操色師
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寮に入ってから初めての朝を迎えた。
部屋に備え付けてある洗面所で顔を洗い、身支度をした後、流よりも早く起きていた黒金と共に、食堂へ向かう。二人が過ごしている一〇二号室は二階にあり、階段を一つ降りて、右へまっすぐ行くと食堂が見える。
現在の時刻は七時四十五分。
朝ごはんにしては少し遅めの時間だが、食堂は賑わっている。
流はトーストとミルクを、黒金はコーヒー一杯片手に持ち、二人は向き合うように座り貰って来たものを口にする。
「針ちゃん。朝それだけなの?」
「あぁ。朝はどうにもお腹が空かなくてな」
「朝ご飯しっかり食べないと元気でないよ?」
「わかっている。だが、どうにも朝は苦手でーー」
黒金の口に流のトーストを無理やり入れ込む。
黒金はされるがまま口に入ったトーストを腹に入れ、すぐにコーヒーで流し込んだ。
「何するんだ!」
「えへへ、隙あり! だよ」
「全く……」
満更でもなさそうに黒金はコーヒーを啜る。
「……」
「どうかしたか?」
「あ、いや、何でもないよ」
流は視線を感じ振り返ったがそこには誰もいなかった。
首を傾げながら、頭の向きを戻し黒金と会話を再開する。
ピンポンパンポーン。
食堂にあるスピーカーからチャイム音が響く。
食堂内は一斉に静かな空間に変わった。
「えー皆さん、おはようございます。山田です。本日から「我色」の企画が本格的に指導します。各自朝食を済ませ、用意が終わった者から寮の横にある体育館施設へ集合するようにお願いいたします」
丁寧な口調でマイク越しに「我色」参加者へ伝えると、放送終了のチャイム音が流れる。
食堂の中はゆっくりと賑わいを取り戻す。
「寮の横に建物なんてあったっけ?」
「ああ。この寮に来る前見ただろ?」
ここに来るまで何を見てきたか思い返す。
流の頭に浮かぶ光景は、後ろ姿の黒金に脅え大桜と小声で怖がっていた思い出しかない。
黒金に「あなたが怖くて視界に入らなかった」なんて口が裂けても言えず、流は「そういえばそんな建物あった気がする」と適当に話を合わせた。
二人は朝食を完食し、食器を戻し終えると黒金の導きで寮の横にある建物へ向かう。
向かう途中、何人かの「我色」参加者とすれ違ったが皆、黒金を嫌がるように間隔をあけて歩く者や、わざとスピードを落として歩く者、後ろから刺す様な視線で見てくる者ばかりだった。
黒金はそんな参加者たちと出会っても顔色一つ変えずに、目的地まで歩いている。
横に並んで歩いている流は、もし黒金と同じ部屋にならなければ、彼女を避けている人たちと同じような行動をしていただろうなと心の中で反省をする。
「……凄いね、針ちゃんは」
俯きながら白雲が話すと、黒金は前を向いたまま答える。
「慣れているからな、別に今始まったことじゃない。皆私を避けていくのは当たり前だ」
すました顔で黒金は話した。
「ほら、着いたぞ」
黒金が指を指す。
目の前には大きな体育館のような建物が立っている。
二人は自動ドアの入り口から入ると、小さな窓口があった。
黒金が窓口を覗くと、中にはアンドロイドの「彩」が受付をしている。
「山田のオッサンが言っていた集合場所はどこだ?」
「ここを真っすぐ行ってつきあたりを左に曲がった所になります」
「わかった」
黒金は辺りを見渡している白雲に声をかけ、「彩」が示した場所へ向かう。
この施設も新築の匂いがして、まだできたばかりの場所なのだなと流は思った。
「ねえ、針ちゃん」
「何だ?」
「針ちゃんって、操色師? なんだよね?」
「ん? ……まぁ、一応な」
「操色師って系統があるんでしょ? 針ちゃんは何系統なの?」
黒金の表情が濁る。
白雲はまずいことを聞いてしまったかもしれないと一人気まずくしていると、黒金は少し間をおいて「その内わかる」と暗い声で答えた。
流は黒金に「何系統なのか?」と聞いた時、黒金の空気がぴりつき彼女を初めて見た時と同じ恐怖を感じた。しかし、それ以降の会話は普段と変わらず優しい黒金に戻っており、流はこれからこの手の話題は避けようと誓う。
会場に着くと、「我色」参加者がほぼ集まっており、流たちに気づいた山田は「好きな所へ適当に座って下さい」と話す。
流は周りの目を気にして、皆が座っている所から少し離れた場所に黒金と座る。
後から遅れて男の人が「すみませーん」と謝る気がなさそうな謝罪をしながらゆっくりと会場に入って来た。
山田は人数を数え、全員揃ったことを確認すると咳払いをしてから話し始める。
「皆さんおはようございます。今朝放送で私が言った通り、本日より本格的に「我色」企画を始動させます。まず、皆さんには操色師になってもらいます」
パンパンと手のひらを二回叩くと、アンドロイド「彩」が二人会場にやってきて、カラフルな玉にチェーンがついた物を一人ずつ配っていく。
「現在配布しているのは、昨日皆さんにお渡しした「カラーコア」を加工したものになります。そちらは肌身離さずネックレスとして持っていてください」
参加者にカラーコアが行き届いているか山田は眺める。
流の元にもカラーコアを加工したものが配られ、昨日舞台上で持たされた白いカラーコアをじっと見つめる。
「(そういえば、華ちゃんが私のことを白系統って言ってたっけ? もしかして、このカラーコアの色で何系統か分かるのかな?)」
流は隣でアンドロイド「彩」から黒金のカラーコアを受け取っている様子を盗み見る。
「(! 黒色!?)」
黒金は受け取ったカラーコアをすぐにポケットへ突っ込み、流は盗み見たことがバレないようゆっくりと山田へ視線を戻した。
「操色師を知らない方もいるので、まずはすでに操色師として活躍している人たちに実演してもらいましょうか」
山田の近くに座っていた銀髪のポニーテール少女と横に座っていた金髪の少女を指名する。
彼女たちは嫌な顔一つ見せず、素直に返事をして山田の元へ行く。
「じゃあ、まずは自己紹介と何系統の操色師か紹介してくれるかな?」
二人はコクリと頷く。
「私は虹色町出身、銀 香蓮、20歳です。白系統の操色師です。よろしくお願いします」
銀に拍手が湧く。
拍手が静まると、次は金髪の前髪両サイドにウェーブがかかった少女が口を開く。
「私は東京都出身、金子 沙代里と申します。歳は香蓮と同じ20歳です。黄色系統の操色師です、よろしくお願いいたします」
銀と同じレベルの拍手が送られる。
山田が二人に何かを伝えると、二人は首を縦に振り、左右に分かれて二人の距離をあける。
すると、金子の手のひらに金色で装飾された鞭が現れる。
「魔法!?」
「あれは自身が持つ色を抽出して具現化した武器だ」
流が突然現れた武器に驚いていると、黒金が淡々と語った。
流は黒金の言っている意味を正確に理解できていないが、目の前で魔法のような現象を目にすると、昨日疑って信じなかった山田の言葉を信じざるおえない。
金子は手ぶらな銀に襲い掛かる、流は危ないと目を瞑るが銀は金子の攻撃を受けていなかった。
金子が振り下ろした鞭は、銀の目の前にできた見えない壁に跳ね返され攻撃が届かなかったらしい。
二人は次の攻撃をするため構えを取っていると、山田から「そこまで」と声がかかる。
「これが操色師のみが出来る技です。今から皆さんにはこれを取得してもらいます」
この作品に登場する人物・場所、施設は全てフィクションです。




