16 裏
「あ、クロミネ起きた?
大丈夫?どっか痛いとこはない?」
起きてすぐ、ウサリィがぱたぱたと飛んできて僕にそう言った。
僕はウサリィに「うん、大丈夫」と言いつつ起き上がる。
そろそろ悲しいことにも気絶にも慣れてきた、まあ体の節々は痛いが。
「クロミネ、今回は長かったね。
あのおかしい人、そんなに強かったの?」
「まあ強かったというか、何というか…………何日ぐらい寝てた?」
「一週間」
「…………………」
ウサリィの言葉に思わず黙り込んでしまう僕。
「……………それマジ?」
「うん、皆でこのまま眼を覚まさなかったらどうしよう、って心配してたんだからね?」
どうやらあの戦い、それとこれまでの連戦で相当無理をしていたみたいだ。
そのせいで、皆にも迷惑をかけてしまった。
「…………心配かけてごめん」
「そんな辛気くさい顔をしないの。
それよりお腹減ったでしょ?
今、カノン達が買い物に出てるからもう少し待ってね」
ウサリィに言われふと気がつくと、思い出したかのように空腹を感じてきた。
まあ体のおかげで少々飲み食いせずとも死ぬことはないが、一週間も飲まず食わずならそれなりに腹も空く。
意識を取り戻したばかりからか、体も動きが鈍いし、お言葉に甘えて待つとしよう。
「それよりクロミネ、もう話しても大丈夫?」
「うん、慣れた…………と言うとちょっと変な感じだけど、話するぐらいなら全く問題ないよ。
そういえばここどこ?」
「ギルドの宿舎だよ。
タダで貸してくれてるんだって」
それはありがたい、何せ手持ちに余裕は全くと言っていいほどないから…………。
「クロミネ大丈夫そうだし、
カノン達が戻ってくるまで私と話そうよ。
私も掃除が終わって暇なんだ~」
「それはいいけど、何の話?」
「うーん………そうだ、この間のチトセとミラの話してよ」
「えー…………」
僕はウサリィの言葉を聞いて思いっきり嫌な顔をした。
それはウサリィが二人の話を聞きたがる時は、大抵僕と二人との恋愛話を聞きたがるからだ。
自分の恋愛を人に聞かせるのはやはり恥ずかしいし、あまり二人のことを話すと、バレた後が怖い。
ウサリィは嫌な顔をした僕に違うというように首を振る。
「今日は恋愛話じゃないよ」
「じゃあ二人の何を話すの?」
「私、その二人のこと知りたいな。
よくよく考えたらクロミネとの恋ばなばっかりで、二人のこと全然聞いてなかったんだよね。
だからその二人のこと聞かせてよ」
「うーん…………そのぐらいなら、まあ…………」
勝手に話して良いものか少し迷ったが、話すことにした。
恋愛話よりマシだし………それに二人とウサリィが会うこともないしね。
僕はカノン達が帰って来るまで、ウサリィに二人の話をするのだった。
「まず見た目だけど………」
ーーーーー街中ーーーーーー
「全く、何で私があの男のためにわざわざ買い物をしてあげないといけないのかしら!」
「お、落ち着いてください………フレーシアさん…………」
カノンとフレーシアは未だ昏睡状態のままのクロミネのために医療品等を買うため、街へ二人で出ていた。
ヴァルトは先日の依頼の報告などの後始末があるらしく、最近は忙しそうにここのギルドへ顔を出しており、だから女二人で買い物をしているのだが、フレーシアはここ数日はクロミネへの愚痴ばかり言っていた。
一見、面倒をかけるクロミネに怒っているように見えるが、ここ数日のフレーシアの様子を知っているカノンはフレーシアの本心が全く違うことは分かっていた。
「…………クロミネさん、中々起きないから心配なんですよね?」
「なっ!?ななな、何を言ってるのかしらこの子は!」
カノンの言葉に目に見えて動揺するフレーシア。
フレーシアは態度は厳しいが、仲間には優しい人だ。
目の前で倒れ、一週間も意識を覚まさないクロミネを心配しているのは、カノンだけでなくウサリィやヴァルトまでもが分かっていた。
本当に面倒と思っているなら、毎日クロミネの元へ行き起きているか顔を確認しには行かないし、目が覚めてない度に「…………早く目を覚ましなさい、私を助けて死んだなんて許しませんわよ」と言ってるのもカノン達には周知の事実だった。
フレーシアは動揺を隠すようにごほん、と咳払いをして、「そ、そういえば」と話題を変える。
「カノン、お姉さんとは仲良くしてますの?」
「…………お姉ちゃんは、旅に出てて…………時々手紙が来ますけど今はとある人に弟子入りしたそうです………」
「あの“疾風の太刀”が弟子入り!?
ど、どんな方なのでしょう…………」
「前の龍襲撃の時、一人で龍を撃退した………」
「ああ!クレア様ですわね!
あの方なら確かに納得ですわ!
何せ、あの方は全滅した私達ギルドのメンバーを庇い、お一人で龍を撃退したお方!
龍のブレスや龍魔法を打ち砕き、そして最後は龍の顔にパンチを決め、見事龍を撃退した方ですもの!」
クレアのことを熱く語り始めたフレーシアに、カノンがおずおずと声をかける。
「あの…………フレーシアさん…………」
「何かしらカノン?」
「その………クレアさんのことを…………尊敬してるのですか?」
「当たり前ですわ。
その勇猛さ、私達を見捨てなかった優しさ、そして一見、そんな実力を感じさせないほど可愛らしい容姿、どれを取っても私が尊敬するに値する人物ですもの!」
フレーシアは目をキラキラさせながらクレアがいかに優れた人物かを話す。
「(…………フレーシアさんがこんな風に人のことを話すの初めて聞いた…………)」
カノンは、今までならあり得なかった光景に、思わず笑みを溢す。
するとそれを見て、自分のことを笑われたと勘違いしたフレーシアが口を尖らせる。
「…………カノン、貴女私を馬鹿にするとは良い度胸してますわね」
「えっ?い、いえ…………ち、違います………これはそういうのではなくて………!」
慌てて否定するカノン、もちろん二人とも本気で怒ってないなどないし、それは分かっている。
いわゆるじゃれ合いだ。
「全く…………人のことを言ってる場合かしら?
貴女だってあの男のことになると私と同じ…………どころか、もっと特別な感情を抱いているように見えますけど?」
「…………?」
カノンは一瞬誰のことか分からず首を傾げるが、すぐにフレーシアの言うあの男が誰を指しているかを理解し、顔を真っ赤にさせる。
「ち、違います…………!!
く、クロミネさんは本当に凄いから…………凄いんです………!!
だから…………そういうのじゃなくて………!!」
「はいはい、分かってます分かってます。
そもそも私はあの男の名は一言も出してませんわよ?」
「あ…………!
うう~……………!!」
顔を赤くさせ黙り込んだカノンにフレーシアは苦笑する。
ーーーその態度ではどう思っているのか逆にバレバレですわよ。
フレーシアはその言葉を心中に留めておき、カノンを促して歩こうとする、が
トンッ
「………おい、嬢ちゃん、今俺にぶつかったぞ」
「………え?………ご、ごめんなさい…………」
「おいおい、女の子はいじめんなよ。
お、結構可愛いじゃねえか」
「どうする?ぶつかった詫びにちょっと付き合ってもらおっかなぁ」
「お、それ良いね!
ぶつかった詫びだから断るなんてしないだろうしな!」
軽くかすっただけの男がカノンに絡み、それに周りの男達が追従する。
どう見てもカノンに当たってきたのは男の方だと、見ていて気づいていたフレーシアはカノンと男達の間に素早く入った。
そのあからさまに邪魔するような行動に男達は眉をひそめる。
「あ?何だお前は」
「もしかして君も俺たちと遊びたいのかい?」
「寝言は寝て言いなさいな三下さん達。
この子にとって害悪でしかないのでさっさとこの子の半径五百メートル以内から消えてくださいます?」
「「「ああっ!!?」」」
フレーシアの毒舌に男達は一斉に声を荒げ、カノンは慌ててフレーシアを止めようとするが
「そもそも貴女達のような名前もないようなモブキャラがこの子に声をかけること自体がおかしいのです。
身の程を弁えなさいな」
「「「て、てめえ…………!!」」」
「(…………おろおろ)」
更なるフレーシアの毒舌に完全に怒り出す男達と、事態が収集できない方向へ動き出し、カノンは困ったようにフレーシアと男達との間で視線を交差させる。
「くそ、リーダー!
リーダーお願いします!」
一人の男がそう呼ぶのに答え出てきたのは、見た目は映画などで真っ先に主人公にやられそうな強面だが、どこか三下臭がする男だった。
そのリーダー格っぽい男は「くそ、せっかくあの生き埋め女から逃れてこの街に来たのに、また変なのに絡まれちまった」とぼやきつつ前に出る。
「おい、俺はAランクハンターのガルドス様だ。
確かに調子に乗ったこいつらも悪いが、あんたも言い過ぎじゃねえか?
騒ぎになってもマズイし、ここはお互い、ごめんなさいしておしまいにーー」
「私が?貴方達のような名前すら適当につけられたような者に謝る?
本気で仰ってるなら酷い侮辱ですわ」
と、その顔に似合わず、冷静で真っ当な提案をした男を一蹴する。
男が顔を引きつらせる間にもフレーシアはさらに言う。
「そもそも、最初にぶつかってきたのは貴方達。
その上、その汚わらしい手で、この子を無理矢理連れ去ろうとしたのですもの。
そちらが土下座百回でもして許しを乞うべきではなくて?」
「殺せぇっ!!!」
流石にぶちギレたリーダー格の男の怒号に男達がわー!と掴みかかる、が
「これだから単細胞な男は嫌いなんです、の!」
実力者であるフレーシアは足払いや投げを駆使して、男達を難なく退けていく。
「ちっ!この女やるぞ!」
「あらあら、女一人に情けないですわね。
もう終わりかしら?」
フレーシアは男達を挑発するように嘲った。
それに悔しそうな顔をする男だが
「ん?おーい、ガルドス、何やってんだぁ?」
「喧嘩か?なら手伝うぜ」
「おいおい、相手は女かよ」
と言いながら、近くの店から大量の男達が出てきたことで、表情が真逆になる。
ハンター仲間であるらしい男達と一緒に囲みながらガルドスは不敵に笑った。
「おい、今なら土下座二百回で許してやるぞ?
もちろん、その後迷惑料と、こいつらの慰謝料は払ってもらうけどな!」
「くっ…………この卑怯もの!」
「はっはっはっ、何とでも言え。
…………つーか、今回俺悪くないよな?な?」
悔しそうに歯軋りするフレーシアと、何故か納得できないように首を傾げつつも場の雰囲気で勝ち誇る男。
フレーシアはちらっと周りを見回すが、辺りの人は遠巻きに囲んで様子を見守るだけで助けてくれそうな雰囲気はない。
というかぶっちゃけ、周りを囲まれていると逃げにくいので邪魔ですらあった。
「でも貴女だけは無事に逃がしますから。
だから心配しなくて良いですわよ」
「え…………えと、その…………」
フレーシアは未だ事態に付いていけず狼狽えているカノンを安心させるように声をかける。
そして男達に向き直り、隠し持っていたロープ付きのナイフを取り出し構える。
「さあ来なさい!
この子には指一本触れさせませんわよ!」
「上等だ!やっちまえてめえら!」
「「「「おおーーー!」」」
先にいた男達は好き放題言われた怨念を込め、後から来た男達は理由は分からないがとりあえず叫びつつフレーシア達に近づく。
そして最初の男がフレーシアに攻撃しようとした、その時
「はあああ!」
と、誰かの気合の籠った声とともに、男の体がふわりと浮き、直後地面に凄まじい勢いで叩きつけられた。
「げふうーーー!!?」
「な、なんだ!?」
突然の光景に男達は思わず立ち止まり、フレーシアも動きを止める。
「全く、大の男が寄ってたかって女二人に情けないわね」
投げ飛ばされた男が立っていたところには、いつの間にか一人の女が立っていた。
赤い髪の毛を短く、肩で揃えたショートカット、動きやすいようにかスカートの下からはアンダースコートが覗いている。
顔立ちは整っており、目は好奇心旺盛な性格を表すかのように猫のような目をしているが、今はその顔は、男達に対する怒りを表すかのように目がつり上がっていた。
「てめえ、いきなりしゃしゃり出てきてんじゃねえ!」
男の一人がそう言って赤髪の女に掴みかかるが、女は男の腕を掴むと
「えーい!」
と先程の男のように、殴ってきた男の勢いを利用し投げて地面に叩きつけた。
気絶した仲間を見て男達は一瞬躊躇するが、すぐに突撃を開始する。
だが赤髪の女は汗一つかかず、かかってきた男達をまさにちぎっては投げ、ちぎっては投げの活躍で、男達に触れさせもしない。
フレーシアも突然の乱入に驚くが、彼女が味方だと分かると加勢し、次々と数を減らしていく。
「くっ……………!
おい、そのガキを狙え!」
予想外の戦況に焦った男は、一番弱そうなのを人質にすることにしたようだ。
「カノン!逃げなさい!」
「ふ、フレーシアさーきゃあっ!?」
「カノン!貴方、薄汚い手で触るんじゃありませんわ!!」
「何とでも言え!
ただし、動くなよ、動いたらこの可愛い嬢ちゃんの耳が無くなることになるからな」
男はカノンの耳、獣のようにピンと立っている耳にナイフを突きつけて二人を脅した。
フレーシアには効果覿面、もう一人も人質が取られては、と大人しく両手を上げた。
生き残った男達がぞろぞろと二人を取り囲む。
「くそ、散々やってくれやがって!」
「調子に乗りやがって」
「泣いてすがりつけ、そしたら許してやるよ!」
取り囲んだ男達は散々ボコボコにされたのもあって、怒りがメーターを振り切れそうなぐらい怒っていた。
このままでは殴れそうなぐらい険悪な雰囲気の中、赤髪の女はにやっと不敵に笑った。
「ああ?お前、何笑ってんだ?」
「ごめんね、過去悪が勝った試しはないのよ」
「はあ?何を言ってーー」
「…………その通り」
「っっっ!!?」
カノンを人質に取っていた男は突如、後ろから聞こえてきた声に驚き振り返るがガンッ!と顔の先にあった杖に顔を勢いのままぶつけ、顔を押さえて悶絶し始める。
「またか…………!?
くそが、次から次へと何なんだ!?」
リーダー格ガルドスと名乗った男は声が聞こえた方へ顔を向ける。
釣られてカノンも後ろを振り返ると、そこには銀色の長い髪を腰まで伸ばし、杖を持ち魔法使いのような白いローブを着た女がいた。
銀髪に劣らぬ整った顔立ちをしており、髪の色に映える碧眼と合わさって、十人いれば十人が振り返る幻想的な美しさを醸し出していた。
背は低く、一見子供のように見えるが、その落ち着いた雰囲気と、この状況下でも焦りが全くない静かな話し方は、ただの女の子ではないことを感じさせる。
「千歳!遅かったじゃない!」
「…………ミラが早すぎるだけ。
………テレポート使わないで走るのは疲れる………」
赤髪の女と銀髪の女はそう言葉をかわし合う。
どうやら知り合いのようだが、悠長に話す暇はなさそうだった。
「くそ、どいつもこいつも舐めやがって!
なら見せてやるよ、俺がAランクまで上り詰めた実力ってやつをーーーーー!!」
「エアストライク」
パコン
リーダー格の男がそんなことを叫んでいる間に、銀髪の女は風の塊を男の頭にぶつけた。
バタン!と男は技の一つも使うことなく気絶して、地面に転がった。
「て、てめえ!ガルドスの見せ場を潰しやがって!」
「こういう時は言い終わるまで攻撃しないのがお約束だろ!?」
「…………そんなお約束知らない」
銀髪の女は口々に叫ぶ男達に冷静に返し、魔法を発動させるために杖を構え、魔力を込め始める。
その込められた魔力に男達は一斉に身の危険を感じ「ちょ、待て!?」と叫ぶが
「ストーム」
構わず発動させた魔法で男達は嵐に呑み込まれ、空高く舞い上げられた後、地面に次々と叩きつけられる。
威力と範囲を押さえ、周りの店や家に被害がいかないようにしてるとは言え、その威力は凄まじく近くにあった物は軒並み一緒に吹き飛ばされていた。
銀髪の女は首を傾げ「………ちょっと、やり過ぎた?」と小声で呟く。
男達は威力を抑えたのと、元々の体力が高いのが幸いしたのか、目立った怪我もなく気絶だけで済んでいるようだった。
「おい!何の騒ぎだこれは!?」
その時、騒ぎを聞きつけてやって来た憲兵達は、通りの惨状に一斉に目を丸くする。
「おい、何があった!?」
「ええと…………あの獣人の女の子に男達が絡んで、それをあの女の人が毒舌で挑発して、あの三下みたいな顔の人が止めようとしたけど、さらにあの女の人が挑発して、喧嘩が始まって、そしてあの赤い髪の女の人が助けに来て、その後あの銀髪の女の人が魔法をここでぶっ放したんです」
民間人の一人に話を聞いた憲兵は訳の分からない状況に頭を抱えた後
「………………貴様ら全員、連行する!!
大人しく付いてこい!!」
「「「え?」」」
まとめて一緒に連行することにした。
憲兵達は何故連行されるのか分からないといった顔をしている、フレーシアや赤い髪の女や銀髪の女と、気絶した男達を抱え、署まで連行するのだった。
一人、子供だからか残されたカノンはしばらく呆然としていたが
「あ…………!
お、追いかけて誤解を解かないと…………!」
ハッと我に返り、慌てて後を追ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
「……………というわけで、その二人は今や、炎の魔法と古武術を組み合わせて戦う魔法拳士として、もう一人はほぼ全ての魔法を扱い、そして今なお新しい魔法を研究する大魔法師として、それぞれ世界的に有名になったんだ」
「すごーい!」
僕がミラと千歳のことを話し終わるとウサリィは目をキラキラさせて感動していた。
自分のことではないにしろ、二人のことが褒められるのは純粋に嬉しい。
二人の話をしていると久々に会いたくなるが、ここは異世界、僕はともかく二人が来れるような所ではない。
僕が少し寂しい気持ちになっているとウサリィが「そういえば」と口を開く。
「クロミネは向こうの世界では何をしてる人なの?」
「………………」
ウサリィの質問に、僕はベッドに寝転んで、頭から布団を被った。
「ちょっと、何で聞こえないフリするのよ!
クロミネはあれだけ強いんだし、元の世界では世界を救った英雄なんでしょ?
ミラとチトセみたいに凄い職業についてるんじゃないの?」
ウサリィがゆさゆさと体を揺すってくるので仕方なく起きて質問に答える。
「…………何も」
「え?」
「僕はこれといった職業についてないんだ」
僕の言葉を聞いたウサリィはびっくりした顔をし
「それってもしかしてニー…………」
「違う!待って、言い訳になるかもしれないけど聞いて!
僕は一応、向こうの世界では英雄だし、龍の力を使えるけど、強力すぎてモンスター退治ぐらいでしか使えないし、かといって他の人に教えられるようなものでもないから千歳みたいに研究者にもなれないんだ!
おまけに向こうではもう、モンスターを増やすような人はあまりいないからモンスター退治もそんなにある訳じゃないし!」
ウサリィは僕の勢いに引き気味に聞いていたが
「じゃ、じゃあ他の人もクロミネみたいな人が多いの?」
「っっっっっ!!?」
ウサリィの一言に僕は糸の切れた人形のごとく脱力し黙り込んだ。
「く、クロミネ?」
「……………但馬は軍の師団長になったし、海斗は戦場カメラマンとして活躍してるし、凛は家に戻って家督継いだし…………どうせ僕だけだよ…………何にもついてないの…………」
「ま、まあまあ。
そんなに落ち込まないで、よしよし」
僕は自分の手のひらほどの大きさのウサリィに慰められつつ、何とか気分を落ち着かせる。
「…………一応、僕はクレアの守護者として契約したから、普段は神界と呼ばれるところで、クレアの世話をしたり、クレアの管理してる世界で問題が起きたら解決したりしてるんだ」
「どういう問題を解決してるの?」
「色々だね。
その世界に本来、あるべきでない物や、人、それとモンスターを人知れず回収破壊したりとか、あと他の管理者………神様が暇をもて余して、クレアにちょっかいを出してきた時に力で説得するとか」
ちょっかいというのが様々で、クレア本人にイタズラしたりするのはまだしも、クレアの管理してる世界に勝手に自分の世界からモンスターを送り込んだり、物理法則などのルールを書き換えたりするような、割りと洒落にならないことを平気でする、それもこるも全部暇潰しというのだから頭が痛くなる。
「な、何だかスケールが大きいのか小さいのか分からなくなるよ…………」
「あの人たち、力は持ってるけど基本的に何もしてないから…………」
その暇潰しに人間の僕や、神様として新人のクレアが付き合わされているわけだが。
そんな話をしていると
『帰りましたわ…………』
『…………ただいまです…………』
壁一枚隔てた向こうからカノンたちの声が聞こえてきた、でも何故だろう、何だかとても疲れてる様子に見えるけど。
二人の足音は僕のいる部屋の前まで来て、そしてノックの後扉が開く。
そして二人は起きている僕を見て同時に「あ…………」と声を漏らす。
「お、起きていたんですの?」
「うん、二人にも心配かけちゃったね、ごめん」
「い、いえ…………クロミネさん、良かったです…………!」
「ふ、ふん、悪運の強い男ですわね!」
カノンは喜んでくれるが、フレーシアは怒ったように言ってそっぽを向いた。
ウサリィから聞いた話だと、僕と信長さんのことはカノンとウサリィが上手く誤魔化してヴァルトと二人、納得したと聞いていたが、まだ心を開いてくれたわけではないらしい。
「お帰りー。
それにしても二人とも、何だか疲れてるようだけどどうしたの?」
ウサリィも僕と同じことを思ったようだ。
二人は顔を見合わせ、そしてフレーシアが口を開いた。
「それが腹立つんですのよ!
私はカノンに絡んだ男どもを追い払おうとしただけなのに、あの頭の固いお役人、「君も無闇に挑発しないで人の話をちゃんと聞こうね?」と頭のおかしいことを言うんですの!」
「…………えーと、最初から説明してくれる?」
フレーシアは興奮して話ができないのでカノンが説明する。
カノンの説明が終わると、フレーシアが「私は悪くないでしょう!?」と言ってくる、うん。
「いや、どう考えても言い過ぎでしょ…………」
「鎮火しかけてた火に油をわざわざ注いでるよね…………」
僕とウサリィはドン引きしていた。
「な、何故ですの!?」
フレーシアは一人、ショックを受けているが、十人聞いても十人同じことを思うと思う、例え相手が最初に絡んできたとしても流石に言い過ぎである。
僕は理解してもらえず拗ねているフレーシアに絡まれないように目をそらしつつ、カノンに「そういえば」とさっき気になったことを聞く。
「その、助けてくれた二人?はその後どうしたの?」
「…………人を探しているみたいで…………憲兵さんに釈放された後すぐにどこかへ行きました…………」
「その探し人に怒っていたようですわね。
『全く、あのバカのせいで危うく前科者じゃないの!』とか」
「それ八つ当たりって言うんじゃないかな………」
その探し人が会うなり怒られないことを祈ってしまう、何だか他人事だと思えないし。
「………でも、綺麗な人たちでした」
「そうですわね。
おまけに腕も相当立つようでしたわ」
カノンの言葉に若干ズレたことを言いながらも頷くフレーシア。
「へ~、どんな人たちだったの?」
ウサリィが聞くとフレーシアが
「一人は赤い髪の活発そうな方でしたわ。
こう、髪をこの辺で切っていて、スカートの下にズボンのような物を履いていましたの」
フレーシアは手を肩にやりながら髪の長さを表す。
何だかその長さ、知り合いと一緒ぐらいだなぁ、と思っていると
「そしてその方は、屈強そうな男達を物ともせず、次々と投げ飛ばしていましたわ。
こんな感じで………」
フレーシアはその動きを再現してるのか、手と足を動かし始める。
「……………ん?」
「どうしたのクロミネ?」
「…………い、いや、何でもないよ」
つい声を漏らした僕に聞いてきたウサリィに慌てて手を振る。
声を出してしまったのは、赤髪、髪の長さと、活発そうな印象、そして何よりフレーシアが見せた動きが、僕のいた世界で古武術、と呼ばれるものに似ていたためだ。
それらの条件に当てはまる僕の知ってる人に一人いるが……………いや、まさかそんなことはないよね、だってここ異世界だし。
たまたま似てる人がいただけだろう、そうに違いない。
「ねえねえ、もう一人は?」
「…………長い銀髪の方で…………杖を持ってました………。
…………あと背が低くて………静かな方でした………」
「そういえば、あの方が使っていた魔法、ここらでは聞いたことのない魔法でしたね。
あの赤髪の方の武術も見慣れないものでしたし、あの二人は外国人かもしれません」
「ええっ!?外国人!?
良いなぁ~この辺滅多に外国人来ないから私も見たかったよ~」
三人がわいわいと話す中、僕はあまりにも信じられない状況にフリーズしていた。
まさかあの二人が…………いや、そんなはずはない、よね…………?
何と言ったって、この世界と元の世界との通行手段がないのだ、それこそ神と同じ領域にでも立たない限り。
……………でもあの二人なら何だかやりそうな気がする、もし二人に会えるならそれは嬉しいが、それより気がかりなのは………
「(二人との出会いとか告白のこととか話したって言ったら絶対怒るよね…………)」
二人に会った時、僕が五体満足でいられるかどうか、だった。
身震いした体を押さえつつ、僕は空腹を満たすために、皆に食事の提案をするべく声をかけるのだった。
ーーーーーENDーーーーー




