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パリィタンクが往く、リーヴラシル・フロントライン  作者: ゼノ
空を見上げ叡智を知り、地を見て深淵を知る。
19/68

狂ってるぜ、リヴライン。

 現れたソフィアの表情は穏やかに笑みを浮かべているものであったが、それゆえに恐ろしい。まず纏っているオーラが違う。滅茶苦茶怒っています、と伝えてくる。


「言い訳はある?」


 ギルドのカウンターに連行された俺は、ティアラの前で最後の審判を待つ罪人のように座っていた。


「楽しかったので無いです。ごめんなさい」


「はぁ……サブまで取っちゃって……レベリング忘れてたわね?」


「忘れてました」


 いや、本当に忘れていた。武器が欲しいあまり、レベリングのことを忘れていた。サブに経験値を持っていかれて、レベリングが少し遅くなる、とソフィアから言われていたのにである。


 うーん、誰がどう考えてもギルティ。俺の頭はダチョウの頭。理解力がないのである。


「…………取ってしまったものは仕方ないわ。埋め合わせはしてもらうけれど」


「うす」


 仕方がない、という感じで俺のことを見てくるソフィアは、いつもの表情に戻ってティアラの方を見た。


「ティアラ、調査クエストの発行はできるかしら?」


 ほう、調査クエスト。そういうクエストもあるのか……


「発行することは可能です。……しかし、アオヘビさんにやらせるにはまだ時期尚早かと」


「大丈夫よ。この人、相手が格上な程強くなるタイプだから」


 ジャイアントキリングはゲーマーの華だと思う。どの業界もそうなのかもしれないが。


「……でしたら、こちらはいかがでしょうか」


 ティアラが懐から取り出した依頼書を受け取ると、その内容が表示される。えーと、これは……自然闘技場(ネイチャーコロシアム)に現れるモンスターの生態調査?


「何これ」


「現在、ギルドでは自然闘技場に現れるモンスター達の生態調査を依頼しております」


 自然闘技場はたくさんのモンスターが現れるから、レアモンスターも現れる。だから、そういうモンスターの情報を持ってこい、ということだろうか。


「普段温厚なモンスターであっても、あの場に現れるモンスターは凶暴化している。その理由を調べてほしいのです」


 特に、夜行性のモンスターはさらに凶暴化しているそうだ。報酬は経験値と、お金のみ。素材の類いは一切見受けられない。旨味があるかは、この世界初心者の俺では判断が難しいな。


 だけど、俺は最後の文言ーーーー経験値ボーナスというものに惹かれてしまった。


「この経験値ボーナスって、どれくらい?」


「そうね……一日回っていればそれなりになるんじゃないかしら」


 それなりに……それなりにというのがどれくらいなのかはやってみてのお楽しみ、ということか。……いいよな、ボーナスって響き。残業はクソだが。


「アオヘビさん、調査クエストへの参加経験は?」


「いや、無い。説明頼む」


「かしこまりました」


 ヴゥン、という効果音が俺の耳に届くのとほぼ同時に、チュートリアルのウィンドウが表示された。


「調査クエストとは、段階を踏み、特定エリアの攻略を行っていただくクエストです」


「特定エリア……自然闘技場みたいな?」


「はい。各地のダンジョン、自然闘技場、それらに近しいエリアや、未開拓エリアなどには、ギルドよりこの連戦クエストが発行されます」


 未開拓エリア、というのは恐らくアップデートで追加される予定のエリアのことだろう。どんなモンスターが現れるのか、どんな地形のエリアなのか、などを経験値や金をゲットしながら調べられるというのは、攻略勢、考察勢、エンジョイ勢、その他諸々の連中にとっても利点が多いだろう。


 情報というのは、武器だ。どんな地形で、どんなモンスターが現れるのかを知っているのなら、対策ができる。モンスターの攻撃モーションが分かれば、どんなパーティー構成なら楽に突破できるかを考えることができる。


「なお、その際に入手した素材などは当ギルドの研究施設にて研究を行うため、全て回収させていただきますので、ご了承下さい」


「ああ、素材が出ないっていうのはそういう……」


 ソフィアから素材が出ないとは聞いていたが、出ないわけではなく、回収されるために素材が手に入らないという意味だったようだ。実績による素材獲得は……当たり前だが回収されない。


「また、この調査クエストは段階を踏む性質上、これ以上の探索が難しいと判断した場合、打ち切ることも可能です」


「その場合の報酬は?」


「打ち切った時点での功績に基づいた報酬が支払われます」


「途中で打ち切っても報酬はあるわけね……」


 だが、全ての報酬が支払われるわけではない。報酬を全て手に入れたい場合は、全ての段階を踏破する必要がある。


 このクエストにおいて、求められるのは、『自分の実力でどこまで行けるのか』を見極める判断力、『現れ続けるモンスターを、いかに楽に捌き続けるか』を考える継続戦闘能力と思考能力だろう。あとは各種モンスターがどのような行動をするのかを知っているか、とか。


 自然闘技場は各地にあるらしいので、この調査クエストというのは、そのエリアでどれだけ戦闘をしたのかとか、自分の実力を確かめるための側面もあるのかもな。


「アオヘビさんの場合、【穏やかな草原】と【ざわめきの森】の調査クエストが受注可能です」


 行ったことがあるエリアの調査クエストができるわけじゃない辺り、本当に最終試験みたいだ。次のステップへ進むためのあれこれって感じで。


「んじゃあ……両方受けようかな」


「順序はどうなさいますか?」


 順序……ああ、どっちから向かうかってことね。そうだなぁ……よくやるのはーーーーというか、やらかすのは、強いやつから始めて最後に弱いやつってのだけど……ここは王道的な順序で攻略していこうか。


「【穏やかな草原】からで」


「かしこまりました。それでは、いってらっしゃいませ」


 クエスト受注のアイコンが出現し、ティアラが席を離れる。それに続く形でカウンター席を離れた俺は、ソフィアからの視線に気付く。


「何かあったか? 遅刻とか以外で」


「ええ。防具、もうボロボロじゃない」


 防具? ……あー、防具ね。うんうん。ボロボロだな、確かにボロボロだ。あと一撃でも喰らえば壊れるだろうなぁ。というか、カリュドーンの攻撃喰らっても壊れてない防具って凄くね?


 ただ、まぁ……


「どうせいつか脱ぐし誤差では?」


「変質者として通報されたい?」


「死にゲーの法則を知らぬと申すか……」


「タンクが防具を着ないで誰が着るの」


 死にゲーのプレイヤーを見てみろ。脱ぐか着込むかだぞ。俺はその脱ぐ側の人間であっただけのこと。


「ほぼ全裸のプレイヤーのパーティーに入るって、中々の拷問よ?」


「そんなもんか?」


「そういうものよ」


 そんなもんかぁ……昔やってたVRゲームじゃ、全裸=最強理論のパーティーばっかりだったから、感覚が麻痺している。


 あのゲームはもう、サーバーの老朽化で終わってしまったけど、面白かったなぁ……懐古するのもいいけど、今はリヴライン一筋な気分だ。


「洞窟一式なんかは結構見た目がいいわよ」


「洞窟なのに? 全身タイツみたいなやつじゃねぇのか?」


「ええ。どちらかと言うと、ヴィクトリア調な装備ね」


 ほら、とウィンドウ画面に表示してくれたものを拝見すると、ゴシックな感じの装備が見えた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 《洞窟の羽帽子》

 洞窟に生息するコウモリの羽が刺さった帽子。コウモリは振動によって獲物を見つける。この帽子を被れば、暗闇における探索が有利となるだろう。


 《洞窟の胴鎧》

 洞窟に生息する生物の素材を使って縫われた布鎧。下手な金属の鎧よりも頑丈なコートと服は、獣の牙を阻む。また、内部に編み込まれた鎖帷子が鳴らぬよう加工されており、隠密にも長ける。


 《洞窟の手袋》

 洞窟に生息する生物の素材を使って縫われた手袋。武器に吸い付くような感触があり、武器が滑り落ちにくい。


 《洞窟のレギンス》

 洞窟に生息する生物の素材を使って縫われたレギンス。下手な金属の鎧よりも頑丈なレギンスは、獣の牙を阻む。洞窟の胴鎧と同じく内部に鎖帷子が仕込まれており、使用者の防御力を向上させる。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 なるほど、中々魅力的だ。今の装備よりも防御力が高くなるし、何より軽そうだ。


「ベルトは無いのか」


「そうね。今の君なら、戦士の腰布を続投する形かしら」


「だなぁ。ところで、これだけで足りるか?」


「うん? ……まぁ、ギリギリね。予算的にも」


 ぐっ、また金欠かよ……早く防具とかも作れるようになりてぇなぁ。


「あと、これ。渡しておくわ」


 そう言ったソフィアは、二つの武器をストレージから取り出して渡してきた。……なんだこの刀と短剣。


鹿竜の角刀(かりゅうのかくとう)と、迎戟の短剣(げいげきのたんけん)。私には使いにくいから、あげるわ」


「……おい、レベルに見合ってねぇぞこれ!?」


「喫茶店で言った刀と短剣よ。あなたは了承したんだし、渡しておくから」


 いやいや、おかしいだろ。なんだこの武器……! 竜系の武器はドラゴン特効と神特効を持ってると調べて知っているが、迎戟の短剣は知らん! 何で神特効持ってるんだよ!?


 い、いかん、落ち着け俺……ソフィアから渡された武器、その装備条件は合計レベル80……つまり、それまでは装備できない。そして俺はヌルゲーをするつもりは更々無いが、これはソフィアからの挑戦状……これを使いこなせるくらい、さっさとレベルアップしろ、というお達しのはず……!


「いつまでに、このレベル帯に到達すればいい?」


「物分かりが早くて助かるわ、本当に」


 ほらやっぱりそうだよ! 施すだけで終わるようなやつじゃねぇもん、ソフィアって。ただより高い物はない、なんて言葉もあるくらいだし、打算があると思った。


「二週間以内にレベル80。それが条件」


「二週間ね。了解」


 やってやろうじゃねぇか。経験値ブーストアイテム無しでウォーローグの戦闘成長率をマックスにした俺を舐めるなよ。


 使えば使うほど、武器の換装速度などが成長していくウォーローグの戦闘における成長率は恐ろしく低い。レベル0が、レベル1へとレベルアップするために必要な経験値は1000ポイント。対人戦で獲得できるポイントは、ブーストアイテム有り状態だと勝利で500、敗北で100、引き分けで150だ。ブーストアイテム無し? 半分以下だよ。


 これが2000、3000と、どんどん増えていき……レベル0からマックスレベルの100にするには、凄まじい経験値が必要なのだ。無論、ブーストを使えばわりと早めにレベルアップする。まぁ、俺はチュートリアルをスキップしたせいでその存在を知らないまま育てたが。


 つまり何が言いたいのかというと、二週間以内にレベルを80にするなんて、あの時の苦行に比べたらどうってことないってことだ。


「んじゃ、行くか。ソフィアはどうするんだ? 前と同じで傍観する感じになるかもだけど……」


「ん? ああ、言ってなかったわね。調査クエストの人気が無い理由の一つ」


「ああ、それ、俺も気になってたんだよ。掲示板にも載ってない情報だったし」


 レベリングにはもってこいなクエストだと思うんだけどなぁ、調査クエストって。なのに掲示板には全く情報が無く、ただ人気がないとか、おすすめしない、とかしか載っていなかったのだ。


「モンスターのレベルが、パーティーの平均レベルになるのよ」


「あー、そりゃ人気出ないわ。キツいもん」


 今の俺のレベルが21。ソフィアが99。(21+99)÷2=60。間違いなく低レベルならワンパン不可避なモンスターが現れる。これは確かに人気が無いし、情報に乗せることすら憚られる、ある意味嫌われクエストだ。


 俺のステータスがこんな感じ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー




 プレイヤーネーム:アオヘビ


 レベル:21

 職業:戦士

  鍛冶師

 所持金:1000ギール



 体力:35


 魔力:10→25


 持久:30


 筋力:21→31


 敏捷:43→49


 技術:56→62


 耐久:5(10)


 幸運:20



 スキル


 バーストステップ


 ソニックランス


 バックスラッシュ


 スパイラルスタブ


 シールドバッシュ


 パリングカウンター


 エンデュアーアジリティⅡ


 エンデュアーテクニック→エンデュアーテクニックⅡ


 ドラゴンスレイ


 鍛冶魔法Ⅰ


 鍛冶呪術Ⅰ



 装備

 呪毒の槍


 頭:戦士の額当て


 胴:戦士の胸当て


 腕:戦士の腕巻き


 腰:戦士の腰布


 脚:戦士の靴


 ーーーーーーーーーーーーーーーー



 これでレベル60のモンスターと殴り合えと申すか。狂ってるぜ、リヴライン……






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