同室の相手③
流と黒金はまずお互いのことを知ろうと、質問合戦を部屋の中で繰り広げていた。
「針ちゃんは操色師? なの?」
「まぁ、そうかも。一応、術は扱えるからな」
「出身はどこなの?」
「東京だ。白雲は?」
「私は虹色町なんだー。針ちゃん東京出身なんだ! いいなぁ~」
「別にそんな羨ましがるような場所じゃないぞ?」
「そんなことないって! こんな何もない町に比べたら……もう……!」
少し前まで緊迫した空気が張りつめていたとは感じられない程、二人は一つのベッド上に腰を掛け談笑している。
流はあのうさん臭い山田という人物を少しだけ見直し、見る目がある怪しげなおじさんと認識を改める。黒金とはうまくやっていけそうな気がすると流は思っていると、扉の奥からノックが聞こえた。
二人は会話を中断し、流が扉の方へ向かい、ゆっくりと覗き込むように開けると大桜が心配そうに立っていた。
「華ちゃん!」
ベッドに座っている黒金に、少しだけ部屋を出ると声をかけ扉を閉める。
大桜は手で口元を多い、ジロジロと流を見つめている。
「あの……流さん……!」
「どうしたの?」
「その……大丈夫、でしょうか……?」
黒金さんとご一緒ですよね。と流の顔色を窺うように話した。
大桜は怖がっていた黒金と同じ部屋の私を心配してわざわざ部屋にまで足を運んできてくれた。と、流は大桜の優しさに心が温かくなる。
「うん! 私なら大丈夫! 針ちゃんと仲良くなったんだ! だからーー」
「もう……そんな間柄になってしまわれたんですね……」
「華ちゃん?」
大桜は流に背を向け、「様子を見に来ただけですので……これにて失礼いたします……」と目も合わせずそのまま大桜は部屋へ帰ってしまった。
流は大桜の態度に違和感を感じたが、何が原因ですぐに帰ってしまったのか分からない。
大桜の姿が見えなくなっても流は廊下で立ち尽くしていた。
「白雲?」
黒金が扉を数センチだけ開けて、扉の前で立ち尽くしている流に声をかける。
「針ちゃん」
「……何かあったのか?」
「……ううん。何でもない……!」
言葉を飲み込み、明るく黒金に笑顔を見せる。
黒金は何も言わずに、一人分通れるくらいに扉を開け流を部屋に入れる。
「ねぇ、針ちゃん」
「なんだ?」
「私って……ううん。やっぱり、忘れて! さ、また質問し合おうよ!」
「あ、あぁ……」
無理をして笑う流に合わせて、黒金は小さく頷いた。
流は何事もなかったかのように、大桜が来る前の質問合戦を再開させる。
黒金も流に質問をしたり、質問に答えたりするが、どこかぎこちない流にかけてる言葉が見つからず、二人はぎこちない空気になってしまい、部屋に沈黙が訪れる。
黒金は横目で流を見ると、視線に気づいた流がニコリと微笑むだけで何も話さない。
「……こんなことを聞くのは野暮かもしれないが、喧嘩したのか?」
自信なさげに黒金は問う。
流はニコリと微笑みながら「してないよ」と答える。
すると、黒金は流の腕を掴み、部屋を飛び出した。
突然、腕を掴まれ外へ引っ張り出された流は黒金の腕を振り払い、何を考えているか分からない黒金を睨んだ。
「何のつもり……!?」
「何って?」
「私を部屋から連れ出して、何がしたいの!?」
込み上げてくる怒りを黒金にぶつける。
黒金は俯いている流の腕をもう一度取ろうと近づく。
流は自分の元に伸びる腕を勢いよく振り払い、驚いた様子の黒金に「余計なことしないで!」と怒鳴りつけ、黒金を置いて流は部屋に戻った。
部屋に一人で戻った流は扉の内側で崩れ落ち涙を溢す。
「私ってば最低……! 針ちゃんの優しさを無下にして、あんなに怒っちゃって……! もう、話せないよ……!」
電気もつけず、暗い部屋で体育座りをしながらあふれ出る涙を服の袖で拭う。
いくら袖でふき取っても大粒の涙は止まらない。
視界はぼやけて何も見えず、自分の嗚咽以外何も耳に入らない。
せっかく仲良くなれたと思った黒金の関係性は自分自身でぶち壊してしまった。
己の行動に苛立ち、呆れ、憐み、沢山の感情がいっぺんに押し寄せ、自分を制御することは出来ない。
「ごめんなさい……針ちゃん……!」
腕の中に顔を埋め、暗い部屋の中で嗚咽だけが響く。
この作品に登場する人物・場所、施設は全てフィクションです。




