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61:魔物狩り②


 結局、あの夢にどういった意味合いがあったのか全くこれっぽっちも理解できないままベッドから起き出して、寝汗を掻いたからとお風呂でリラックスしていれば夢を見ていたことすら忘れていて、朝食をお腹に詰め込んだ頃合いともなれば元気いっぱいる気十二分な私である。


「さ、一狩り行こうじゃあないか」


 自慢の魔法杖ダリアで地面を突けば、応える様に排気ノズルからボッと火が吐き出される。

 

 ――《広域索敵ワイドレンジサーチ》、展開。


 すると樹海全体を覆い尽くす勢いで探知魔法が広がり、ほぼ全ての生命反応及び魔力反応を補足する。

 だがここで攻撃魔法を発動させてしまうと、無害な野生動物やら討伐依頼を受けて森に入っている冒険者達、もしくは近所にある農村の子供が迷い込んでいたとしても一緒くたに即死させてしまうので、条件を追加して標的を絞り込んでいく。

 すると最終的に残ったのは魔物に違いなかろう大小合わせて二千ほどの反応だった。


「思い知るが良い! 私の庭を土足で踏み荒らす事の愚かさを!」


 悪役そのものといった台詞を声高に叫ぶと手を天に向けてかざした。

 その遙か頭上に巨大な、それこそ森の果てから果てまでを飲み込むほどの超巨大な魔術回路が浮かび上がる。


 ――《広域誘導殲滅粒子砲ホーミング・レーザー》っっ!!!


 瞬間、無数の光の糸が魔術回路まほうじんから直下に向けて撃ち放たれて、樹海のそこかしこで爆発と轟音そして断末魔の悲鳴が轟き渡る。


 十秒程の見ようによっては神秘的な光景が終わった時にはもう、私の視界に映り込む索敵ウィンドウに居残っている赤い点は数える程まで減っていた。


「あとは討ち漏らしを総ざらいするだけね」


 得意げに瑠璃色の髪を掻き上げる私。

 斜め後ろで傍観していたお弟子ちゃんが何やら呟きを漏らしている。


「ええ、ええ、世の中には血の滲むような努力が全くの無駄だったと思える様なとんでもねー怪物が存在するって事は薄々察してはいたんですよ。でも目の前でこうもまざまざと見せつけられちゃうと驚きとか悔しさとかを通り越して何にも感じなくなるものだなって事が良く分かりましたよ」


 その怪物に弟子入り志願したのは他ならぬキミなのだよ?

 ハイライトの消えた目をしている栗色髪幼女にニッコリと笑みを手向ける。

 これが君が目指すべき頂上であると示したのだし、一生道を踏み外したり迷ったりしなくて済むよ。良かったね、なんてバチーンとウィンクまで進呈した。

 うむ、私は今最高にお師匠様をしてるぜ!


「ほら、いつまでもしょぼくれた顔してないで、飛んで行って一匹残らず魔物を駆除するわよ!」


「はぁ~い……」


 テンションだだ下がりのお弟子ちゃんを引き連れて、空へと踊り出した私はサーチ&デストロイを言葉通りの意味で遂行し続けるのだった。



 ――そんなこんなで夕暮れ時。

 樹海に潜む魔物をあらかた始末した頃合いで不意に探知に引っ掛かる物があった。


「……?」


 それは奇妙な表示だった。

 索敵魔法レーダーのウィンドウ内に突如として出現した赤いマーカーは魔力反応を捕捉したことを表しているし、確かに魔物が自然発生ポップした時などにはその様な表示の仕方になる。


 だが、一回に出てくるマーカーは自然発生の場合は一つきりで、個体差はあるけど次の発生までに結構な時間を要する筈。


 自然発生する魔物のメカニズムは、ある程度の範囲を起点として邪気が集積し魔種となる。

 魔種は時間経過や、野生動物に取り憑いたり、逆に動物の体内に取り込まれる事で受肉して魔物化する。

 自然発生した魔物は、他の魔物を喰らったり、もしくは長い時間を生き延びる事で体内に魔核を生成する。

 練り込まれ圧縮された魔力が限りなく固体に近づいて行くのと原理は一緒。

 魔物の場合は自分の体内で魔力を固めているに過ぎない。

 同じ事は人間でもできるが、よほど強い怨念でも抱いていない限り体内で練り固められる前に発散してしまう。24時間年中無休で怒りや憎しみの情念を燃やし続けられる人間なんてそうは居ないのだから。


 体内に魔核を生成する事に成功した魔物は上位個体になる。

 その種の中でも頭一つ抜けて強力な魔物だ。

 まあ、そこは今は捨て置こう。


 問題なのは、魔物が自然発生した場合、その周囲に漂う邪気は寄り集まるのだから当然ながらこの付近は空白地帯になる。

 邪気の存在しない場所では魔種はできない。だから必然的に魔物は生まれないって話になる。

 つまり魔物が無条件に連続でボコボコ出現するなどは相当に希有な現象と言えた。


 なのにレーダーを注視した限り、数分に一度の割合で魔力が発生している。

 一昼夜も続けば結構な数になるだろう。

 『そういう土地柄』というのは確かに存在する。

 数分に一匹のペースで強力な魔物の出現するような、呪われた大地。

 それは邪神の加護を与えられた空間であったりとか、物凄く稀なケースとして確かに存在はしている。

 ただ、そう言った場所は一般に“魔境”と呼ばれており、人間が滅多に足を踏み入れる事の無い瘴気に充ち満ちた場所となっているのが定石だった。


 シーラント樹海は、そりゃあ魔物も掃いて捨てるほど居るけれど、野生動物も多数棲息しているし何より冒険者達が分け入っても帰ってこられる程度には安全な地域である。

 そんな場所で起きる魔物の自然発生が素人目に見て分かるほど頻繁であるワケがない。


 だからおかしいと。不自然であると私は判断したのだ。

 最初気付かなかったのは魔物の個体数がそれなりに多かったために異常が隠れてしまっていたから。

 けれど大部分の魔物を駆除した後ともなれば、その異常さが浮き彫りになっていた。


「レミーちゃん、気になる所を見つけたから私ちょっと行ってくるわね」


「え、お師匠様、私も――」


「それはお勧めできないわね。何よりあなたの魔力はそんなに残っていないでしょ?」


「それは、まあ、そうなのですけれど……」


「なので先に家に帰って待っていなさい。夕飯も作っておいて貰えると助かるわ」


「分かりました」


 空の上で弟子と言葉を交わす。

 家は本拠地として設定しているのでデバイスに標準搭載されているマップ機能を使えば迷うことも無かろう。

 遣り取りを終えた私たちはそれぞれ別の方向へと舵を切り一直線に飛んでいく。


 この前戦ったシルバーウルフの上位個体、シュバルツなどと名付けられた魔物の姿が脳裏を過ぎる。

 奴は倒した瞬間に死体が消滅、魔石だけが残される形になった。

 魔石は魔力を含んだ天然石で、だから自然現象としては魔物の体内で生成されることがない。

 魔石だけが残るという現象は、そいつが魔種と魔石を掛け合わせて作成された人工的な魔物であるという事を示唆している。


 つまり樹海に潜む何者かが今この瞬間にも魔物達を量産していると、そう考えるのが妥当な線と言えた。


(……ここまで舐めた真似しくさった以上は、ただで死ねると思うなよ?)


 などとマフィアの抗争かよってくらい物騒なことを考えつつ、唇をへの字に曲げたまんま、最速最短一直線に目的地を目指す。


 時速300キロを超えるスピードで飛べばレーダー内にて蠢く赤い点はみるみる近づいて来て、5分と掛からず眼下にその光景を捉える事となった。


 暗視の魔法を発動させれば全体像がくっきりバッチリ見て取れる。

 魔物達の発生は、石造りの建物を起点としていた。

 遺跡……異世界ちきゅうで例えるなら、マヤ文明にあるようなピラミッドに似た建物をスケールダウンさせて全高が森の木々より低くなるよう設計したような、そんな感じの建物だ。

 意識を集中させることで鮮明に見えるようになったけれど、意識から外すと途端に視界からも失われる。

 認識阻害と光学迷彩の魔法が建物の周囲を覆う格好で展開されているらしい。

 もう一度意識を向ける。

 すると建物の一階部分に開いた出入り口から数分おきに一体、また一体と人型をした、そのくせ明らかに人間とは違う見てくれの生き物が這い出していた。


「ここが製造工場ってワケね」


 例えば“シュバルツ”がシルバーウルフを大きくしたような造形だったのは、素体がそれだったから。

 だったら人間もしくは亜人をベースにすれば、当たり前だけど人型の魔物になる。

 こういった物は目に見えている不気味さよりも本質から考えた方がその正体を看破しやすい。


「ふむ、じゃあ全部を倒して……、いや待てよ?」


 超絶大火力の破壊魔法を行使しようと思って思い留まる。

 地表の上で蠢く魔物達その全てを殲滅しようと考えた場合、周囲の木々も巻き添えにして焼き尽くすような、地獄の底に繋がってるんじゃねーかってくらい深い穴を掘る勢いで熱線を撃ち込むことになるわけだけど。


 そこまでする意味ってあるか?


 いや、だってホラ。この樹海は私が自分の庭にするって事で当国の国王と遣り取りするわけじゃん。

 これから我が物にしようかって土地をそんなツマンネー事で傷つけるのは勿体なくないか?


 それをやるなら、もっと別の方法で、眼下で蠢いている人造魔物を根こそぎ奪い取った方が他に色々と使い道もあるだろうしお得じゃあないだろうか。


「ふむ」


 考えた末に私は念話を発動させた。


「ああ、バアル君? 悪いんだけど、ちょっと私の居る場所まで来てくれないかな?」


 電話一本で友人を呼びつけるくらいの気安さで、蝿の王様を呼びつける。

 呼ばれた側は、一分と経たない間に出現した。

 私の現在地を常に捕捉していれば転移魔法で即参上する事だって容易かろうよ。


『お呼びでしょうか。偉大にして至高なる御方』


「ええ、呼んだわ。一つ仕事を頼まれてちょうだい」


くも麗しき天上の乙女よ。貴女様のご命令とあらば、如何なるお言葉とて喜んで遂行いたしましょうぞ』


 あくまで慇懃に受け答えする巨大蝿。

 私は思わずニンマリと笑んでいた。


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