たゆたう記憶
間が空いてしまいましたね……
しばらくこんな調子かも知れません。
真っ白な世界。
ここには、前も後ろも上も下も無い。
朦朧とした意識を手繰り寄せれば、自分は雪辱を果たせた代償としてここに居ることに思い至る。
≪私はもう、バートに会うことは叶わないのか≫
呟きは音にならず、体すらないと思い知らされる。
忍び出る苦笑すら空気を震わすことはない。
ただあるのは“己”という意識のみ。
リリーと自分を永劫の檻から解き放てた満足感にゆったりと浸かろうとして、「迎えに来た」と笑顔で現れた姿が痛みを伴って蘇る。
あの瞬間に胸を満たした想いが、見間違いによるものではないとしたら――――
≪違う、違う違う違う、違う違う違う違う……≫
ありもしない頭を振り、手で耳を覆うように心をふさぐ。
≪私のバートはもっと……≫
200年以上昔の、擦り切れた面影を追い求めると、何故か養い子に挿げ替わる。
≪バートの声は……≫
不快にこびり付いた金切声ではなく、誓いを立て引き裂かれる直前まで耳に吹き込まれていた甘やかな声を偲ぼうとして、「D」と嬉しそうに苛立たしげに悲しそうに楽しそうに呼ぶ声が心をくすぐる。
≪バートの温もり…………≫
ありもしない冷や汗を流しながら、足掻き試みる。
皮膚感覚で再生されたのは、幼い小さな体が包み込まれる安らぎの日々。
≪おかしい≫
とろりと溶けかけていた自我が覚醒し始める。
≪バートの髪は茶色く瞳も又、暖かい茶色≫
言い聞かせるように思い浮かべても、夜空のように澄み切った全てを懐に収める黒い瞳がじっとこちらを見詰めてくる。
≪バートは表情豊かで、大型犬みたいで……≫
そこに居るのが当たり前の顔をして生活の一部となった養い子が、スルリと猫のように甘えてきたり甘えさせられたり。
≪おかしい、おかしい、おかしい≫
寝起きのような思考で、必死にもがく。
≪バート、バート、バート。私の……≫
「……バート……」
ふっと目を開けると、泣きそうな顔がこちらに気づいてくしゃりと笑った。
思い浮かべていた全てに包まれているのは、思いの外、悪くない、かも知れない。
≪癪だけど、そういうことにしといてやるかの≫
そうして今度は、器のあるまどろみに身をゆだねた。
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