追話:菓子屋
第11部を修正しようか迷いましたが、追話としてupします。
高齢の女性を揶揄したり、不妊について触れています。
物語上の表現と、ご理解下さい。
アルバートが良く買いに行く菓子屋の喫茶スペースにて。
今日も今日とて、ご婦人方の会話は繰り広げられている。
まるで酒杯を空けるように水を呷り、ガラスのコップを音を立てて置いた赤毛の女性が口火を切った。
「最近、姑のヒスが益々酷くて」
ご近所の女達は目を見合わせて神妙に頷き合い、一際ふくよかな一人が思いつきを口にする。
「例の魔女の薬でも盛ったら?丸くなるんじゃないかい?」
『魔女』と聞いて、赤毛が渋面を作る。
「噂のアレだろ?高くってねえ!」
再び周りが相槌を打っている中、痩せ過ぎな女性が隣に座る女性に話を振った。
「魔女と言えばこの前の、あんたが見たっていう話」
急に話を振られた、濃い茶の癖毛を器用に結い上げた女性は、目を瞬かせる。
「どの話さね」
「ほら、10年ほど前に領主様の馬車が……」
「ああ!あの話、それがどうかしたのかい?」
思い当った癖毛の女性はしかし、怪訝そうに眉をしかめた。それに下卑た笑いを返した痩身の女が声を潜める。
「奥方様に次のお子が出来ていないじゃないか?」
落とされた言葉の威力は絶大で、発言者以外の目が見開かれた。
「言われてみれば……まさか魔女の……?」
ぽつりと呟いたのは誰だったのか。
それに得意気に返したのは、この場の主導権を握る者で。
「あり得ないとは言えないさあ。先日、奉公に上がってる姪のマギーが聞いちまったんだって。領主様が魔女に相談しようって持ちかけたら、奥方様が断固拒否したって話を、さ」
「ああ、それは領主様が無神経だねえ」
衝撃の呪縛を解いた赤毛の女性がしたり顔で頷いていると、横から豊満な女性が話をかっさらっていった。
「うちの旦那もさあ、ちっともわかっちゃいないんだよ」
「うちもだよお」
追随の声が上がり、先程までの禁忌に触れている重苦しさは払拭され、普段通りの愚痴大会に戻ってゆく。
「なんでなんだろうねえ。娘もね、好きで一緒になったんだろうって、聞いてもくれない」
「最近、綺麗になったって評判の?」
「そうなのかい?確かになんだか色気づいて。この前なんか、誰に貰ったんだか小指に指輪なんかしていたよ!」
「ああ、今、若い子たちの間で流行っているんだって?」
「あたしだって亭主から指輪なんか貰ったこと無いのに!」
「今時の子はマメだねえ。あたしらの若い頃なんか……」
ある意味では安息の、ある意味では魔宴とも言うべきご婦人方のサバトは、菓子皿が空になっても話題が尽きることは無く、夕餉の支度時間直前まで延々と続いてゆくのであった。
※注:作中の『例の魔女の薬』とは更年期障害の諸症状を緩和するためのもので、医学が発達していない社会では『更年期』自体が認識されていない為に『怪しい薬』と思われてしまっています。決して毒薬や人格矯正薬ではありません。
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