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04:エルダという名の街


 まだ空は黒く、ランタンの光が無ければ一寸先を見通すのも難しい夜明け前の森の中。

 私はお気に入りのトンガリ帽子と外套を身に付け、リュックを背負って外へと踏み出している。

 右手には私の全てを支えてくれる万能の杖エリンジュームが、今も厳めしき鋼の装甲を誇示しており時折排気ノズルからプシュッと息を吐き出していた。


「おっと忘れてた」


 いざ出立の直前になってふと肝心な所を思い出した私がメタボのおっちゃんよろしく根っこ付近の幹が膨らんでいる大樹を顧みて杖で地面を叩く。


 ――《施錠マジックロック》。

 ――《鉄壁アーマード》。

 ――《条件発動型地穿槍コンディティナル・アースランス


 三つの魔法を我が家に仕掛けておく。

 施錠魔法はその名の通り鍵かけ。物理的な施錠と違ってピッキング等では扉が開けられない。

 鉄壁は、家そのものの強度を上げる魔法で、扉や壁をハンマーとかでぶん殴って破壊、侵入できないようにした。

 それから罠である。

 本来は即効の魔法でも条件発動型にしておくことでトラップへと早変わりするのだ。もしも侵入者が相応に実力を持った冒険者や魔物であった場合には地面から飛び出した岩の槍に身体を串刺しされる事となる。

 欲を言えばその上に天からレーザー光線の雨が降り注ぐ魔法を仕掛けたいところなのだけれども、流石に森一帯を焦土にするのは躊躇われるし、何より私の魔力だって無限ではない。潤沢にあるとは言えある程度は節約しておかないと底を突いてしまうかも知れない。

 魔法使いにとって魔力は生命線である。万が一にも空になるような事態に陥ってはいけないのだ。


「よし、行きますか」


 ――《飛翔フライ》!


 忘れ物が無いか再三思い返し、全ての準備が整っていることを確認した私は一つ頷いて空へと飛び出すのだった。


◆ ◆ ◆


 途中で鉢合わせた雁の群れに雁行飛行は空気抵抗がなんちゃらかんちゃらなのよね、なんて考えつつ、白み始めた夜空をカッ飛んでいれば30分もしないうちに街を眼下に捉え、間も無く街を取り囲む防壁の上を飛び越えると赤茶けた屋根の並ぶ住宅街の隙間、見るからに路地裏といった様相の薄暗い中に降り立った。


 飛翔魔法を解除しても認識阻害魔法は継続させておく。

 そうすることで不法侵入者の存在を感知させないようにしているのだ。


「まずは、ギルドね」


 確認するように独り言を呟いて路地裏から這い出す。

 早朝ともなれば行き交う人々もまばらで喧噪も控えめになっている。

 路地裏は舗装されていなかったけれど、大通りともなると地面には化粧石が敷き詰められ幾ばくかのデコボコはあっても比較的歩きやすくなっている。

 そんな中を歩いて行く。

 大通りに並ぶ露天はまだどこも準備に追われていて、上から見た外壁門の前で列を成していた頭頂部を思い出す。


(毎回並んで街に入るって大変よね)


 一頭のロバに売り物を積んだ荷台を引かせていた人間も居れば、エルティーナ(わたし)のようにリュック一つ背負って行商に来ている人も居た。

 外壁門の役割というのは通行税を取ることも目的に含まれるのだろうけれど、主な理由は犯罪者など街の治安を悪くする要因を取り除く事だった。

 なので盗賊稼業に精を出して指名手配されているような人や、私のように出自を明かせない人間は門前払いを食らうかもしくは問答無用で逮捕拘束されて牢屋にぶち込まれてしまう。

 善良な一般市民からすれば有り難いシステムなのだろうけれど、少なくとも私からは面倒で余計な通過儀礼だよねと辟易する代物である。


 それはそうと、冒険者登録証は身分証明書の役割も兼ねている。

 なので門番に見せればあとは通行税を払って終い。

 この前聞いた話だと冒険者は普通の通行人よりも通行税が安いらしい。というか本来支払うべき税の何割かをギルド側が負担してくれるといったシステムになっていて、そういった優遇措置を踏まえるなら冒険者という職業は決して悪い物では無い。

 ただし、それだけにギルドは信用という概念を非常に重視している。

 つまり、例えば証明書を偽造などしてそれが発覚すれば苛烈な制裁を加えるし、冒険者がルールから外れた違法行為を行えば一発で資格剥奪、路頭に迷う羽目になる。

 だから冒険者といえば荒くれ者といったイメージが付きまとうが、実のところ真面目で責任感のある人間の方が多いとのことだった。


「ふぅ……歩いて行くのは疲れるわ」


 “冒険者”なんて呼び方はそもそもおかしくないか? 実際には冒険なんてそっちのけで害獣や魔物を退治したりドブさらいやら薬草採集といった雑用に明け暮れているのだからもっと他に呼び方があるんじゃないの?

 などとつらつら想い耽っている間にも我が足は勝手に目的地を目指し、気付けば石造りの建物を仰ぎ見る格好になっていた。


「また来てしまった……」


 今回で二度目となる冒険者ギルド。

 建物は全周が石材を積み上げて作られており、耐火性は抜群に思われる。

 しかし、これだけ重いと地震が来たら一発で倒壊しそうな雰囲気ではあった。

 この中世ヨーロッパ風の世界観や建築水準を見る限り鉄筋コンクリートなんて無かろうし、そもそも鉄筋を作るだけの製鉄技術も必要とされる膨大な鉄材も確保できないに違いない。


 入り口は木製のスイングドアになっていて、私は手で押し開き中に入る。

 時間は早朝と言える頃合いで、そのためか人もまばらだ。

 床は一面フローリングになっているが、一般家屋で使用されてる化粧板にありがちな、ワックスでも掛けているのかって思える様な光沢など微塵も無く、どちらかといえば頑丈さだけがウリと言わんばかりに踏み締めたってビクともしない。

 というか靴を履いた足で踏み締めることを前提としているので、小さな傷が縦横無尽に走っているところは見て取れたけれど穴が開いたりなど致命的な損壊は見当たらなかった。


 コツコツと足裏に木板の感触を確かめながら進む。

 館内の構造は入り口から程近い部分は丸いテーブルと椅子に占拠されており壁際に設置されたカウンターで飲み物を提供している。

 仕事の打ち合わせや受け取った報酬に関する遣り取りを行うためのスペースということだろう。

 この向こうに何列かの掲示板が立て掛けられていて、列ごとに種別を纏めて依頼が張り出されている。

 依頼を請け負う冒険者らはそれら依頼の中で自分に合った物を選んで剝がし、一番奥にある受付カウンターに持っていくというのが大まかな流れになっている。

 私は掲示板の中で特に人の気配が見受けられない採集系の掲示板の前までやって来ると、手持ちの薬草を頭の中で整理しつつ何枚かの依頼書を剝がした。


「いらっしゃいませ。……あ、また来てくれたのね」


 カウンターで鉢合わせた受付嬢は、私に冒険者登録を勧めてくれたお姉さんだった。

 赤毛をアップにし、ピシッと受付嬢の制服に身を包んだ彼女はもう何年も務めているのであろうベテランといった雰囲気を漂わせている。

 私はまだぎこちない手つきで持っていた依頼書を差し出し、真新しさの抜けない登録証を添える。

 お姉さんはニッコリと優しく笑んで「ちょっと待っててね」と告げると提出された一式を手に壁際にあるファイル棚へ。

 必要な手続きを済ませて戻ってきた彼女にリュックから取りだした薬草を差し出すと「はい、納品が完了しました」と事務的に返した。


「それから他に持ってきた薬草の買い取りと、あとポーションの容器が欲しいのですが」


「空の容器は販売って形になるけど良い?」


「ええ、じゃあ報酬から差し引くという形でお願いします」


「はい、承りました♪」


 彼女は終始にこやかに応対してくれる。

 態度がフランクなのも親しみが籠もっていて悪が気はしない。

 一通り遣り取りを済ませた私は、目の前に置かれた報酬が入った袋と空の小瓶20本をリュックに仕舞い込むとそそくさ退散しようとする。


「おう、待てやねーちゃん」


 掲示板の列を通り抜けたところで、目の前にモヒカン頭の見るからにイカつい男が現れる。


「なにか?」


「あんたこの間も来てたよな? 冒険者登録してんのか?」


「ええ、それが何か?」


「だったら俺とパーティ組まねえ? 募集してんだよ」


 三十路に突入しているのか微妙に皺の入った顔に気色悪い笑みを浮かべる男。

 服装はズボンを履いた半裸で、むしろ見ろと言わんばかりの上半身にはトゲ付き肩パッドのある胸当てが装備されている。

 私は溜息を一つ。


「私はそういうのは受け付けてませんので」


 まずは自分の意思を公言しておく。

 次に彼を避けるようにして行き過ぎようとしたところ、腕を掴まれた。


「まあ待てって、決して悪いようにゃしねえからよ」


 二の腕を掴まれた私はゆっくりと顔を上げる。

 背丈の違いから見上げる格好になった。


「ちょ、そこで何をやって――?!」


 後ろから受け付けお姉さんの声と駆けてくる靴音がやって来たが、この時にはもう私は足を開き腰を落としていた。


 ゴスッ。


「ぅげぇ……」


 バタムッ。


 掴まれた手を取って捻り上げるとそのまま引きずり落とし、頭部が下がったところに飛び膝を叩き込む。

 男は仰向けにひっくり返った。

 私はソイツの股間を足で踏みつけると蛆虫でも見るような目をくれてやる。


「貴方に二つの選択肢を差し上げましょう。諦めて今後一切私に関わってこないか、もしくは今ここで生殖器を踏み潰されるか。さあ選んで下さい」


「ひぃ?!」


 男は引き攣った悲鳴を上げる。

 彼が即答しないことに苛立った私はジワリと靴裏に力を込める。


「わ、わかった、アンタにゃもう声を掛けねえ! だから勘弁してくれ! してくださいっ!」


「ふんっ、分かって頂けて何よりです」


 半泣きで懇願した根性無しに、私は満足げに頷いて解放してやった。

 というか、ぶにゅっとした足裏の感触が気持ち悪い。


「ルリちゃん、見かけに寄らず場慣れしてるのね」


 後ろで受付お姉さんが呆れたように曰い、そんな駆けつけてくれた職員に会釈だけ返すと私は颯爽と踵を返すのだった。



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