1. 勇者ウィウィコンテ・ドライアス
【これまでのあらすじ】
主人公は親友アダムの死後、その仇である魔王を見事討ち倒した。
しかし魔王を失った魔界は混乱に陥り、人族と魔族が住む境の地は、溢れた魔物で覆い尽くされた。
この世界には勇者が必要だ。
人々の希望を守る為、そして親友アダムをこの世界から消さないために、「勇者アダム」を名乗るようになった主人公であったが――――
勇者アダムが、魔王を討ち取ってから数年が経過した。いま、教皇の前に、一人の青年が立っていた。
「勇者ウィウィコンテ・ドライアスよ。そなたは人類の希望だ」
今年のスキル鑑定の儀で、新たに「勇者」の称号を授かった少年。名はウィウィコンテ・ドライアス――通称ウィウィ。
会計士の父を持つウィウィは、自分もいつか父のように、町の商店に勤めるものと思い、勉学に励んできたのだが――
「必ずや、かの冷酷無比な魔王アダムを討ち取って、この国の平和を取り戻してくれ」
なぜこんなことに。
小さいけれども活気あふれる故郷の町。真面目で優しい両親に、仲の良い幼馴染たち。気前のよい魚屋に、いつも大盛りにしてくれる定食屋のおばちゃん。見知った人々のなかで過ごしていくと思っていた。
「ボクは武器すら持ったこともありません」
いきなり魔王を倒せだなんて、なんの冗談だろう。
周囲で見守るいかにも高貴な方々も、期待のまなざしでボクを見ていたが、ここははっきり言っておこう。
「しがない平民の息子で、なんの戦闘経験もありません。そんなボクに、勇者が務まるとはとても――」
見てほしい。この白くて細い腕を。剣どころか、ペンしか握ったことがない。
しかし教皇はさらりと髭をなで、なんの問題もないと頷いた。
「これから相応しい者をつける。武器も、戦い方も、すべてこちらで準備しよう。なに、『勇者』の称号さえあれば、あとはなんとでもなる」
教皇の話し方は丁寧だが、否応なしの命令だった。
こうしてボクの勇者人生が、幕を上げたのだった――
「愚かな人間どもめ」
ここは魔界のとある場所。
建築途中の城の一室で、男は吐き出すように呟いた。
「アダムを一度ならず、二度も殺すか――」
薄暗い寝室の中央には、キングサイズよりもまだ大きなベッド。巨大なベッドを置いてもまだ十分に広い部屋の足元は、うぞうぞと蠢いている。
「良いだろう――」
燭台が、部屋の主を仄かに照らす。
青い髪に、漆黒の黒が幾筋か。
「お前たちの望み通り、僕は――いや、我は」
両膝に乗る兎や栗鼠をそっと脇へどかし、男は静かに立ち上がった。
「我は魔王。魔王アダムを名乗ってやろうじゃないか」




