16
マーガレットに呼び出されて来て、色々とあったこの街ともいよいよお別れの時が来た。
本当に色々あったなぁ………俺が大変な目に会うことばっかりだったが。
「レンヤー、早く来ないと置いていくわよー」
「待て、洒落にならんことを言うな!」
朝から脅してくるアルティアにそう叫び返し、俺は慌てて荷物をまとめて下へ降りる。
下では準備を整えた皆が俺を待っていた。
「遅いわよレンヤ。
いつになったら自分で早く起きてくるのよ」
「休みの日はいつも昼前起きだった俺に何を期待してるんだ」
「え?」
「いや、何でもない。
悪かったよ」
「お前はとことんグータラな人間だな。
どうだ、少しでも今の人間として底辺な自分を鍛え直したいなら、帰ったら私が鍛えてやろうか?」
「いや全力で遠慮します。
つーか俺はそこまで言われるようなことをしましたかねぇ!?」
「怠惰は人の大罪の一つですよ連夜」
「……………私は怠惰でも良い」
というか、たかだか寝坊して少し待たせたぐらいで人間として底辺は言い過ぎだろ。
まあ……………一時間は少しじゃないかもしれないが…………でも俺は悪くないんだ!
悪いのは異世界のくせに暖かい部屋とふかふかな布団なんだ、ちくしょう元の世界で使ってた布団より気持ちいいってどういうことだよ…………流石、高級宿…………。
「ということで俺は自らの無実を…………あれ、皆は?」
「皆様なら先程、声をかけても動かれないレンヤ様を置いて先に出られたみたいですが………」
宿の支配人の言葉を聞いてすぐに俺は駆け出した。
「お前らあああぁぁぁ!
お願いだから置いていかないで下さいお願いしますーーーー!!」
朝からの全力疾走は、寝起きの体にキツすぎる目覚ましになりました。
ーーーーアダザーナーーーー
見覚えのある門が目の前に現れた時、俺は帰ってきたんだなという思いを抱いた。
どうやらここは、もう俺にとって帰るべき場所の一つになっているらしい。
そんなことを俺は地面に転がされたまま思っていた。
「ヒュー……………ぜえ…………ぜえ…………」
「連夜、大丈夫ですか?」
「……………燃え尽きた灰………」
「………そこの反転娘………不吉なことを言うんじゃない…………俺はまだ死んでねえ…………」
俺は呼吸を整えつつ、よろよろと立ち上がった。
門から続く道は、この世界に来てから俺が一番よく通ったあの道だ。
しかしアレだな………
「それなりに遠いところから帰ってきたのにあまり実感ねえな…………」
行きが長かっただけに帰りが短すぎて何かこう、物足りなさを感じる。
あそこももう少し長くいてもーーと思いかけたが、わざわざ呼び出されて行ったら脅され、さらにスリにあって有り金をほとんど無くしてしまったことを思い出し、あそこには二度と行くものか、と誓う。
「さて、ギルドへの報告に行くわよ。
これが終わったら、少しは報酬も入ると思うから」
後半は俺に向けて言ったのだろう、有り難い、今は100ゴルドでも多く欲しいからな…………。
「でもレンヤはどうしてそんなにお金が欲しいの?
食事代は私が出してるし、家だって私の家やギルドを自由に使ってくれて良いのよ?」
アルティアが珍しく俺に優しい言葉をかけてくる。
もちろん、アルティアの好意は嬉しいし、実際に今は使わせてもらってるが…………
「…………これじゃ俺、ヒモじゃねえか…………」
「ん?」
「いや、何でもねえよ。
ほら、やっぱり自分でもコツコツ貯金してえじゃねえか?」
「それはそうね」
「うむ、立派な心意気だ。
やはり男たるもの、女を一人や二人、養うぐらいの甲斐性はなくてはな」
レイアの何気ない一言がグサッ!!と俺の心に突き刺さる。
家を貸してもらって食事代まで出してもらってる俺はやっぱり男としてダメ人間なのだろうか…………。
そんな俺の内心を感づいたのかクレアが
「で、でもお金があって傲慢な人よりも、お金がなくても誠実な人の方がーー」
と言いかけて、俺の顔をチラッと見、一瞬黙り
「…………お金がなくても心が貧しい人はいますが」
「おい、今、誰を見てその結論に至ったのかじっくり聞かせてもらおうか?ああん?」
「い、いひゃい!いひゃい!
わひゃしひゃひをみふゅめようとしふぁらないふぇすかーー(私たちを見捨てようとしたじゃないですかーー!?)!?」
「そんな昔のことは忘れた!
ええい、この、無駄に柔らかいほっぺた千切ってやろうか…………!」
俺とクレアとのやり取りをミリィが呆れた顔で見つつ、アルティアが「よくも毎回、飽きずにやるわねえ…………」と呟く。
特にレイアは顔をギリギリと強張らせ…………え?
「貴様……………クレア殿の頬に…………!!」
「うおお!?
レイアが修羅の形相になってんだけど!?
何で!?俺、何か地雷押した!?」
そんなやり取りをしつつギルドに向かうと、門番をしているガルネシアさんが立っていた。
「ん?おお、アルティアさん!お帰りなさい!」
「ただいま、カティいる?」
「へえ、カティさんなら受付で仕事をしてますぜ」
「そう、ありがとう」
そう言うとアルティアがギルドへ入るのに続けてぞろぞろと入る。
酒場と食堂も兼ねているこのギルドは(と言っても利用するのはギルドメンバーがほとんどだが)昼間から飲んでいる人や食べている人で相変わらず騒々しい。
アルティアはそんな人混みの中進み、奥の方にあるギルド用の受付まで足を進めた。
「カティ、いる?
依頼を終わらせて来たわよ」
「はいはーい、ちょっと待ってて」
大人びた女性の声が聞こえ、その後、受付の後ろにある扉からナイスバディの女性が出てくる。
「お帰りアルティア!
クエストはどうだった?」
「途中で盗賊団が出てきたけど私とレイアさんで一掃したわ。
もちろん、荷物と人には一切被害は出ていないわ」
アルティアは報告書と思われる紙と自分のステータスカードをカティさんに渡す。
カティさんは報告書に目を通すと「あら?」と声をあげた。
「この盗賊団、最近被害が大きくなってきたから、ちょうど討伐してほしいってクエストに登録されたやつね」
「そうなの?」
「ええ、でももう憲兵に突き出したみたいだし、その必要もなくなったわ」
カティさんは受付横にあるクエストボードに行くと、一枚貼り付けられていた紙をビッと剥がした。
「クエストは受けてないけど、討伐の報酬の手続きをするわね」
「ありがとうカティ」
「いいえ、こちらも手間が省けて助かったわ」
カティさんはアルティアと話しながらも、紙に字を書き込んだり、印鑑を押したりしている。
そしてそれが終わると今度はアルティアのステータスカードを例の機械に置く。
すると機械がブウウウンと音を立てて動き、カードが宙に浮かぶ。
カティさんは機械の横にあるキーボードのようなものを指でポンポンと押して何かを入力していく。
「よし、これで情報の更新は完了したわ」
「いつ見ても不思議な機械だなぁ。
どういう原理で動いてるんですか?」
カティさんに聞いてみるもカティさんは首を振った。
「私たちもどういう原理なのかは分からないわ。
知ってるのは、これは古代の遺物である、ということぐらい」
出たよ、こういうファンタジー物なら一つや二つはある古代の遺物。
「それとこれの秘密を知ってるのは教会ってことぐらい」
「教会…………ですか?」
少々意外だったので聞き返すとカティさんは「そうよ」と頷いた。
「教会がオリジナルの遺物を元に、複製して各ギルドに配ってくれたのがこれなのよ」
そう言ってカティさんはポンポンと機械を叩く。
各ギルドに配っているということはどうやら二つ三つどころじゃない数があるらしい。
俺はこの機械に一切古代の遺物らしさを感じなくなった。
「数十年前ぐらいからよね、これを配ったのは」
「マスターが言うにはそうみたい。
私たちの時代にはもう当たり前にあったものだから特に違和感はなかったし、原理とかも気にならなかったけど」
「そうなんですか。
すみません、変な質問をしてしまって」
「良いのよ、若い内はどんどん分からないことを聞いた方が良いわ。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うでしょ?」
カティさんはそう言って微笑んだ。
ああ、何て優しいんだカティさん。
これが大人の女性というものだよな、どっかの暴力魔法娘や暴力侍娘や落ち着きのないアホにも見習って欲しいものだ。
「……………何故かしら、無性にレンヤを土に埋めたくなったのだけど」
「奇遇だな、私もだ」
「私も連夜を2、3発殴りたくなったのですが」
……………だから何でお前らは心を読んでるかのような発言をするんだよ、そんなに分かりやすいか俺の考えることは?
「さて、話が長くなっちゃったけどレンヤ君たちのカードも貸してもらって良い?」
「あ、はい」
俺たちはそれぞれカティさんにカードを渡した。
依頼の後は、こうやってその人の依頼の達成やその内容などをカードに書き込むんだそうだ。
それはそのままその人の実績になるし、依頼に対してどういう姿勢で向かうのかを示すものにもなる、とこの間の吸血鬼退治の時に教えてもらった。
ちなみにステータスやギルドでのランク等の基本的な情報以外はカードに記載されていないが、この機械を使うと見れるんだそうだ、原理はこれまた不明である。
カティさんは俺たち全員のカードに情報を書き込むと、カードを手渡してくれる。
俺は改めてステータスカードを見るが、そこには平均以下と言われたステータスと、他に類を見ない(悪い方で)と言われた、運Gの記載があるのみである。
ちなみにギルドランクも下っ端のFのままである。
…………はあ。
「それじゃクエストお疲れさま。
それと…………アルティア、終わった後で悪いんだけどーー」
「クエストね、分かったわ」
「お、おい、まさかまたクエスト受けるつもりか?」
流石に静観できなかったので口を出すと、アルティアは何てことない様子で
「指名のクエストだから仕方ないのよ。
断ればギルドに悪評が立ちかねないし…………」
「本当にごめんねアルティア。
先方にはなるべく待ってもらってるのだけど…………」
「カティが気にすることはないわ。
私だって好きでやってるし」
能力があればあればで、色々と苦労があるらしい。
「そういうわけで私はしばらくこの街から離れるわ。
レンヤ、くれぐれも皆に迷惑をかけないようにね」
「おい、聞き捨てならんぞ。
何でこいつじゃなくて俺に言うんだ?」
「じゃあカティ、早速依頼の内容を聞かせて」
アルティアは俺の抗議を無視し、カティさんと話し始めた。
……………納得いかねえ、そして横で「ほら、私より連夜の方がトラブルメーカーですよ」という顔を俺に向けているこのアホ神は後で泣かす。
「では、ここで解散だな。
私は宿に戻って武器の手入れをするとしよう」
「…………私は、買い物をして………その後寝る」
レイアとミリィはそれぞれ用があるみたいだ。
本当なら依頼でも手伝って欲しかったが仕方ない。
レイアとミリィがギルドを出るのを見届け後ろを振り向くと、すでにアルティアは消えていた。
テレポートで行ったのだろう、俺とクレアだけでは依頼を受けるのは心許ない。
依頼を受けるのはまた今度にした方が良さそうだ、一応微々たるものだが今回の依頼の報酬も入ったし。
ただ、数日で尽きるだろうからまた稼ぐ方法は考えないと、ヒモにはなりたくない。
「連夜、今日はもう帰りますか?」
「いや、少し街をぶらつく。
モンスター討伐とかは無理だが、店のバイトとかならできるしな」
もちろん、募集があったらの話だが。
この世界、少なくともこの街では割りと人材は揃っているようで、バイトの募集はこの街に来てからほとんど見たことがない。
つまり今は働く当てがない、明日から本気だそう、明日から。
クレアにそう言いつつギルドを出ようとすると「よお」と低い声が俺たちを出迎えた。
「ガルネシアさん、どうしたんですか?」
「いや、ちょっとお前らの様子を見させてもらったが、クエストを探してたみたいだったろ?
お前は積極的にこなしていく奴じゃなかったと思うんだが」
ガルネシアさんは見た目はリザードマンという物騒な見た目にも関わらず、意外と気配りができる人(?)だ。
ナンバー1のアルティアがあんな感じで、クエストを受けてほとんどギルドにいないので、ギルドの人の悩みごとなども引き受けているとか。
そんなガルネシアさんは普段からギルドの面々の様子を見ていて、その人がいつもと違うことをしていたりするとこうやって心配して声をかけてくれる。
…………そうだな、せっかく声をかけてくれたんだし、話してみるか、もしかしたらお金を貸してくれるかもしれないし。
「実はーー」
俺はスリ集団に金を盗まれ色々あってお金がなくなったことを話した。
「それでもし良かったら…………お金貸してください!」
「す、ストレートに言うなぁ。
お前は今はアルティアさんに食わせてもらってんだろ?
ならそんなに急いで貯めなくても良いんじゃないか?」
「いや…………男としてやっぱり女の子に食べさせてもらいっぱなしというのは………」
おまけにアルティアがあんな容姿だから、俺が何だか幼い女の子をたぶらかせてお金を貢がせているようなすごい極悪人に思えてしょうがない。
「驚きです、連夜にそんな心があったとはむぐっ!?」
俺の心をえぐり取ろうとするダメ神の口を塞ぎつつ、俺はガルネシアさんの反応を窺う。
「ふーむ、そういう理由なら貸しても良いんだが…………」
「だが?」
「だが、それで借りて食費を出すにしてもだ、いつまでも借りっぱなしは無理だし、俺もアルティアさんほど余裕が有る訳じゃないしな」
確かに借りたら返さないとだし、借り続きというのもいつかは限界が出るだろう。
「やっぱり俺が貯めて自分達の食費ぐらいは出さないとですよね…………。
でもクエストに出ようにも俺たち二人だけでできるクエストがないんですよ。
アルティアは行ったし、レイアは宿に帰ったし、ミリィはその辺ぶらついてるし」
「確かにさっきその二人が出ていくのは見た。
そうだな……………」
ガルネシアさんは顎に手を当てしばらく考えると
「…………よし、なら俺が手伝ってやろうか?」
「え?」
意外な申し出に目を見開くとガルネシアさんは頷きながら
「俺が当分食費が持つぐらいのクエストを手伝ってやるよ。
それなら今すぐクエストを受けなくてもどうにかなるだろ?」
「それは俺たちにとってはありがたいんですが…………良いんですか?」
「良いってことよ。
門番ばっかやってたら腕が錆びるしな」
ガルネシアさんは気にするな、というように手を振る。
それならせっかくだし好意に甘えさせてもらうとするか。
「私も暇なので付いていきますよ」
「お前は正直いらないんだけど」
「酷いです!?」
だって付いてきてもらっても役に立たないし。
「ん?そういえばクレアちゃんがいるじゃないか。
何でクレアちゃんに付いていってもらわないんだ?」
ちっ、クレアが余計なことを言うから余計な疑いを持たれたじゃねえか。
ただ、これもいつかは聞かれるだろうと思っていた俺は言い訳を考えてあった。
「ガルネシアさん、この話はここだけの話にして欲しいのですが」
「お、おう?何だ?
急に声をひそめて」
「実はこいつはステータスは高いんですが、戦闘のセンスはゼロなんです」
「え?何を言ってーーー」
「その弱さたるや魔法を唱えようとするとトチって失敗、敵を殴ろうとするとスッ転んで失敗とそれは酷くてですね。
これは俺しか知らないことなんですが」
「そ、そうなのか………?」
ガルネシアさんは信じられないという目でクレアを見る。
まあステータスが高くて、おまけに龍も撃退してるということになってるから、戦闘に長けていると思っていたのだろう、その驚きは当然だ。
一方クレアは俺の言葉が未だ理解できてない様子で目を瞬かせていた。
丁度良い、このまま理解できてない内に畳み掛けよう。
「一応、こいつは龍を撃退したので、このことを広めたら色々面倒くさいことになりそうだったので、このことはアルティア達も知りません。
できれば、これ以上広めたくないとも思っています」
「う、ううむ、にわかには信じがたいが…………だがお前は嘘をつくような奴じゃないしなぁ。
分かった、その話は信じるし、この話を他に言いふらしたりはしないぜ」
「ありがとうございます」
「それじゃ俺はちょいと準備してくるからよ、ちょっとここで待っててくれ」
ガルネシアさんはそう言うとギルドの中に入っていった。
ガルネシアさんはギルドで寝泊まりしてるらしいから、自分の部屋から装備やらを持ってきたり、クエストの手続きをしてくれたりするのだろう。
丁度良かった、そろそろ………
「れ~ん~や~?
何故勝手に私を使えない子にしたのですか?」
面倒くさい奴が面倒くさいことに気がつくからな。
俺はガルネシアさんが近くにいないのを確認してクレアの方を向く。
「何言ってんだ、お前が使えない子なのは事実だろ?」
「そうですが…………そうですけどもうちょっとオブラートに包むというか…………流石にそうはっきり言われると傷つきます…………」
クレアは珍しくしょんぼりとした表情をする。
口には出してないが自分が未だに何の役にも立ってないことを意外に気にしてるのかもしれない。
俺は流石に罪悪感を感じ、クレアに「悪い」と言って続けて言った。
「でもお前はどっちにしろ戦えないんだから、戦えない理由を作っといた方が良いだろ?
でもステータスの高さは知られてるから、理由をつけるとしたらあれぐらいしかなかったんだよ」
「まあそれはそうですが…………」
クレアも渋々納得してくれたようだ。
その時ちょうどガルネシアさんが「準備できたぞー」とギルドから出てくる。
その格好は戦士としか思えない、鎧を着込み、腰に片手剣を提げたスタイルだった。
「…………あれ?」
「どうした?」
「ガルネシアさんって魔法使いじゃなかったですか?」
ガルネシアさんは一瞬「何言ってんだ?」という怪訝な顔をするが俺の視線に気づき
「ああ、この格好のことか?
俺は実は魔法剣士…………とはちょっと違うが、まあとにかく飾りでこういう格好をしているわけじゃないから安心しろ」
ガルネシアさんはそう言うと一枚の紙を俺たちに差し出した。
「ほら、受けてきたクエストの内容だ。
お前たちは戦闘に参加しないだろうが、一応目を通しとけよ」
「了解です」
ガルネシアさんに渡された紙をクレアと確認する。
『討伐クエスト
ブラッディベアーの夫婦が近くの山に住み着き始めています。
このままでは山でのクエストに支障が出るので、二匹を討伐、もしくは山から追い出してください。
報酬 60万ゴルド(撃退 40万ゴルド)
※二匹は強力な連携攻撃を繰り出します。
二匹同時に相手をするのは避けた方が無難です』
というようなことが書いてあった。
報酬60万ゴルド………この世界の1ゴルドは大体元の世界の1円と同じぐらいの価値なので、一回の仕事で60万、最低でも40万手に入ることになる。
普通なら金の多さに目が眩むところだが、こういううまい話にはどっかに落とし穴があるもんだ。
「すみません、このブラッディベアーって何ですか?」
「血染め熊知らないのか?
俺たちみたいな討伐に行った奴や、縄張りに入ってきたモンスターをその強力な腕で次々と返り討ちにし、その内その手は犠牲者の血で真っ赤に染まったという逸話を持つ獰猛な熊だ。
その腕から繰り出される攻撃はかすっただけでも人間には致命傷になるぐらい強力だからな。
クレアちゃんはステータスが高いから大丈夫と思うが、レンヤは絶対に食らうなよ、死ぬぞ」
「りょ、了解です…………」
物騒な名前とガルネシアさんの目が冗談を言っているそれではないのでよく肝に命じておく。
この世界で死んだらどうなるのかはまだ分からないから、もしかしたら死んだら元の世界に帰れるのかもしれないが、痛いのは絶対に嫌だ、それに殺されて元の世界に帰るのも俺の精神衛生上確実によろしくない。
そんな俺を見たガルネシアさんが「まあ」と続けた。
「今回お前らを戦わせるつもりはないから安心しろ。
あくまで油断して敵の攻撃は食らうなってことだ」
「へ?俺たちは戦わないで良いって…………」
俺は周りを見回した。
当然、俺とクレアとガルネシアさんしかいないので、俺たちが戦わないとガルネシアさんは一人でその物騒なやつらと対峙することになるが………。
しかし気にすることなく「さあ、行くぞ」と歩き出すガルネシアさんを見て考えるのをやめた。
流石に一人ではやらないだろうから、後で仲間とかと合流するんだろう。
俺は自分でそう結論付けて納得するとガルネシアさんに付いて歩くのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
ーーなどと思っていたことが俺にもありました。
ガルネシアさんは何と、街で一人も仲間を連れてくることはなく、三人のパーティーで山に登ってしまっていた。
この山は周辺の地域と比べると出るモンスターが強く(アルティアと会った森のようにところどころ例外はあるが)もっぱら中級者以上の人が来るようなところらしい。
しかし今問題なのは、そんな山にしかも物騒なやつを討伐しに行くのに、正直言ってお荷物な二人を抱えて一人で挑もうとしているガルネシアさんだ。
本人は特に気にすることもなく、普通の山登りでもするかのように気楽に登っているが、本当に大丈夫なんだろうか。
俺の小さなプライドのためにギルドでも信頼の高いガルネシアさんが怪我でもしたら、釣り合わないというか割りに合わないだろうしギルドにとっても迷惑だろう。
やっぱりここはガルネシアさんに言ってクエストを中断してもらうしか…………。
そう思って声をかけようとすると急にガルネシアさんが立ち止まり、手で静かにしろとジェスチャーする。
そして続けてゆっくり来い、とジェスチャーしたので恐る恐る近づくと
「見ろ、あれがブラッディベアーだ。
あれは小さいからオスの方か」
そこには体長三メートルを越える巨大な熊がいた。
毛並みは真っ黒、鋭く大きな爪と手、太い手足、そして何より目を引くのは手の先の方が血のように真っ赤に染まっていることだ。
正直言うと俺はその恐ろしい外見を見ただけで戦意を喪失した。
こんな恐ろしい奴、本当に勝てるのか…………?
そのブラッディベアーオスは、山を流れる川の近くで鼻をひくつかせながら川の周りをのしのしと歩いていた。
「たぶん餌を探してるんだろうな。
ブラッディベアーの主食は魚だしな」
あんな物騒な名前が付いてても餌は元の世界の熊と同じらしい。
「よし、この分なら当分巣には帰らないな」
「わ、分かるのですか?」
俺と同じくあの熊にビビってるクレアが震えた声で聞く。
「ああ、まだ魚を一匹も持ってないだろ?
自分の分とメスの分を取り終えるまでには結構な時間がかかるはずだ。
だから先に巣に行ってメスの方をとっとと討伐しよう」
流石ガルネシアさんはブラッディベアーの生態にも詳しいらしい。
そう言って静かに歩き出したガルネシアさんに続けて、俺たちも極力音を立てないようにゆっくり進み始めた。
ーーーーーーーーーーーーー
さっきガルネシアさんが「小さいから」と言ったときに「冗談だろう」と思っていた俺はそれを見て考えを改めることになる。
「で、でけえ…………!!」
それは草を集めて作ったと思われる寝床の前にいた。
体長は約五メートル、さっきのも相当だったが目の前にいるそれはさっきのと比べてもデカイ。
本当にあんなの討伐できるのか?
「よし、まだ俺たちに気づいてないな。
レンヤ、クレアちゃん、ちょっとした頼み事をしたいんだが良いか?」
「い、良いですけど………?」
この前振りは何か嫌な予感が
「ちょっとしばらくの間、あいつを引き付けておいてくれないか?」
「やっぱり!?
いやいやいや、無理ですよ!
俺たち瞬殺されますって!」
「大丈夫だ、メスはオスと違って体がデカイ分瞬発力に欠ける。
距離を取って相手の正面に立たなければ攻撃を食らうことは滅多にない」
「いやいや、俺ハンターじゃないですし!」
攻撃が避けられるのも、距離を取れるのもそれなりの体力や反射神経など諸々の能力があってできる芸当だ、戦いに関しては素人、体力も人並み以下な俺にそんなことができるなんてこれっぽっちも思えない。
「そ、それに戦わせるつもりはないって………!!」
「ん?だから注意さえ引いとけば良いから戦わなくても良いんだぜ?
油断さえしなければ攻撃は食らわないし」
どうやらガルネシアさんの「戦わなくて良い」と俺の「戦わなくて良い」には大きな差があったようだ。
まさか囮役なんて危険な役割があるとは思わなかった俺は一瞬考え、ガルネシアさんにクエストをリタイアすることを伝えようとする。と
「じゃ、頼むぜ!」
「え、ちょ、何でいきなり走り出」
「れ、連夜連夜!
来ましたよ!!」
クレアの叫び声に見たくないが見ないわけにもいかないので後ろを振り向くと、そこには俺たちを見つけて立ち上がってこちらを見つめるブラッディベアーの姿があった。
「グルアアアアア!!」
「ぎゃ(きゃ)ああああああ!!?」
ブラッディベアーの威嚇で、俺とクレアは蜘蛛の子のようにその場からわたわたと離れる。
ブラッディベアーは離れた俺たちの内、俺に狙いを定めるとドドド!と地面を揺らしながら突進してきた!
「ひいいっ!?」
俺は咄嗟にモ〇ハンでの経験を思い出し横っ飛びに回避。
止まるのは苦手そうなブラッディベアーは勢いのまま木にぶつかり
バキバキバキバキバキ!と木を破壊しながら進んでいき、何事もなかったかのようにゆっくりと振り向く。
「ぜ、全然ダメージ入ってなさそうなんですけど!?」
結構な数の木にぶつかり、薙ぎ倒していったにも関わらず、ブラッディベアーがダメージを負っている様子は微塵も感じられない。
ブラッディベアーは次は近くにいるクレアに狙いを定め、小走りしつつその真っ赤に染まった腕を大きく振り上げる!
「わわっ!?」
クレアは慌ててブラッディベアーから走って離れ、その直後腕が縦にブン!と振り下ろされる。
ゴシャア!という音が響き、ブラッディベアーの腕が振り下ろされた地面が土を舞い上がらせ、大きく抉られた。
「あ、あんなもん食らったら………!」
俺は顔から血の気を引かせつつ呟く。
クレアは間近で見たためか、俺より顔色が真っ青になっていた。
「グルオオオオオオオオ!!」
ブラッディベアーは攻撃が当たらないことに苛立ったのか、いきなり咆哮した。
その凄まじい声量に俺とクレアは思わず耳を塞いでしゃがみこんでしまう。
ーーってこの展開はヤバイヤバイヤバイヤバイ!?
動け!俺の体!早く、動け!!
ブラッディベアーはすでに動き出し、近くにいるクレアにトドメを刺すつもりかのし、のしとゆっくり近づいていく。
「れ、連夜…………無理矢理、転生させてしまってごめんなさい………。
わ、私がいなくなっても、げ、元気で………」
「ま、待ておい!落ち着けバカ神!
一緒に生き残ってあのくそ女神に文句言いに行くんだろうが!?」
あまりの絶望に俺への別れを言い出したクレアにそう言うと、クレアは悟ったようなキレイな笑顔を浮かべーーそれと同時にブラッディベアーが振り上げた腕を、ゴッ!と轟音を響かせて振り下ろした。
「く、クレアああああああ!」
「…………盛り上がってるなぁお前ら」
そんな呆れた声と共にゴウッ!と音がして風がクレアを押し退け、ブラッディベアーの爪の軌道を変える。
さらに続けて下向きの風がブラッディベアーの腕にかかり、ただでさえ地面を抉るほどの威力を持つ腕は、勢いのままにズンッ!と音を立てて地面にめり込んだ。
今度は爪を立てていたのもあるのだろう、ブラッディベアーは目の前のクレアにどうにかして爪を届かせようとするが、刺さった腕が抜けずギリギリのところで届かず苛立ったように「グルアア!」と唸り声をあげる。
クレアはそこでやっと金縛りが解けたように動き出し、俺の方へ走ってき
「ふええええん!連夜ーーー!」
勢いのままに俺に抱きついてきた。
「ちょ、おま、何をやっ」
狼狽える俺はクレアを引き離そうとするも、クレアが震えているのに気づく。
どうやら本気で怖かったらしい、まああの状況なら俺なんか気絶するだろうし仕方ないか。
俺は適当にクレアを宥めながらガルネシアさんの方に視線を向ける。
「お前たち、よく引き付けておいてくれた!
後は任せろ!」
そう言ってガルネシアさんは腰に下げていた剣を抜く。
まさか、と思った次の瞬間、ガルネシアさんは自分を軽く踏み潰せそうなブラッディベアーに剣で斬りかかった!
「グルオオオ!」
ブラッディベアーはそんなガルネシアさんを叩き潰そうと腕を振り上げようとするが、まるで誰かに押さえつけられているかのごとく、その動作は緩慢だった。
どうやらガルネシアさんが魔法で動きを鈍らせているらしいというのは分かるが、何で鈍らせているかは分からない。
「はあ!」
ガルネシアさんの剣がブラッディベアーの足を捉える。
頑丈そうな毛と体は傷つきそうになかったが、その直後剣が当たった場所から風が吹き荒れた。
その風はブラッディベアーの体を抉り、周囲の木々を揺らす。
「ガアアアアア!?」
ブラッディベアーは苦痛か、怒りか、もしくはその両方の咆哮を上げると、闇雲に腕を振り回して暴れ始めた。
ガルネシアさんはそれから逃れるため、風に乗って一度距離を取る。
「ふーむ、怒ったか。
もう少し時間を稼ぎたいんだが、どうしようか………」
「ちょ、ガルネシアさん!
早く攻撃しましょうよ!あいつどんどんこっち来てます!」
攻撃をやめ、何か考え事を始めたガルネシアさんに思わず叫ぶ。
「いや、もうちょっと、あともうちょっとで来るはずなんだ」
「いやいやいや、その前にガルネシアさんはともかく俺たちがーーひいいっ!?
来たあ!?」
ブラッディベアーは闇雲に振るうのをやめ、俺たちに狙いをつけて走り出した。
体長五メートルの巨体が木々を薙ぎ倒しながら迫る光景ははっきり言って今すぐ逃げたくてしょうがない。
しかし俺にはクレアがくっついて動けないし、ガルネシアさんが早くトドメを刺してくれないとおおお!?
「が、ガルネシアさんーーー!?早く、早くこいつをおおおお!」
「待て、もう少しもう少し…………」
その時「グオオオオオ!!」と雄叫びが聞こえる。
声のした方を向くとさっき見かけたオスのブラッディベアーがこちらに向かってきていた。
前にはメス、後ろからはオス、つまり完全に挟み撃ち状態である。
「も、もうダメだ………」
俺は思わず膝をつきそうになるが、ガルネシアさんは素早く反応した。
「よし、来たな!」
そう言うなり、前に牽制の風の弾を飛ばしてメスを止めつつ、ガルネシアさんは剣を上に振り上げた。
「ストーム!」
ゴオッ!!と轟音を響かせて巻き起こった風が、こちらに来ていたブラッディベアーのオスを完全に呑み込んだ。
オスは「グオオ…………!?」と何が起こったのか分からないというような鳴き声をあげて為す術なく風の嵐の中に閉じ込められる。
しかし中から「グオオ!」と雄叫びが聞こえることからさしたるダメージは負ってないらしい。
一体ガルネシアさんはどうするのかと思っていると
「猛き天の槍よ、暴風纏いてその身の内にあるものをことごとく粉砕せよ!
ライトニングボルテックス!」
ガルネシアさんがこの世界で初めて聞く魔法の詠唱を唱え、続けて剣を振ると、ただの風だけだったのが、バチ!バチィ!と音を鳴らし始め、次の瞬間には雷を纏った嵐へと変化していた。
中から「グルオオ!?」と叫び声とも取れる声が聞こえ、その後聞こえなくなったことから中のブラッディベアーがどうなったかは容易に想像できる。
「グ………グオオ!」
残ったブラッディベアーのメスは、オスがやられたのを見て一目散に逃げ始めた。
「見ろ、レンヤ、アレがギリギリまでトドメを刺さなかった理由だ。
ブラッディベアーは不利になると、どちらかが生き残るために連携する。
もしもあの段階で決着をつけていたら、メスは遠くにいるオスに鳴き声で警告を飛ばしていただろう。
そうなるとアルティアさんみたいに自在にテレポートできない俺たちは一匹取り逃がしていた可能性が高かっただろう」
ガルネシアさんはそう言うと再び詠唱を唱え出した。
「風よ、我が足に宿りて地を駆ける力を!」
足に風を纏ったガルネシアさんは、まさに風の如くブラッディベアーの隣に並ぶと、剣を構える。
「お前に恨みはないが逃がす訳にはいかん。
ピアシングウィンド!」
剣に魔法を纏わせブラッディベアーの腹を剣で突き刺すと、剣が刺さった場所とその周りが吹き飛んだ。
「グオオ…………」
ブラッディベアーは最後の力を振り絞ってか、ガルネシアさんに腕を振り上げーーその腕が振り下ろされる前に体が煙のように薄くなっていき、消えてしまった。
「ふう…………終わったな」
ガルネシアさんが剣を腰に戻し、俺たちの方に向く。
俺とクレアはそんなガルネシアさんをふるふると震えながら
「おーい、二人とも、もう終わったぜ。
それともまだ囮にしたこと怒ってーー」
「「か、格好良い(です)………!!」」
感動していた。
作戦を練り、相手を自分の有利な展開に持っていき、そして最後は相手への敬意も忘れない。
まさに一流の戦士と呼ぶに相応しい、囮にされたのは驚いたが、むしろよくよく考えると普段アルティア達と組んでいるときもあまり変わらない。
運のステータスが悪いせいか、人間はともかくモンスターは俺かクレアを狙う確率が高いので、必然的に俺たちが攻撃される頻度が高いからな。
俺たち二人に尊敬の眼差しを向けられているガルネシアさんは
「そ、そうか?まあ俺は今までに培った経験があるからな。
お前らも戦いは苦手かもしれんが、若い内から経験を積んでいけばきっとこのぐらいはできるようになるさ」
自分の手柄を誇るでもなく、クールにそう言ったガルネシアさんに俺たちはますます感動する。
「それに俺はあまり魔力が高くないしな、作戦でも立てないととても依頼なんてこなせない」
「え?でもガルネシアさんはAランクの………」
俺の言葉にガルネシアさんは首を振った。
「アルティアさんはAランクの魔法使いってだけで、ステータスがAとは言わなかっただろ?」
そう言って自分のステータスカードを見せてくる。
魔力のところを見るとそこには魔力Cの文字があった。
「俺はリザードマンとしては高いが、魔法使いから見たら下の方だ。
属性も風しか使えないしな、まあAランク以上の奴でもせいぜい使えるのは二、三属性のみってのはよくあるがな」
「え、でもアルティアは………」
バンバン色んな属性の魔法を使っていた気がするが。
「だからアルティアさんは特別なんだ。
火風水土闇光の六属性だけでなく、特殊な才能がいる他の魔法も使える。
おまけに固有魔法は稀少な召喚系、召喚獣は豪炎纏いし覇者、イフリートだ。
もしも魔法の神様なんてのがいるなら、間違いなくアルティアさんは神様に愛されているだろうな」
「……………」
アルティアがギルド内で尊敬を集め畏怖され、他の街からもわざわざ依頼を出しに来る程の有名人というのは理解していたが、改めてアルティアのことを聞かされるとやっぱり背は小さいが、本来なら俺なんかとは関わりも持たないぐらい凄い奴なんだな、と再認識する。
クレアは「やっぱりアルティアさんって凄かったんですねぇ………」などとあまり深く考えてないような口調で言っているが。
「ま、そういうわけでギルドでたぶん一番魔力が低い………おっとレンヤがいたか。
まあ同じぐらいだよな?」
「俺、魔力Eなんですけど」
俺の言葉にガルネシアさんは一瞬言葉に詰まったかのごとく固まり
「と、とにかく俺が言いたいのは能力が低くても、戦い方次第ではどうにかなるということだ!
だから、その…………お、お前も頑張れ!」
「無理に励まさなくて良いですよ!
自分のステータスの低さは自分が一番分かってるし!」
俺は改めて自分のステータスカードを見る。
…………裏返して見ても、目を細めて見てもそこには平均以下、と呼ばれたステータスが見えるだけだった。はあ…………。
ガルネシアさんは困ったような顔をしていたが気を取り直すように手を叩くと
「ほ、ほら、目標のモンスターは倒したし帰るぞ。
でないと戦闘の音を聞き付けて他のモンスター共が来るかもしれないからな」
「了解でーす…………」
俺は若干元気のなくなった声で返事をし歩き出す。
俺とガルネシアさんの話を聞いていたクレアも微妙な顔をしつつ後に続き、何だか最後が締まらない感じで俺たちは山を後にしたのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
色々あったがとにもかくにもこれでクエスト完了である。
俺たちはギルドへ帰り、クエストの報酬を貰いに来た。
「そうだ、今回俺は報酬いらないからな」
「え?」
報告書を渡しギルドの人に確認をしてもらっていると、ガルネシアさんがそんなことを言い出した。
「報酬がいらないって………」
「ああ、別に騙そうとかしてないから安心しろ。
今回のクエストの報酬は全部お前らにやるってことだ」
と言うことは…………全部で60万が丸々手に入るってことか!破格過ぎるな!
「でも………それだとガルネシアさんはタダ働きになってしまいます」
「構わないさ。
俺もアルティアさんの足元にも及ばないが金は持ってるしな。
それに魔法の鍛練や自分の戦術の見直しにもなったから、無駄にはなってねえさ。
だから遠慮なく受け取ってくれ」
俺たちに気を使っているわけでもなく、自然な様子で言うガルネシアさんに俺たちは
「「格好良い(です)…………!」」
またもや目をキラキラさせてガルネシアさんを見ると、ガルネシアさんは照れたように頬をかきつつ
「お、おいおい、くすぐったいからやめてくれよ。
それより、さっさと報酬を貰おうぜ」
「はい。
ガルネシアさん、本当にありがとうございます」
「ありがとうございます」
「まあ、クレアちゃんは初対面で失礼なことを言って怒らせてしまったからな。
あの時の詫びとでも思ってくれ」
初対面というとあのクレアをお子さま扱いした時のか。
あんなどうでも良いことを「良くないですよ!?」覚えてるなんてやっぱり律儀な「聞いてます!?」
「うるせえ!そしてだから俺の心の中を読むんじゃねえよ!?」
「連夜が読みやすい顔をしてるからですよ」
「…………なあ、前々から言ってるけど俺って本当にそんなに読みやすい?
それとも勘で言ってるのがたまたま本当に当たってるだけ?」
「それでは報酬を貰いましょう」
「おい、せめてどっちか言ってくれ!」
さっきの仕返しか、クレアは俺の抗議を無視して、困惑するガルネシアさんとギルドの人から報酬を受け取っている。
前者は前者で嫌だが、後者は後者で怖い、女の勘にしても限度がある。
結局クレアは教えてくれず、俺は微妙にもやもやした気持ちのまま60万相当の袋を受け取った。
俺はとりあえず10万相当の袋だけ持ち、残りは部屋に置いてもらうようギルドの人に頼んだ。
鍵もかけてない部屋に置くのは一見不用心に見えるかもしれないが、戦闘に長けた人が集まるギルドの宿舎にわざわざ盗みに入る泥棒はあまりいないらしいので、逆に安全だったりする。
俺が袋を受け取ったのを確認するとガルネシアさんは
「それじゃ俺はこれで…………」
と言って門番の仕事に戻ろうとしたので、俺はその背中に声をかける。
「ガルネシアさん、せっかくだからご飯を一緒に食べませんか?」
ガルネシアさんはああ言ったが、タダと言うのもやはり申し訳ないし、食事ぐらいなら付き合ってくれるだろう。
「ん?俺は構わないが………良いのか?」
「はい。
今からちょうどお昼ですし。
せめてものお礼ってことで」
「そうです、ぜひ来てください」
俺たち二人の誘いにガルネシアさんは「よし、そういうことなら遠慮なくご馳走になろう」と笑いながら言った。
「で、どこに行くんだ?
一応門番もしないとだから、あまり遠くには行けないが」
「今日は大金が手に入ったのでちょっと贅沢しようかなと。
スカウトギルドの前にある料理店が美味しいと聞いたので行こうと思うんですけど」
「ああ。
最低値段が5000ゴルドから始まるあの店だな。
俺も大きなクエストの後は行くが、確かに美味いぜ」
ガルネシアさんに異論なし、クレアもガルネシアさんが太鼓判を押したので、「早く行きましょう!」と急かし始める。
最低5000ゴルドの店だからそれなりに高いが、一人もし2万ぐらいでも6万で済む、今ここには10万あるし十分足りるだろう。
「それじゃ行きましょうか!
クレアも今日は好きなだけ食って良いぜ!
はっはっはっ!」
「いよ、お大尽!
太っ腹!」
「好きなだけ…………!(キラキラ)」
大金が手に入って有頂天な俺は初めて高級な店で食べるのもあり、ウキウキ気分で店に向かったのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
そう、俺は忘れていたのだ。
こいつは龍、龍と言えば巨体を誇る、この間来た火龍もそうだった。
そして体が大きいと言うことはそれ相応に食べるものも多くなると言うこと、確かにこいつは普段から見た目からは想像できないほど食っていた。
そして俺は確かに前に言った、アルティアの金で食う以上はちょっとは遠慮して食え、と。
……………何で俺が今さら、こんなことを長々と語っているのかと言うと…………
「お、おい……………もう十皿超えたんだが…………」
ガルネシアさんの若干震えながらの声に、俺は現実逃避していた意識をリアルに戻す。
すぐにまた意識が遠くなるが、今度は何とか踏み止まり目の前の光景を何とか直視できた。
そこには見た目は愛らしく、しかしその食べている量は全く愛らしくない白髪の少女がいた。
「ああ…………これも美味しいです…………!
連夜もガルネシアさんももう食べないのですか?
これとかあれとか凄く美味しかったですよ?」
「ああ…………俺はもう、腹、一杯だ……………」
「お、俺も…………だから気にすんなよ…………」
ガルネシアさんは呆然と、俺は声を震わせながらも何とかそう返すと「そうですか」と言ってまたもぐもぐと食事を再開する目の前の自称神龍。
食事に夢中になっている姿はビデオにでも撮っておいたら一部の人が大変喜びそうなぐらい可愛いが、その横に積まれている皿を見ればたちまち顔を青くしていくことだろう。
いつもならひっぱたいても止めてるのだが、「好きに食え!」と言った手前と、この好きに食べれて本当に幸せそうな顔を見ると止めるに止められない。
結果、クレアは自分の本来の食欲のままにどんどん最低5000の皿を積み上げていっているのだった。
ガルネシアさんはクレアに聞こえないようにか小声で俺に話しかけてくる。
「(おいおい、クレアちゃんってこんなに大食いだったのか!?
あの小さい体のどこに入ってんだ!?)」
「(…………異次元にでも繋がってんじゃないですかね………?)」
俺が虚ろな目で返すとガルネシアさんは俺を激励する。
「(しっかりしろ!意識をたも「すみません、次はこれを」レンヤああああああ!?
口からなんか出てんぞおい!?)」
ガルネシアさんにガクガクと揺さぶられながら俺は現実逃避気味に今はもう遠い昔に思える元の世界でのことを思い出していた。
ああ…………あの頃は一日中ゲーム、動画鑑賞とか、充実した日々だったよな…………たまにゲームばっかりしてないで友達と遊んできなさい!とか母さんじゃなく何故か中学生の妹に怒られたりされたが、それでも幸せな
「では、そろそろデザートを…………とりあえず三皿………」
「レンヤ!?しっかりしろ!
レンヤあああああ!?」
それ以上聞くに堪えず、俺は再びリアルと言う名の地獄から意識だけでも一時的に逃すのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
………………結局、持ってきていたお金だけでは足りず、ガルネシアさんに一旦立て替えてもらって、後に返すこととなった。
ちなみに今回の食事でクエストの報酬の3分の1が消えました。
……………今後、クレアに好きに食わせる時は、普通の定食屋で食わせることを固く、固く、中身がなくなった袋を握りしめ、深く心に誓うのだった。
ーーーーーENDーーーーー




