87:ちょっぴり悪辣な堕とし方④
ルリと美冬、二人が宙に浮いた映像を通して見守る中、遺跡地下一階にて分断された焰、愛菜、夏樹の3名は他に道筋はないものかと辺りを探索する。
足を踏み入れたことの無い通路はまだ幾つもあって、その内の一つを直感便りに突き進んでいけば、やがて大きなドーム状の玄室へと辿り着くのだった。
「うわ……、この如何にも出そうって感じがまた……」
「何が出そうなの?」
夏樹のぼやきに反応した愛菜。
だが問われた方が何か答えようとして口を開いたときにはもう、考え得る中で最悪の状況が形を伴い顕現していた。
ガシャンッ!
「閉じ込められた!?」
今やって来た廊下と、ドームの最奥に見える通路の入り口が同時に天井から降りてきた鉄製壁によって区切られてしまう。
次に何が起きるのかと見ていると、緩やかにカーブを描いている壁が何カ所もクルンッと半回転して裏側に設置されていた器物を室内へと招き入れたのだ。
出現したのはこれまで接敵した円柱型ではなく手足の付いたロボ。
カニの胴体を思わせる上半身には頭部が無く、脚部は獣の後ろ足のように関節が逆さになっている。
ずんぐりとした輪郭と長大な腕部に据え付けられている見るからに何かを発射しそうな銃口が厳めしい印象を他に与える鉄の塊だった。
『古代の文献にあった通りの物であれば、それらは侵入者を排除するために開発された屋内防衛型のゴーレムよ。型式はRD-361、コードネームは“タイタン”というらしいわ。火力はお掃除ロボットの比じゃないから気をつけて!』
宙に浮かんでいる球体ドローンからルリの緊張した声が放たれる。
お掃除ロボットというのは円柱型を指して呼ばわっているのだろう。
「らしい」とか言ってるワリに、なんで型式まで知ってるのよ。と思わず声に出ちゃいそうな愛菜ちゃん。
しかし聖女様がツッコミ入れるより早く、ドーム中央付近まで進み出た人型よりはカニの甲羅を彷彿させるロボット達が、点灯していた青い光を赤く染めて三人へと腕部の銃口を向けた。
『敵認定された! 攻撃が来るわ!』
レンズ越しに相手の様子を窺っていたルリが鋭く叫ぶ。
敵の数は十台以上あって、それらは全て全長が3メートルを超えていた。
迷宮の規模に対して妙に広いドームは、それらが自由に動き回って標的を破壊し易くするために設計されたものであると察する事が出来た。
ガキョン、プシッ。
ガキョン、プシッ。
独特な歩行音を響かせて近づいて来るタイタンの群。
それらの持ち上げた腕部にくっついていた発射口が突然に光の筋を放つ。
キュオン。
光学熱線の雨が降り注ぐ。
反射的に飛び退いた三人ではあるが、やや初動の遅れた愛菜が片足を焼き切られて石造りの床に倒れ伏した。
「ぐぅぅ?!」
「愛菜っ!」
思わず駆け寄ろうとする夏樹。
焰が二人をカバーしようと単身前へと躍り出る。
ゴーレム達は二足歩行型だった。
それは本来、腰から上に重量物を乗せる機体としてはあまり褒められた仕様ではない。
機動性や砲を発射する際の安定性が損なわれるからだ。
市街地や山間部といった広大なフィールドであれば多脚型の方が余程優れている。
だが二足歩行型はとにかく小回りが利く。限定された空間内にあっては細身の機体の方が何をするにも融通が利くのだ。故に古代技術が失われるより前に建造された建物やダンジョンともなれば、出くわすのは大抵が二足歩行型になる。
焰達が幸運だったのは手合いが全て二足歩行型のゴーレムで、故に発射された光線の命中精度がそれほど高くなかった事であろう。
愛菜は片足を切り落とされてしまったが、それだって狙いを付けられていたのは心臓部分――頭部は標的とするには面積が小さいために、普通は当たりやすくてかつ重要器官が密集している胴体を狙い撃つよう設定されている――であって、敵機が手元を狂わさなければ即死していた。
十数台ものゴーレムが密集からの一斉射撃を行ったのは、そういった命中率の低さを物量でねじ伏せようと目論んだ結果に過ぎない。
「このぉ!」
右腕に深紅のガントレット“サルビア”を装着した焰が勢いに任せて突進、数発のレーザー光線をシールド魔法で弾きながらもどうにか辿り着いた先で豪腕を振り抜けばゴーレムの装甲がベコリと拉げて僅かに爆発を引き起こす。
だが一台が行動不能に陥ったからといってそれがどうしたとばかりに左右に居並ぶゴーレムが腕で薙ぎ払う。
ゴイィン! なんて派手な音と共に吹っ飛ばされたのは体積的に十分の一にも満たない焰の体躯であった。
「がふっ?!」
地面に蹲った少女二人を飛び越えて後方の壁に激突、壁面に半ば埋もれる格好の焰。
足を切断された激痛で今にも意識を失いそうな愛菜。
そんな友人に駆け寄り抱き起こそうとするものの他に打開策を見出せない夏樹。
絶体絶命のピンチだった。
◆ ◆ ◆
「――ルリさん、私と契約して魔法少女にして下さい!」
このままでは姉も、姉の友人もまとめて殺されてしまう。
そんなので元の世界に戻れたとしても気まずいだけだし、何よりこれから旅を続けていける気がしない。
だから、と美冬は席から立ち上がり自らの決意を声に出す。
「ええ、分かったわ」
重々しく頷いたルリが自分も椅子から腰を上げてまだ幼さの抜けきらない少女の前に立った。
「では、貴女と契約を結びましょう」
――貴女の魂を我が内へ。永遠の祝福と呪いを虚ろなる器の中に。
キィィィ……ン。キュバッ!
大樹の家の中で光が溢れ爆発する。
書き換えられていく体と心。
美冬の身に付けていた衣服が光の粒子となって淡く消え失せ、取って代わるように纏わり付くのは戦いの衣。
スラリと伸びた生足は黒いストッキングに覆われ、或いは可愛らしさを強調したセーラー服らしき衣服が華奢な肢体を包み込んだかと思えばその細腕に、その首元に、その腰にと白銀色の金具が装着されていく。
長い黒髪が黄金色に染まり僅かな光を放つ様は、もはや元の一ノ瀬美冬とは別の存在になった事を指し示していた。
光の奔流が収束し失われた時、同じ場所に立っていた少女はゆっくりと瞼を開ける。
自分の出で立ちを見下ろして、次に自分の掌をジッと眺める。
「契約は完了したわ。美冬ちゃん、たった今から貴女は魔法少女。属性は“光”かしらね」
「うん、自分でも分かります。何でも出来そうな気がする」
「座標を渡すわ。今の貴女ならどうやれば飛べるかも分かる筈」
「はい」
黄金色の艶髪にそっと手を乗せ、愛おしげに撫でるルリ。
心地よさそうに眼を細めた美冬は離れていく手を物欲しげな目で見送った後、気持ちを切り替えたように凜々しさを露わにした。
「ルリさん、行ってきます!」
「ええ、頑張んなさい」
軽い調子で手を振る瑠璃色髪娘に、僅かながら頭を下げた美冬。
その輪郭に光が灯ったかと思えば次の瞬間にはもう弾け飛び散った粒子と共に消失していた。
「……計画通り」
ニヤリと、極悪人そのものといった顔で誰も居なくなった空間を見つめて呟くルリの形相など知る由も無く、光の魔法少女と化した美冬はこうして最前線へと転移するのだった。
注)この物語の主人公はルリさんです。間違えないようにw




