連戦、連戦、また連戦!
最初のエリア、【穏やかな草原】。穏やかな、と言いながら、俺が今いる場所には、ビリビリと痛いくらいの殺気が漂っていた。
フィジカリーバードを群れで粉砕するアルミラージ、攻撃をものともせず突撃するタックルボアーーーー本来ならあり得ない光景が広がるここは【穏やかな草原】調査クエストエリア、自然闘技場。レベル60のモンスターがひたすらに暴れている修羅の国である。
「いやぁ……楽しそうだ」
「格上相手にそう言えるあたり、本当に変態よね、あなた」
「BNW、芋デス。全てにおいて格上との戦闘は楽しすぎた……!」
もちろん、ソフィアとの戦いも楽しかった。ヒリつく戦いというのは、ゲーマーなら誰しも楽しんでしまうものだろう。エンジョイ勢だろうが、ガチ勢だろうがそれは変わらない……はず。
「そういえば、ヘイズ達もやってるわよ、リーヴラシル」
「マ?」
あいつら、持ちゲーから出てこれたんだ。あいつらもまた変態のゲーマー……そのうちメッセージ出しておけば、集まってくるだろう。
「ところで、防具の調子はどう?」
「良好。軽くていいな、これ」
戦士の腰布以外を洞窟シリーズで固めた俺は、布擦れの音が聞こえない布ーーーーというか革? の装備を見ながら言う。これ、戦士シリーズよりも軽くて頑丈なのだ。初期装備とは大違いだな! 初期装備も気に入っていたのだが、ちょっと派手すぎるというか……うん。
「まぁ、紙装甲なのには変わりないけどね」
「ちり紙から和紙にジョブチェンジだ」
「加工すれば頑丈な紙来たわね」
というか、そろそろいいだろうか。早く戦いたくてウズウズしてるんだよ…高レベルの敵に挑む瞬間はいつだって楽しい。
「最終確認は必要?」
「いらねぇ! 早くやろう!」
「了解。じゃ、始めましょ」
安全エリアに設定されているキャンプ、その境界線を越えた瞬間、モンスターの殺気がこちらへと向いた。
ただの電気信号なのだろうが、この肌を突き刺す感覚に笑みが止まらない。
自然闘技場において、連戦が始まった瞬間から安全エリアは封鎖される。この封鎖を解除する条件は、モンスターの一定数討伐か、一定時間の経過のみ。または一度死ぬと安全地帯でリスポーンするから、その時ぐらいだ。
「全員ぶっ倒してやるよ!!」
調査クエストの進み具合は自分の体力ゲージの近くにあるーーーーこういうのはUI設定でカスタムできたーーーーゲージで確認ができる。今は何も倒していない状態ため、グレーの表示しかないが、モンスターを倒す毎に紫色のゲージが貯まっていく。マックスまで行ったら、調査クエストが終了した合図となる。
なお、このゲージは自然闘技場のモンスターをどれだけ倒したかを確認する討伐ゲージを流用しているため、あとどれくらい倒せば強敵が登場するのか、などが確認しやすい。
「はははっ!! カッチカチじゃねぇか!!」
向かってきたアルミラージに呪毒の槍の突きを叩き込むが、伝わってくる感触が最初に戦ったアルミラージの固さではなかった。例えるならシャームドラゴンの甲羅を殴った時のような感覚。レベル差が40程度離れているから当然と言えば当然である。
「けど、弱点は変わらねぇんだな!!」
アルミラージの弱点は首と目。というか、大体のモンスターが弱点としている箇所だ。
「てめぇの弱点属性とかは知らねぇが、金属性持ちじゃねぇよなぁ!!」
飛び掛かりをパリィしてかち上げ、高揚する心に身を任せながら、ソニックランスを発動。首に直撃すると共に、矛先から毒々しいエフェクトが発生し、アルミラージの首を腐食させる。
「うわ、こんなエフェクトなのか……」
「あら、やっぱり金属性なのね、その槍」
敏捷値によってクリティカル威力が上昇するのが古草原の槍だったが、呪毒の槍はクリティカル発生時に毒状態を付与する。この毒は耐性がないならすぐに発生するが、耐性持ちであれば毒を蓄積しなくてはならない。レベル60のアルミラージだが、どう足掻いても初期エリアのモンスター。状態異常耐性は無かったようだ。
「エンチャント欲しかったら言ってね。使うから」
「了解!」
レベル差があるから、アルミラージ一体倒すにしても結構時間がかかると思っていたが、呪毒の槍とソフィアが強い。毒状態にした敵を炎を纏う双剣でソフィアが切り刻むと、一際大きな炎が上がってモンスターが消滅する。
レベルパワーでの攻略は好みじゃないんだが……今回はソフィアの動きに合わせる練習も兼ねている。四の五の言うのは鍛冶仕事の時だけでいい。
「ソフィア、雷くれ雷!」
「『雷よ、閃け』」
呪術における、五行相剋と相生の関係。強化されて難しくなったじゃんけんみたいなものだ。木属性を付与されたものは、金属性に弱くなる。さらに、木属性は雷ーーーーつまり、感電、麻痺状態を引き起こす属性。感電、麻痺の状態異常は、弱点部位でなくてもクリティカルが発生するようになるのだ。
「ブギィッ!?」
「よっしゃビンゴォ!」
雷がエンチャントされた呪毒の槍を数回相手に当てれば感電し、毒にできる。ただ、うーん……これなら、毒にした後、燃やした方が強いような気がする。
「色々試すか! ソフィア、エンチャントってリキャストどんくらい!?」
「装備でリキャストタイム減らしてるから、三十秒ね」
それでも三十秒のリキャストがあるのか。三十秒って、結構長いんだよな。
三十秒あれば何ができる? 100メートルを走り、往復できる。BNWなら決着が付き、芋デスなら六キルは固い。コマンド系のゲームや、軍略系ゲームをVRMMOにしてある程度の成功を収めた企業のプロデューサー曰く、VR戦略ゲームは数秒で盤面が切り替わるという。それくらい、三十秒というのはゲーマーにとって長い時間だ。
「リキャスト終わったら――――いや、そっちに余裕が出来たら火属性頼む! 呪術の方な!」
「なるほど。了解」
直後に槍が炎を纏う。余裕が出来たら、と言ったはずなんだが……ソフィアにとってこの程度のレベル帯は相手にならないようだ。
二週間であの領域に至らないといけない。遠い、と思いつつも、まぁ、すぐだろうという思いもある。楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去っていくのだから。
「金に火で相剋で合ってるよな!?」
想像以上に早くなっているタックルボアの鼻を執拗に殴ったお蔭で毒状態を付与できている。ここに火属性をぶつけたらどうなるのだろう。その答えはすぐに帰ってきた。
「ブギッ!?」
「おっ?」
凄い勢いで燃え上がり、タックルボアの全身が炎に包まれ、まるで猪の丸焼きになった。ああ、これは凄いな。呪術はデバフ特化、そう思っていたけど、それは間違いであったようだ。確かにデバフをかけるための存在だろうが、極めれば下手なDPSキャラよりも火力を出せるだろう。インファイト呪術師なんて、中々強いんじゃあないだろうか。
「でもあれだな。スリップダメージなんだな、爆発の後」
しかも毒が消えて火傷状態になっている。うーん? 金→火で、金が触媒になって火を強くしたってことでいいのか? 複数のデバフをかけたいのなら、相剋しない属性を掛け合わせないといけないわけだ。金なら土とか水? よし、あとでチュートリアルを確認しよう。
呪術に比べて、魔法は分かりやすい。デバフがない代わりに火力があるし、何が何を強化する、なんてものがない簡単なじゃんけんだ。呪術を理解して使っているプレイヤーに対して、俺は畏敬の念とある種の変態認定を送りたい。
「余計なこと考えてると、死ぬわよ」
「大丈夫。見えてるから」
タックルボアの丸焼きの後ろから突っ込んでくるアルミラージの群れを、後方から迫ってくるフィジカリーバードにぶつけるために槍を支点にして飛び上がる。
突然の跳躍に反応できなかった両種は互いに激突。タゲが俺ではなく、激突したモンスターへと変化し、兎とダチョウの大乱闘が始まった。その間に俺はタックルボアの始末をつける。火傷状態も毒状態と同じように肉質が変化するのか、タックルボアのどこを殴ってもクリティカル判定が発生する。これは通常モンスターだから発生するのか、それとも、ボスモンスターにも発生するのか……多分前者だな。後者だとしたら壊れスキルだろ、呪術。
「にしても体力多いな! さすがレベル60!」
(それに対抗できてるあたり、プレイヤースキル高いわね、本当に)
簡単な動きしかしてこないならパリィのカモだぜ!
突進にパリィングカウンター、弾いたらスパイラルスタブやソニックランスを叩き込めば、大ダメージと毒状態のプレゼントだ! 毒状態になればクリティカル判定だらけ! うーん、こうなってくると幸運ステータスも振りたくなってくる。クリティカル威力って幸運ステータスと技術ステータスを参照するらしいし。
「うーん……どう思う、ソフィア」
「疑問点を言わずに問いかけるの止めてくれる?」
「ああ、悪い。ステ振りの、話! 幸運振るべきかな!?」
「普通に技量戦士でいいんじゃないかしら。ドロップ率はアイテムでも補強できるし」
「クリティカル威力!」
「幸運補正装備があるから、それで補強しなさいな」
うーん、そういうもんか。幸運補正装備、そういうものがあるのなら、それを手に入れてから考えよう。もしかしたら作れるのかもしれないし。
というか、ソフィアの殲滅速度が凄まじい。俺が一体倒してる間に、ソフィアは十体以上討伐している。やはり、今のレベル差だと、俺がソフィアのアシストに回った方が効率が良さそうだ。
「ソフィア、次どいつ狙う!?」
「うーん……そろそろ来るわよ」
「そろそろ? ――――あ」
言われてみれば、調査クエストのゲージがそろそろマックスになる。ということは……ボスモンスターが現れるということ。だけど、【穏やかな草原】にボスモンスターはいるのだろうか? シャームドラゴンは【ざわめきの森】のボスモンスターだし……
殺到するモンスターをひたすら毒状態にしながら考え事をしていると、ズキズキと肌を突き刺す気配がこちらへと向かってきていることに気付く。シャームドラゴンやカリュドーンと対峙した時に感じたあの感じと似ている。
「クギュルルルルル……」
「あれか」
「ええ。【穏やかな草原】のボスモンスターはあれよ」
やって来たのは、巨大なダチョウ――――ではなく、鶏に近しいモンスター。表示される名前は、コカウロス。コカトリスじゃなくて、コカウロス。尾羽は牛の尻尾、嘴は鶏というよりもコンドル、サイズはシャームドラゴン並。
「……ネタモンスターじゃねぇよな?」
「普通にボスモンスターよ」
「へぇ、そうな――――ントオオオオオオッ!!?」
「御覧の通り、四足歩行で突進してくるから」
先に言えよソフィア!? とんでもない速度で突進してきたぞあの鶏!
てか、四足歩行!? あ、確かによく見たら鳥の脚と牛の足が融合した脚が四本ある! キメラか!? ゲテモノキメラなのか!? 見た目が巨大化した鶏なのに、足は四本とかなんかシュール……
「あと、蹴り技はアオヘビ君のステータスだと即死ね。気を付けて」
「体力振るつもりないので、全部即死技しかないんだが?」
「あら、本当ね。いつものオワタ式よ、良かったわね」
「やる気が出る話をどうも!!」
全部即死なんていつものことだ。掠っただけでも即死じゃないだけまだ優しいね!
「よし、来やがれゲテモノキメラ! 焼肉にして食ってやるよ!!」
「クギュルルルルルルルッ!!!!」
最近ボス級としか戦ってねぇな。強い奴と戦うのは大歓迎だけどさ。




