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「……どう、って」
「好きかどうかに決まってるじゃない!……さぁ、答えて!」
瞳を輝かせたヒルダはずいっと身を乗り出してくる。若干引き気味の私はずりずりと後退した。
「き、嫌いじゃないわ」
嫌いじゃない、……と思う。ジークハルト様は良くしてくれるし、私が倒れた時には心配もしてくれた。それ以上はもう望めない。
「リーファったら…。……質問を変えます。殿方として、いいえ、夫として好きなの?リーファはジークハルト殿下を愛してる?」
ヒルダの質問に頭を殴られたような衝撃が走った。
しばらくは何も言えず放心していただろう。ヘレンにも同じような事を諭されたことがフラッシュバックする。
『 妃殿下を大切に想われていることが、殿下からひしひしと伝わってきましたの』
大切に想う、とはどんなことだろう。
家族として?友人として?……恋人として?
少なくとも、ジークハルト様は私のことを「そういう」風に捉えているのだろうか。「大切に想われる」ことがなんだかこそばゆいような、そんな気分になる。
では、私はどうなのだろうか…
時折感じる胸の軋むような痛み。それとは相反した胸の高鳴り。
亡くなった婚約者─────────ルイーゼ様とどんな会話をしていたのか。どんな距離で話していたのか。どんな表情で接していたのか。どんな………。
今は私に向けられる全てはルイーゼ様にも向けられたものなのだろうか。
だとしたら、息苦しさに苛まれる。私のドロドロした醜い部分も一言では言い表せない。
「……リーファは、ジークハルト殿下のことをどう思ってるの?」
今度は導くように、優しく言われたヒルダの言葉をゆっくりと呑み込んだ。「嫌いじゃない」なんて、そんな曖昧な気持ちではない。もっと……。
「……好き」
自然に溢れた言葉に、遅ればせながらも自覚した。そして同時に理解する。ルイーゼ様に対して感じているのは、" 嫉妬 " だと。
「私、いつの間にか好きになってしまっていたの…?」
自覚したての想いはまだどうなるかわからない。答えを求めるようにヒルダを見つめた。ヒルダは優しく微笑むと私の頭をポンポンと撫でた。
「もう…、そんな顔しないでよ。リーファの心に従えばいいと思うわ。ジークハルト殿下はどんな言葉でも受け止めてくれるはずよ」
「でも…、ジークハルト様には婚約していらっしゃった女性がいたの。3年前に悲劇的な形で亡くなっていて……多分、ジークハルト様の心の中にいるのはその方だと思うわ」
「そんなの、聞いてみないとわからないじゃない」
「亡くなった方との思い出を掘り返すなんてこと……」
「でもリーファは好きになったんでしょう?今のジークハルト殿下を。だったら、尚更ジークハルト殿下を受け入れるべきよ。これから……ずっと一緒なんだから」
二人が死を分かつまで、とヒルダは言った。そしてその言葉は恐ろしく素直に私の胸を突く。
当たり前すぎて失念していたが、私は既にジークハルト様と婚姻を結んでいる。だから、玉砕を覚悟で想いを伝えてもこの先を共にすることになる。……たとえジークハルト様の心をルイーゼ様が占めていたとしても、だ。
「私は………」
「妃殿下!姫様!一大事でございます!!」
口を開きかけたその時、常の上品さを無くしたリンドベルクの侍女が跳び込んできた。ヒルダはそんな侍女の態度に眉根を寄せて不快感を示すが、咎めることまではしなかった。侍女の顔は蒼白で緊急事態が起こったのだと予想できるからだろう。
「私、『扉の外で待っていて』と伝えたはずよ?」
「……申し訳ございません、姫様」
「嫌味を言っただけよ。それで、何があったの?」
ヒルダに促され、侍女はちらりと私を見た。もうこのテの視線は良くない事を暗に示しているのだろう。
「勝手に失礼します、リルフィリア様。それにヒルダ王女殿下。…わたくしからお伝えしますわ」
侍女が開けっ放しにしていた扉から入ってきたのは、イレーヌ様だ。なぜ彼女がここにいるのか、この状況で誰も不思議に思わなかった。
「単刀直入にいいます。…アリサ・ローダントが戻って着ましたわ。とても厄介な共を連れて」
「! アリサが、戻って来たのですか!?」
私はイレーヌ様の言葉に食いついた。一瞬、イレーヌ様は悲しげな顔をしたがそれは悟らせてくれない。無情なほど冷たい声で、
「厄介な、と言いましたわ。…アリサの主として、わたくしと共に来てもらいます」
と言った。有無を言わせない静かな迫力、そして人を従わせる威厳。イレーヌ様のような立場ある女性は公私を割り切ることが第一に求められる。私とて他人事ではないが、こうも上手く振る舞えないだろう。
「……わかりました」
何があったのか把握できていない私には、了承する選択肢しか残されていない。




