緑色のケモノ
遅くなりました。
また途中で切らせて頂きます……
衝撃に意識を失いかけていたアルバートは、彼女の悲鳴で踏み止まる。無事であることを示す為に、軽く手を上げた。それに安堵のため息を吐き、ギルバートを名乗る男に探る眼差しを向ける。
「今のは……?」
自分に関心が向けられた事に喜色を表しながら、男が得意気に話し出す。
「こんな子供騙しすら視れなくなったの?ディアナがこの狗に護身の腕輪を与えて、魔力も致命傷も受け付けなくしたものだから、ちょっとひねってみただけ」
からかう口調に軽く眉をしかめながら、慎重に短く訊ねる。
「どのように?」
「魔力の塊を振るって、突風をぶつけてみた」
「では、その魔力は?」
「貴女を求めて彷徨う間に身に着けたのだ」
紅い瞳がすーっと細まった。
「――そう言えば、先程の問いには答えてもらえなんだな」
「先程……?」
「10歳の私を、いつ、見たのだ?」
ゆったりと問いかけると、距離を詰めようとしていた男は一歩後ずさる。緊張の糸が張られた二人を邪魔しないように、起き上ったアルバートはDの斜め後ろにそっと控えた。
養い子の気配を感じながら、Dの追及は続く。
「眼の色の訳と併せて教えて頂こうかの」
「……眼の色……?ギルバートは茶色だよ?」
「そうだの。ギルバートならば、な」
男に頷いて見せるDの肩をアルバートは自分に引き寄せ、相手の目の前に剣の腹を鏡代わりにかざした。
「あたしの……眼……?」
呟いて男の体が小刻みに震え出す。
「あなたの眼は私たちの前で茶色から緑に変わった」
目に見えて震えは大きくなり、噛み合わない歯の音がカチカチと響き始めた。
「ミドリ……あたしの眼は、ミドリ……?」
「私のバートならば、緑に変わる事は無い。そして、あなたは何故、先程から自分の事を『あたし』と言う?」
「あたしは……あたしは……」
ブルブル震えながら泣きそうに顔をゆがめて、縋りつくように両手を差し出して来た。
「10歳の私を知っている、魔力を持った、緑の瞳の、自身を『あたし』と呼ぶ、あさましい存在になり果てた私を訪ねて来る人物の心当たりは一人だけ」
「ディアナ……あたしは……」
寄せられる恃みの言葉を切り捨てたのは、断罪の声だった。
「リリー」
一瞬、音も色も失った世界を、男の甲高い悲鳴が引き裂く。
「何を言っているの、ディアナ!?この体は確かにギルバートなのに!」
Dの体を衝撃が駆け抜けた。
絶句しただけの相手を、思い直したと曲解したのか、男はなおも続ける。
「あたしを受け入れてよ、ディアナ。ギルバートと一つになろう?」
「確かに風貌はギルバートに似ているやも知れぬ。だが――お主は絶対にギルバートではない!」
齟齬を感じながらも、これ以上聞く耳を持たぬとばかりにDは床を指さした。男の足元に浮かび上がった魔法陣は天井まで光を伸ばし、男を閉じ込める。
「この檻がお主を捕えたのが何よりの証拠!禁呪に染まりし邪悪な魂よ、今こそ滅ぶが良い!!」
「ディアナ!止めて、止めて!許して!あたしをただ受け入れて!貴女になりたかっただけ!ギルバートになりたかっただけなの!!」
頭を掻き毟り、半狂乱になりながら情けを乞う。
「見苦しい!ギルバートには懇願する暇すら与えなかったくせに!『The Virgin Mary's Clenched Fist』!!」
右の壁を指さし、鋭く唱えた。
男の体が短い悲鳴を上げ左に跳ね飛び、光の柵に押しつけられる。
「『The Empress's Elbow Bat』!」
背後の暖炉の上を指さすと、正面斜め下に叩きつけられる。
「『The Goddess's an Iron Hammer』!」
左の壁を指す。
右やや斜め上に押し上げられた。
「『The God's Judgment』!!」
天井を指し示すと、一際大きな魔法陣が発動し、まばゆい光が降り注ぐ。
「最後の審判を受けよ!」
Dの言葉を合図に男の中から抜け出た物が、床の魔法陣に吸いこまれて行った。
「ディ…ア…ナ」
抜け殻の肉体は神の光を浴び、灰色の塩と成り果てた。
役目を終えた魔法陣は、急速に光を失う。と同時にDの体から力が抜け、膝から崩れ落ちそうになるのを慌ててアルバートは抱き止めた。
誤字を訂正いたします。
Dod's→God's
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