8. 魔王さま、緊急案件です!
「魔王さま! アダムさまぁー!」
うるさい南瓜狐が、またノックもしないでドアを蹴破ったよ。ああ、もう。ただでさえ城はどこもかしこも修繕中なのになあ。
「魔王さま緊急案件ですぅ!」
「ああもう、叫ばなくても聞こえてるから」
我は今忙しいのだ。
ほら見ろ、この「婚姻前一夫多妻婚約夫死亡事件」の調停の真っ最中さ。
「弾鼠なんて放っときましょうよ、それより本当に緊急――」
「待って今大事なところだ」
うるさい狐の口は掴んで閉じる。
なになに、残された未婚の妻たち皆の総意?
夫(婚姻前に死亡)なしでも結婚したい?
「チチチチ」「チュチュッ」「チュチチチ」「チュドーン!」
騒ぎ立てる手のひらサイズの鼠たち。これでも一応小魔族と呼ばれる、魔族の一種なのさ。彼らは様々な問題を抱えていて――
「なになに。それだと子どもが生まれない。このままだと種族が滅びてしまう、ふむふむ」
「もう滅びていいですよ弾鼠なんか――むぐっ」
またうるさい狐が口を挟んでくるから黙らせてっと。
だけどそうなんだよねぇ。困ったな。
弾鼠。
腹が立つとその小さい身体で全力で、弾になって相手に突撃する。どんなに大きな相手にもひるまない。まさに弾丸の速度で当たって、砕け散る――
「――ぷは。この前も一匹、オイラのスネに当たって勝手に自爆しやがったんですよぉ。それもソイツが狙ってたお菓子のくずを、オイラがゴミ箱に捨てたってだけの理由で!」
我の拘束からするりと抜け出した南瓜狐が、勝手に鬱憤を語っている。まあ、弾鼠のはた迷惑な習性は有名だが、それで絶滅危惧に陥られちゃあね……
「うーん……。そもそも、結婚と子ども作り。一緒に考えるからややこしいんじゃないの?」
まずは問題の切り分けだ。
頭脳明晰、優秀なこの魔王アダムの言葉に、弾鼠たちはピタリと騒ぐのをやめた。次にひそひそ話が始まり、次第にそわそわと鞠みたいな身体がみんな揺れていく。
「よし、今日のところはお開きだ」
一度種族で話し合い、また上奏するよう申し伝えた。ふう。魔王さまは大変だね。
「……それで?」
ゴクリ。
南瓜狐がツバを飲み込んだのがわかった。ピンと尻尾が立っている。
「報告します。その、落ち着いて、聞いてくださいね?」
何を言う。
この魔王アダム、常日頃から冷静沈着。どんなことにも動じず、どっしり構えて対処する。
"燃える炎も凍らす名君"とは我のことさ。
「すぅ――人族から、来訪者2名。うち、一名は勇者――わぁっ!」
つるりと狐がひっくり返った。
おかしいな。
広い執務室が一気に、寒くなった。
「ちゃんと伝えましたからネェ……!」
つるんつるんと、何度も滑っては立ち上がり。ついに諦め、腹ばいで滑りながら、南瓜狐は退室した。
「勇者……?」
真っ白に凍りついた壁と床。
天井からはキラキラと、氷柱がいくつも下がっている。
床でツルツルと、スケートを楽しみ始めた鼠や栗鼠の小魔族たちを尻目に、我は"その言葉"を口ずさむ。
懐かしいような、だけど強い苦みが、口いっぱいに広がった――




