サブ職業ゲットだぜ
「……何これ」
バイト終わり後、リヴラインにログインした俺は、武器がおかしなことになっていることに気付いた。昨日修理してもらったはずのドラゴスパイクがポッキリ折れて帯電しているのだ。
ソフィアが合流する前に武器を確認しようかな、と思って武器をインベントリから取り出したのだが……武器が帯電していたのである。しかもこれ、マイナス効果だ。
「使うと一定時間経過後に帯電状態となり、スリップダメージと被ダメージ増加……毒属性への耐性マイナス……代わりに武器攻撃力上昇……」
はっきり言ってゴミ効果ではなかろうか、この状態異常。というかなんで帯電すると毒属性に弱くなるんだよ。普通水属性とかじゃねぇのか。こんな状態になっているのは恐らく……というか十中八九カリュドーンのせいだろう。
「あの瓜坊……! 絶対ぶっ殺してやる……!!」
しかも武器の名前の横に(呪い)と記載されている。この状態の武器や防具は修理不可で、修理するには解呪する必要があるようだ。幸い呪いは教会で売っている『解呪の輝石』というアイテムで可能みたいだが、マジであの瓜坊め……
……ソフィアに属性相性聞いてみるか。魔法を使ってるソフィアなら帯電状態でどうして毒に弱くなるのか知っているはずだ。これならもう少し、公式サイトや攻略掲示板を読み込んでおくんだったな。
「にしても折ってばっかりだなぁ、武器……」
ぼやきながら折れたドラゴスパイクを掴み、片手で持ち上げる。刀身が長かったせいなのか、折れているのにリーチの短い剣を握っているような感じだ。古草原の槍も折れてるし、闘士の籠手も砕けてしまった。お金、どれくらいかかるのやら……
「素手でも戦えないことはないけどさぁ……」
芋デスだけではなく、最近までやっていたロボゲー『BMW』では、素手で戦う機体を組んで遊んでいたことがあったからな。あのゲームはいい……ロボットーーーーウォーローグと呼ばれるそれと、改造人間となった自分を繋いで手足のように操るあの感覚。スラスターや翼、たくさんあるパーツ、その全てが違和感なく操れる神ゲーだ。多腕ウォーローグ、楽しかった。けど結局槍二刀流や刀&短剣スタイルに戻る。
ちなみにそのゲームを作っている会社は身体障がいを持っている人達のためのリハビリ機器や、義肢なども作製している。というかそっちがメインで、副産物に生まれたのがウォーローグなどらしい。開発チームのインタビューで言っていた。さらに言えば、リヴラインを作っている会社である『サプライズグッドラック社』との提携企業だ。やはり神ゲーを作る会社というのはどこかで繋がっているのかもしれない。
「……刀、短剣、槍、拳……」
欲しい武器はたくさんある。だが、それを手に入れるにはお金も素材も足りない……
「…………作るか?」
思考を回していると、ふと自分で作ればいいのではないか、という天啓を得る。
リヴラインにログインする前に見た公式サイトで、職業の変更についての記載があった。このゲームでは最初に選んだ職業やサブ職業だけではなく、ギルドで別の職業になれると。ソロプレイでもマルチプレイでも楽しめるように、色んな楽しみ方ができるようにしてあると。
「そうだよ、欲しいなら作ればいいんだよ! 刀! 短剣! 槍! あと防具!」
そうとなれば早速行動だ。ギルドの場所はソフィアに伝えられているから分かる。一度戦士兼鍛冶師になって、自分の好みの武器を作ってやろうじゃないか。
そりゃあ熟練度も足りないから時間を要するかもしれないが、好みの武器を作れるならそれは誤差だ。あと武器直せるし。
調べた限り、生産職は尖った補正値をしている。代表的な鍛冶師、大工、裁縫師は筋力や技術、魔力などに凄まじい補正値がある代わりに、他の補正値がクソザコだ。なぜ魔力補正があるのかはさておき、鍛冶師になれば俺のやりたいことの幅が広がる。
「というわけで、いざギルドへ!」
誰もいない部屋で気合いを入れた俺は、ソフィアに教えてもらったギルドへと歩を踏み出した。
(……にしても、だ)
さすが夏休みと言うべきか、夜が近付く午後16時のこの時間、バイト先ではあまり客足が伸びない時間帯で、プレイヤーの数が多い。
夜って人が減るイメージがあったけど、夜に遊ぶ人が多い……わけじゃないな。昼間も遊んで、夜も遊んでる人達が多いんだ。周囲のプレイヤーの話をこっそり聞く限り、そういうプレイヤーが多い。
「なぁ、【グラディタンズ】主催イベント行く?」
「対人イベントだろ? あんまり興味ないかなぁ。そっちは?」
「俺はちょっと興味ある。初心者、中級者、上級者、無差別ってあるみたいだし」
ほう、【グラディタンズ】主催イベント。ローニンが言っていたやつとは別口だろうか。俺はこういうファンタジー系でPvPをそこまでやらないからあれだが、惹かれるものはある。ローニンとかシャコフィストと戦ってみたいという思いはあるし。
闘技場かぁ……確か、ここから少し南に行くとあったよな。今回は行くつもりはないけど、そのうち顔ぐらいは出しておこうーーーーなんてことを考えながら歩いていた俺は、目的地を見つけて立ち止まる。
「……ここか、ギルドって」
セカンドグロリオのほぼ中心にある、いかにもファンタジーな世界でよく見るような大きな建物。簡素でありながらどこか物々しく、それでいてワクワクさせるような木造の建物であるギルドハウスの扉を開けると、NPCやプレイヤーで溢れていた。
クエストを探しているプレイヤーだけではなく、待ち合わせなのか、食べ物を食べながらキョロキョロと周囲を見ているプレイヤーや、なぜか給仕をしているNPCにナンパしているプレイヤーなど様々いて面白い。
キョロキョロと酒場のような空間を見渡しながら、個室型カウンターに向かうと、氷を連想させるようなエルフのNPCが出迎え、俺に会釈をしてくる。
「ようこそ、ギルドハウスへ。今日はどのようなご用件ですか、解放者さん」
「副職業を取りたいんだけど、やれる?」
「もちろんです。こちらをご覧ください」
そう言ってエルフのNPCーーーーティアラが取り出したのは今の俺がなれる職業のリストであった。ウィンドウで表示されるんじゃなくて、本として出てくるとは中々面白い。
さてさて、鍛冶師はどこにある? 多分生産職で括られているはずなんだけど……お、自分の今使っているメイン職業が、どの上級職業に派生するかの確認もできるのか。これはギルドにちょくちょく顔を出すのはアリだな。
「……見つけた」
生産職、鍛冶師。俺が今回訪れた理由の職業。武器を打ち、防具を打ち、戦いを影で支える縁の下の力持ち的なそれは、俺のリヴラインプレイに彩りを加えてくれるに違いない。
なぜ魔力の補正値が大きいのかは未だに謎だが、そのうち分かるとは思うから疑問の解消はいいや。
「よし、サブ職業は鍛冶師で!」
「……分かりました」
瞬間、ティアラの全身から魔力が溢れ出す。職業の付与って、魔法でやるんだな。
「『我らは見る。我らは定める。我らは見届ける。新たな道を探す者、懐古の道を選ぶ者、多くを見つめ、我らは祝福を与える。汝、道を得る者よ』」
ティアラの氷のような瞳に見つめられ、思わず息を飲んでしまう。
「『汝を見定め、道を開く。汝は進み、轍を残す。前へ、前へと進み続ける』」
彼女の手が俺の胸に触れ、その手が天井に向けられたと思えば、不思議な外見の判子が現れる。
「『やがて止まり、苦悩する。しかし、忘れることなかれ。汝の道こそがーーーー』」
竜と神の意匠が施されたそれは、何やら歯車のようなものが入っているかのように、竜と神が何度も交差しては離れるを繰り返していた。ティアラから溢れた魔力を全て固めたかのように凄まじい重圧を放っている。
「『汝の正しき、新しき道なのだから』」
ガコンッ、ガコンッ、と音を鳴らす判子は俺の胸にティアラの詠唱? と共に飛び込んできた。何かが刻まれた感覚が俺の体を突き抜けると、魔力の奔流は消え、個室型のカウンターは静かになった。
『サブ職業、鍛冶師を獲得しました』
よし、これで鍛冶師になったみたいだ。
「……おめでとうございます。これであなたには鍛冶師としての道が開かれました」
「…………?」
「鍛冶師については、ギルドハウスの工房にて力をお確かめください。その後、専用施設にてあなただけの武具をーーーー」
なんだろう、この感じ……氷を連想させるようなエルフの彼女だが、対面した直後よりもなんだか弱そうに感じる。
「……何か?」
「あー……なんというか……いや、その……大丈夫か?」
ポツリ、と口にした言葉にティアラはポカンとした表情を見せた。あの装備ショップのNPCもそうだが、どれだけNPCの表情差分とか作ったりしているのだろう。オーバーテクノロジーの領域のAIが、それぞれのNPCに積まれているのではないだろうか。
「私は正常です」
「そうじゃなくて……疲れてないのか? 魔法だろ、今の」
「確かに魔力の消費はありましたが問題ありません」
そう言われるとそうなのかも、と納得するしかないのだが……これだけ人間みたいな反応をしてくれるNPCを見てしまうと、放っておくのも忍びなく感じる。
「んー……あ、じゃあこれ。チップ代わりに」
俺がインベントリから取り出したのは、MPを回復するためのアイテムであるマナポーション。この街で買えるくらいの低レベルのものだから、効果量も少ないが……とりあえず渡してみることにした。
「……なぜこれを? 職業の変更は無料ですが」
「いや、なんとなく。……あとはほら……今度来る時も頼みますって、打算もあるから」
「それを言っては打算として機能しないのでは?」
「まぁ、そうだけど」
ティアラは不思議そうな表情を浮かべ、瞳からは困惑と呆れのようなものが伝わってくる。だが、その程度では怯まないぞ。受け取ってくれるまで座ってやると言わんばかりにポーションを揺らすと、ティアラは溜め息を吐いた。
「はぁ……変わった解放者さんですね、あなたは」
「誰が変態だって? 事実だが」
「誰もそんなことは一言も言っておりません。……まぁ、一応受け取っておきます。……ありがとうございます」
………………あらヤバい、エルフの笑みって破壊力が凄いわ。氷を連想してしまうほどクールな感じだったティアラが、俺に小さく笑みを向けてくれたことに驚くと共に、凄く心が動いた。ソフィア? 綺麗だけど中身を知ってるからドキドキとかはしない。向こうもそうだって言ってた。
「それでは、またのお越しをお待ちしておりますね」
「ん、ありがとう」
まぁ、何はともあれ……鍛冶師獲得だ! 好みの武器を作って作って作りまくるぞ!!




