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くじ引き転生  作者: ブラックシュミット
29/32

17裏

連夜「おい、作者」

作者「いや、皆まで言うな、分かってるから………」

連夜「約一年も投稿空けるとか」

作者「いや、言い訳になるけど聞いてくれ。

この一年、俺もなにもしなかった訳じゃないんだ、こつこつ書き続けてはいた、書き続けてはいたんだ。

ただ、ちょっと…………そう、ぶっちゃけて言うと最近のアプリが面白いのがいけない、FG〇とか、シャド〇バースとか。

アプリやりつつ小説読み書きつつ、ゲームもしつつ、TRPGのネタ考えつつとかしてたら」

連夜「してたら?」

作者「あっという間に一年経ってた。

これぞまさに現代のキング〇リムゾン!」

連夜「よし、分かった。

レイア、アルティア、サンドバック見つけたから好きにしろ」

作者「ごめんなさいごめんなさい何でもしますからああああああああっ!?」

クレア「…………改めて長い間、更新せず申し訳ありませんでした。

こんなスローペース&(長期)不定期更新ですが、暖かい目で見ていただけると幸いです………」


「早速だけど、街へ帰ろうと思うんだ」

意識を取り戻した翌日、ヴァルトやフレーシアも含めた五人で、ギルドの食堂で朝食を取っている時、僕はそう言った。

その言葉に真っ先に異を唱えたのは案の定、ウサリィだった。

「え~!?

まだ、全然回ってないのに~!?」

不満を表すように頬を脹らませ、僕を睨み付けてくる。

僕は心苦しいものの、真実を言わないと納得しないと思い、ある袋を机の上に置く。

それを見て首を傾げるウサリィ。

「?なにこのボロい袋?」

「今の僕たちの全財産です」

ウサリィはその言葉が最初理解できず呆けていたが、理解すると同時に「ええっ!?」とギルド中に響きそうなぐらいの大声を出した。

「ちょ、ウサリィ、少し抑えて抑えて」

「ど、どうして!?

ちょっと前までは普通にあったでしょ!?」

僕の諌める言葉も聞こえてない様子で大声で詰問するウサリィに、周りに頭を下げつつ答える。

「それが…………どうやらあのゴブリンとの戦いの最中、袋が破れて、森の中にほとんどお金を落としてきたみたいなんだ」

もちろん、無我夢中で戦ってた僕が気づくはずもなく、それ以前にあの戦闘の余波で、落ちたお金はことごとく消えているか、残っていても原型を留めていないだろう。

そして、袋のこの惨状に気づいたのが今日の朝、辛うじて残っていたお金もそれまでの食事代、宿泊費、そして僕の診察費で消えてしまっていた。

お金がないということは、宿にも泊まれないし、それ以前に食事を確保するのもままならない、ということになる。

ウサリィは僕の説明を聞いて、袋にお金が残ってないかしばらくごそごそしていたが、1ゴルドたりともないと分かると諦めて袋を探るのをやめた。

そしてどちらからともなく、「はぁ…………」と短く、重いため息を吐く。

「…………私が貸してあげても良くてよ?

あ、貴方のためではなく、そう、そこの妖精のエサ代ですわ!」

「むぐぅ…………反論したいけどご飯は欲しい…………!」

「いや、落とした僕が言うのも何だけど、そこは反論しようよ」

「わ、私も…………あまり足しにならないと思いますけど………」

この現状を見かねたフレーシアとカノンがそう言って、金貨が詰まった袋を出してくれるが僕は首を振った。

「いや、気づかなかった僕の責任だし気にしないで。

それにカノンにはただでさえお世話になりっぱなしだし、またお金を借りることはできないよ」

「む…………」

「…………はい、分かりました………」

僕の言葉にフレーシアは不機嫌そうに顔を険しくし、カノンは心配そうな表情を見せつつも僕が意思を変える気がないと悟り頷く。

「でも…………クロミネさん、ご飯とかはどうするんですか………?」

「そ、そうだよ!

私のパンケーキは!?」

「向こうに帰ったらギルドマスターが報酬を用意してくれていると思うから、しばらくはそれで大丈夫だと思う。

あと、しばらくは節約するからねウサリィ」

「がーん!

カノン~!クロミネが苛めるよ~」

「え、えっと…………よしよし…………」

「何をやってるんですの…………

貴方達、緊迫感が足りないのではなくて?」

僕たちのやり取りを見ていたフレーシアは呆れ気味にそう言い、続けて僕の方を見て言った。

「貴方、ギルドに入ったら良いんじゃないですの?

貴方ほどの実力の持ち主なら断るギルドはありませんでしょう?」

「…………お前は魔法使いギルドでも戦士ギルドでも入れるだろう」

フレーシア、それに珍しくヴァルトまでそう言ってくれるが僕は首を振った。

「まだ言ってなかったけど、僕、人を探しているんだ。

ギルドに入ったら、仕事とかで人を探すどころじゃなくなっちゃうでしょ?」

「………確かにそうですわね。

大抵のギルドは最低限のノルマを決めてますし…………」

僕の言葉にフレーシアとヴァルトは納得したのか、それ以上ギルドのことを言うことはなかった。

手っとり早く安定して稼ぐにはギルドに入ったら良い、というのは僕も理解しているが…………まあ生活が苦しいのもクレアを見つけるまで、見つけた後は帰る手段が分かるまではここで暮らさないといけないからギルドにも入れるし。

ともかく、今は一刻も早く街へ戻り、ギルドマスターから報酬を貰わないといけない。

でないと我慢しきれなくなったウサリィが、店の物をつまみ食いぐらいはするかもしれない。

「それじゃ、みんな荷物をまとめて門のところへ行こう」」

「はい」

僕らはそれぞれの部屋で荷物をまとめた後、ギルドの受付へ向かった。

受付では受付のお姉さんと、ギルドマスター、それと二人の男が話していた。

受付のお姉さんが僕らに気づき、ギルドマスターと男二人も僕らに気づく。

「よう、世話になったな」

「正直、もうダメだと思ってたぜ、ありがとうな」

男二人の言葉にピンと来る。

「もしかしてあなた達は………」

「ああ、お前らに命を救われたここのギルドの者だ」

「良かった…………お元気そうですね」

「もう全快…………とまではいかねえが、まだしばらく仕事には復帰できないんだけどな」

「そうなんですか…………」

「だがその間はマスターが有休扱いで金を出してくれるからな」

「え?」

ウサリィが信じられないものを見るような目でギルドマスターを見る。

「こら、ウサリィ。

そんなあからさまに見たら失礼だよ?」

気持ちは分かるけど。

ギルドマスターはというと、照れもせず冷静に

「ふん、うちのギルドは少数精鋭なんでな。

子供を出してくるそちらと違って、一人一人が貴重な戦力だ、このぐらいはする」

「でもマスター、本当にギルドの資金からじゃなくて、マスターのお支払いで良かったんですか?

結構な額になりますけど…………」

「…………君はもう少し空気を読むということを知った方が良いな。

とりあえず私がやろうと思っていた書類、八割を君に任せよう、一週間以内に済ませるように」

「ええっ!?な、何でですか!?」

苦々しい顔をするギルドマスターと、突然増えた仕事に叫ぶ受付のお姉さん。

この二人は良いコンビのようだ、特にあの仏頂面で毒舌ななギルドマスターが、お姉さんの天然発言に苦々しい顔を見せているのは何だか親しみを感じる。

「では、そろそろ僕たち行きますね」

「は、はい。

あの…………皆さん、本当にありがとうございました。

それで、その、良かったら名前を教えて貰っても………?」

そういえばまだお姉さんには名乗ってなかったな。

「僕はクロミネです」

「私はウサリィだよ」

「私は………カノン、です………」

「私はエイミーと言います。

改めて、ウサリィさん、カノンさん、クロミネさん、救出依頼、ありがとうございました!」

「俺はヴェインだ、ありがとうな、坊主ども!」

「俺はロゼ、また縁があったら会おうぜー」

「ふん」

エイミーさん、ギルドの二人、マスターに見送られながら僕らはギルドを出た。

「やけに感謝されてましたわね」

「ここを出るとき、エイミーさんに頼まれてたんだ。

仲間をよろしく、ってね」

「そうだったんですの」

「あのおじさんはお礼言わなかったね」

「ラザさんも、仲間を大切にする人ですわ。

ただ、ちょっと無愛想なだけで」

「あのおじさんの名前?」

「そうですわよ。

それと本人の前でおじさん、と呼ばないように。

不機嫌になってエイミーが苦労することになりますから」

やはりギルド同士交流があるのか、フレーシアはあのギルドのことも色々と知っているようだ。

僕らがギルドのことを話している間、ヴァルトは黙々と歩いていく、印象通りだがやはりあまり世間話をするタイプではないみたいだ。

やがてこの街の門へと着いた。

割りと早い朝だが、門では人がいきなり消えたり、現れたり、或いは馬車などの乗り物が行き交っていた。

ウサリィが早速、テレポートの準備を始める。

「それじゃ、良い?

最初は森の中に跳ぶからねー」

「お願い」

「うん、テレポート!」

一瞬の浮遊感の後、僕たちは見知らぬ森の中にいた。

と言っても失敗した訳じゃない、恐らく地脈の流れを使っているという話から、このテレポートも地脈に沿ってでしか移動できないのだろう、と予想はしているが、ウサリィ達に聞いてもが分からなかったので、今はまだ想像の類だ。

「よーし、それじゃもう一回行くよー」

ウサリィが再びテレポートを使おうとすると

「…………少し待ってくれ」

と、制止の声がかかる。

制止したのはヴァルトだった。

「…………街へ戻る前にはっきりさせたいことがある」

「なんですの?

早く行かないとお昼過ぎますわよ?」

「…………お前は気にならないのか?」

「何がですの?」

「そこの男が使った、龍の魔力を感じる魔法のことだ」

ヴァルトの言葉にそういえば信長さんの説明に手一杯で、そっちの説明はしていなかったと思い出す。

「それは…………気にならないと言えば嘘になりますけど、本人が話すまではそっとしておくものではなくて?」

「…………お前は知っているだろう、俺の目的を」

フレーシアは意外にも僕を援護してくれたが、ヴァルトの言葉にはっとした顔をして黙り込んでしまう。

ヴァルトは視線を僕の方へ向けた。

その目には静かで、それでいて思わず体を震わせる程の殺意がこもっていた。

そんな普段の冷静なヴァルトが見せないような殺気にウサリィとカノンが息を呑む気配が伝わってきた。

「俺が聞きたいのは一つだ。

お前は……………ランドー村という村を知っているか?」

「ら、ランドー村?」

「そうだ……………もし、お前があの龍と関わりがあると言うのなら…………」

その先は言わなくても分かった、だが僕はその村の名前はもちろん知らない、何しろこの世界に来たのはつい最近で、しかもあの最初の街から出たのは今回が初めてなのだから。

「……………………どうやら、知らないようだな」

ヴァルトはしばらく僕の様子を見て、本当に知らないと分かったのか殺気を静める。

何やら深い事情がありそうなので突っ込まない方が良いかもとは思ったが、ここまで殺気をぶつけられたのでは気になる。

「その、話したくなかったら良いんだけど、そのランドー村というのは………?」

「…………俺の故郷だ、いや、だった場所だ」

その言葉で分かってしまった、そこはもう、今はなき場所なのだと。

「……………お前が察した通り、今はもうない。

俺の故郷は…………黒い龍に、滅ぼされたんだ」

「黒い龍…………?」

「そうだ。

今でも忘れない…………あの夜より暗い…………闇でさえ呑み込んでしまいそうな、あの禍々しい漆黒の体と、見ただけで震えが収まらないあの恐ろしい顔は…………!!」

そう呟くヴァルトは、拳を強く握りしめていた。

「…………お前は龍と何らかの関係があるんだろう?

知っていることがあるなら、頼む、教えてくれ…………!」

普段のヴァルトからは想像もできないような必死さで、頭まで下げて頼んでくる、が…………僕は首を振った。

「……………ごめん、僕はその龍を知らない」

「……………そうか」

ヴァルトは僕の様子から半ば察していたのか、それだけを呟くと顔をあげ、いつもの様子に戻っていた。

「……………時間を取らせたな」

「いや、それは良いんだけど…………」

「ちょ、ちょっとお待ちなさいな。

結局、クロミネの魔法のことについては置いておくんですの?」

ヴァルトが思い出した、というような顔をする。

本気で忘れていたらしい、それほどヴァルトにとっては、その村を滅ぼした龍のことの方が大事だったのだろう。

「…………そうだったな。

だが、俺はさほど興味はない、話したくなければ話さなくても良い」

ヴァルトはさっきまでとはうって変わって興味無さげな顔で言った。

かわりにヴァルトの話を暗い表情で聞いていたフレーシアが、今度は話を聞きたそうな目で僕をちらちらと見始める。

その様子を見て苦笑しつつ、この数日で二人が信頼に足ると判断した僕は、何故龍の魔法が使えるのかをザッと簡単に二人に話した。

「ええっ!?

あ、貴方が探しているのは龍たちの神である神龍で………貴方にはその神龍の血が流れてますの!?」

説明が終わるとフレーシアは目を真ん丸にし、驚きのまま言葉を捲し立てた。

興味ない、と言ったヴァルトも話は聞いていたようで、無表情ながらも少し目を見開いていた。

「やっぱり信じられない?」

「いえ…………こうしてわざわざ打ち明けてくれたのですもの。

嘘でないことは分かりますわ。

ただ…………」

「戸惑ってる?」

「そう………ですわね。

私はあまり信心深くないので詳しくは知りませんが、それでもあの強大な力を持つ龍達の神、と聞けばどのぐらいの存在であるかは分かりますわ。

それが実際に目の前にいるのですもの」

「僕はほんの一部、力が使えるだけでそんなに大したことはないんだけど…………」

「あれだけの力を見せておいて何を言っているのですか」

僕の言葉にフレーシアは呆れ気味にそう返し、ウサリィとカノンもうんうん、と頷いている。

強い、と言われて素直に喜ぶべきなのか、僕への評価がどんどん人間離れしていってるのを嘆くべきなのか………。

「でもこれで貴方のあの強さにも合点がいきましたわ。

そうですわよね、人間であの強さはあり得ませんもの」

「いや、龍の血が流れてるだけで人間なんだけど…………」

僕はごにょごにょとフレーシアの言葉に反論するも、フレーシアは一人納得したようにうんうん、と頷いていて聞こえてないようだ。

複雑な心を抱いていると、フレーシアがぱんぱんと手を叩いた。

「さて、お話も終わったことですし、そろそろ行きましょう?

でないとお昼になってしまいますわよ」

「う、うん、そうだね。

ウサリィ、お願いできる?」

「はいはーい、任せて!」

ウサリィが準備を始め、それに近づきながら僕はふとさっきのヴァルトの言葉を思い出していた。

これでも神龍と関わりがある者だ、龍とは大体顔見知りだし、知らない龍はいないと思っていたけど…………漆黒の龍、か。

本来、龍達は世界の調和を第一に考え、無用な争いを一番嫌う種族だ。

そんな龍がわざわざ人間の里を滅ぼすなんて…………。

「………クロミネさん………遅れますよ………?」

「クロミネ早くーー!」

「あ、ご、ごめん!

今行く!」

深く考えすぎて動きが止まった僕を心配するカノンと、急かすウサリィに答え、考えを振り払って僕は歩き始めた。

胸の奥で少しの不安と疑問はある、けど今は考えてても仕方ない。

そう今は…………明日を生きる糧を得る方が急務であり、大事なのだから。

僕がみんなに近づくのと同時に、ウサリィがテレポートを発動させ僕らは、森から姿を消したのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

その街に着いた瞬間、僕は不思議なことに帰ってきた、という気持ちを抱いた。

ここはもう、僕にとっては馴染みのある街へと変わりつつあるらしい、戦いとトラブルに巻き込まれてばかりでロクに知り合いも作れてないけど…………。

「クロミネ?何で悲しそうな顔してるの?」

「いや…………何でもないよ」

「そう?何でもないなら早くあのお爺さんの所に行って報酬貰おうよ!」

ウサリィはこれからのご飯がかかっているからか、僕をぺちぺち叩きつつ先を促す。

僕は「分かった、分かったから」と苦笑しつつ皆を促して歩き始める。

ギルドに行ったら依頼達成の報告と報酬の受け取りと、あと…………何だっけ?何か忘れている気がする。

「あ」

「どうしたのです?」

「いや、そういえばクレアの捜索願いも出してのを忘れてた」

確かこの事件が起こったせいで、調査に必要な人員が確保できなかった、との話だから…………ギルドマスターに依頼の終了を伝えればまたすぐにでも捜索してくれるだろう。

「そういえば、貴方依頼出してましたわね。

確かクレア、という方の捜索でしたわね。

普通の依頼料よりいくらか上乗せされていたので、どこの金持ちのボンボンが依頼したのかと思いましたが」

「あの頃はまだお金に余裕があったからね…………」

在りし日を思い出して遠い目になる。

元々は盗賊団から掠め取ったお金だからそんなに未練はないけど。

「その方が神龍………なのですよね?」

「そうなんだ、あいつは性格が子供っぽいし、厄介事へも後先考えずに突っ込んだり、世間知らずだったりで………とにかくトラブルメーカーだから一緒にいる人が精神崩壊してないか心配なんだけど」

「…………え?神龍…………え?」

僕の言葉に戸惑うフレーシアを横目に僕は心中でだけ呟く。

ーーそれに、今のクレアは神龍の力を封じられているから、危ない目にあってないか、その心配も一ミリぐらいはしてる、カノン達が言うにはこの世界でトップクラスの人と一緒にいるらしいから、そうそう危ない目には会わないとは思うけど。

「………何だかわたくし、その方に興味が湧いてきましたわ。

クロミネ、その、迷惑でないのならそのクレアという方に会われるのなら私も連れていってくれませんか?」

「迷惑ではないけど…………」

「けど、なんです?」

神龍というイメージを持ってあったらたぶんすごくガッカリするよ、という言葉を僕は呑み込んだ。

この興味と好奇に溢れた目を見れば、言っても恐らく聞かないのは一目瞭然だ。

「………分かったよ、クレアに会いに行く時はフレーシアも一緒にーー」

「…………俺も良いか?」

「え?」

僕の言葉を遮って声を出したのはヴァルトだった。

その理由を察した僕はヴァルトの方へ向いて話しかける。

「…………やっぱり、それって例の…………漆黒の龍のこと?」

「………ああ、そうだ。

龍達の神、神龍ならばもしかして知っているだろうと思ってな…………」

「ヴァルトさん…………」

「……………そんな目で見るな。

それに純粋な興味もある」

ヴァルトはカノンの悲しげな視線に取り繕ったようにそう言って、カノンから顔を背けて歩き始める。

「あう…………」と無視されて肩を落とすカノンの肩をポンッと叩く。

「気にしないでカノン。

今の僕らにできることはないよ」

「でも……………いえ、すみません…………分かりました………」

カノンは僕の言葉に何かを言いかけるが、言葉を呑み込み、頷く。

冷たいかもしれないが、こればっかりは本人の問題だ、その龍に直接会ったこともない僕らが何を言ったところでヴァルトの決意は変わらないだろう。

僕にできることと言えば、さっさとクレアと合流して、ヴァルトの聞きたい情報を提供することだけだ。

会ったところであいつが知っているかどうか、という不安はあるけども。

と、考え事をしていたからか前から歩いてきた人に気づかず、ぶつかってしまう。

慌てて相手の方を見ると、ぶつかったのは子供で、相手の頭が僕の胸に当たったぐらいでそこまでの衝撃もなく、一先ず安心する。

「君、大丈夫?」

そこまで酷く当たったわけではないが、一応声をかけるとその子は少し顔をあげる。

「(…………お?)」

僕は思わず声を出しそうになったのを慌てて抑える。

その子の顔が整っていた、というのもあるが、それ以上にアメジスト色の長い髪と、それと同じ色の瞳が綺麗だったからだ。

その、現実離れした美しさ、無感情な表情はどことなく千歳に似てるな、と心中で思う。

その子はジッと僕を見て口を開く。

「…………大丈夫じゃない、痛かった」

「…………え?

そ、そう?ごめんね、僕がボーとしてたから」

女の子の言葉に思わず声を出してから慌てて謝る。

お、おかしいな、そこまでの衝撃じゃなかったんだけど…………女の子は小さいし、思ったより僕より衝撃が強かったのかもしれないな。

僕が謝ると女の子は「あ………」と呟き、何かを言いかけるが

「クロミネー?

女の子に絡んでないで早くおいでよー!」

というウサリィの声に急かされ、女の子に慌てて「ごめん、呼ばれてるから行くね」と言いその場を離れたので結局何が言いたかったのかは分からなかった。

それにしても綺麗だけど変わった子だったな、魔法使いのような黒いローブを羽織って、おまけに魔法使いが被るようなとんがり帽子も被ってたし。

一瞬、この世界では普通にあるファッションなのかと思ったけど、道行く人がチラチラ見てたし、やっぱりあの格好は変わっているんだろう。

ウサリィ達に合流する前にふと気になってチラッと後ろを見るも、もう女の子は雑踏へ消えたのか姿はなかった。

僕はそれ以上考えるのはやめ、パタパタ飛んでいるウサリィを軽く睨む。

「っと、ウサリィ?

初対面の女の子もいるのに、誤解させるようなことを言うのはやめてよ。

まるで僕がナンパしたみたいじゃないか」

「綺麗な子だったよね~。

クロミネも思わず目が止まるのは仕方ないよ」

僕の抗議をスルーし、頷いてるウサリィにため息をつきながら「そうだね」とそこだけ同意しておく。

それ以降、特に何事もなく僕らはギルドの前へと着いた。

「ようやく帰ってこれましたわ…………いえ、貴方達のおかげですわね。

本当にありがとうですわ」

「ど、どうしたんですか?」

ギルド前に着くなりお礼を言ってきたフレーシアに驚いてつい敬語で返してしまった。

「何がです?」

「い、いや、素直にお礼を言うなんて珍しいなー、と」

「私もビックリ」

「……………お礼ぐらい言いますわよ、一応命の恩人ですもの。

あと、貴方達が私をどういう目で見ているのかよく分かりましたわ、覚えてなさい」

ギルドを前にして、僕たちに助けられたことを思い返したらしい。

最初は高飛車で、正直合わないと思っていたけど、仲間内には素直なところもあるんだな…………最後に物騒なことも呟かれたけど。

睨んでくるフレーシアの視線を極力見ないようにしつつ、僕はギルドの扉に手をかけた。

ギルドマスターもフレーシア達のことを心配しているだろう、早く顔を見せてあげて…………それと、生活のために報酬を貰わないと。

ガチャッと扉を開けると、そこはもう三度目になるスカウトギルドの受付でーーー

「くたばれぃ!」

「あぶなっ!!?」

扉を開けた瞬間、死角から放たれた攻撃を辛うじて身を引いて避ける。

その攻撃した相手はまさかかわされるとは思わなかったのか、攻撃を繰り出した姿勢のまま固まっている。

突然攻撃してきたのは、声で大体予想はついていたがスカウトギルドのギルドマスターである。

「………………」

「………………」

ギルドマスターと暫し無言のまま見つめ合うと、突然、ギルドマスターは目にも止まらぬ早さで手に持っていた武器をどこかへと放り投げると、ニッコリと笑顔を浮かべ

「おお!クロミネではないか!

よくぞフレーシアとヴァルトを連れ戻してくーー」

「いや、何事もなかったかのように振る舞ってもダメですよ」

「……………実は軽い冗談での」

「僕の耳と目にははっきりと「くたばれぃ!」という声と、あなたが持っていた鈍器のようなものが記憶されてます」

「……………軽く、軽くじゃよ?

軽くどついて気絶させて、この記憶消去の香をかがせようとしただけじゃ」

「いやいや、軽くないですよ!?

何でいきなりそんな物騒な対応するようになったんですか、僕何かしました!?」

「だって、だって、みんな酷いんじゃよ!?

今回の依頼の報酬はマスターが個人的に頼まれたのですからマスターの財布から出してくださいね、とこのようなか弱い老人を苛めるようなことを!」

マスターは顔を覆ってめそめそと泣くフリをしているけど、本当にか弱い老人は鈍器を手に死角から完璧な不意打ちをしてこないと思う。

要するにマスターは依頼の報酬をあわよくばチャラにしようと襲いかかってきたわけか……………うん。

これは…………久々に怒って良いよね?

「マスター…………貴方という人は…………っ!!?」

呆れた顔でマスターに説教をしようとしていたフレーシアは僕を見て、話していた口を閉じた。

その顔はまるで口を開けばその瞬間、自分が殺される、そんな恐怖に満ちた表情を浮かべていた。

いや、フレーシアだけではない、マスターの行動を呆れながらも楽しそうに見物をしていたギルドにいた面々も僕とマスターから距離を取るように我先にと離れていく。

「え?え?

ちょ、皆、何故距離をーー」

「マスター」

僕は静かに呟き、一歩前に出る。

マスターが僕の方を振り向き、僕の顔を見た瞬間「ひいっ!?」と悲鳴を漏らし、一歩二歩と後ずさる。

「………………悪ふざけも大概にしないとーー本気で怒りますよ?」

笑いながら、しかし剣に手をかけつつ言う僕にマスターは

「す、すみませんでしたああああああ!!!」

と、綺麗な土下座をしたのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

「し、心臓が縮むかとおもったわい……………」

「心臓が縮んだのは私達の方ですわ。

マスターのとばっちりで」

フレーシアの言葉にギルドの面々がうんうん、と頷きつつマスターに非難の視線を向ける。

マスターはこのままこの話をするのは分が悪いと思ったのか、「そ、それよりじゃ」と話題を変える。

「フレーシア、それにヴァルトよ、よく無事で帰ってきてくれた。

お主らが戻ってきてくれて嬉しいぞ」

「マスター…………」

「さっきのやり取りがなければ感動できたのですが」

「そ、それはもう水に流しておくれ、な?」

「まあ良いですわ。

それとマスター、今回の依頼の報告書ですが…………」

フレーシアが何かの紙を出しながら言ったのを、マスターは手で制した。

「フレーシア、報告書は後日で良い」

「え?ですが…………」

「それと明日は二人とも、休日にしよう。

ゆっくり休むのじゃ」

「…………そう、ですわね。

マスター、ありがとうございますわ」

マスターの気遣いに甘えることにしたのか、フレーシアは頭を下げた。

……………本当、さっきのことがなければ完璧だったのに。

「それでは私は先に休みますわ」

「………はい、フレーシアさん、ヴァルトさん………ゆっくり休んでください………」

「ええ、カノンありがとうございますわ」

フレーシアとカノンがそう言葉を交わすのを微笑ましく見ていると、つんつんと誰かに肩をつつかれた。

「ウサリィ?どうしたの?」

「?私じゃないよ?」

「え?」

そういえばウサリィは僕の目の前を飛んでるんだった、と思い、じゃあ誰が………と後ろを振り向くと

髭の生えたおじいさんの顔が間近にーー

反射的に殴ろうとしたのを慌てて抑えつつ、口を開いて軽く抗議する。

「マスター、急に目の前に来ないでくださいよ………」

「いや、すまぬ。

じゃが、フレーシアとカノン、何があったんじゃ?」

そういえば、ここ数日で忘れかけていたが、フレーシアはカノンを拒絶していたんだった、それも親の仇に対するような厳しさで。

アレは今なら、自分の劣等感を悟られないように、との見方ができるが、あの様子を見ていると確かに今の様子を不思議に思ってもおかしくはない。

見るとマスターだけじゃない、他のギルドの面々もカノンとフレーシアが仲良く話しているのを狐につままれたような顔で見ていた。

とは言っても、僕も二人が実際に仲直り、というかフレーシアがカノンへの劣等感を捨て、その上でカノンの実力を認めた場面を見てないので何とも言えない。

「………僕も正直、見てないので何とも」

「ということは、二人で解決したのか?」

「そうでしょうね。

ウサリィは途中で気絶してて、ヴァルトは先へ行っていたみたいですから」

「………………あの気位の高いフレーシアが自ら、自分の劣等感を認めることはあるまい。

ということは、カノンの行動が、あやつを変えたということか……………ふうむ………」

マスターはぶつぶつ言いながら、顎に手を当ててしばらく考えていたが、やがて納得したように一つ頷くと、顔をあげて僕らに視線を向けた。

「ともあれ、クロミネ、妖精、そしてカノンよ。

依頼の達成、ご苦労じゃった、ついては報酬じゃが…………本当に渡さんとダメかの?」

「ダメです」

「…………マスター…………」

「わ、分かった、分かったからカノンよ、そんな目で見ないでおくれ」

マスターはカノンの非難の視線を受けて嫌々そうに受付から袋を持ってきた。

「これが報酬じゃ、ワシの自腹で三万ゴルド、持ってけ泥棒!」

マスターは持ってきた袋をぶん!と僕の方に放り投げてきた。

それを受け取りながら思ったより金額が多かったことに少し驚く。

「マスター、あの良いんですか?」

「良いのじゃ………ワシのなけなしの財産を持っていくと良い…………」

と、マスターは諦めの表情でそう、静かに呟く。

……………すごく、受け取り辛いんですけど。

そんな顔を見せられると本当にこのお金を受け取って良いのか迷ってしまう。

今からでも返した方が良いのか、でも返したら生活費が…………と悩んでいると、ギルドの端の方で二人の男の人がこそこそと話しているのが聞こえてきた。

「マスターって昔、相当稼いでなかったっけ?」

「ああ、凄腕のスカウトとして、相当稼いでたはずだぜ。

総資産だったらこの街随一じゃねえかーー」

「おおっと、手が滑ったわい!」

罪のないギルドの人が二人、いきなり飛んできた金属の棒のようなものに頭を強打され吹き飛んだ。

わざとらしい台詞とともにそれを放ったのは言うまでもなくマスターだ。

マスターは二人の気絶を確認するとこちらに振り向いた。

「……………何か聞こえたかの?」

「残念ながらバッチリ聞こえてます」

龍の力で強化された聴力を舐めてもらっては困る。

「マスター…………いい加減にしてください…………!

クロミネさんは、フレーシアさんと、ヴァルトさんの………恩人なんですよ………?」

往生際が悪いマスターはついにカノンに本気で怒られ「はい…………」としぼんだ声で項垂れる。

「うう…………あの気弱だったカノンがワシに怒れるようになるとは…………我が子の成長のようで嬉しいような寂しいような気持ちじゃの………」

「いや、カノンでなくても言うでしょう………」

カノンだからこの程度ですんでいるのであって、フレーシア辺りならそろそろクナイで物理的に黙らされてもおかしくない頃だ。

と思ってフレーシアの方を見ると、手に持っていた何かをちょうど懐へしまうところだった。

どうやら、本当に投げる直前だったらしい、カノンが先に怒ってなかったらどうなっていたやら…………。

マスターに呆れ気味の視線を送りつつ、マスターから受け取った袋を持って思う。

しかし、これは多いよな…………贅沢するつもりはないし、最低限の金額だけ貰って返した方が良いだろうか、と思っているとマスターがそんな考えを読んだかのように言った。

「それと、報酬に多少色はつけておるが、返さなくとも良いぞ。

お主らはワシらの大切な仲間を無事に返してくれた、そのことに対する礼と思っておくれ」

「マスター…………」

何だかんだ言いつつも、やっぱりカノン達のマスターなんだな、と、その時は素直にそう思えた。

「さて、ちとワシは今から出掛けてくるからの。

ああ、お主の探し人の依頼はちゃんと手配しておいたから安心するのじゃ」

「?どこに行くんですの?」

フレーシアの言葉にマスターは一拍置いて、ニヤリと凄みのある笑みを浮かべた。

「いやなに、ワシらの命を使い捨ての道具としてしか見てない、どこぞの若僧にちょっとした教育をしてやろうと思っての」

「まだ根に持ってたんですね…………。

でも相手はそれなりの地位の人なんですよね?

バレたらマズくないですか?」

「ふ、これでも昔は色々やってての。

砦への単独潜入、城の宝物庫を一夜で空にしたり、ああ、開発中の新兵器の破壊もやったことあったの」

あなたは何ス〇ークですか。

「じゃから心配は無用じゃ。

後のことは受付のベル嬢に任せてある。

探し人が見つかったら連絡が行くはずじゃ。

では、行ってくる」

そう言うとマスターは「あの小僧め…………まずは手始めに家の前に大量のゴミでもばら蒔くかのう、クックックッ」と呟きながら出ていった。

若干の不安があったけど、やることは嫌がらせ程度のようなのであとはその領主の自業自得だと思って止めないことにした。

マスターが出ていくのと入れ替わりにこちらへ来たのは、メガネをかけた冷たい表情のお姉さんだった。

この人がマスターの言っていたベルさんだろう、いかにも仕事ができる大人の女性という感じだ。

そのベルさんは僕らに一度頭を下げてから話し始めた。

「マスターより聞いているかもしれませんが、受付担当のベルです。

早速、マスターよりの伝言を伝えてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい、お願いします」

今までにないタイプの、歳上のお姉さんとの相対で少し緊張しながら答える。

「ではお伝えします。

マスターは貴方達に今回の依頼の感謝の印として、宿屋の手配をされてます。

場所は中央通りの…………」

と、お姉さんが場所の説明をしてくれるが、当然僕には分からない、後でカノンに案内してもらおう…………。

それにしてもまさか、宿屋の手配までしてくれたなんて、多めの報酬といい、申し訳ない気持ちを抱くが、宿屋代が浮くのは助かるし、お金があることにもちろん、不満はないので有り難く使わせてもらうことにする、何しろ僕らには遠慮できる程の余裕はないから。

お姉さんは宿屋代はギルド持ちにしたこと、借りる際には自分の名前を出すこと等を説明し、言葉を区切る。

「ーー私からは以上です。

何かご質問はありますか?」

「いえ、ないです。

宿屋の手配までしてくれて、本当にありがとうございます」

「貴方達はギルドの恩人です。

このぐらいのお礼は当然のことです」

僕のお礼に表情を崩さずクールに返すベルさん。

「それとカノン様」

「ひゃ、は、はいっ。

な、何でしょう…………?」

ベルさんが名前を呼ぶと、カノンは緊張した面持ちで答える、カノンの性格では無理もないだろう。

「マスターがクロミネ様とカノン様を手違いで一緒のお部屋に登録されたようなので、今日は一緒にお泊まりになってください」

「「ええっ!?」」

そんな呑気なことを考えているとベルさんからとんでもない条件が提示された。

ベルさんはそんな僕らの反応は予想済みだったのか、淡々と言葉を重ねる。

「キャンセルするとキャンセル料を取られますし、かといって、使用料はすでに払っているので使わないのは勿体ないでしょう?」

ベルさんの言葉にそれはそうだけど………と思うも、やっぱり年下とは言え女の子と一緒の部屋に泊まるのは問題がある。

何より後であの二人にバレたら……………何もなかったとしても、恐らく痛い目にあうだろう………あの二人の痛い目は洒落にならない。

しかし、せっかくの厚意、僕からは口を出しにくい………だけど、ここでカノンが嫌だと言えば向こうも無理強いはしないだろう。

ウサリィはともかく、僕とカノンは歳は離れているとは言え一応男女だし。

「カノン様、問題ないでしょうか?」

「え、えっと……………」

ベルさんの言葉にカノンが戸惑いの表情を浮かべながらおろおろしている。

頼むカノン…………!僕のためにも嫌です、と言ってくれ………!

心の中でエールを送っていると、カノンはゆっくり口を開く。

「…………その、クロミネさんのご迷惑になるといけないし…………私は別の部屋でーー」

よし!と思わずガッツポーズを取りそうになるのを慌てて抑える。

カノンも一緒の部屋に泊まるのは抵抗があるみたいだ、良かった良かった、カノンが常識人で。

そう思いながら緊張を解いてると、ベルさんが「そういえばマスターから………」とカノンの耳にゴニョゴニョと何かを呟く。

意識しなければ小声で聞こえないように話してる言葉は聞こえないので、何を話しているんだろう、と疑問に思うが、ベルさんから話を聞き終わると、カノンは何かを決意した顔で

「……………わ、分かりました………!

私、クロミネさんと一緒のお部屋にと、泊まります………!」

「あれえっ!?」

乗り気でなさそうだったカノンがそう宣言したことに、驚いて思わず声を出してしまう。

「か、カノン?」

「はい」

「い、良いの?僕と一緒で?

今回は部屋が一緒なんだよ?」

「だ、大丈夫です…………が、頑張りますから………!」

何を!?とツッコミたかったが、「そろそろよろしいでしょうか?」とベルさんが冷たい声で促してきたので、慌ててそちらへと向き直る。

「ではお二人とも、納得していただけたようなので、問題ありませんね」

「いや、ある!

ある…………けど、やっぱり良いです…………」

反論しようとすると冷たい目で見られたので言葉が尻すぼみになっていく。

うう………こういうタイプの人は少し苦手だ…………。

助けを求めるようにフレーシアとヴァルトにチラッと視線を送るが、ヴァルトは我関せずといった様子で、フレーシアは言いたいけど、ベルさんをチラチラと見て、言い出せないような様子だった、フレーシアもこの受付のお姉さんが苦手らしい。

フレーシアと目が合うとフレーシアは「信じてますわよ!」と言い、逃げるようにギルドの奥へと入っていった、裏切り者っ。

「それでは私は業務に戻ります」

「あ、はい…………ありがとうございました………」

「お気になさらずに、これも仕事ですので。

ああ、それと、クロミネさん、あなた宛にマスターから手紙を預かっています」

「手紙?」

何だろう、報酬は十分貰ってるし、これ以上何かくれるつもりなら返しても良いのだが…………。

「今日は疲れているだろうから夜、部屋ででも読むと良い、だそうです」

「?分かりました」

わざわざ帰って読め、というのは少し引っ掛かったものの、せっかくの厚意だ、ありがたく受け取るとしよう、中にお金が入っているような雰囲気はないし…………何だかこの世界に来てから金のことばかり考えてる気がする。

「それと宿へは顔見せだけでも良いですのでお早めにお願いします。

夕方以降になると、最悪、キャンセル扱いになりますので」

「分かりました」

ベルさんの言葉に頷く。

そうとなれば、受け取るものも受け取ったし、早速宿に行こうか、荷物も置きたいし、ここまで駆け足で戻ってきたから一休みもしたいし。

カノンの問題は宿へ着いてから考えよう……。

「えーと、それでは僕らはここで失礼します」

「はい、どうぞお気をつけて」

「クロミネー!

早速、どこかへ入って何か頼もうよ!」

「お昼にね…………」

ギルドから出ようとした瞬間にくっついてきたウサリィに苦笑する。

ウサリィはぶーぶー言うが、今回の一件でお金のありがたみが分かったのか、前ほどは文句を言わなかった。

お金を無くしたのは偶然だが、結果的には少し良かったかもしれない。

まあウサリィは良い、問題は

「わ、私が頑張らないと…………が、頑張れ私………!」

と、横でぶつぶつ言っているカノンだ。

何を頑張りたいのかは知らないが、さっきからこの調子だ。

「カノン」

「ひゃあい!?」

「うわっ!?

ご、ごめん、そんなに驚くとは思わなくて…………」

耳と尻尾を立てて驚くカノンに思わず謝ると、カノンは慌ててぶんぶん!と首を振った。

「い、いえ………違うんです………!

た、ただ、その……………」

「その?」

「…………や、宿に行くんですよね………!?

は、早く行きまーーきゃあっ!?」

不自然に会話を終わらせ、ギクシャクと足を躓かせながらギルドを出ていくカノンを見ながらますます疑問を深める。

どう考えてもさっきベルさんが何かを耳打ちした時から様子がおかしいけど、一体何を言われたのだろう。

ベルさんは何も言わないし、何の表情も見せないが、何となく、嫌な予感が頭から離れないのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

「すみません、予約していたクロミネですけど、ベルさんの紹介で来ました」

「はい、伺っております。

クロミネ様、カノン様、それと……………あの、ウサリィ様はどちらに…………?」

「ウサリィはこの妖精だよ」

「よ、妖精?

い、いえ、失礼しました。

鍵をお渡しします。

それと…………お手数ですがこちらの機械に手を触れていただけませんか?」

「はい」

「は、はい…………」

「私も?」

「はい、お願いします…………はい、登録完了しました。

それではこちらがお部屋の鍵になります」

受付の人の言う通り、球体状の機械に三人で順番に触れると、受付の人は頷き、部屋の鍵を渡してくれる。

「ありがとうございます」とお礼を言いつつも、もう何度目かになる妖精ウサリィへの扱いに、内心ため息をつく。

しかし、受付の人に限らず、これがこの世界の人達にとっての当たり前なのだろう、余所者の僕がそれにどうこう言う資格はない、気分的には決して良くないとはいえ、お姉さんに悪気はなさそうだしここは我慢だ、と自分に言い聞かし、顔に不快な表情を出さないように気を付けつつ鍵を受け取る。

続けてお姉さんは、食事や風呂はサービスにないため近くの店を利用してほしいこと(どちらも徒歩五分内にあるとのこと)、外に出て戻ってくる際には受付を通ってから戻ってほしい、もし受付を通らず部屋へ行った場合には本人であるかないかに関わらず、拘束するということを伝え仕事へと戻った。

どうやらこの宿の受付には魔法的なセキュリティがかけてあるらしく、受付にある変な機械で登録した人の魔力を記憶しており、受付を通る人をその機械でチェックしているらしい。

それで登録した魔力が一致しなければ、受付にて声をかけさせてもらうとのこと。

名前や姿を魔法で誤魔化し部屋を勝手に使われる心配があるためという説明だった。

まあ姿や人種ぐらいは容易く魔法で変えられる以上、見た目は信用できないため、魔力で本人かどうかを判別する、というのは防犯上必要なことだろう。

魔力は基本的に個人個人によって波長というか、形があり、それは魔法で見た目を変えたとしても変わることはない、元の世界での指紋………いや、DNAが近いかもしれない。

スカウトギルドの厚意で泊めてもらっている宿で迷惑をかけたくない、それは結果的にギルドへの迷惑になる、気を付けないと。

それにしても魔法を用いているとはいえ、妙に技術力の高そうな物が使われているのは、中世のような街並みとは不似合いで少し違和感を感じてしまう、まあ余所者であり部外者そのものの僕に違和感どうの言う資格はないけど。

ともあれ、これでベルさんから言われた宿への顔見せは済んだ、かと言って今から宿で過ごすのも早すぎるし…………どうしようかな、どこか適当にぶらつこうか………。

と悩んでいると、ちょいちょい、と袖が引っ張られ、振り向くとカノンが上目遣いで僕を見ていた。

「どうしたのカノン?」

「あ、あの、クロミネさん…………。

迷惑でなければ………わ、私が………ご案内しましょうか………?」

「え?本当?」

「は、はい…………」

ありがたい提案だったが、まさかカノンから言い出すとは予想外で、思わず聞き返してしまうもカノンは気にせず頷いてくれた。

僕とウサリィではこの辺の観光場所などほとんど分からないのでもちろん断る理由はない。

「じゃあお願いしようかな」

「わ、分かりました…………!」

カノンのちょうど良い申し出に頷くと、カノンは真剣な表情で頷いた。

ちょっと気負い過ぎな気がしなくもないが、気合いの現れということだろう、たぶん大丈夫だ。

そう思いながらカノンと宿を出ようとすると、カノンは閉まったままの扉をそのまま通ろうとしごんっ!と思いきり頭をぶつけた。

「…………~~~っ!!」

「か、カノン?大丈夫?」

「どうして扉を開けずにそのまま出ようとしたの………?」

涙目でぶつけた頭を押さえうずくまるカノンをウサリィと慰めながら、少し不安を抱いてしまうのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

不安を抱きつつ歩くも道中は何も起こらず、最初の目的地に着いた。

そこは今まで見たどの建物より豪奢な作りをしていた。

「カノン、ここは?」

「ここは………領主様の…………お屋敷です…………」

「領主様?

ああ、なるほど」

つまりこの屋敷に住んでいるのは、この街を含め、この辺一帯での最高権力者ということなのだろう。

「りょうしゅさま…………って偉いんでしょ?

勝手に屋敷とか見ても良いの?」

「他の領主様は分かりませんが…………ここの領主様は、大丈夫です。

この街の観光場所にも、なっています」

「へー。

私、りょうしゅさまってもっと偉そうな感じだと思ってた」

「ちょ、ウサリィ」

聞こえようによっては失礼なウサリィの発言を慌てて諌める。

幸い、屋敷の警備をしている騎士達には聞こえなかったようで、ほっと胸を撫で下ろす。

「カノン~私、もっと面白い場所にいきたい~」

「あ、ご、ごめんなさい。

そ、それでは次はこちらに………」

カノンはウサリィの言葉にハッとした顔をして、再び歩き出した。

どことなく暗い表情をしているので、もしかすると、つまらない所に案内してしまった、とか考えているのかもしれない、いや、領主様の屋敷につまらないもどうかと思うけど。

気負わずにカノンにも楽しんでもらいながら案内してくれれば良いんだけど…………と、心の中で呟きながら僕はカノンの後を追うのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

次にカノンが案内してくれたのは、様々な露店が立ち並ぶ通りだった。

というか、前にナメクジスライムとかいう怪しい食べ物を食べた通りだ。

「ここは……………アザゼルでも一番大きい露店通りです………」

「う、うん、そうだねーー」

「というか前に来たよね?」

何やらテンパってるらしいカノンに合わせようと頷くが、飛んでるくせに空気が読めないウサリィがぶち壊した。

そして案の定、カノンはそのことを思い出したのか、目に見えて慌て出した。

「あ…………!

そ、そうですよね、す、すみません…………!

い、今すぐ他の場所へ…………で、でも、遠いのでやっぱりここで先にお食事を…………いえ、やっぱり違う場所で…………!」

「ちょ、落ち着いてストップストップ!

この前来た時はあんまりのんびり見れなかったし、改めて見学させてもらおうかな!」

「わ、私も!

まだ食べてない物も一杯あるし!」

カノンの慌てっぷりを見かね、僕とウサリィでフォローするとカノンは段々と落ち着きを取り戻した。

「よ………良かった………です………。

それでは………おすすめのお店を紹介しますね………」

「う、うん、お願い」

「美味しいお店をお願いね!」

落ち着き、気を取り直したカノンが先導し僕らは人の声と体が溢れる場所を進んでいく。

この街一番の露店通りというだけあって、そこかしこから「いらっしゃーーい!」という呼び込みの声、「お、これ良いな。すみません、これ一つ下さい!」買い物客の声、「ナメクジスライムの肉ひとーーぐわああああっ!?」「ちくしょう!またかっ!?メディック!メディッーーク!!」などなど、人の声で溢れている。

こういう雰囲気は嫌いじゃないけど、さっきから妖精と明らかに身内ではない年下の女の子を連れているせいで、周りの目線が痛い。

この前に来た時よりも人が多いせいで注目度も上がっており、そして注目を集めればーー

「おい、兄ちゃん、良いモン連れてるなぁ?」

ーーーこういう輩が出てくるわけで。

周りの人はとばっちりを避け自然と僕らと距離を置き、その場には僕らと絡んできた男数人が残された。

周りは見てみぬ振り………まあしょうがないか、誰だって面倒事に自分から突っ込みたがりはしないだろうし。

男たちは数で有利だからか、余裕のある態度で話しかけてくる。

「なに、お前には用はねえからよ、有り金とそこの妖精と女の子を置いてってくれればそれで良い、それだけで痛い目に合わなけりゃ安いもんだろ?」

さて…………どうしようか、前みたいに蹴散らすのは簡単だが、すでにこの街の憲兵に目をつけられているしなぁ、これ以上目立ったらこの街にいられなくなるかもしれない、それは避けたいところだ。

かといってのんびりしてると………

「おい、黙ってないで何か言えよ。

それとも俺たちの優しさを無駄にするつもりか?」

有り金と連れを売れという言葉を優しさと勘違いしてるこのアホどもが今にも殴りかかってきそうだしな………どうしようか…………。

と、男たちの言うことを無視しつつ悩んでると、男の一人がついに痺れを切らしたのか、僕に向かって殴りかかかろうと腕を伸ばしてきた。

殴られても龍の体のおかげで頑丈な僕は痛くないし、むしろ先に殴られれば正当防衛の言い訳が立つかもと思い、回避も反撃もしなかったがーー

「へ、ちょいと痛い目に合えば素直になるだろうーー」

「だ、ダメです!!」

「うおっ!?」

そう言いながらドンッ!!と男を突き飛ばしたのはーーなんとカノンだった、カノンの大声とそんな行動を取ったこと両方に驚く。

男はというと、不意の衝撃に体をよろめかせたが、すぐに態勢を立て直し、僕を庇うように立つカノンをギロッと睨み付ける。

男の視線にビクッ、とカノンは一瞬身を震わせるが、その場からは一歩も動こうとはしなかった。

「てめえ…………先に痛い目にあいたいか?ああんっ!?」

「…………く、クロミネさん達に手をだ、出さないで………ください………」

「じゃあてめえが代わりに痛い目にあうってのか?ああ?」

「……………そ、それで気がすむなら…………」

身を震わせながら言うカノンに男は嗜虐心をくすぐられたのか、威圧するようにずいっ、とカノンの前に立つ。

「良い心掛けだ、なら遠慮なく…………」

「ちょ、ちょっと待って」

カノンの予想外の行動に呆気に取られていた僕は、男がカノンを本当に殴ろうとする前に慌てて声をかける、カノンはというと震えながらも頑として僕を守ろうとするのをやめる素振りは見せず、男も僕の言葉を無視し今はカノンに拳を振り上げている。

ええい、しょうがない、今なら殴り飛ばしても女の子を守ったってことで言い訳が立つだろう。

僕はカノンの脇をすり抜け、拳を振りかぶっていた男の顔に拳を叩き込んだ。

男はその一撃で沈み、男の

仲間たちが「てめえっ!?」といきり立つが

「その娘に手を出すなら…………ただじゃ済まさないからね」

「「「ひっ…………!?」」」

男たちを睨み付け、低い声で脅すと男たちは思わずといった様子で一歩二歩後ずさり

「………お、お前ら、帰るぞ!」

「で、でもこのまま舐められたままじゃ………」

「こいつはヤバイ、手を出さない方が良い!行くぞっ!」

その男はリーダー格だったのか、そいつが僕らから逃げるように走ると、他の男たちもそれに追従する。

どうやら、事なきを得たようだ、思ったよりも話の分かる男で助かったな。

騒ぎにならずほっとしていると、後ろから「………また…………役に………立て………なかった」と、小声で呟くのが聞こえ、カノンを振り返ると、カノンは顔を俯かせ落ち込んでいた。

今の言葉、そして今までの行動から察するにどうやらカノンは僕らのお世話をしようとしているらしい。

街中を案内したり、僕を庇ったりして僕らの役に立つことをしようとしていたみたいだ、それは良いんだけど………

「カノン、助けてくれるのは嬉しいんだけど、その、もうちょっとリラックスしても大丈夫だよ?」

「そうだよ、クロミネなんか全然威厳ないし緊張することないって!」

「ウサリィ、悪気はないんだろうけど、ちょっと黙ってね?」

僕らのフォロー(ウサリィはフォローに見せた僕への攻撃)を受けてもカノンの緊張がほどけている様子はなかった。

うーん、もう大分打ち解けてくれてたし、今さら人見知りじゃないだろう、今は分からないな…………。

「…………とにかく、カノン、もっと力を抜いて、それと気負わないようにね。

さっきの時も、もしカノンが怪我でもしたらと、心配だったんだから」

「はい…………すみません………」

カノンがしゅんと耳をうなだらせる、怒られたのかと思ったのかもしれない。

庇ってくれたのは嬉しいし、前なら怯えて動けなかっただろうと思うと、この間の一件で、前に踏み出す勇気が少しはついたということなので、良いことは良いことなんだけど………カノンにはちょっと自己犠牲の気があるというか、他人を助けるために自分のことに対して盲目的になることがあるからちょっと心配だ。

「まあまあ、クロミネもそれぐらいにして、何か食べようよー」

「はいはい、ほら、カノン、行くよ?」

「はい…………」

気を使ってくれたのか、ウサリィの促しに頷きカノンに声をかけて歩き出す。

カノンはどことなく暗い表情ではあるも、僕らについて歩き始めたので、僕もそれ以上は深く考えなかった。

ーーーーこの時、気づけていたらと今は本当に思う。

カノンは僕の想像通り、他人のためなら自分のことに盲目的になる少女でーーー僕の想像以上に行動力があったのだということを。

ーーーーーーーーーーーーー

その後、男たちが特に復讐し返しに来ることもなく、街をカノンの案内でぶらつき、夕方になって夕食と近場の風呂屋に行って疲れを癒した僕たちは、宿に戻ってチェックの後、忘れていた問題を思い出した。

「そういえばカノンと一緒なんだった…………」

僕は渡された一つの鍵を見ながらため息をつく。

全く、厚意はありがたいが余計なことをしてくれたものだ…………。

とりあえず、部屋を見ないと分からないけど最悪床で寝よう、そして明日改めて一人分取れば良い、幸いマスターが多めにつけてくれたおかげで、数日分なら部屋を取っても問題ない。

「私は三人で寝ても良いけどなー。

あ、でも押し潰さないでね?」

「寝ません。

カノンだって僕に取ったら妹みたいなものだけど、女の子なんだから男の僕と寝るのは嫌に決まってるんだから」

「…………あ、その…………私………」

「とにかく、カノンも、ベルさんに何を言われたか分からないけど本気にしたらダメだからね?はい、部屋についたからこの話終わり」

「ぶーぶー、クロミネノリわるーい」

ノリで犯罪者ロリコンのレッテル貼られたくないから、とは口に出しては言わず僕は鍵と同じ番号の部屋の前に立ち、鍵を回す………のではなく扉の前にかざした。

すると扉の真ん中にある水晶が青く輝きガチャッ、と扉のロックが解除された音がした。

青が開錠、赤の状態ならロック状態らしいのでこれで鍵が開いたんだろう、それにしても凄い仕掛けだ、これが民間の宿にあるのだからつくづくこの世界の技術レベルが分からない。

床に寝れるだけのスペースがあると良いな、と思いつつ扉を開けると……………思った通りと言うか、普通のRPG等で見る宿に見えた。

窓と荷物をしまうタンスと、ベッドがちゃんと二つあること以外は……………二つ?

「な、なんだ…………ちゃんと二つあるんじゃないか…………」

思えばベルさんは同じ部屋ですとは言ったが、それ以上は何も言ってない、ただ僕らが同じ部屋=一緒に寝ると勘違いしただけだ。

だがわざわざ誤解させるような言い方や不審な行動を見せた辺り、ベルさんも人が悪い…………知ってたなら教えてくれれば良いのに。

まあよくよく考えれば、いくらマスターの命令といっても本気で女の子と男を一緒に寝させるわけないか…………あー、何か勝手に焦ってたのが恥ずかしい…………。

安堵したからか、一気に押し寄せてきた眠気に抗わず僕は片方のベッドに向かいつつ「ウサリィとカノンはそっちね」と言っておくことも忘れない。

「え?クロミネ、もう寝るの?もっと話しようよー」

「ごめん、また明日ね………お腹一杯でお風呂入ったからもう眠くて………ふああ」

「むう、しょうがないなー。

じゃ、カノン、私たちも寝よ?」

「…………………う、うん………」

「?どうし………そ………おして……………」

ウサリィが何か言っていたが、僕は上着の黒コートをタンス横の上着かけにかけベッドに寝転がり、布団をかぶって数秒で眠りについたのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

早く寝たからか、ふと目が覚めてしまった。

昔から寝た後に、途中で一回は起きるんだよな…………師匠から短くても深く寝る睡眠法も伝授してもらっているけど、戦場や敵地で眠るのでもない限り使わないし………そもそもあれって自然の睡眠を訓練と一種の自己催眠で無理矢理ねじ曲げるような眠り方だからあんまり使いたくない。

あ、睡眠法のことを思い出したら、この睡眠法を獲得するために師匠にやらされた修行思い出した…………確か、山の中でわざと睡眠中に襲ってくる師匠から逃げ回る修行だったな…………うん、やめろ思い出すな僕の脳、それ以上はお互いにとって不幸な結果となるぞ。

それにしてもやけに背中が温かいな、まるで昔よくあったホラー映画を見たクレアがいつの間にか僕の布団に潜り込んでいた時のことを思い出すような温かさだ。

「…………うう………ん………」

寝声のようなものが聞こえ、どうやらカノンも寝ているようだとホッとしーーーいや待った、何か……………すごい近くから聞こえてきたような気がするんだけど?

そう、まるですぐ隣にいるかのごとく近くから……………い、いやいやそんなまさかバカな、せっかく二つベッドがあって寝る前にわざわざそっちねって言ったのにそんなことがあり得るはずが…………ないない、絶対ないってははは。

そう思いつつ、頭を動かして確認しようとすると顔が何かもふもふしたモノに当たり、そして「…………ん…………」とまたもやすぐ隣から声が聞こえた。

顔を向けると視界に最初に耳、視線を下に向けると桜色の髪、そして…………カノンの顔が目に入り僕は思わず

「かっ、カノっ!!!ーーーンっ……………!!!?」

全力で叫ぼうとし、そして今は夜でここは他の人もいる宿なのを思い出して何とかこらえるが、受けた衝撃は中々消えるものではない。

カノンは僕の声が聞こえたのか、「んん…………?」とゆっくりと目を開け、ぱちぱちと瞬きする。

そ、そうだ、きっとカノンは寝ぼけて僕の方に入ったに違いない!それなら教えて向こうへ入るよう促せば良い!

まだ完全に目が覚めてないのか、僕をぼーと見ているカノンへ僕は若干緊張しながら話しかける。

「か、カノン………?

ここは僕のベッドだから、その、向こうのベッドに戻った方が良いよ………?」

「…………あ、クロ………ミネ………さん、ごめんなさい………」

「はい、戻ります」という返事を待っていた僕はカノンが背中にぎゅっと抱きつくのを感じて頭に「!?」を浮かべる。

「その……………わ、私も、は、恥ずかしい…………です、けど…………でも、頑張ります、から……………」

「は、え、ちょ、ごめん待って待って!?

何が何だか分からないんだけどっ!?」

できる限り声量を抑えつつ、それでも困惑を隠しきれず問うとカノンは

「だ…………だって………クロミネさんを…………お世話しないと…………。

男の人は…………こういうのが、お好き、なんですよね…………?

私……………今日はあんまり、お役に………立てませんでしたが、ベルさんに教えていただいたこの方法なら…………きっとクロミネさんも…………喜んでくださるはずです………!

ギルドの代表として…………クロミネさんへの“お礼”、が、頑張らないと………!」

そう言い、さらに身を寄せるカノンの言葉を聞いてーーーー僕は何故、カノンがこんな行動に走ったのか理解した、同時にベルさんがあの時、カノンに何を言ったかも。

恐らく、カノンにギルドの代表としてお礼に僕のお世話をしなさい、と言われたのだろう、そしてどういうことをすれば僕が喜ぶのかもあれこれ吹き込んだに違いない、冗談だったのかは分からないがカノンはそれを真面目に受け、ギルドの代表として僕らをもてなそうと必死だったーーーのが今日の行動の数々…………ということだろう。

しかし腑に落ちないのは何よりベルさんだ、こんなことをするような人には見えなかったけどーーふとポケットに入れていたベルさんに後で見ろと言われた手紙を思い出して開くと

『なお、これら全てはマスターの指示によるものでございます。私はただの事務員ですのでアレでもマスターのご命令には逆らえませんのでご容赦のほどを』

ーーといった内容が書かれていた。

…………なるほど、元凶はあのジジイか…………帰ってきたらちょっと痛い目にあってもらおう…………。

僕が一つの覚悟を決めている間にもカノンはぎゅうと抱きついたまま離れない…………時折緊張からか耳がピクピク動く以外は。

どう見ても無理しているのは誰が見ても明らかだが、真面目なカノンはやめようとはしないだろう、だから僕は、俺は「ごめんな」と小さく呟き

「眠龍の誘いよ」

「…………あ………」

魔法でカノンを眠らせ、そっと元のベッドに戻した。

自分のベッドに戻りつつ

「全く、一歩間違えば取り返しがつかないことになってるというのに、何考えてるのやら」

と小声でマスターへの文句を言いながら寝転がる。

さっきまでカノンがいた場所は温かく、そして仄かに甘い香りが残っている。

「………………僕は犯罪者ロリコンじゃない、違う、違うんだ千歳、ミラ…………」

言いながらあ、でも千歳はギリアウトかな…………と思いつつ僕は目を閉じた。

ーーーーちなみにーーーー

「……………と、今のが私の固有魔法で召喚した使い魔で見た一部始終です」

「あ、ああああの男ぉ…………!!!

かかかカノンに手を出すとは許すまじ…………ですわあっ!!」

「…………マスターはちょっとしたお茶目と言ってましたが、帰ってきたらイタズラのお仕置きでは済まないでしょうね。まあ自業自得なのでどうでも良いですが」

ーーーーー朝ーーーーー

「この変態ロリコン変態ロリコン変態ロリコン死ね!ですわあっ!!」

「ちょ、まっ、は、刃物は!?

刃物は傷がつくからダメだって!?」

「くっ!普通のクナイでは刃が通らない………!!

ならばとっておきを出しますわ!」

「あああああああそんな細く鋭いもの投げたら部屋がああああああああっ!?」

「……………何で二人とも朝から戦闘してるの?」

「………ふ、フレーシアさん………クロミネ…………さん、お、お部屋が…………!」

……………………駆け込んできた宿の人に土下座しまくって、フレーシアと折半で修理費を出して許してもらったとさ。

おのれ絶対に許さん……!!!

ーーーーーENDーーーーー

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