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くじ引き転生  作者: ブラックシュミット
26/32

17

俺の名前は神風連夜。

日本に住む普通の高校生だった俺は何やかんやあり、異世界に転生し、何やかんやあって死にかけたり魔法で焦がされたり、痺れさせられたり色々あった。

そして終いにはゲームやアニメの世界でお馴染みの、龍や吸血鬼と呼ばれる存在と戦うことになり、死にかけたがどうにか生き残って、吸血鬼戦では俺の機転によって撃退し、その報酬で大金が手に入ってやっと地に足をつけて悠々と暮らせると思っていた。

そんな俺は今…………

「金だ、金になるクエストをやりに行こう!!」

と、ギルドで悲痛な叫びを仲間達に漏らしていた。

そんな俺の言葉に原因の一端であるクレアは顔をそらして食い物をもぐもぐさせ、レイアはどうでも良さそうな顔をし、ミリィは小さく欠伸をし、アルティアはコーヒーみたいな黒くて苦い飲み物を飲みつつこの世界での新聞のようなものを読んでいる。

………………

「お前ら、やる気無さすぎだろ…………」

「だってレンヤは生活に困ってるわけじゃないもの。

自分で自由に使いたいためのお金稼ぎでしょ?」

「う……………」

いきなりアルティアに正論を言われ、たじろぎそうになるが、何とか反論する。

「ほ………ほら、いきなり金が入り用になる時があるかもしれないだろ?

その時に纏まった金がないと…………」

「その時は私が貸してあげるわよ。

返す気があるなら返してくれれば良いし、返さなくても別に良いわ」

「ぐ…………」

アルティアの言葉に思わずそれで良いや、と思ってしまった自分を叱咤する。

しっかりしろ!俺は第三者から見てヒモとしか、しかも見た目年端もいかないような女の子に貢がせているとしか思えない今の状況を脱すると決めただろ!

男として、も勿論だが、今までの経験上、絶対にこの状況が原因で面倒くさいことが起こるから!

「い、いや、いつまでもお前に迷惑はかけられないし。

それに自立した生活をするのは人として当然でーー」

そこまで言って黙り込んだ俺はごはっと吐血した。

「れ、レンヤ!?

いきなりどうしたのよ!?」

「あー…………これは拒否反応………というか、昔の自分を思い返してダメージが入ってますね………。

放っておいても大丈夫と思います」

「そ、そう…………。

まあ、と、とにかく、特に切迫した理由がない限り私は手伝わないわよ」

…………どうやらアルティアに手伝ってもらうには、お前がガキみたいな容姿だからお金を出してもらうことに俺が罪悪感を感じるんです、と言えということらしい。

…………言えるか!

俺はアルティアからレイアに視線を移す。

「な、なあレイーー」

「私も手伝わんぞ」

「な、何で!?

お前は厳しいことを言いつつも何だかんだ手伝ってくれると信じてたのに!」

「か、勝手に信じるな!

あいにく私はお前の手伝いをしているほど暇じゃない。

早くクレア殿と並び立つような剛の者になるという目標がある」

お前はもう並ぶどころか、指先一つでそいつを倒せるぞ、と言いたいのをぐっと我慢する。

どうやらレイアは最近俺ですら忘れかけていた当初の目標を思い出したらしい。

ちっ、しょうがない………ならば

「ミリィ、いやミリィ様。

何とぞお慈悲を…………!」

「うわ、年下の女の子に本気で頭下げてるわ」

「れ、連夜、周りの人が凄い目で見てますよ」

外野がごちゃごちゃうるさいが無視し、俺はミリィの反応を少し顔を上げて窺う。

「………………」

「あのー…………ミリィさん?」

流石におかしいと思い、顔をあげてミリィを見た俺は、思わずミリィの髪を引っ張ろうとしてクレアに止められる。

「れ、連夜!

流石にミリィちゃんが可哀想なのでやめてください!」

「うるせー!

まさか寝てやがるとは!

恥を忍んで頭を下げた俺の誠意を返せーー!」

俺は暴れるが、レイアが加勢に入ろうとしたので抵抗をやめ、大人しく椅子に座る。

あいつが出張ってくると、大人しくさせるために刀の峰か柄で殴られるのは想像するに難くない。

後ろでは俺を押さえててぜーぜー言ってるクレアが恨みのこもった目で俺を睨み付けているが無視する。

「話はそれだけ?

それじゃ、私は溜まってるクエストがあるから行くわよ」

アルティアは今回の依頼兼旅行で、指名のクエストがそれなりに溜まっているらしく、その依頼を片付けるべくここ数日は忙しそうにしている。

「そうそう、今教会から司祭様がこの街にいらしてるから、くれぐれも失礼なことしないようにね」

ギルドを出る前にアルティアはそう言ってクエストへと出掛けていった。

教会の司祭か…………俺はマーガレットを思い出し、身をぶるっと震わせてから気を取り直すようにレイアに再度声をかけてみる。

「………………それでレイーー」

「ふむ、私もアルティア殿ほどではないが、クエストが溜まっていたな。

修行がてら、クエストをこなしに行くか」

レイアの方を振り向こうとして、そう呟いているのが聞こえた俺はぐるっと頭を正面に戻した。

あいつがクエストをこなす、ではなく、修行とか言い出した時は関わらないのが一番だ。

何故だかあいつは修行に人を巻き込むのが好きだからな、おまけに能力関係なく修行を課すからぶっちゃけキツい。

幸い、今回は一人で行くつもりみたいだし、下手に声をかけて修行に巻き込まれるのは勘弁願いたい。

となると後は…………

「すう…………すう………」

「レンヤ、その、私にも責任がありますから手伝いますよ。

あ、この、トゲウオの群れ五十匹の討伐とかどうですか?。

魚ですし私たちでも勝てますよ、きっと!」

これだけ騒いでも一人寝てるマイペース反転娘と、Aランクと書いてあるのが見えないらしいダメ神を見て、今日も俺の個人的資産を貯めるためのクエストを諦めたのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

「は~…………分かってはいたが、やっぱりダメだったか…………」

俺はとある食堂で、酸味のあるジュースを飲みながらため息をついた。

ダメとは、さっきのやり取りである。

「やっぱり切実な状況じゃないと動いてくれないか………」

俺は呟き、ぐいっとジュースを飲んでお代わりをする。

確かに今俺は、アルティアの家に住み、ギルドの宿もアルティアの金で借りてもらい、食事代なども大体はアルティア達と一緒に食べるときにアルティアかレイアが出してくれているので、生活に困っている訳じゃない。

むしろ、第三者から見たら羨む状況だろう。

そんな状態で「金が欲しい!」などと言ったところで「じゃあ手伝おう」なんて言ってくる人はあんまりいないかもしれない。

というかさっきのアルティア達の態度を見る限り「何言ってんだこいつ」「ふざけてんのか」と思われるのだろう。

もういっそこのままアルティアに養ってもらーーいやいや、ダメだ俺、しっかりしろ!

危ねえ、思考が段々とダメで楽な方へと流れていってる!

これじゃ俺のことだ、ダメと思いつつもいつか「まあいっか」で済ませてしまうのが目に見えてる!

その時は俺の男としての存在と主人公としての地位の崩壊だ、それだけは避けなければ…………!

でも俺一人じゃクエストは受けれないし、アルティアとレイアが抜けたら正直、戦力としては不安だ。

かと言って、この街ではアルバイト募集なんて滅多にない、そもそも俺に異世界のアルバイトが勤まるか不安もある。

「でもやっぱり地道にアルバイト探すしかないよなぁ………」

現実的なのはやっぱりアルバイトして地道に稼ぐことだろう。

生活がままならないならともかく、そうでなければ命まで懸ける理由ないし…………。

そう決めた俺はジュースを飲み干し席を立つ、と

「連夜、ここにいたのですか」

声に振り向くとクレアが店の入り口から顔を覗かせていた。

クレアに気づいた人達が手を振り、クレアはぎこちなくそれに返しながら俺に近づいてくる。

そういえばこいつ、この街じゃ英雄扱いだったな、龍を撃退したとかで。

一方、一緒にいた俺は逃げ回って挙げ句、クレアに命を守られたということになってるらしい、一緒にいたのにこの差は何なんだ。

「どうしたクレア。

今日はクエストにも出ないし、俺は街をぶらぶらするだけだぞ。

お前も自由に過ごしたらどうだ?」

「いえ、私もそのつもりだったのですが…………」

と、そこでクレアは顔を曇らせる。

俺はその様子を見てピンと来た。

ははーん……さてはこいつ、俺がいなくて寂しかったんだな?

思えばこいつとはこの世界に来てからずっと一緒だ、おまけにこいつの迂闊な言動のフォローや、こいつが引き起こしたトラブルは大体俺が片付けてきた。

そんな俺に対してクレアが、そろそろそういう気持ちを持ってもおかしくはない。

中身はアレだが、見た目は誰もが認める美少女だ、大人な女の人が好みな俺だが、何の取り柄もないオタクな俺が、美少女に慕われるというラノベみたいなシチュエーションに心が踊らないはずがない。

俺は気づかれるとクレアに調子づかれるので努めて冷静に言った。

「そ、そ、そうか。

お前もやっと俺の有り難みが分かってーー」

「街を歩いていると道行く人から声をかけられるので、心苦しくなって途中で逃げ出してしまってーーー連夜?

どうしたのですか?」

「……………何でもねえよ」

分かってはいたが、この花より団子な神様にそんな甘いシチュエーションは期待できないようだ。

分かっていた、だからがっかりなんてしてない、本当にしてない、ちょびっとだけだ。

お金を払って俺が店から出ると、クレアも俺の後を付いてくる。

「………やっぱり連夜といると一番落ち着きますね」

「何か言ったか?」

小声でぼそぼそと何かを呟いていたクレアに振り返ると、クレアはぶんぶんと顔を振った。白髪が顔の動きに合わせてぺちぺちと俺の顔を叩いてくる。

「い、いえ、何でもないです!独り言です!」

「ただの独り言で何でちょっと顔が赤いんだ?

お前、まさか俺の悪口か何か言ってたんじゃないだろうな?」

「ち、違いますよ!

言うなら言うで堂々とハッキリ言います!

私はそんな陰湿なことはしません!」

「言っておくが陰で言おうが、ハッキリ言おうが俺が傷つくことには変わりないんだからな!?」

俺は叫びながらクレアを見るが、特に嘘をついてる様子もない。

まあ、クレアが陰口をするような性格でないのは俺も分かっているが。

さっきの独り言もどうせ、「腹減った」とか何とかだろ、こいつのことは俺が一番よく知ってるから間違いない。

そう納得した俺は、定食屋等の店が立ち並ぶ商店区画を、時々アルバイト募集してないか見ながら、クレアと歩いていく。

道中、道行く人、特に男から殺気の籠った目を時々向けられるが、もしかしてクレアと一緒にいるのを妬まれてるんだろうか。

今すぐ言ってやりたい、こいつは見た目は可愛いが、実は疫病神で一緒にいるともれなく不幸とトラブルが付いて来ると。

「……………連夜、何か私にとって失礼なことを考えてませんか?」

「気のせいだろ。

俺はどうやって金を稼ぐか、そのことで頭が一杯だからな」

「それはそれで、人としてダメなような気がします」

「誰かさんがガルネシアさんから貰った報酬を一気に減らさなきゃもうちょっと余裕あったんだがな」

「うっ…………」

クレアは言葉を詰まらせそっぽを向いた。

まあアレはクレアの大食いを忘れてた俺にも原因があるが。

それにこうして責任を感じて手伝ってくれてるし、今度こいつの食い物にレッドフェイスの実を仕込んでおくだけで許してやろうと思う。

「つーか今思ったんだが、お前は使ってないはずだから、金貯まってるだろ?

お前が食った分だけで良いから払ってくんねえかな」

「いえ、残ってないですよ?

私は最低限のお金だけ残して後は全て食事代に使いましたから」

「……………だろうと思ったよ」

一日であれだけ使うんだから吸血鬼退治からそれなりの日数が経った今、こいつが残しておくわけないだろうとは思ってた。

「まあ良い、いざとなったらお前の握手会でも開いて稼がせてもらおうか。

少なくともお前が減らした分ぐらいはな」

俺が半ば本気でそう言うと、クレアは嫌そうな顔をしつつも否定はしなかった、自分にも原因がある以上、文句を言いたくても強く言えないのだろう。

まああくまで非常時の、一時的な方法だ、俺も本気でこいつを使って金を稼ごうなんてちょっぴりしか思ってない、ちょっぴりしか、こいつこの街じゃ有名人だし意外に稼げそうじゃね?なんて少ししか思ってない。

そんな俺の思考をまた読んだのか「良からぬことを考えてませんか?」と言うクレアのじとーとした視線から逃れるようにそっぽを向いていると

「すみません、そこにおられるのは、クレア様とレンヤ様ですか?」

「あ?」

突然、声をかけられ思わず声を出しながら振り向く。

そこには聖職者が着るような白いローブを着た黒髪の長身の男が立っていた。

というか、こいつがもしかしてアルティアが今朝言っていた………

「申し遅れました。

私、つい先日この街へ派遣された司祭のワードナーと申します」

そう言って男は深々と頭を下げた。

身にまとっている雰囲気と言い、言葉遣いと言い、あのマーガレットと違ってマトモな聖職者に見える。

「お二人の噂はかねがね。

あなたが吸血鬼を倒したレンヤ様ですね?」

「そうだが…………」

俺はいつでもクレアの手を引っ張って逃げれるように構えつつ聞く。

あの不良シスター、マーガレットが言うには教会とやらは、教会しか知らないはずである吸血鬼の弱点を知っていた俺を殺したがっているらしいからな。

一応、確かめてみるか。

「あんたは俺に対して何か思うところはないのか?

邪魔だとか」

「いえいえ、あの憎き吸血鬼を倒せる人が我々の他にもいるのは歓迎すべきことですとも。

願わくば、教会に属してくれれば、とは思いますが」

俺は男の様子を窺うが、嘘をついている様子はない。

まだ信用はできないが、ひとまず今すぐどうこうする気はなさそうなので安心する。

「そしてあなた様が…………」

と言いながら、男は今度はクレアの方を向いた。

その顔は、何故か俺の時と違ってガチガチに緊張していた。

「龍を撃退したという…………クレア様ですか?」

「…………はい、クレア、です」

クレアは男の言葉に一瞬迷った後そう答えた。

すると男はいきなり片手を胸にやり、バッ!と頭突きする勢いで深々と頭を下げた。

「お、お会いできて光栄です!

こうしてクレア様のお姿を目にすることができたこと、レンテ様に深く感謝いたします!」

と、当事者のクレアどころか、俺でさえも引くようなことを流れるように言い出した。

「ちょ、あんた何してんだ!?」

「そ、そうですよ!

周りの人が見てますよ!?」

「私ごときにはクレア様と顔を合わせてお話しする資格はありませぬ!」

何だこいつ、レイアも相当だがこの男のクレアへの態度は、尊敬を通り越して崇拝じゃねえか。

レイアでこういうのは慣れたと思ったが、ここまで異常なのは流石に俺でも引く、おまけにこの男のせいで道行く人の注目を浴びている。

身内はともかく、知らない人から大量に注目を浴び続けると俺のガラスのハートが持たない。

俺は未だにクレアへ何か喋ってる男に聞こえないようにクレアに小声で耳打ちする。

「(クレア、普通に言っても聞かなさそうだから、このままだと私が迷惑するのでやめてください、と言え)」

「(そ、そんな酷いことを言ったらこの人怒りませんか?)」

「(これ見たら分かるだろ、そんなことは絶対にない、早く言え)」

俺の勢いに押され、クレアは遠慮がちに男に話し始める。

「あ、あの…………ここでこうされると私も困るのでやめていただけると………」

「なっ!?

く、クレア様にご迷惑をおかけするとは!

どうか、私の命を捧げいたしますのでお怒りをお鎮めなさるようお願い申し上げる!」

「ええっ!?」

クレアは予想の斜め上をいく男の返しに、涙目で俺に助けを求めるように視線を送ってきた。

そ、そんな目で見られても俺だって分かんねえよ………ってこいつナイフを取り出して自分の首に当てやがった!?

「って、おいバカ!

そいつマジで自殺しようとしてるぞ!」

「あ、あの、お願いですからやめてくださいーーー!

俺とクレアは二人がかりで、神官のくせに意外な力で抵抗する男を取り押さえ、とりあえず目立たない、人気のないところへ男を説得しながら連れていくのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

「あの、本当に何も気にしてないので顔をあげてください」

「いえ、私ごときのためにクレア様のお手を煩わせるとは、このワードナー、どうお償いをすれば良いのか………!!」

「だ、だから私は気にしていませんから…………!」

クレアは必死に言うが、男は土下座をしたまま、顔をあげようとしない。

さっきから見てて思ったがこいつの態度…………龍を撃退した英雄、ということだけに対してじゃない、例えばそう、言うなればこいつの態度はもっと高位の存在を相手にするような。

まさかこいつ…………

「おい、もしかしてお前…………クレアの正体知ってるのか?」

「レンテ様と親交があられ、世界の守護者、そして龍達の神である神龍様………もちろん存じておりますとも」

男の言葉にクレアが驚いた顔をするが、俺は予想していたので特に驚かず「やっぱりな」と呟く。

マーガレットも気づいていたみたいだし、もしかすると教会はクレアの正体に気づいているのか。

しかしそうなると気になるのは、こいつが俺たちに近づいてきた目的だ。

クレアの正体を知って近づいてきた以上、ただ会いに来たわけではないだろう。

「おいお前、何の目的で俺たちに近づいてきたんだ?

まさか握手でもしてくれってんじゃないだろうな」

「クレア様と許されるならぜひ!」

男は思わずといった様子で即答し、その後、引いたように後ずさるクレアを見てはっと気づいてごほんと咳払いした。

「…………もちろん、ちゃんと用はありますとも。

しかしそれはクレア様ではなくーーー」

そう言った男の目が変わった。

今までの優しげな慈悲深い目ではなく、例えるならそう、アルティアをからかった時にアルティアが見せる目と同じ、つまり攻撃色ということだ。

「ーーーお前に聞きたいことがある。

今、街で流れている噂は全て本当なのか?」

男は口調すらも変えて俺にそう問いかけてくる。

あの優しげな表情から一変、親の仇でも見るような目になった男を見て、やっぱり教会に属してる奴等はマトモな奴がいねえなと思う。

「あの噂って何だよ?」

俺が聞くと男はちらっとクレアの方を気にし、その後躊躇いがちに口を開く。

「お前がクレア様を森の中で押し倒していたとか、レッドフェイクの実を直接食べさせて泣かせたとか、吸血鬼退治の際、見捨てて逃げようとしたとか…………大半は根も葉もない噂だろうが、もし一つでも本当だったらその時は…………」

男が手をあげると、ぞろぞろと武器を持った男たちがどこからともなく現れ、俺を包囲する。

そして男も服の中に隠していた剣を抜き、俺へと突きつけた。

こいつ…………脅しでもない、目がマジだ!

「その時は私がお前を殺す!

そうしなければ、クレア様のお怒りを買い、この世界が滅ぼされるかもしれんのだ!」

「ちょ、落ち着け!な!?」

「何故私にそんな恐ろしいイメージが!?」

剣を突きつけられ、そして何よりその噂が全て本当で焦る俺と、別のベクトルで驚いているクレアを他所に、男の仲間たちはジリジリと武器を構えたまま近づいてくる。

「おい、落ち着けって!?

その噂は、その、全部…………」

「何故そこで黙る」

「いや……………」

俺がどう答えようか迷っていると、武器を持った男の一人がワードナーに耳打ちする。

「ワードナー様、ここに来るまでに我々が集めた情報によると全て本当の可能性が高いとのことでした」

「違う!それらは全部…………」


「そうか、そしてこの態度………もはや疑う余地なし、貴様は異端審問官、ワードナーの名の元に処刑する!

ゆけ!」

男の号令で一斉に武器を持った男たちが襲いかかってくる。

ヤバイヤバイヤバイ!?

言ってることは滅茶苦茶だが、こいつ本気だ!

おまけにこの場には戦力にならないクレアと、戦闘能力のない俺だけ、つまり俺を守ってくれる人は誰もいないということだ。

どう逃げようかと思っている間にも男たちはあっという間に退路を断ち、綻びなく確実に距離を詰めてくる。

その動きは明らかに対人に慣れた動きだ、異端審問とか言ってたがそれが関係あるのか……って冷静に分析してる場合じゃない、このままじゃクレアはともかく俺は確実に死ぬ…………!!

俺が半ば死を覚悟したその時、俺の腰、正確には腰のポケットに入れていたものが光りだした。

それも血の色のような、真っ赤な光で。

「な、なんだ!?」

躊躇いつつも何か起こる前に俺を仕留めようと剣を振り下ろしたワードナーの仲間は、直後

「うわああああ!?」

突如、吹き飛ばされ地面に叩きつけられて気を失った。

その様子を見ていた他の仲間たちがどよめく。

光が止んだ後、俺の前には

「ふー、やれやれ。

このまま忘れ去られたらどうしようかと思ったのじゃ」

手をグーにしたまま不敵に微笑む、吸血鬼、レフだった。

ーーーーーーーーーーーーー

『きゅ、吸血鬼!?』

『しかもこいつは、伯爵クラスの吸血鬼だ!』

俺の周りを取り囲んでいた男たちがレフを見て狼狽える。

そんな緊迫した雰囲気の中、レフは俺へ非難するような目を向ける。

「こらレンヤ。

いつまでも余を放っておくとは何事じゃ。

余はあの日からずっと、出番を待ち望んでおったのじゃぞ?」

「い、いやいや…………何でレフがここに?どうやって?」

「お主に宝石を渡したであろう?

アレは余の血を魔力で固めた特別な結晶でな、宝石を通しての遠視や宝石を通しての会話もできるし、さらに持ち主の危機を察知して余に知らせ、余の許可を得てその宝石の魔力で余をその場へテレポートさせる、という優れものなのじゃ。

恐らく市場に出れば数百万ゴルドは下らぬぞ?」

レフは相変わらずな尊大な態度でドヤ顔をしながら言った。

「お主は厄介事に巻き込まれそうな面白そうな雰囲気を感じたのでのう。

いつでもそれが見れるように、そいつを渡しておいたのじゃ」

その言葉で一応お礼を言おうと思っていた俺は、喉元まで出かかっていた言葉を呑み込んだ。

レフは俺への説明はそれで終わりなのか、男たちの方へ向く。

「さて、そういうわけでこやつは余の大事な暇潰しでのう、お主らは教会の者じゃろ?

ならば今のままでは余に勝てないことも理解できるはず。

ここは大人しく引いた方が身のためじゃぞ?」

そう言ってレフはにやり、と牙を見せながら笑った。

男たちはレフのその顔を見ただけで怯えたように後ずさる。

前はこの世界でもトップクラスの実力者であるアルティアとレイアがいても、苦戦し最終的には倒すに至らなかった存在である。

教会は吸血鬼の専門家と聞いているが、それも入念な準備があってのこと、俺しか相手にしないと思っていたこいつらは人に対する武器しか持ってなく、もちろんそんなもので戦える相手ではない、男たちの怯えは当然だろう。

その中、ワードナーとかいう司祭は怯えるではなくギリッと奥歯を噛み締める。

「まさか吸血鬼と手を組んでいたとはな…………!

クレア様!

早くそいつから離れてください!

そのような汚れた存在といるとクレア様も汚れます!

お前たち!クレア様がお怒りになる前に早く吸血鬼を片付けるんだ!」

こいつはどうやら、吸血鬼が現れたことでさらに闘志を燃やしているらしい。

そのワードナーの言葉を聞きながら不快な顔をしていたレフは、何かを思いついたのかにやっと笑いクレアに近づく。

そしておもむろにクレアを抱き寄せた。

「なっ!?」

「レ、レフさん!?な、何をーーー!?」

「ふふふ、残念じゃったのう、すでにこの神龍の血を余は飲んでおる。

つまり、お主の敬愛する神はとっくに余に汚されておるわ!

ふははははは!!」

レフが高笑いすると、ワードナーはその言葉にショックを受けたかのようによろめき

「そ、そんな……………そんな、嘘だ、嘘だああああああああ!!」

そう言ってワードナーは叫びながらどこかへと走り去っていった。

その後を追うように、他の男たちもわらわらと蜘蛛の子を散らすようにどこへと消えていった。

「ふっふっふっ、愉快愉快!

人のことを汚いなどと言うからじゃ」

レフはワードナーたちが逃げた方向へ向かって舌を出した。

ワードナーの言葉に頭に来ていたらしい、平和的に解決してくれて良かった、本当に。

と、レフにくっつかれてるクレアがおずおずと言った。

「あの…………そろそろ離してくれませんか…………?」

「うーむ、相変わらず美味しそうな匂いじゃのう………これで飲んだ後に調子が悪くならなければ今すぐにでもかぶりつくのじゃが」

「ひぃ…………!?

れ、連夜、助けてください!」

レフが牙を見せながら残念そうに言うと、クレアは心底怯えた様子で俺に助けを求めてきた。

よほどこの前のがトラウマになってるらしいな、助けを求められたところで俺が吸血鬼を止めるなんてのは不可能なんだが。

「というか調子が悪くなるってのは、アレか、クレアが神龍だからか?」

「うむ、本来神であるこやつの血を吸うと、余は消滅してしまうのじゃが、今はだいぶ力が薄くなっておるようじゃからな、吸っても気分が悪くなるだけですんでおる」

「気分が悪くなるなら無理にクレアの血を吸わなくてもいいんじゃないか?」

俺が呆れ気味に言うとレフは

「何を言う、神の血なぞこういう時でないと吸えぬし、味は絶品じゃ。

少し気分が悪くなるだけなら喜んで我慢するわ」

「……………そんなもんなのか」

いきいきと血の味の話をするレフに若干引き気味に答える。

吸血鬼にとってどうやらクレアの血は少々体に悪くても飲みたいものらしい。

放っておくとレフがクレアをつまみ食いしそうだったので、二人を引き離しつつ俺は残念そうな顔をするレフにさっきから気になっていたことを聞く。

「ところで…………お前がくれたこの宝石だが」

「うむ?レフ様特製ブラッドストーンがどうした?」

「これさっき数百万するって言ってたか?」

俺はポケットから赤い宝石を取り出しながら聞く。

「うむ、何せ伯爵クラスの吸血鬼の血で固めた魔力の塊だからのう。

それは一回使ってしまったが、まだまだ魔力の蓄えはある、十分な値段になろうて」

レフは俺の質問に笑いながら答える、自分の作ったものの凄さを聞かせて嬉しいのだろう、吸血鬼と言っても見た目や性格は子供っぽいしな。

それより今重要なのはこいつが数百万する、ということだ。

数百万ゴルド…………それだけあれば俺はアルティアから養ってもらう生活から脱却、それどころかこの街でも有数の金持ちになるだろう。

「ただしそれを売るとーー」

「いやっほーーーー!」

俺は何か喋っていたレフを置いて、店へと猛ダッシュした。

レフはその姿に呆れた顔で「話は最後まで聞くもんじゃろうが」と言い、そして同じく呆れた顔で「連夜はすっかりお金の亡者になってしまいました…………」と呟いているクレアににこやかな顔で言った。

「さて、あやつは行ったし、ちょっと味見でもーー」

「れ、連夜!

わ、私も行くので待ってくださいーーーー!」

ーーーーーーーーーーーーー

「はい、二千五百万ゴルドね」

換金してくれた、宝石を主に貴族に売るじいさんはそう言ってドサッと金貨の詰まった袋を置いた。

想像よりずっと多い金額にフリーズしかけるが、じいさんがとっとと出てけ、と手で振るのでとてつもなく重い金貨袋を手にふらふらと店から出る。

「あ、連夜、どうでしたか?」

「いや…………想像よりずっと多くて戸惑ってる」

「多い?」

クレアが首を傾げる、俺は無言で袋の中の金をクレアに見せた。

袋を覗き込んだクレアは目を丸くして驚きの声をあげる。

「凄いではないですか、どのぐらいになったのです?」

「二千五百万ゴルド」

「に、二千ごひゃーーー!?」

俺は予想通りの展開に素早く動き、クレアの口を塞いだ。

「やっぱり大声出そうとしやがったな。

ここはさっきと違って人がいるんだ、迂闊な言動は慎めよ」

俺の言葉にクレアが頷いたのを見て、俺は手を離した。

クレアは何回か深呼吸し、落ち着いた後、改めて口を開いた。

「そ、それでこのお金どうするんです?」

「どうも何も…………おい、コレ貰っても良いのか?」

俺は太陽を防ぐためか、日傘を差しているレフに聞く。

レフは傘の下でニヤッと笑いつつ

「うむ、余は人間の金なぞに興味はないからの。

それはお主の好きに使うが良い」

俺は思わず「よっしゃあ!」と叫びそうになるが、周りから変な目で見られるので何とか理性で抑えた。

「そ、そうか。

今日はお前には、命を助けられたり、今俺が一番欲しいものを貰ったり世話になりっぱなしだな。

クレアぐらいなら喜んで差し出すんだが」

「勝手に人を差し出さないでください!」

「うむ、その提案は魅力的だが、これから世話になるのだしな、まあ前払いと思ってくれれば良い」

レフの言葉に俺はほっと安堵する。

これと引き換えに無茶な要求されたらどうしようかとーー

「………………待て、今何だって?」

俺はレフに顔を向けて聞き返した。

レフは小首を傾げて

「前払いじゃと言ったが?」

「いや、その前だその前。

これから世話になる?

それってまるでーーー」

俺の言葉にレフは何を言ってるんだとばかりに目を瞬かせ

「何じゃ?お主ら人間は厄介になる時にこう言うのではないのか?」

「……………つまりこれから一緒に住む、ということでよろしいでしょうか?」

「そう言っておるつもりじゃが。

なに、安心せい。

余は高貴にて高潔な吸血鬼、無闇に人を殺傷するつもりはないからの」

レフはその後ぼそっと「余の機嫌を損ねなければじゃが」と恐ろしいことを呟く。

「………………」

俺は自分がとんでもないことをしでかしてしまったのではないか、と思って冷や汗が背中を滑るのを感じる。

いや、まだだ、まだ気が変わって帰る気になるかもしれない、いやむしろ、帰る気にさせなければ!

吸血鬼が街に住み着く原因を作りました、何てアルティア達に言ったら、暴力侍女には殴られ、暴力魔法少女には焦がされたり痺れさせられるに違いない!

な、何とかしねえと!

「ちなみにさっきの宝石がないと余の居城までテレポートできぬからの」

レフを説得しようと口を開きかけた俺は、その言葉で止まった。

当然、宝石を返して貰うにはこのお金を返してもらわないといけない。

そう、念願の二千五百万ゴルドを…………。

「連夜、悩んでる場合ではないですよ!

アルティアさん達に怒られても良いんですか!?」

「ふっふっふっ、自分の欲望に正直になるが良い。

宝石を通して聞いていたが、お主は金が欲しかったのじゃろう?」

白髪の天使と、赤髪の悪魔が俺に選択を迫る。

俺はずっしりと重い金貨を握りしめる。

簡単な選択だ、吸血鬼が街にいることになれば、きっとそれが原因で様々な波乱が起こるに違いない。

それに、レフを倒したと思っているアルティア達も、実はレフは倒しきれておらず、しかも俺が連れてきたとなればショックを受けるだろう。

今まで恩を受けてきたアルティア達にそんな思いをさせて良いのか?

俺がこの二千五百万ゴルドを諦めれば全て丸く収まるんだ!

「俺は……………俺はーーーーー!!」

ーーーーーーーーーーーーー

「…………………というわけで、偶然、俺が街で出会ったこの子は実は身寄りがなく、おまけに行く当てもないと言うので、可哀想だと思った俺はここへ連れてきました」

俺はここに来るまでに考えておいた完璧なストーリーをクエストを終えて帰ってきたアルティアと、ギルドに集まったレイアとミリィの前で話した。

俺の説明を聞いたアルティアとレイアは互いに頷き合い、ぎこちない笑みを浮かべる俺へ

「バインド」

いきなり拘束魔法をかけてきた。

「な、何しやがるっ!?」

「何しやがる…………じゃないでしょ!?

何で…………よりにもよって吸血鬼を連れてきてるのよこのバカーーーー!!」

アルティアの言葉にギルドにいた全員が、レフから離れるようにぎゃー!ぎゃー!と叫びながら壁際に離れた。

その様はまるで地獄絵図。

クレアはギルド内の混乱を見て拘束魔法をかけられている俺へ言った。

「だから言ったではないですか!?

連夜のバカ!バカ!バカ!!」

流石に今回は返す言葉もない…………。

混乱するギルド内で、実力者であるアルティアとレイアが皆を守るように前へ進み出た。

「さて、理由を聞かせてもらえるかしら?」

「……………だから、身寄りがないこいつを可哀想に思ってだな」

「ならお前の持っているその袋は何だ?」

レイアに指摘されたのは、帰りにギルドに置くことができなかった俺の大事なお金だ。

「まさかそこの吸血鬼に買収されたのではあるまいな?」

「ち、違う!

俺はただ、こいつから貰った宝石が高く売れるから、売っただけでそんな汚いことにはーーー」

俺はレイアに反論していてはたと気がついた。

これ、他の人から見たら買収されたとしか思えない、ということに。

案の定、俺の弁論を聞いていたアルティアとレイアは

「やっぱり買収されてるじゃないの!」

「貴様、その腐った性根を叩き直してやる!」

と、怒り俺に襲いかかる。

「ま、待て!話せばわかーー誰か助けてくれえええええ!!」

「………………やっぱりこうなったではないですか」

「ふふ、やはりこやつといると飽きぬわ」

魔法や刀でどつき回される中、クレアは知りません、とばかりにそっぽを向き、レフは楽しそうに笑っていたのだった。

「誰か一人ぐらい助けろよ!?」

ちなみに宝石代はほぼ没収され街に寄付されることとなったのだった。

ーーーーーENDーーーーー

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