67:焰とパティッシュ
「――ふぅ~ん、なるほどねぇ」
シーラント樹海の奥まった地域。
一際巨大な樹木の根っこの辺りを加工して作った我が家の地下室で、私は呟きを漏らしていた。
水の魔法少女ユウキちゃんの五感を共有している私にしてみればアルベティア公国の城内で行われた話だって、もちろん筒抜けで。
彼らがユウキちゃんを聖女として宣伝、民衆の支持を集めておいての指揮官抜擢。
確かにそれをされると私としても動きにくい。
まあ、最初から自分から打って出るといった考えなんて欠片ほども持ち合わせていないのだけれどね。
あとついでに物言えば公国の首都リガーデンを住民ごと焼き払うことに何の躊躇いも無い。
必要だと感じたら速やかに超強力な破壊魔法をぶっ放すし、ペンペン草も生えない焼け野原になったところでだからどうしたって話でしかない。
私は平穏なるスローライフを望んでいる。
それは今も以前と変わりない。
邪魔する者は人間であろうと無かろうと、神であろうと悪魔であろうと関係無く容赦無くぶっちめる。
それが全てなのだ。
ただ、私はデバイスという玩具を作っていて、玩具というのは手に入れたら使ってみたくなるってのが人情ってもんで。
なので使用する機会は作ってあげよう。
などと、ちょっぴり愉悦に唇を歪ませてみたり。
何処かの国に攻め入る必要なんて無い。
向こうからやって来るのが確定事項だから、こんな余裕綽々な気分で量産型デバイス“ビオラ改”をせっせと拵えていられるのですことよ。
今、私の背後には30機もの“ビオラ改”が運搬用に作った枠に刺さっている。
実地試験を繰り返して改良を重ねた結果、初期型と比べるにかなり様変わりしていた。
それもこれもレミーちゃんが酷使してくれたおかげだ。
当のレミーちゃんが持っていた試作機は運用試験を着々とこなし、原型を留めているのがフレームだけといった状態まで手を加えたところで負荷に耐えきれず修復不能なレベルで壊れた。
そこで今度はフレームも刷新して後継機とするのが良かろうと、量産機の製造と平行して図面を引いている真っ最中なのさ。
内部のシステムに関してはちょこちょこと仕様を変えているし、コードネームだって既に決まっている。
レミー専用魔法杖、MW-04“スターチス”。
花言葉は「変わらぬ心」、「途切れぬ記憶」。
因みに私が作ったデバイスの名前は全て花から取っている。
MW-01、エリンジュームは「秘めた愛」「秘密の恋」「光を求める」「独立」。←ユウキちゃんに預けている機体。
MW-02、ダリアは「華麗」「優雅」「気品」「優美」。←私が今使ってる現行機。
MW-03、ビオラ改は「誠実」「信頼」「もの想い」「私を想って」。←正式な量産機。
あとどうでも良い話をするならビオラの初期型は型番をMW-03βとしている。
だって紛らわしいでしょ?
そういや冒険者のリンディちゃんに預けている“ビオラ(初期型)”はこちらに送られてくる使用ログを見た限りだとレミーのとはまた違った派生機になりそうな感じだ。
なので早く来てくれないかとちょいと期待していたり。
実機を直接見ないことにはどの部分に負荷が掛かっているか分からないじゃない。
「お師匠様、お客様です」
そんなこんな、物思いに耽っていると上から弟子の声。
私は思考を中断させると杖を手に地下室を後にするのだった。
――樹海の奥地となる我が邸宅を訪れたのは、私が生みだし眷属とした娘たちだった。
「来ちゃいました♡」
「……」(ぺこり)
「いや良いけど……、そういう台詞はもっと別の場面で使いなさいね」
訪れたのは鋼の魔法少女、パティッシュ。くすんだ灰色の髪を三つ編みにした子で、体型は肉付きが良い。着る服によっては太ましく見えてしまうと言えば分かるだろうか。
その後ろに無言で付き従っているのは焰。紅色の長い髪をストレートに降ろしている子で背が高くシュッとした輪郭になる娘さん。纏っている雰囲気も顔の造りも気性の激しさを窺わせる見た目となっており背格好のせいで少女というよりは女性って感じになっている。
どちらも美少女の括りに入る顔かたちではあれど、方向性がやや違っていて二人並んで立っていればそれぞれの個性が際立ってくると、そんな感じだった。
「お姉様、私たちをお側に置いて下さい」
焰ちゃんがやや深めの礼をして要求を述べる。
パティッシュも考えは同じようでうんうんと頷いている。
「まあ、構いはしないけれど、見ての通り森の中の一軒家だからね。娯楽は無いし贅沢できるほどのお金も無いわよ?」
「もちろん理解しています」
思い留まるよう言葉に出したところ食い気味に即答されてしまった。
「どちらにせよ私たちにはお金を稼ぐ手段も無ければ知恵も無い。でしたらお姉様の家で厄介になった方が効率的と判断しました」
焰が悪びれた様子もなく曰いやがる。
創造主を都合良く利用しようだなんてふてえ女だ。
でもこのくらいスパッと物を言われると怒りも湧いてこない不思議。
私は溜息一つをくれてやると家の中へと招き入れるのだった。
生憎とウチは手狭で四人で暮らせるほどの物理的な余裕が無い。
そこで家の横に生えている木を魔法で加工。二軒目の家を作ってあげた。
「ありがとう御座います、お姉様」
新築一戸建ての住まいに踏み入って、何にもない円形の空間を見回して焰が礼を述べる。
私としては資材も使っていなければ時間だって五分か十分ほどの工程でしかないから別に構わないのだけれども、家具とか調度品に関しては自分でどうにかしろと言い含めておいた。
「ああ、それから。折角だからあなた達の専用機も作ってあげるわ」
「重ね重ね感謝します」
「期待してま~す!」
二人を家具の無い真っ平らな空間に残して立ち去るといった頃合いでふと思いついた事を言う。
すると焰が丁寧に頭を下げる。
というか丁寧ではあるんだけど感情がイマイチ読みづらいのよねえ。
もう一方のパティッシュは逆に終始軽い調子なので感情が籠もってないようにしか思われない。
何て言うか飲み会やってる大学生が「うぇ~い」とか言ってるような、そんな感じ。
ちょいとイラッとするのは否めない。
パティッシュってヘブライ語で金槌を意味する言葉で、だからもっとこう重々しい雰囲気であるべきなんだけど、何をどう間違ったのか。
家に戻って椅子にぐて~っと座り込む。
何故だかめっちゃ疲れたよ。
甲斐甲斐しいお弟子ちゃんがハーブティーを淹れてくれたけれど、もう今日は何もしたくねーって感じになった私である。
――翌日も、そのまた翌日も朝起きてから夜遅くまでデバイス開発に明け暮れた私。
量産機は必要数がだいたい揃ったから手を止めて、新型機の設計&製造に取り掛かる。
そこから更に丸一昼夜を要してレミーちゃんの専用機となる“スターチス”が完成。
この翌日ともなると、エリンジュームをベースにした新型機さえもがロールアウトした。
「と言うわけで、焰にはガントレット型のデバイス“サルビア”。パティーには金槌型の“ナスタチウム”を進呈しよう」
「わ~パチパチ~」
パティー(パティッシュは名前負けしてるからお前なんてパティーで充分だと言ってからその呼び方になった)が手を叩いて喜びを表現する。……軽すぎてホントに喜んでいるのか分からない。
もう一方の焰は「感謝の念に絶えません、姉上」と直角90度に頭を下げる。重いってば。
二人に渡したデバイスは最初に私が使っていたエリンジュームをベースとしながら色々と変更や追加を施したワンオフだった。
焰が右腕に装着した赤いガントレットはMW-05“サルビア”といい、魔法杖ではあっても近接戦闘に特化した仕様になっている。
サルビアの花言葉は「知恵」「尊敬」「家族愛」。
焰の雰囲気にぴったりな銘柄だと後になっても思う。
また、パティーに渡した金槌型はMW-06“ナスタチウム”。
戦槌としても使えるけど本領は金属錬成などの鍛冶仕事。
剣とか鎧とか盾とか、そういうのを造るときにこそ真価を発揮する機体となる。
花言葉は「愛国心」「勝利」「困難に打ち克つ」、だったかな?
「さてと、あなた達のデバイスも準備できた事だし、次は運用試験だね。どこか良さげな狩り場はある?」
一段落ついたからと問い掛けると焰ちゃんが自信ありげに頷いた。
今は髪を後頭部で括ってポニーテールにしてるけどめっちゃ可愛い。
「この地点から南東、樹海の最深部付近にダンジョンを見つけています」
ここ数日間で彼女らの家の中にはベッドと椅子とテーブルそれから簡素ながらクローゼットが増えていて、それはつまり私がデバイスを造っている間に二人で手分けして森を探索、材料を拾い集めていたって事である。
そのおかげか新顔の二人としても樹海の歩き方が分かっている風で、だから安心して案内を任せる事ができるのよ。
「じゃあ明日の朝に出発しましょう。それまでに大雑把にでも扱えるようにしておきなさいね」
「心得ました、姉上」
「は~い」
というか一々重いよ焰ちゃん。お前は武家の娘なのか?!
なんてツッコミ入れたかったけれど、根っからの生真面目娘である彼女にそのまま言っちゃうと落ち込んでしまいそうだったのでグッと胸の奥に押し止めたものである。




