同室の相手
男はその後長々と操色師についての説明や寮での生活について説明をした。
これから部屋を共にする相手の発表は部屋に入ってからのお楽しみだと、にやけ面で楽しそうに男が話す。
説明会が終わるとアンドロイド「彩」から部屋番が書いてある鍵を一人ずつ渡された。隣にいた大桜に部屋番を尋ねると「一〇八号室」と答えた。
流が持っている鍵の番号は「一〇二号室」。
せっかく仲良くなれた人と同じ部屋じゃないなんて。
流は残念そうに肩を落とし、お互い知らない人と同室になり上手くやれるよう頑張ろうと励まし合った。
鍵が三十人全員の手元に行き渡ると、パレット社の本社ビルを出て参加者は皆、「彩」の後ろについてこれから生活を送る寮へと歩いて向かう。
広い部屋を飛び出し、三十人で団体行動をすると、説明会場で見かけなかった人や、椅子を蹴り飛ばした黒髪の怖い少女の後ろ姿が見え、流と大桜は勝手に脅えていた。
寮は本社ビルの後に立っている。
建物は見るからに新築で、「我色」のために用意された物だと一目見ただけでわかった。
「新築なら一人一部屋作れたはずだよね……」
小声で文句を垂れると大桜は激しく首を縦に振った。
「彩」の案内で寮の中へ入り、ロビーにある案内板を使って軽く館内を紹介する。
この寮は、「カラフル寮」とパレット社が名付けそうな、如何にもな名前がついている。三階建ての木造建築で、シャワールームとトイレ、ベット・収納スペースが二つついた部屋が15室、その他に共同の大浴場、二十四時間営業の食堂、小さな図書室、交流ルーム、トレーニングルーム、そして予約制の会議室が数部屋備わっている。
「彩」から一通り口頭で説明を終えると、「彩」を先頭に寮の見学ツアーが始まる。
まずは一階にある食堂。
食堂では朝昼晩それぞれ四種類のメニューが用意されており、好きな時間に好きな量を食べてよいとのこと。また、調理は「彩」が行っているので無人状態だ。というか、この「カラフル寮」は全てアンドロイドの「彩」が全て管理しているため、寮そのものが無人で運営されている。
「もし、提供されているメニューすべてが気に入らないという場合は調理場担当の「彩」にお申し付けください。希望する料理を提供いたします」
流たちを案内している「彩」がまるで人間のように微笑んだ。
「では、次へ参ります」
次に向かった場所は、食堂と同じフロアにある大浴場。
男女別に大浴場は用意されており、流石に脱衣所まで入ることはしなかったが、「彩」の説明によると、脱衣所は二十人が押し掛けても十分にスペースがあり、浴場ではシャワーが30台、そしてシャワー台数に合わせた広さの浴室が一つ用意されているらしい。
大浴場を抜け、次に向かったのはトレーニングルームだ。
ここでは筋トレ器具は勿論、一人前の操色師になるための特別な機械を置いているらしい。
予約制ではないので、好きなタイミングで使ってよいと「彩」は説明した。
その後も、二階、三階と順々に案内を受け、いよいよ流たちは各自渡された鍵に記された部屋へ行く時間となった。ここに住むための荷物はすでに部屋へ運び込まれているので、自分の足でこれから住むこととなる部屋へと対面する。
「華ちゃん、部屋が違っても仲良くしようね」
「はい……! 私の事忘れないでくださいね……!」
今生の別れのような挨拶を交わした後、それぞれの部屋へと向かう。
流は「一〇二号室」の扉の前に立ち、深く息を吸ってからぎこちなく三回ノックをして扉を開ける。
「し、失礼しま~す……」
泥棒のように足音を立てず、慎重に中へと入る。
まだ部屋には誰もいないのだろうか。
部屋はとても静かだった。
流は大きな息を吐き、肩の力を抜く。
「ん?」
流は目を疑った。
誰もいないと思っていた部屋に人が入り込んでいた。
しかも、一番会いたくない人物がベッドの上に腰かけている。
ベットに座っている少女は、ギラりと流に目を向ける。
「……アンタ、ここの部屋の人?」
「は、はい……白雲流って言います……あなたは……?」
面倒くさそうに黒髪の少女は首に手を置き、けだるげな声で「黒金 針」と答えた。
「(うそでしょ!? あの山田とか言う怪しげなおっさん! どこが相性のよさそうな人を選んだって言うの!? どう見たって相性最悪じゃない!?)」
流はグッと涙を堪えて、奥歯を噛んだ。
これから長い生活を共にする人が、一番印象悪い人だなんて。
流はこの先の生活に不安を抱えながらも、部屋に置かれた自分の荷物を広げ部屋作りを静かに始めた。




