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34:勇者一味、合流する(ゆうき視点)


 ――魔王バハネルを撃退したボクは、すっかり晴れ模様になったイスカリオテ城の直上を仰ぎ見て、空の青さに溶け込むように浮いていたルリさんが衝撃波を撒き散らす勢いで空の彼方へと消えていくのを確認してから跨がっている水龍を回頭、一ノ瀬さん姉妹を乗せたまま城の脇にある訓練場に出ていた相良君たち目がけて突貫。

 途中で群がってきた魔物の群れさえ出現させた槍の餌食にして程なく合流することが出来た。


「怪我とかしてないね?!」


「ああ! それにしても、あのデカブツを仕留めるとか凄いとしか言い様が無いな!」


 出会って早々、キラッキラの目で褒められてしまった。

 というか最後の魔法はボクじゃなくて上空でタイミングを測っていたルリさんの仕業だし、何より魔王は逃げているから仕留めたワケでもないのだけれど、まあ、強烈な光で目が眩んでいたともなると細かい所まで見えていなかったとしてもそれはしょうがないってものだろう。

 地表スレスレまで高度を落としてから水龍から飛び降りたボクは相良君の前まで進み出ると全然大丈夫そうな立ち姿を見てホッと安堵の息を吐く。

 顧みたところ、地面に顎を付けた水龍の首元から一ノ瀬姉妹が倣って飛び降りる様子が窺えた。


「ねえ、結局のところ貴女は一体何者なの?」


 ボクが次の言葉を唱えようとしたところで、横合いから聖女こと雨宮愛菜さんが差し込んでくる。

 少し考えてから答える。


「魔法少女、だよ」


 世界観はRPG“神々の箱庭”そのものといった風情で、そこに魔法少女なんて職業クラスは存在しない。

 でも、主人公ゆうしゃが召喚されてすぐに魔王が直々に襲撃してきている時点でシナリオなんて在って無いようなものだし、だったら遠慮して影に潜んでいる事に意味は無いと思う。

 だからボクとしては相良君たちが無事に魔王を討伐して世界に平和が訪れたチャンチャン、ってなるようサポートしてあげても良いかな、なんて思ったり。


「こちらの事情は教えないし信用しろとも言わない。というか、そもそもの話、ボクは君たちが踊っているのと同じ舞台の役者ではないから仲間になることなんて有り得ない。君たちを助けたのは、まあ、見捨てて全滅でもされたら目覚めが悪いから、といったボク個人の理由からだよ」


 ルリさんと契約を交わして魔法少女になった事も。その際に朝霧有紀という男子が女の子になった事にも触れないでおく。

 こういう込み入った事情というのは明かさない方が面白いし、何より四人はまだ自分たちのことでいっぱいいっぱいだろうから余計な情報を与えられても迷惑なだけだろうと判断したから。

 もしもこの先も長らく付き合いする事になったのであれば、明かしても良いかなと思わなくも無いけれど……。


「……え、それじゃあ俺達と一緒には来てくれないのか?」


 そこで信じられないとでも言わんばかりの相良君。

 勇者ヨシハル君は、腰に差したまま抜いてもいない剣の柄を指で撫でつつ、一歩近づいて来る。


「いやむしろ、どうしてボクが君たちの仲間として一緒に行くと思うのかな? 少なくともボクが君の立場なら正体も分からない信用して良いのかどうかも怪しい人間なんて一刻も早く離れたいと思うけれど」


 ボクはきょとりんと首を傾げて見せる。

 そりゃあサポートはしたいと考えてるけど、それは彼らと一緒に戦っていきたいといった意味じゃあない。

 話を蒸し返すとボクは彼らが勇者召喚の儀で異世界転移させられた際に巻き添えになった一般人でしかなくて、しかも今は性別まで変わっちゃってるから日本に帰っても行き場が無いのは確実で。

 なのでボク個人にはもう魔王を倒そうとする事に意味なんて無いんだ。


 魔王がシナリオに沿う形で世界征服を成し遂げようとした場合、仮に勇者達が倒されていても今度はルリさんが黙っていない。

 むしろ怒髪天を衝いた彼女が怒りに任せて魔王を惑星ごと塵芥にしちゃう可能性を心配しなきゃいけない程だ。


 それなら勇者達が無事に役割を終えて元居た世界に帰ってしまうのを見届けた後、この異世界を悠々自適に旅して充分に満喫してから天寿を全うするってのが最良だと、ボクはそう思う。

 その為には、要所ごとに彼らの前に現れては指針を与えて去って行く、みたいな距離感が一番妥当。


 ……うん。詰まるところボクが彼らを助けるのはあくまでボク自身の為ってことなんだ。


「そんな事より、ちゃんと武器を回収したみたいだね」


「あ、ああ」


 相良君はまだ少し動揺しているみたいだけど、それでも腰に差した剣を僅かに引き抜いて見せる。

 ボクは頷いて念のためにと説明しておく。


「本当ならその武器は君がもう少し強くなってから入手するはずの剣なんだけど、今は城内が混乱しているし、入手できたらラッキーくらいに思ってたんだ。ちなみに、その剣と同程度の武器を手に入れようと思ったら十万くらいは積まなきゃいけない筈だよ?」


 城内の武器庫、この奥に保管されていた剣は別に神剣とかそんな大それた代物じゃあない。

 一般の騎士が手にしている得物、その予備として保管されていた物なんだ。

 で、ゲームのシナリオ通りに進めると中盤で手に入るけど、この時にはもう2ランクくらい上の武器を装備していて、結局のところ売り飛ばすくらいしか使い道が無い。

 でも、そんな役立たずであっても序盤であれば充分に用を成す。

 だから勧めたんだ。


「君たちはこれからハイファン王国の隣にある“アルベティア”を目指して、大きな町でお金を稼がなきゃいけない。ある程度貯まったら装備を整えて更に東にある“ダイクン”に行こう。それから鉱山がある町でダンジョンに潜ってミスリル鉱石を掘った後、ドワーフの鍛治屋に渡して剣を打って貰う、と。ここまではそうせざるを得ないからね」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。いきなりそんな事を言われても――」


 相良君が焦ったように声を出す。

 ボクは構わずに続ける。


「君たちは勇者一行で、魔王は既に君たちの存在を認知している。ということは高確率で次から次へと刺客を送り込んでくるって話になる。だから君たちは嫌でも強くならなきゃいけない」


 ゲームのシナリオ云々を完全に無視したとしても、相手だって物を考える頭がある以上は放置を期待する方がおかしい。

 なので彼らには魔王の想定を超える速度で成長して貰わなきゃいけないんだ。


「少なくとも相手が諦める程度には強くならないと、君たちの前に選択肢は出てこないと思って間違い無いよ」


 可哀想だけど勇者の肩書きを得るってのはそういう事だからね。

 戦って戦って戦い抜かないと安息の日はやって来ないのだよ。


 勇者君の目を真っ直ぐ見つめて言い含めておく。

 すると彼はなぜだか頬を赤らめて「だったら」と口走る。


「俺達に協力してくれ。頼むよ」


 更に一歩踏み出してきてボクの手を掴んだ。

 ボクは一瞬だけ逡巡したけれど、彼の背後に目を遣ってから頭を振った。


「無理」


「なんでだよ」


「死にたく無いからね」


 うん。魔王の配下に、ではなく勇者の仲間達に殺されちゃいそうな気配を感じたからね。

 聖女ちゃんが何だか凄い目で見てる。下手に仲間入りとかしたら毒殺されちゃいそうな勢いだ。


「俺は仲間を見捨てない。一緒に来てくれるなら、俺が守ってやる! そりゃあ今は弱いけど、いつか絶対、お前を守れるくらい強くなるから……!」


 なんだか熱いというか暑苦しいです相良君。


「だから無理だってば」


「いいから言うこと聞けって!」


「強引でしつこい。そういう男は嫌われるって、分かってて言ってる?」


 持っていた槍の柄の先っちょを相良君の鳩尾にねじ込む。

 すると彼は体をくの字に折って悶絶した。


「あがっ……!?」

「義晴君っ!」


 駆け寄る雨宮さん。

 聖女の肩書きを持つ彼女は蹲る相良君の背中を擦りながら、キッとボクを睨み付ける。


「あなた何様よ! こんな暴力振るって……!」


 なので言ってやった。


「根拠も無く横柄な態度で迫れば殴られるのは当たり前。身の程を弁えない子供ガキは周囲を危険に晒す。これが理解できないうちは一緒に行動したいとも思わないな」


 振り返ると、まだ城内に居座っていたのであろう魔物の群れが押し寄せてくるのが見えてボクはニヤリとした。


「ボクを守ると言ったね? だったら、これくらいは出来るようにならないと話にもならないよ」


 地ベタに伏したまま動かなかった水龍を操って頭上まで来させると襲い掛かってきた黒々しい集団に向けて水柱のブレスを吐かせた。

 それだけのことで次々吹き飛ばされて粉々になっていく魔物達。

 オマケとばかりに槍で薙ぎ払いブレスを潜り抜けてきた数匹さえも瞬殺する。


「君たちがまず考えるべきは生き残る事。ボクはちょっとした手助けくらいならするけれど、それ以上をする気は無いんだ。分かって貰えたかな?」


 ちょっぴりドヤ顔で肩越しに4人に物申す。

 反対意見は出なかった。


 ……というか、この状況で勇者パーティの一員になりでもしたら、高確率で雨宮さんと一ノ瀬さんに虐められるか、そうでなくともパーティが崩壊する。

 出来れば避けたいところだった。


「ボクはもう暫く残敵の後始末をしていくから、この間に可能な限り王都から離れるんだ。君たちが死なないよう影ながら祈っているよ」


 言ってから宙を舞い、水龍の頭の上に着地する。


「さあ、行け」


 短く声に出して、これを別れの言葉とした。

 水の龍を駆りつつ目を落とせば我に返ったように回れ右して逃げ出す勇者達の姿が映り込む。

 湧き出してくる魔物の群れへと目を向け直したボクは、こうして戦いへと没入していくのだった。



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