↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/94

32:肉体言語で説得(ゆうき視点)


 水龍に跨がっているのは美冬ちゃん、ボク、夏樹さんの順番で、二人を一度降ろしてから魔王と対峙しようかとも考えたけれど、眼下を見渡すにどこもかしこも魔物の群れに埋め尽くされていて安全圏というものが見当たらない。

 なので直ぐさま諦めると気持ちを切り替えて三対コウモリ翼で宙に浮いている魔王の方へと距離を詰める。


「君は魔王バハネル、という事でいいのかな?」


「如何にも、余(よ)こそが幾億もの魔物を束ねる魔王バハネルである」


 体長は三メートルを超えている。

 ゲーム通りなら初期モードの姿で、体力ゲージを半分削ったら第二段階に変身する筈だ。

 ボクは、怖いなぁイヤだなぁと内心で恐々としつつ、それでも可能な限り表情に出さないよう努めつつで水龍を寄せていく。

 念話じゃなくて肉声で話し合うともなるとある程度は近づかないとお互いの声が届かない為だ。


「不躾で申し訳ないんだけど、出来ればこのまま退いてもらえないかな?」


「何故(なにゆえ)に?」


「いや、だってホラ、君ってラスボスだから」


「……ならば我が妻となれ。麗しき娘よ」


「お断りだね」


 どうやら話し合いをする気もなければ退却するつもりも無いらしい。

 ボクは「魅力が増すとこうなるのか」などとゲンナリした気持ちで、それでも気を取り直して手にした槍を大きく振って見せる。

 とは言うものの、前と後ろを挟まれたサンドイッチの具材ではあんまり激しくは動けないぞ、とも思った。


「ふんっ、互いに相容れぬ以上、余とて退くわけにはいかぬな」


 魔王さんはニヤリと口元を歪めると三対黒翼を大きく羽ばたかせこちらに向けて殴り掛かってくる。 

 彼の拳に込められた魔力量が尋常でないことは青黒い仄かな光が宿っていることから見ても間違い無いだろう。


「けど、それなら世間知らずな君には世の中の厳しさを教えてあげなきゃね」


 ――《水の束縛》。


 力を行使した瞬間に突き出された手合いの腕に四方八方から水が伸びてきて絡み付く。


「ぬぅ?!」


 驚愕の表情を見せた魔王。

 それで言ってやったのさ。


「魔王ごときが魔法少女に勝てると思うなよ?」


 ゆっくり槍を持ち上げ穂先を魔王の土手っ腹に向ける。


「二日や三日、物が食べられなくても困らないよね?」


 ボクの頭上に同じ造形の槍が一本出現したかと思えば即座にカッ飛んで敵の腹を穿った。


「ウガアァァ!?」


 彼とて攻撃を見越して防御結界であろう魔法の盾を出現させていた。

 だがそんな物は用を成さない。

 槍に刺し貫かれた魔王の前で、粉々に砕け散る魔法盾があった。


「ラスボスはラスボスらしく大人しく魔王城の玉座で勇者がやって来るのを待っていればいいと、ボクは思うよ」


 魔王の腕を絡め取っていた戒めが水飛沫となって飛散する。

 ちょっぴり勝ち誇ったように笑んで見せた。


「グァ……ぁ……、惚れた。惚れたぞぉ!!」


「……ん?」


 腹に風穴を空けられた魔王さん。

 彼は物凄い勢いで意味の分からない言葉を吐き出した。


「水の魔法少女! 気に入った! お前こそが我が妻に相応しい!! その美しくも気高き双眸を愛欲の色で塗り潰し永遠の隷属と忠誠を誓わせようぞ!!!」


「気色悪いこと言うな変態っ!」


 思わずこちらも怒鳴り返していた。

 背筋にゾゾゾォって感触が走り抜けた。

 幾らなんでもその表現は有り得ない。

 誰がどう聞いても18禁的な意味合いにしか思われないじゃないか。

 しかも言ってる本人はキメ台詞を言ってやったぜとでも言わんばかりのドヤ顔だ。

 ってか、この魔王、いかがわしいにも程がある!


 ワリと本気でぶっちめてやろうと思ったボクが手にした槍を天へと掲げれば、三対黒翼魔王の四方八方に水の塊が出現、それら全てが槍の形を執り穂先を標的へと向ける。

 なお、「ぶっちめる」とは「ぶっ殺す」と「とっちめる」を掛け合わせた造語だ。


「親から教わらなかったようだからボクが教えてあげよう。下品な言葉は身を滅ぼすんだよっ!!」


 ブンッと握り絞めた槍の柄を振り下ろす。

 これを合図として魔王(ヤツ)を取り囲んでいた槍が一斉に弾き出される。


「堕ちろぉぉ!」


「させぬわぁっ!!!」


 ズギャアァァァ!!


 飛来した槍を躱すでもなく魔王が独楽(こま)のように高速回転。

 襲い来る得物を一気に弾き飛ばす。

 ボクは不敵に笑むと持っていた槍の穂先を魔王へと向け投擲の構えを執った。


「だったらこれで……っ!!」


 すると槍が倍々に巨大化する。

 勘違いをしてはいけない。ボクが出現させている武器というのは見た目通りの物質ではなく魔法で作り上げた言わば攻撃魔法そのもの。

 であれば魔力の込め具合で形も大きさも自由自在に変えられるのさ。


「爆(は)ぜろ変態魔王っ!」


 渾身の力を込めて巨大なる槍を投げつけた。

 槍はビュオォと唸り声を上げてまだ回転を解いていない魔王めがけて突っ込んでいく。

 だが魔王とて某らを感じ取ったようで急に静止すると拳を引き絞り殴りつけた。


「ぬおりゃぁぁ!!」


 槍の穂先と青黒い光を放つ拳。

 両者が空中にて激突し、火花が散る。


 魔王は言動はアレだが確かに魔王ではあるらしかった。

 ボクが放った超特大槍を拳にて殴りつけ弾き飛ばしたじゃあないか。

 必殺の思惑が外れて目を見開くこちらに対して、しかし無傷とはいかなかった魔王バハネルが肩で息をしながらそれでも眼光も鋭くボクを見返している。


「……クックック、どうだ水の魔法少女よ。余の愛妻となる気になったか?」


 何だか段々と言い方が重くなっているように思われるのは気のせいだろうか。

 最大級の攻撃を凌がれたボクは、だからといって絶望に怯え竦むなんて事はしない。


「余裕ぶっているところに水を差すのも気が引けるけど、もう一回だけ聞くよ。大人しく退いてくれないかな?」


「愚問! 余はうぬを攫って妻とすると決めたのだ! 何度聞かれても同じ――」


「その言葉が聞けて良かった。これで後腐れ無く君を塵に帰せるってもんだよ」


 勢い込んで喚く声に被せてボクは告げる。


「何か誤解しているようだけど、ボクは、と言うかあの人は(・・・・)何時(いつ)どの瞬間であっても君を原子レベルで消滅させることができるのだよ?」


 ボクが笑んで得物を失い空になった手を上げ暗雲垂れ込める空を指差す。

 魔王バハネルはゆっくりと天を仰ぎ、そして顔を恐怖に凍り付かせる。


「君は悠長にボクの相手なんてせずに回れ右して全速力で逃げるべきだったんだ。君の敗因は、自分が一番強いと自惚れた事。そして魔王を瞬殺できる存在が近くに居ることにさえ気付かない鈍感と無知。これに尽きるね」


 瞬間、ブアッと頭上の雲に穴が開いた。

 雲の向こうに見える空は瑠璃色。

 その更に奥で、超々高レベルの大魔力が光へと変換されてゆく様が見て取れる。


 この世の理(ことわり)なんて軽く吹っ飛ばしてしまえる超絶なる大魔導士が、自慢の魔法杖から煙を吐き出しつつ今まさに星をも穿つ破壊光線(ひかり)を放とうとしていた。


「まさか……なぜ……貴女様があぁぁ?!」


 意味ありげな、それでいて悲痛な色の滲む叫び声をあげ、魔王が逃げ出そうとする。


「もう遅い」


 ――《水の束縛》。


 魔王バハネルの周囲に顕現した水の塊から触手のように紐が飛び出し、彼の四肢を全身を絡め取り動きを封じる。

 バハネルの顔に絶望が浮かぶ。


 ――《陽神光閃(ディバイン・レイ)》


 瞬間的な光景。

 何も無かった空間に突如として巨大な光の柱が突き立った。

 助けを求めたのか手を伸ばそうとする魔王。

 しかし動きを封じられた四肢ではそれも叶わない。

 その体躯は光が収束し消え去った時にはもう欠片ほども残されていなかった。


「……逃げたか」


 瞬間的に温められた空気が熱風となって吹き荒れる。

 そんな中にあってさえボクの呟きはその様なもので。

 逃げたのか、敢えて逃がしたのかさえ分からないまま、霧散していく雲の真ん中に浮かんでいる小さな点を仰ぎ見るのだった。



 ――。

 戦いが始まった時、ボクにはルリさんが単身で空へと舞い上がるのが分かっていた。

 彼女が何を考えてそうしたのかも何となく察せられていた。

 けれどどうして理解できたのか分からないし、それを疑問に思う事さえできなくて。

 ぶっつけ本番の戦いであったにも関わらずどう動けば良いのか分かっていた自分自身にすら言い知れない不安を覚えて我が身を抱いたものである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。