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同室の相手②

お互い一言も言葉を発さず、気まずい空気が一〇二号室に流れている。

黒金(くろがね)の荷物は少なく、小さな鞄一つしか見当たらない。そのため、荷物整理をする必要がないのか、備え付けのベッドに寝転がりスマホを眺めている。


 一方、流はリュックに手さげ鞄と黒金より荷物が多い。しかし、この部屋に着いてから二時間が経過しており、荷物整理はとっくの前に終わっており、何もすることがない。

何度か黒金に話しかけようと試みるものの、口を開いては閉じ、口を開いては出ないあくびをするなど、話しかけることに怖気づいてしまい、まともな会話をしていない。


 自分の逃げ癖がここで悪く作用するなんて。

流は自分に絶望し深いため息を吐く。


「ねえ」


 黒金の方から話しかけてきた。

流は体が固まってしまい、「な、なに?」とぎこちなく答える。

黒金の目は鋭く、獲物を捕らえるような目つきだと流は感じた。


「アンタさ、私のこと怖いんでしょ」


 流の胸に矢が刺さる。

「そんなことないよ」と答えたいが、事実、黒金のことは本当に怖くてたまらない。

今すぐ部屋から抜け出して、大桜の元へ逃げ込みたいほどに。

流の額にジワリと汗が浮かび、黒金から視線を逸らす。


「あ、あははは……」


 精一杯の笑顔を見せたつもりが、引きつった苦笑いになってしまった。

もうお終いだ。

心の中の流は頭を抱え、この先部屋の空気は最悪だと悟る。


「……嫌なら、変えてもらうといい」

「え?」


 スマホを見ながら黒金が呟く。


「どういうこと?」


 流は黒金に聞き返すと、スマホから目線を外し、一度、流の顔を見てから再びスマホに視線を落とす。


「……山田のオッサンが言ってただろ。あのアンドロイドに頼めば、ある程度のことはやってくれるって」


 ぶっきらぼうに話す黒金の意図が分かった気がする。

黒金は自分が他人から怖がられていることを理解している。だから、同室の私に気を遣って他の部屋に移ってもいいいと彼女なりの優しさで言った言葉なのだろう。

人を見かけで怖いと判断してしまった自分に反省する。

きっと、黒金は心根が優しい人なんだろう。しかし、見た目や黒金の行動から怖がられてしまう。

まだ会って数時間しか経っていない、会話もろくにしたことがない人にここまで気遣いが出来る人を「怖い」で片づけてしまうのは良くないと流は思った。


「ごめんなさい!」

「何が?」


 黒金の目の前で流は頭を下げる。

ベッドでスマホを見ていた黒金は頭を下げる流を困惑した表情で見上げる。


「私、あなたを勝手に怖い人だって決めつけて……それなのにあなたは、見ず知らずの私に気を遣ってくれて……だから、ごめんなさい!」


 もう一度頭を下げる。


「別に、アンタのせいじゃない」

「でも!」

「私は私が嫌いだ。だから、アンタが私を嫌うのも当然だ」

「違う!」


 初めて黒金の表情が大きく変わった。

流はスマホを持っている黒金の手を取り、必死に訴える。


「私はあなたと仲良くなりたいと思ってる! だから、この部屋から出て行くことはしない!」


 黒金は目を丸くさせ、真っすぐに見つめる流に思わず笑った。


「アンタ変わってる」


 笑いを堪えながら黒金は真剣な表情で見つめる流に言う。

流は馬鹿にしないでと頬を膨らませるが、余計に黒金は笑わせることになってしまい、「もう!」と怒るが流も黒金の笑いにつられ二人で笑った。


「……これからよろしくな、白雲(しらぐも)


 黒金は流の前に手を伸ばす。

流はすぐに黒金の手を取り、握手を交わす。


「うん! よろしくね! 針ちゃん!」


この作品に登場する人物・場所、施設は全てフィクションです。

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