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パリィタンクが往く、リーヴラシル・フロントライン  作者: ゼノ
空を見上げ叡智を知り、地を見て深淵を知る。
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四の五の言いつつ鉄を打て

 ティアラの魔法? によってサブ職業を獲得した俺は、ギルドハウスの右手にあった作業場ーーーーティアラが言うには工房ーーーーに訪れた。


 なんだか、ファンタジーで登場する典型的な鍛冶場だ。鉄を熱するための炉、鍛えるための金床と金槌、他にも名称の知らない物がいくつかある。……現実世界の鍛冶場もこんな感じなのだろうか、と考えながら工房を見渡していると、後ろから人の気配を感じた。


「なんじゃあ、お主」


「……ドワーフ?」


 振り向けばそこに人がいた。毛むくじゃらで、逆三角ではなく三角形の筋骨隆々。背が低く、ずんぐりした図体。金髪で淡雪のように白い肌と、碧玉のような瞳、そして尖った特徴的な耳を持ったティアラが典型的なエルフのイメージだとすれば、振り向いた先にいた彼はまさにイメージ通りのドワーフであった。


「確かに儂はドワーフじゃが。んで、お主は?」


「アオヘビ。さっき鍛冶師になったから、工房に顔を出せってティアラから言われて来た」


「……ふん、ティアラからか」


 長く、豊かな髭を撫でながら、ドワーフの鍛冶師? は何かを考えるように唸り始める。しばらく唸っていた彼は、俺の顔をじっと見てきた。


「蛇の目に、燃え尽きた灰のような髪……なるほど、ティアラから伝えられた容姿と同じじゃな」


 なるほど、ティアラからーーーーというかNPCから職業を得た時にフラグが立ったのか。それを回収するのが、このNPCのドワーフというわけだな。


「儂はこの工房の主、ウルカン。アオヘビよ、お主は何のためにここに来た?」


 おっと、いきなりロールプレイを要求してきたな。不正解を引いても多分問題は無いだろうが、俺もゲーマーの端くれ……どうせなら正解を引き当てたい。乙女ゲーとか恋愛ゲーとかギャルゲーとかあんまりやったことないけど、やってやるぜ。


「何のため……そりゃ武器を作るためだろ。まずそこは大前提として」


「そりゃそうじゃ」


 欲しい武器、好みの武器が欲しい。それを正直に言うのもアリ、なのかもしれないが、それだけではパーフェクトコミュニケーションを引き当てることはできない気がする。だから、ある程度の脚色をする。


「倒したいやつがいるんだ」


「……」


「俺はそいつに手も足も出ないままやられてしまった。そりゃ武器の扱い方が成ってないとか、実力差があったとか理由はあるだろうさ」


 そう言いながら取り出すのは、折れた2本の槍と砕けた籠手。ウルカンの目に宿るのは、恐らく興味。俺の武器が、あの時装備ショップのNPCが言っていた時と同じ状態なら……鍛冶師である彼が興味を示さないわけがない。


 しかもドラゴスパイクにはあの猪ーーーーカリュドーンの呪いが染み付いている。ならば興味を引いちまうよなぁ、鍛冶師は!


「俺の槍を、籠手を叩き壊していったあの猪を倒したい。誰の手でもなく、自分の手で」


 これは紛れもない本音。あの瓜坊は、あの雷を纏う竜は、絶対に俺が倒すという思いほ間違いなく本音だ。


「だから、自分の武器を、ここまで抗ってくれた武器を自分の手で直したい。そして強くして、俺も強くなって、もう一度挑みたい」


「だから、鍛冶師になったと?」


「馬鹿だと思うか?」


「……………いんや。鍛冶師としてーーーー男として、お前さんの考えはよぉく分かる」


 ん? 俺に対しての呼び方を変えた? もしや……これはもしかするのか?


「お前さんの言い分も、意思もしっかり聞いた。なら、ここで応えにゃ鍛冶師の先達として廃るってもんだ」


「! じゃあ……」


「おうよ。教えてやるよ、解放者。お前さんに、俺の技術をな」


 よっしゃオラァッ!! やってやったぜ! 師匠キャラとのコミュニティが解放された! これで色々できる!


「とりあえずは基礎の基礎からだ。これを読みな」


「……何これ」


 巻物みたいなものを渡されて、首をかしげてしまう。これは……読め、ということなのだろうか。


「ええい、ままよ!」


 勢い良く巻物を開くと、俺の体をよく分からない文字の羅列が通過していきーーーー


『鍛冶魔法Ⅰを取得しました』


『鍛冶呪術Ⅰを取得しました』


「鍛冶魔法……?」


「鍛冶魔法及び呪術の取得、おめでとうございます、アオヘビさん」


「どぅるぶ!?」


 真後ろから聞こえてきた声に、思わず変な声が出てしまった。飛び上がりながら振り向いた先には、俺を鍛冶師にしてくれたティアラがいた。


「こんばんは、アオヘビさん」


「お、おお、こんばんは。てか、どうしてここに?」


「私もまた、マスタースミスだからです」


「うっそだろお前」


 こんな細っこい人がーーーーというか、鍛冶魔法って名前の魔法があるんだし、ゲームなんだから普通に誰でもやれるよな。特にNPCなんかは。現に俺も、THE鍛冶師って風貌じゃないし……こういうところに合理性? とか整合性? を求めてはいけないのかもしれない。


「事実です。私からはこちらを」


『NPCティアラから、鍛冶師のハンマーを贈られました』


 渡されたのは、槌を掲げる神と竜の意匠がある金槌。この世界で神と竜っていうのは、切っても切れない繋がりがあるみたいだ。ジョブチェンジで見たあの判子? や、ソフィアが案内してくれた街にある碑文などに、必ず神と竜の話が入っていた気がする。


「それでは、これから私とウルカンの二人で鍛冶について教えていきます」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 職業チュートリアル、というやつだろうか。戦士のチュートリアルは無かったけど……多分探索エリアリスポーンがそれに該当したのかな。


 ティアラに背中を押され、工房のテーブルに座った俺は、正面に座ったティアラとウルカンからのレッスンに耳を傾ける。


「まずは素材ですね。これについては生物系、鉱石系、複合系が存在します」


 ふむ、生物系はモンスターの素材をメインに使っているもので、鉱石系は鉱石類、複合系は……半々で使っているものがそこに含まれるようだ。


「また、生物系、鉱石系によって魔法属性や呪術属性の相性が存在します」


「……呪術属性?」


「儂らが使える魔法ともう一つ、呪術が存在する。これが中々面倒でな」


 そう言いながらウルカンが取り出したのは、羊皮紙に描いた早見表のようなもの。魔法と呪術、それぞれの相性について描かれている。


 魔法属性は分かりやすい。火は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は火に強い。そして独立した光属性と闇属性。よくゲームで見るタイプの相性だ。


 ……で、だ。問題は呪術属性の方。陰陽五行なるものと同じのようだ。属性は5つで火、水、金、土、木。相性は火が金に強く、金は木に強く、木は土に強く、土は水に強く、水は火に強い。ここまではーーーーまぁ、分かりずらいが何となく分かる。だが、魔法属性とは違って相生、相剋という概念があるのだ。


「あの、相生、相剋っていうのは……?」


「相剋はどれがどれに強いか、じゃな。木を纏う者は金に弱い。金を纏う者は火に弱い」


「なるほど、魔法と同じ感じのじゃんけんか。じゃあ相生は?」


「相生はどれがどれを強くするか、です。木は火を強くし、火は土を強くします」


 ……つまり、なんだ? 呪術属性が付いている武器は単純に同じ属性を使うよりも相生しているものをエンチャントすると強いってことか?


「??????」


「クカカッ、まぁ、相生は鍛冶にゃあんまし関係がない。使うなら戦いでじゃろうな」


 そ、そうなのか。頭がこんがらがってきた…………おや?


「オーアフロッグって、もしかして金属性?」


「はい。魔法属性では土ですが、呪術属性は金です」


 なるほど、モンスターにも相性じゃんけんが可能なわけだ。だから土魔法の籠手やら杖やらが作れたのか。そして爪には毒。……うん、何となく分かってきたぞ。魔法は攻撃的で、呪術はデバフ系……みたいな感じだと思う。魔法属性は状態異常がないと攻略サイトにあったから首をかしげていたが、これで合点がいった。


 でもまだ納得がいかないことがあるんだよなぁ……


「なぁ、知り合いに付与魔術師がいるんだけど……あれは魔法属性なのか?」


「両方、ですね。魔『法』と呪『術』、足して魔術ですから」


 複合なのか。……ああ、だからソフィアはオーアフロッグの弱点を火属性と言ったわけか。呪術属性と魔法属性で混乱させないように……気遣ってもらったのか? ……だったら最初から2つの属性があることを教えてほしかったよ、ソフィア。


「それは置いておいて、とりあえず武器を作ってみるぞ。ほれ、槌を握りな」


「習うより慣れろってことね」


 このゲームでの鍛冶というのはどんなものだろうか。金槌を使うということは鉄を打つのだろうが……うーん、中々予想ができない。


「素材は何かあるか?」


「素材……余ってる鉱石とオーアフロッグの爪とかはあるけど」


 そう言ってインベントリから取り出した素材は、ドラゴスパイクを作った時に余った魔銅鉱石や、オーアフロッグの革と爪だ。他にもモンスターの素材はあったが、ギルドに向かう合間に売ってしまったのでない。


「ふん……それじゃあ足りねぇな」


「足りないの!?」


 これだけでも結構な量だと思うんだが!? NPCの装備ショップならこれで色々作れたはずだぞ。も、もしかしてこの鍛冶師という職業、中々にハズレなのではーーーー


「ちと早いが、武器の打ち直しからやるか」


 ……打ち直し?


「打ち直しってなんだ? 修理なら分かるけど……」


「その名の通りじゃ。モンスターや鉱石などの素材と併せて武器を使う。そうして武器を生まれ変わらせるのが、打ち直しじゃ」


 派生強化ってこと? いやでも、なら派生強化とか、そう言ってくれるはずだし……ハッ、まさかガチャ的な……?


 ……考えていても仕方ない。まずはやってみよう。やってみて、失敗ならそれはそれでいい経験になるはずだ。こういう手探りでやっていく感じが好きでゲームをやっているんだから、迷わず飛び込んでいけ、俺。


 呪いであれこれできないドラゴスパイクではなく、序盤武器なのに凄く優秀な槍である古草原の槍を打ち直しの対象に選択する。打ち直しのための素材は、オーアフロッグの毒爪と余っていた魔銅鉱石だ。


 ーーーーチュートリアルウィンドウに表示されたものを見る限り、打ち直しであろうが、生産であろうが、魔法を使う。使わなくてもいいようだが……新しいものは使いたくなるのが人間というものだ。


「……『我、願う』」


 折れた槍が輝いた瞬間に、素材と共に炉に突っ込む。真っ赤に染まった槍と素材が混ざり合い、不気味な気配を放つ。


「『この刃に呪を。地を巡り、留まり続ける呪いを』」


 詠唱しながら金槌を振り下ろすと、火花と一緒に魔法のエフェクトとは違うエフェクトが飛び散る。これが鍛冶呪術というやつなのだろう。


「『巡り、留まり、また巡る。刃に宿れ、刃に巡れ、刃に留まり、循環せよ』」


 呪術のエフェクトは火花などに似ているが、目を凝らして見ると文字の羅列が固まって形を成している。ポリゴン数凄いことになってそうだな。


「『刃を呪い、地を覗き、深淵を見る。我ら、いつの日か、呪いの深奥に手を伸ばさん』」


 赤熱した鉄を打つ、呪文を唱える、その二つを同時に行っていたが、初めての作業だというのに動きはスムーズ。システムアシスト様々だ。現実世界でやるとすれば相応の時間を費やさないといけない気がする。


 そんな思考のまま鉄を打ち続けていると、エフェクトの色に変化が起こる。真っ赤なエフェクトが、徐々に金色へと変化していく。これが、呪術の力が武器に染み込んだ証拠らしい。分かりやすい。


 叩いても火花が散らなくなった頃、水に突っ込めば鍛冶は終了して、武器が完成する。


「初めてにしちゃあ、上出来じゃな」


 ウルカンの言葉を聞き流しながら、出来上がった武器を見る。


 古草原の槍は、打ち直しによって刃が薄くなった。いや、薄くなったというよりは、刃の長さが変わったと言うべきか。打ち直しを行う前はパルチザンのような形状だったが、今の古草原の槍はドラゴスパイクに似た刃を持つ槍となっていた。だが、こっちの方がしっくりくる見た目をしてるな? 前は骨とか毛皮とか胃石を無理矢理くっつけて加工しました、みたいな見た目をしていたんだけど、今は洗練されている。


「名前は……うーん……古草原の槍〈毒〉……うーん、安直過ぎるか…?」


「名は体を表す。しっかり選んだ方がいいでしょうね」


 だよなぁ……どうしたものかなぁ……


「呪毒の槍、ってどうかしら」


「あ、それいいな。採用。いやー、助かった」


 これからよろしくな、呪毒の槍。ドラゴスパイクと併せてスタメンだから、ガンガン使わせてもらうぜ!


 そう意気込んだ矢先、俺の肩が捕まれる。


「良かったわね。約束の時間を過ぎて夢中になるなんて」


「………………………………………ごめんなさい」


 美人って、怒ると怖いんだな。


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