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麦わらぼうし
今回も短いです。
バランス取るのって難しいですね。
朝食の片付けの合間に、長椅子で食休みをしているDへ声を掛けた。
「D、帽子を玄関に出しておくよ」
「む?ありがとう?」
アルバートに向けられた顔が何とも言えない表情をしている。
「どうしたの?不思議そうな顔をして」
手を拭いながら長椅子に近づいた。
「うむ。今日、畑に出ると言ったかの?」
小首を傾げる仕草は微笑を誘うもので、黒い瞳が柔らかく細まる。
「いや?聞いてないけど。春告げ鳥が鳴いたから、そろそろかと思って」
ここに置いておくね、と言い残してアルバートは家を出た。
残されたDは、窓越しに納屋に入ってゆくアルバートを見ながら独り言ちる。
「あやつは、オカンか?」
ふと胸に過るのはほろ苦い想い。
気遣われている面映ゆさと、今までの寂寥感と、これから訪れるであろう喪失感。
今が心地よければ良い程、恐れや孤独は影を濃くする。
伏せられた睫毛に陰る紅玉の瞳は、現在・過去・未来から目を逸らすように、ゆっくりと閉じられた。
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