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57:客人たち③


 ――昼食を終えてお腹が程良くこなれた頃合い。

 私は弟子のレミーちゃん、マスコットオコジョのバンドウ君だけでなく10名の訪問客らをも引き連れて家から五分ほど離れた場所までやって来た。

 森の中にあって広場と呼べるほどでも無いけど全員が並んでも大丈夫な程度に木々の間隙が開けている場所で、将来的には周囲の樹木を切り倒してもうちょっと開けた空間にするつもりではあったけど、まあそこは割愛するとして。

 人々が見守る中、私は鋼の装甲に覆われゴツゴツとした印象が先に立つ魔法杖を両手に抱え込んで進み出るレミーの後ろで声を出した。


「これより汎用型魔法杖(デバイス)、MW-03、機体名“ビオラ”の性能開示試験を始めます。被験者デバイサーはレミーちゃん。記録者名はこの私ルリ。……レミーちゃん、準備は良い?」


「はい、お師匠様」


 声を掛ければ、まだ幾分か緊張を残しつつもしっかりとした音色で頷くお弟子ちゃん。

 何というか、小学校低学年の娘を持つ親が授業参観に来たみたいな雰囲気ね。とは私のごく個人的な感想だ。


 気持ちを切り替えて私は背後で突っ立っている面々を振り返った。


「皆様、これからお見せするのは魔法の杖、私は“機材”を意味する“デバイス”という言葉を使っていますが、その性能や意味をお見せしようと思います」


 一度言葉を句切ってレミーの持つ鉄塊杖を指差した。


「あちらに見える少女は弟子のレミーですが、彼女は弟子としながらも魔法使いとしての勉強は殆どしていません。ただし今日に至るまでの数週間、魔力量を増強するための瞑想ばかりを実施しており、ですので魔力だけは一般的な魔法使いとそれほど変わらない状態です」


 全員の顔を見渡し、彼女がまだ素人の域を出てないことを述べておく。


「私が作成し彼女に与えた魔法杖デバイス“ビオラ”は生体認証により所有者を判別するだけでなく、その魔力を増幅し効率的に運用するためのシステムを搭載しています。魔力増幅率は2倍から5倍。世間一般に出回っている魔法の杖が2割増し3割増しな事を考えれば比較するのも馬鹿馬鹿しい程の高水準となります」


 魔力に関する説明は、判る人にしか分からない話だった。

 それでも言葉に出しておくのは、アレク君が作成する報告書は城に帰ったところで必ず宮廷魔術師達が目を通すことになるから。

 魔力の性質や使い方を熟知している人間であれば、今の説明がどれだけ異常で革新的な内容かすぐに理解できる。

 私が行っているのは性能開示試験、商材のプロモーションなので、むしろバンバン説明しなきゃいけないのだ。


魔法杖デバイスの有用性を説明するならば、要約するなら魔法に関してズブの素人であっても魔力さえ保有していれば上級魔法使いと同等の結果が出せるということ。この一点に尽きます。どういう事かと言えば、魔法には冗長な呪句詠唱が付きものですけれど、これをデータとして記憶させておくことで、必要量の魔力を流すだけで魔法を発動させる事が可能。更に同時に幾つもの魔法を展開させてそれぞれを即時的に調整する事ができます。結果どういった事が行われるようになるのかを今からお見せ致しましょう。――レミーちゃん、お願い」


「はい」


 私の声に反応してお弟子ちゃんが魔法を発動させる。

 《飛翔フライ》だ。

 ふわりと宙に浮いたレミーは、木々の背丈よりも高いところまで上昇すると、ボンッと衝撃波が出る勢いで空を駆ける。

 周囲をクルッと一回りしてから降りてきて、地上に靴裏が付くギリギリの所で制止する。


「飛行する魔法というのは、厳密には複数個の魔法を掛け合わせた物になります。宙に浮く魔法の他に直進移動するものや外気圧に耐えるための防御系魔法、必要であれば窒息しないよう酸素を供給する魔法と。だから自由自在に空を飛べる魔法使いは指で数える程しか現れなかった。しかし同時に複数個の魔法を発動させる“デバイス”という道具を使用することで、それが誰にでも行えるようになります」


 それから私は自分が手にしている魔法杖ダリアの柄で地面を軽く突いた。

 すると視界の一番奥にある木の手前に人型を模した的が三つ地面から迫り上がってくる。


「そして空を自由に飛べると言うことは、宙に浮いた状態から更に攻撃のための魔法を発動させられるという事でもあります」


 顧みてレミーと目で通じ合う(アイコンタクト)

 まだホバリング状態だったレミーはそこから二メートルほど上昇すると《火炎球ファイアボール》の魔法を発動させた。


 バァァンッ! と周囲に轟く爆破音と共に三つの標的が粉々に砕ける。

 それを見て見物客たちの表情が一様に驚愕の色を帯びた。


「あんな事が誰でも出来るようになるのか?!」

「恐ろしい道具だ……!」

「これは……戦争のやり方が変わるぞ」


 うんうん、良い感じに驚いてくれている。

 説明の合間に実際の効力をまざまざ見せつけることで強烈な印象を脳に擦り込むことが出来る。

 今のところプロモーションとしては満点だ。


「そして重要な事は、彼女が使用しているデバイスが汎用型、つまり量産を前提として作られた物であるということ。実はもう一機あります」


 言ってから何も無い空中に魔法杖ビオラを新たに出現させ、赤髪王子アレクに差し出す。


「こちらは王様に提出する試供品という事で貴方に進呈致しましょう」


「そんな簡単に……、複製されるとは思わないのか?」


「王国内の技術でそれが可能であるならどうぞご自由に。そもそも、この機体にはまだ改良の余地が山ほどありますので、そっくりに複製したところでその頃にはもっと実用的な機体が作られているでしょうね」


 これはあくまで試作品、言うなれば概念実証機でしかないと言い含めておく。

 まあ、その試作物でさえ、王宮でふんぞり返っている魔術師の方々に理解できるかどうか怪しいものだけど。


 手渡すと彼は思っていた以上に重量があった為か「うぉ?!」と声をあげ取り落としそうになる。


「重いな。大剣並みだぞ」


「所有者が手にした瞬間に軽量化の魔法が発動するよう設計してますので体感的にはこの半分以下の重さになります」


「なるほど、それなら理解できる」


 納得の面持ちで、落としてしまわないようしっかりと両手で保持する王子様。

 見物客達の中で同型を授与されているリンディちゃんは「わ~」と顔を綻ばせっぱなし。

 ビオラは全部で三機作っている。

 まあ、言うなれば実戦データを収集するための物なので、そんな大量に作る考えは最初から無かった。


 一つは弟子レミーが酷使する。

 私自らがその場その場で改良していくからみるみる実用性が向上していくに違いない。


 もう一つは冒険者リンディが様々な状況に即した使い方を試みるだろう。

 ここから得られるデータは貴重だ。定期的にウチに足を運んで貰ってその度にアップグレードしていく予定。


 そして最後の一つは宮廷魔術師達がおっかなびっくりに使用し解析を試みる筈だった。またそうでなくては困る。道具というのは使い倒してナンボであるからだ。


「この汎用型で得られた情報を元に次世代機が設計されるので、思う存分にぶん回しちゃって下さいと使用者にお伝え下さいな」


 悪戯っぽく微笑んで告げると王子様は顔を赤らめて頷いたもの。

 うん、純情な青年をからかうのは面白いと内心でご満悦の私である。


「ではこれで性能開示試験を終了します。何かご質問は?」


 面々の顔を見回してプロモーションを終えようとしたところアレク君がおずおず手を挙げた。


「彼女が持っている杖、デバイスといったか? 君が持っているのと形が違うように思うのだが」


 彼の視線が私の杖を捉えている。

 私は柔らかい口調で答えた。


「ああ、これは私が自分で使う為に作ったデバイス、“ダリア”という機体です。あくまで専用機として設計してますので私以外には扱えない代物です。試しに持ってみますか?」


 言いながら自分の杖を差し出してみる。

 彼が杖を握ったところで指を離すと一気に下へと落ちた。


「おごっ?! なんだこの重さ……!!」


「重量はビオラの三倍ほどになります。性能は十倍超といったところかしらね? 並の魔法使いだと手にしてるだけで魔力が枯渇しますので他人には触れさせることもできないわ」


 言ってから重さに耐えるだけで身動き出来なくなっている青年から杖を取り上げる。

 鋼の装甲と排気ノズルから噴出する火が雄々しさ猛々しさを演出する杖を片手で軽々と持ち上げている私を、彼は信じられないとでも言いたげな面持ちで見つめていた。


「まあ、この杖に関しては鈍器としても優秀そうだから普通に殴っても致命傷を与えられるかもだけど、試しに殴られてみます?」


「いや遠慮します」


 問うた瞬間に拒否されてしまった。

 まったくノリの悪い男である。



 ――とまあ、そんな感じで幕を下ろした発表会なのだけれど。

 家に帰り着くまで客人達は一人を除いて終始無言、どこか沈痛そうな顔をしていた。

 除かれた一人というのはリンディで、それはもうウッキウキのルンルンで、半ばスキップ踏んでいたように思う。

 この落差よ。


 家の前まで戻ってきたら彼らには野営の準備を始めるよう言い含めておいた。

 だって我が家は狭小家屋。私とレミーちゃんだけで定員いっぱいなのだから。

 ただし家の横に建てているお風呂は自由に使ってくれて構わないと浴槽にお湯を張ってから言っておいた。


 こうして皆してお風呂で汗を流した後は夕食タイム。

 お風呂場の裏にある窯でピッツァを焼いて、長テーブルの上に並べた。

 家の中ではシチューを作って、魔法で寸胴鍋ごと宙に浮かせて外に運べばご馳走の完成だ。

 客人達だけでなく私とレミーちゃんにしたって一心不乱に食べて、家の地下に安置していた果実酒を引っこ抜いて振る舞えば、どれもこれも幸せそうな顔ばかり。


 難しい話で凝り固まった頭をほぐすのはいつだって美味しい料理であると、満腹になったお腹をさすりつつ実感したものである。


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