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85:ちょっぴり悪辣な堕とし方②


 新たに発見された古代遺跡へと踏み入ったのは勇敢なる五人の戦士達。

 隊列は前衛に義晴とルアフ、中衛が雨宮(あいな)と一ノ瀬(なつき)、最後尾(しんがり)に焰(ほむら)といった順番だ。

 ルリから渡された監視ユニットは現代の地球で使用されているようなフィンを回転させて舞う、言わば小さなヘリコプターと形容されるような代物ではなく、白い金属製ボールの真ん中にレンズがくっついているだけというシンプルな見た目で、しかし宙に浮いているところを見るに地球の物よりも遙かに進んだテクノロジーが使用されているらしい。

 『こちらルリで~す。ちゃんと見えてるわよ~♪』なんて音声が球体から出ていた。

 便乗した美冬ちゃんが『お姉ちゃん見てる~?』などとクッキーの咀嚼音と共に曰えば、現場にいる夏樹がクルッと振り返って一言「うっさい!」と怒鳴るとかいう微笑ましい場面を挟みつつ、こうして五人は内部へと侵入したものである。


「なんかこういうのってドキドキするよな」


「義晴君こういうの好きそうだもんね」


「むかしテレビでやってた探検物とか、毎回見てたな」


「あ、あたしそれ知ってる!」


 などなど息抜きがてらの雑談に興じてみたり。

 ルアフと焰は話題についていけなくてちょいと不満顔だったり。


 入場門(ゲート)をくぐり抜けてから一本道の廊下が20メートルばかり。

 その先に地下階層に向かう階段があって、五人は警戒を絶やさず慎重に降りてゆく。

 地下一階。

 地上階と同様に巨大な石材を切り出して積み上げた様な壁面と同様の床天井を注意深く観察しながら進む。

 地下は迷路になっていて、あちらこちらに分岐や行き止まりがあった。

 壁面の石材には大雑把ながら幾何学模様らしき筋が彫り込まれているが床と天井は真っ平らになっている。

 照明などは見当たらないが、どこからか光を取り込んでいるようで視界はちょっと薄暗さを感じる程度には明るかった。


「何か来る……! みんな気をつけて!」


 通路の奥から聞こえてくる駆動音にいち早く勘付いたルアフが鋭く叫ぶ。

 面々は臨戦態勢。義晴は腰の剣を抜き、後ろの二人は術式を展開する。


「私がバフを掛けます!」


 愛菜が言ってすぐに神聖魔法を発動させた。


「猛々しき武の女神ヴィアチェよ、拙(つたな)くも儚き我ら人の子にその偉大なる加護を与え給え」


 ――《膂力増強(ストレングス)》。


 魔法の発動に伴って五人の輪郭に紅い光が灯る。

 神への祈りによって引き起こされる奇跡の御技は、魔法のバフと違って同時に複数の効果が発現する。

 膂力の増強は単に筋力が上がるだけでなく、俊敏性や器用さも程度の差こそあれ上がるのだ。


「よし、いくぞ!」


 敵の前衛が見えてきたところで義晴が叫んで飛び出す。

 ルアフも遅れまいと倣って駆け出す。

 敵の形は、子供の腰くらいまで背丈がある円柱形の機械だった。


 最も的確な表現をするのであれば、スーパーの店舗内を巡回しているお掃除ロボット。大型ルンバといった趣で、しかし円柱の上端カバーがパカリと開いて銃のような器物が迫り出してくるのを見た限り掃除とは無縁の機械であると察する事が出来た。

 銃の先端部分はそこから上下に割れて、内側で紫電が灯ったかと思えば標的に向けて射出された。


「くっ! ビーム光線かよ!?」


 苦々しげに吐き捨てながら慌てて身を捩(よじ)って光線を躱す義晴。

 ルアフは青年の前に躍り出ると「折角だから面白い技(もの)を見せてあげよう」と告げる。


 薄緑色髪の忍者少女が次から次へと駆けつけてくる大型ルンバの群を眼前に拝しながら立ち止まると両手を胸の前に突き出し重ね合わせる。


 ――《手裏拳(しゅりけん)》。


 重ね合わせた両手にて斬り払うように左右へと広げた。

 次の瞬間に円柱型兵器の数台が「しゃこんっ」なんて小気味良い音と共に上下に分断され、爆発炎上する。


「地味だけど使い勝手の良い術(わざ)よ。コツさえ掴めば君でも使えるようになるわ」


 したり顔で曰うルアフ師匠。

 剣を手に義晴は「押忍」とだけ答えて、自分の前までやって来た敵へと意識を集中させる。


「怒羅(どら)ぁっ!」


 ズンッ、と派手な音と共に拉げた円柱形の外殻。

 振り抜いた腕に痺れと確かな手応えを感じつつの義晴は、攻撃を食らった一台が前に吹っ飛ばされて後続の数台と激突するのを目で追い仄かな煙を上げて動かなくなるのを確認していた。


 初戦を勝利で飾った面々はそこから二度三度と遭遇戦を繰り返した。

 敵の砲台付き円柱型機械は散発的に出現して、しかしその度毎にスクラップへと変えられていく。

 迷路はどこまでも薄暗い。

 もう少しだけ進んだ所で一度休憩を挟もうと提案した義晴。

 全員とも異論は無い様子だった。


「また来るよっ!」


 長い一本道の廊下を中程まで進んだ辺りでルアフが鋭く告げる。

 そろそろ慣れてきた一同は素早く臨戦態勢を執った。


「まずい、挟撃だ!」


 ここで最後尾、殿(しんがり)を務める焰が声に出した。

 咄嗟に顧みるに、既に背を向けて身構えている焰の向こうに三台の円柱型ロボットが見える。


「ちっ!?」


 思わず舌打ちする義晴。

 だからといって自分の前からも同じ輪郭が迫ってきている状況で駆けつけるなんて出来やしない。


「とにかく前から来る敵を倒してからだ。それまで持ちこたえてくれ!」


「分かった!」


 声だけで指示を飛ばしておいて義晴は前面の敵を迎え撃つ。

 前方の敵は五台。その奥から更に数台、後続がやって来るのを見つける。


「ルアフ、速攻でいくぞ!」


「はいよっ」


 隣り合う薄緑色髪と頷き合うと青年は剣を両手に持ち直して駆け出す。

 だが、ピンチはこれで終わらなかった。


 ズゴゴゴ……ズズンッ!


「なにぃ?!」


 背後にて響いた物音に顧みたときには、もう全てが手遅れ。

 天井から降りてきた壁がパーティを分断したのだ。


「ヨシハル! 集中しろ!」


「あ、ああ、分かった!」


 ルアフの厳しい声に我に返ると再び突進、手前に居た円柱型ロボめがけて脳天を割る勢いで剣を振り下ろし動作不能にする。

 雨宮愛菜と一ノ瀬夏樹は魔法職、つまり防御力で見れば紙装甲に等しい。

 対して相手は上端に据え付けられた砲塔からビーム光線を吐き出すロボ。

 一発でも攻撃を受ければ良くて重傷、悪けりゃ即死だ。

 幸いにも最後尾(しんがり)の焰は肉弾戦が得意な人間なので、もう彼女の奮戦に期待するしか無い。

 そうはいっても接近戦というのは一人でやるのと複数名で行うのとでは全く意味合いが違う事も、今の義晴には理解できた。


「何とか凌いでくれっ……!」


 祈るような気持ちで再び剣を振り下ろす義晴。

 そんな青年の横顔にルアフが僅かながら笑みを漏らしていたが、当の本人はこれっぽっちも気付かなかった。



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