え上げたロールプレイを見せてやるぜ――――と言っても、本当の人間を相手にしていると思って接するだけなんだが。これが中々刺さるんだ。所詮はNPCだし、という思いで接すると、それが態度に出やすい。VRゲームというのは凄く高度に作られているから、コミュニケーション能力を鍛えるのにも有効だ。
「えーと……ちょっと献花に使う花を探してて……何かいいものありませんかね?」
「献花ですか? うーん……ごめんなさい、うちは菜の花みたいな食材しか取り扱ってないんです」
「ありゃ……そうなんですか……」
うむむ、あてが外れてしまった。そもそも食材に扱うようなものを献花に使うなと言われたら何も言い返せないのだが。
「あ、でもサードグロリオの外に、綺麗な青い花が咲いている場所があるんです。そのお花を献花に使うというのはどうでしょう?」
「青い花……どこに咲いてるんですか?」
「確か、神殺しの霊碑の近くですよ。ただ、そこを縄張りにしているハウリングビーというモンスターが厄介で……」
「なるほど……とりあえず行ってみます。ありがとうございます」
「はい! またお越しください!」
ここでチップを渡すのを忘れてはいけない。そのチップがあるとないとじゃ、その後のNPCイベントの難易度が跳ね上がったりするのだ。BMWには銭ゲバキャラが何人かいてな……あいつら、金さえ出せば強力なパーツとかリアクターとかを販売してくれるのだが、とにかく高い。情報を仕入れてチップを渡すと確率で割引してくれたりもするけど。
まぁ、BMWの話は置いておこう。花を手に入れるには、ハウリングビーなるものを撃破――――いや、ステルスで行動すればかち合うことがないのかもしれない? うーん……どんな素材が手に入るのか気になるところではあるが、蜂だもんな……数の暴力だろうな……合計レベルが60である俺だが、数の暴力で簡単に死ねると思う。ふふふ……昔プレイしたゲームで犬三体に倒された時は放心したね。
「ハウリングビー……ハウリング、ビー……咆哮する、蜂?」
蜂って声帯あったか? いや、無いだろ。となると、咆哮のように見える何かを備えているモンスターということか。なんだろう……スズメバチみたいなのだったら、歯をガチガチ鳴らして、その音が獣の咆哮に聞えるとか? それとも羽音が咆哮みたくうるさいとか? うーん、気になる。
気になるといえば……鍛冶スキルについて攻略サイトを覗いたのだが、プレイヤーの鍛冶は炉に入れた素材が生物系なのか鉱石系なのかによって変わるほぼランダムガチャ、打ち直しがベース+素材=素材の特徴を持ったベース武器が生まれるという感じらしい。しかしNPCの鍛冶師は古草原の槍や、ドラゴスパイクのような固定生産が可能。だからNPCの鍛冶師に完全に頼らないプレイもできるし、ちょくちょく頼るプレイもできる。うーん、複雑。深く考えないようにしよう。
とにかく、今は花摘みだ。蜂に狙われながら、青い花を採取しないといけないというハードな花摘みだ。虫除けスプレーみたいなのは無いのだろうか。
「ようし、行くぞ花畑!」
やる気を出していざ行かん青い花が咲いているという花畑! ハードな花摘みにレッツゴー!! ……俺、蜂に文字通り蜂の巣にされないよね?
嫌な想像に体を震わせながら、サードグロリオから神殺しの霊碑に繋がる道を抜けて、視界に広がるのは穏やかな草原よりも少しだけ背の高い植物が見えるフィールド。その名も【木漏れ日の樹林】。樹海とまではいかないが、背の高い木々が伸び、木漏れ日が優しく差し込むマイナスイオンが出ていそうなフィールドだ。
「……お、モンスター」
「……ブル」
「攻撃しなければ攻撃してこないタイプか」
少し大きな猪がこちらを見て、そのまま通り過ぎていった。なるほど、ここのモンスターは基本的に、こちらが敵対しなければ攻撃してこないタイプのモンスター達で構成されているようだ。しかし、そうなってくると気になるのが攻撃した場合の対応だ。この手のモンスター達は、一体が敵対すると他のモンスターも敵対しだすものが多い。試してみたいところだが、触らぬ神に祟りなし、ということで我慢。俺の目的は花摘みなんだし。
「お、鳥だ」
こうして穏やかな気持ちでフィールド探索ができるとは思っていなかったが、こういうのも悪くはない。戦闘をしたいという気持ちは変わらないけど、それはそれとして、こういうマイナスイオンに晒されながら歩くのも悪くないと思える気持ちもある。
「なんて思ってたんだけどなぁ……」
ビリっと来る殺気を感じて体を傾けると、弓矢が通り抜けていった。おーおー、嵐みたいなエフェクトを纏った矢だったぞ。ヘッドショット喰らったらどうするつもりだったんだよ。多分即死してたぞ。
「マジで避けやがった」
「チートか? いやでもチートみたいな不自然な挙動はなかったな」
「チート程つまらんものはないでしょうよ、PKさん?」
「「そりゃそうだ」」
顔半分を隠すような仮面を被ったプレイヤー……髑髏マークが名前の横に付いているプレイヤー二人がニヤリと笑った。
「うちの初心者狩りやってる馬鹿がお前にご執心でさ」
「攻撃がことごとく当たらないって言ってたから、俺達も興味が湧いたってわけだ」
「「てなわけで、相手をしてくれるかい、アオヘビさん」」
うーん……この二人、PKだけど、対人勢――――【グラディタンズ】の人達と似たような気配がするな。えーと、プレイヤー名は……む? 文字化けしていて読めないだと……?
「ああ、俺達はアクセサリーで名前を隠してるんだ」
「PKK対策ってのもあるが、こっちの方がアサシンっぽいだろ?」
「心を読むなよ」
「「顔に出てたぜ」」
息ピッタリだな、こいつら。でもPKとの戦闘かぁ……
「真っ向勝負が好きなら闘技場での戦闘でもいいか? あんたら、普通に強いやつらだろ?」
「【グラディタンズ】とうちは敵対しててね。闘技場には入りにくいのさ」
「それに、馬鹿正直に正面からの戦闘を想定した装備構成じゃないんだ。ま、得意を押し付けるってやつだな。闘技場は何もない平地だから、俺達の装備構成じゃ簡単に死ねる」
対人勢の【グラディタンズ】と敵対している? しかもうち、ってことはクラン? PKのクランということは、【鬼刃道】の連中か? PKのペナルティが凄いこのゲームで、それでもPKを止めないPKに心奪われた連中の集まり。クランリーダーを含めた上位陣と、上位に食い込む中堅以外は初心者狩りとか、格下ばかりをキルしてPKの何たるかを理解できていないとネットで馬鹿にされているクラン。
俺の目の前にいる二人は中堅の、それも純粋にPKを楽しんでいる連中の一人か。格下に倒されることも、格上に倒されることも許容した、楽しんでPKを行う、リヴラインを楽しんでいるプレイヤーだろう。こいつらの熱意に応えなければゲーマーとしての名が泣くが……対人戦はシャコフィストで死ぬほどやったしなぁ……
「「で、相手してくれるかい?」」
「うーん……」
どうしようか、と悩んでいた矢先。体を突き刺すような殺気が後ろから飛んできて、思わずバーストステップを発動して避ける。
「「ペェ」」
「あ゛!?」
ごめんPKの粋を理解していそうなプレイヤー二人! 俺が避けた時に巻き上がった砂埃で攻撃が見えなかったか! 今度会えたら戦うから! マジでごめんな!
心の中で謝罪して、突撃してきた何かを見る。
「さぁ、何が突っ込んで……き、た……?」
グォオオオオン……! という凄まじい音が鼓膜を打ち付ける。その羽の動きは俊敏かつ豪快で、砂埃を吹き飛ばして森の木々をざわめかせた。
「……は、ハロー?」
「………………」
エンジン音のような羽音を鳴らし、ホバリングして俺を見下ろす成人男性の二回りほど大きな蜂騎士。その手には彼? の武器であろう巨大なドリルと見紛うような針。尻にもご立派な針があり、どんなに頑丈な盾でも粉砕するであろう強靭な牙が。うーむ……いかにも戦闘型です、と言った感じの姿だ。しかも関節以外を堅牢そうな外骨格で固めている。スズメバチを騎士にオマージュしたらこんな姿になるに違いない。
「あんたが、ハウリングビーってことでいいのか?」
「………………」
反応がない。でも、会話は通じているっぽい……? カリュドーンもそうだが、モンスター一体一体に優秀なAIを搭載し過ぎではなかろうか。
蜂騎士、襲来!!




