2. 死別
吹き抜けの広大な玉座の間。
びっしりと地面を覆う瓦礫。そして魔物の死骸。
落ちたシャンデリアの一つに残った火が、まるでスポットライトのように照らすのは――――勇者・アダムの無惨な遺骸だった。
(なっ……!!)
俺と仲間は、咄嗟に物陰に身を隠す。周囲に気配はない。しかし、勇者を殺した魔王がまだ、この付近にいるはずだ。
がら……
何かが崩れる音に、思わず身を固くする。俺にぴったり身を寄せた獣耳奴隷娘が、静かに9時の方向を指さした。
「ビビ――」
金髪ツンデレ令嬢が、咄嗟に俺の口を塞ぎに来た。妖艶女帝がそっと俺の手を引き、瓦礫の隙間を縫うように、覗きやすい位置へと誘導してくれる。
そして目についた。玉座へ続く階段に、もたれかかるような人影。
(チャキ!)
盾役の全身を覆う大盾には、大きな穴が穿たれている。その先にあった彼の身体は、言うに憚られる悲惨な状態だ。
目を逸らした先に、これまた小さな人影が。壁に寄りかかるように座るのは、軽戦士のディディ。そこに既に生命の気配はない。
そして――
俺達の目の前に、もう動くことのない勇者。それを見下ろす聖女の純白の法衣は、激戦の後のはずなのに、シミ一つない真っさらだ。
(――――!?)
俺は見た。聖女・ビビアンが笑ったのを。そして去りゆくビビアンの背後に、影がひとつ、ふたつ、立ち上がる。
やがてそれらは見知った姿に変化した。勇者、盾役、軽戦士を象るそれらは、聖女の後に従った。
しばらく、呆けていたと思う。
俺は、魔物の死骸の山を登り、崩れ落ちたアダムを見下ろした。
「くそっ……なんで」
冷たくなったその体。ぐっと苦い味が胃からこみ上げるのを必死で堪え、そっと死者の瞼を閉じようと――
『良かった』
死んだはずの勇者から声がした。正確には勇者より少し上。その虚空に、淡い光の粒子が、勇者の輪郭を象っていく。
『あとは頼んだ』
無能だと追い出した僕に、一体なんだというのだろう。アイスブルーの瞳がじっと俺を写し込む。ふっと勇者の幻影は、流れる風に掻き消えた。




