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36:冒険者パーティ“疾風”


 転移する前と後で家の中に変化は無かった。

 私と弟子のレミーちゃん、それからオコジョのバンドウ君は部屋の真ん中に置かれた木製テーブルを挟み込む格好で椅子に腰掛け、引っ越し作業(ひとしごと)を終えた後のティータイムを楽しんでいた。

 まあ、とはいってもお茶は茶葉ではなく薬草を煎じたものでかなり苦い。砂糖代わりに入れた蜂蜜で甘みを付与して何とか飲めるといった代物だ。

 また魔法付与して作ったオーブンでクッキーを焼いてみたけれど、不格好な見た目とは裏腹に意外にも味は良い。

 ポリポリ、コクコク。なんて貴族家の作法と比べればちょいと品性に欠ける、でも一般庶民の飲食と見比べれば十二分にお上品なお気楽な食べ方でクッキーを平らげ薬草茶をクッと喉に流し込む。


 そんな折り。入り口扉を控えめにノックする音が聞こえて、私たちは各々杖を手に取り立ち上がった。


「どうやらお客さんが来たようね。数は4人。敵意とか悪意は感じないけれど気は抜かないようにね?」


「はい」


 実のところ私は最初から気付いていた。

 人間と思しき気配が向こうにあったことを。

 探知魔法を常時発動させるなんてのは当たり前の話で、だから手合いの出方を窺っていたのだ。


「どちら様?」


 何者かも分からない、ともすれば野盗や山賊の類であったとしても何ら不思議ではない気配が扉一枚を隔てた向こう側に居るのだからレミーちゃんに対応を任せるのは返って危険。

 なので私が直々にドアの取っ手に手を掛け問い掛ける。

 勿論、魔法杖エリンジュームはいつでも攻撃魔法をぶっ放せるよう待機状態にしておく。


「あの、私たちはたまたま近くを通り掛かった冒険者なのですけれど、どういった人が居るのか気になったんで確認のために立ち寄らせて貰いました」


 返ってきた声はか細い、申し訳なさそうな女性のもので。

 なので私は木製のワリに耐久性の高い扉を押し開く。

 私たちの前に出現したのはどれも十代後半といった年の頃で、女の子が二人と男の子が二人といったパーティだった。

 戸を叩いたのは私と同い年かともすれば一つか二つ年上に思える見るからに気の弱そうな眼鏡っ娘で、深緑色のローブを身に付け捻れた木製杖を手に携える様子から魔法使いなのだろうと察する事ができた。


「あ、あのっ、さっきの転移魔法、凄かったです!」


 女の子は三つ編みにした緑色髪を振り乱す勢いで私に詰め寄ってくる。

 いや、初対面でそれはキツくないかい?

 ひょっとしてアレか。距離の詰め方が分からないコミュニケーション能力に欠けた……良く言えば自分の好きなことに関してはめっちゃ食い気味に喋るオタク気質というか……。

 ちょっと呆気にとられていると彼女の背後から手が伸びてきて肩をガシッと掴んだ。


「ちょ、ちょっとリンディ! 会っていきなりは失礼だってば!」


 彼女の後ろで慌てた声を出したのは亜麻色髪が眩しい利発そうな女の子。

 こちらは弓と矢筒を肩に提げた娘さんで緑色のズボンとシャツ、シャツの上に革製の胸当て、革の靴手袋と狩人ルックだ。

 そんな二人の背後に鎖帷子と大盾で身を固める大柄な黒髪青年と、ちょっと派手めな鉄鎧を身に付けた槍使いのアッシュ色髪青年。

 一目で役割分担があると分かる構成と雰囲気から冒険者というのは間違い無いのだろうと思った。


「あ、すみません。俺達は近くにある町“シーリス”を拠点としている冒険者パーティで、チーム名は“疾風”といいます。……この辺りはワリと魔物が出る危険な地域でして、そんな所に家があったものだから心配になって見に来たんです」


 亜麻色髪娘の後ろから割って入るように進み出たのは槍使いの青年で、見た目ちょいワイルド系なのに随分と礼儀正しい。

 毒気を抜かれた私は警戒をほんの少しだけ解いて、まだ食い下がろうとしている緑色髪のリンディちゃんを押し退けるようにして家の外に出る。

 シューと杖の排気ノズルから冷却風が漏れ出ているのは、それでも戦闘可能状態を維持しているからだ。


「今のところ問題は無いわね。少なくとも周囲3キロ圏内に魔力反応も生体反応も見当たらないわ」


 彼らの仲間が身を潜めている可能性も考慮して索敵系の魔法を数種類使用しているがそれらしい反応は無いっぽい。

 レミーちゃんと、その肩に乗ってるオコジョを肩越しに見遣ってから彼らに向き直った。


「私はルリ、つい今し方ここに引っ越してきた魔法使いだけれど、この森ってそんなに危険な地域なの?」


 瑠璃色の髪を掻き上げてお色気お姉さんムーブをカマしてみる。

 するとアッシュ髪青年の顔が赤くなった。黒髪盾使いは困ったように目を逸らす。


「これだから男は……」


 なんて呟きが亜麻色髪娘の口から漏れたけれど、それは見方を変えるといちいち反応を確かめてるあたり君の執着もなかなかの物だよって話。

 うん、青春だねえ。なんてついニヤニヤしちゃう私であった。



 というわけで自己紹介された内容を羅列しておこう。


 彼らは冒険者パーティ“疾風”。近くの町シーリスを拠点としており、討伐に関する評価はB級。

 私たちが引っ越してきた、或いは彼らが討伐依頼を受けて踏み入ったこの森は“シーラント樹海”、単に“樹海”と呼ばれる事の方が多い、と。


 チーム“疾風”のメンバーは四人。

 リーダーはアッシュ髪の青年、名は“コルト”

 鉄鎧というか鉄製の軽鎧を身につけ、武器としているのは短い槍、槍の穂先には曲刀みたく反り返った刃が別に付いており、なので槍というよりはげきとかハルバートとか、そういった武器に分類される得物だ。

 短く刈り込んだ髪の前髪をおっ立てる様は獅子をイメージしての事らしい。


 次に盾役、大柄な体型ながら小心者の黒髪青年は名を“リザーブ”という。

 装備は鎖帷子、鉄板を貼った革製靴と革製手袋、そして大きな盾。

 盾は鉄製で見るからに重量があって、なので戦闘中は武器は持たない。

 腰ベルトにナタと短刀を差しているものの、それは視界を確保するために雑草を切り払ったり狩った動物を解体したりと戦い以外で使用するための道具であるとのこと。

 自信の無さの表れなのかドモり癖があるようだ。


 三人目は“アイシャちゃん”、一本括りにした亜麻色髪と利発そうな目元が特徴的な女の子。

 装備は弓矢と短剣。短剣はリザーブと一緒に獲物をバラす時にも活躍するが、どちらかと言えば矢で仕留め損ねた敵を斬り付け動きを封じるのに使用する。

 先祖代々狩人の家系で、冒険者になる前はしょっちゅうお父さんに連れられ山籠もりしていたらしい。

 その為なのか、着用する衣服は緑色でないと安心できないのだとか。

 防具は革をなめして作った胸当てと腕に巻いた籠手。それ以外は動きを阻害するからと身に付けていない。


 そして最後の4人目が“リンディちゃん”。

 深緑色のローブと捻れた木製杖、緑色の髪を三つ編みにした眼鏡っ娘。

 魔法使いを名乗ってはいるけれど気質的には魔法オタクと呼ばわるのが正しい表現方法だろう。

 同じ女の子であるアイシャちゃんと見比べるに、清潔感がちょっと足りないように思われる。

 三つ編みにした髪と言いながら、見た目かなり雑だし。

 興味のある事以外には無頓着なのかも知れない。


 聞いた話だと、4人は同じ村の出身で年齢は一律17歳。

 幼馴染みという間柄ながら、目線とか素振りとかから察するに男二人はアイシャちゃん狙い、リンディはアイシャちゃんの友達枠で、男達にしてみれば異性としては認識していないっぽく思われる。


 というか、初対面からの自己紹介でこの情報量は如何なものかと思いもするのだけれど、彼らの立場にしてみれば森の中に突如として現れた麗しい少女たち、そんな二人の警戒を解こうと必死だったのかも知れない。

 余計な情報を与えられても私としては迷惑なんだが……。


「――つまり二人はハイファンから逃げて来たって事ですか?」


「ええ、色々あってね」


 コルト君の言葉に相づち打って、ついでに遠い目をして見せた。

 彼はパーティのリーダーらしく私たちの出自を聞いてきた。

 私はあくまで魔導師の師弟であると自分たちを紹介しており、名もない森の中で長いこと暮らしていたけどトラブルに巻き込まれそうになったから国を跨いで越してきたと、あくまで「ふんわりとした説明」だけに留めておく。


 冒険者である事も伏せておいたし、貴族の屋敷を丸っと消滅させたことも、もちろん王都を襲撃した魔王を魔法少女にんぎょうの体で撃退したことも告げない。

 身元バレしそうな情報は極力伏せておく。


 まあ、普通に考えて森の中に引き籠もって生活している人間ともなれば何やかんやそれなりの事情があるだろと。そこは察しろよと暗に言い含めておく。

 疾風の面々にしたって、私たちが云々なんて事は受けている仕事とは無関係だし、せいぜいがギルドに報告する際に「森の中に民家があった」といった話を混ぜる程度だ。

 私たちが盗賊などの犯罪者でなければ彼らとしても問題ない。

 まあ、見てくれが如何にもか弱いお嬢ちゃん二人ともなれば、無事を確認するために時々でも良いから立ち寄るよう森に入る冒険者に言い含める程度じゃあないだろうか。


 そんな遣り取りをしている間にも好奇心旺盛なリンディが家の周りを回ったり窓から室内の様子を覗き込んでみたりとどう考えても不審者に違いない動きをしていて気が気じゃない。


 ってかリーダー、こいつ何とかしろよ。

 私が無言の圧を放てば気付いたアイシャが「いい加減になさい!」なんて怒鳴りつつ彼女を離れた所まで引きずっていって説教を始める。

 何を呑気に眺めてんだコルト(リーダー)、そういうのはお前の仕事だろ、とは思っていても言葉には出さないお優しいわたくしめにございます。



「――大凡の事情は把握しました、何かあったら町の冒険者ギルドに言って貰えれば多少なりとも手を貸せると思うので」


「ありがとう」


 私の美貌に脳がヤラれたのか、そんなお優しい言葉まで寄越してからチーム“疾風”の四人は踵を返す。

 彼らは町のギルドについて早々、私たちの事を報告するだろう。

 面倒臭い事にならなきゃ良いけど……。

 なんて思いつつ、徐々に小さくなっていく背中を見送る私たち。


 とそこで異変があった。


 ――アオオォォォォンッ!!!!


 何処かで凄まじい声量が鳴り響く。

 それは私の耳には狼の遠吠えする声にしか聞こえなかった。


 去りゆく背中たちが振り返って慌てた様子で戻ってくる。

 何だろうと見守っていると、私のすぐ前までやって来たリーダー、コルト氏が口を開く。


「二人は家に入って、絶対に出てこないように」


 彼は二度三度と息を整えてから告げた。


「恐らくはシルバーウルフ、しかも上位個体ネームドです」


 何ソレ、ぶっちめたい!!

 とは私の心境だった。


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