3. 「よわい僕の役割」
僕は勇者パーティーの従者。
あいも変わらず戦闘時は役立たず。
むしろアダムに守ってもらうだけの足手まといだ。
そんな僕への風当たりはもちろん良くない。
三日三晩、魔獣の集団暴走に奔走した勇者パーティー。野営もままならず、ろくに休むこともできなかった。ようやく最寄りの村へと戻り、一息つく皆のために、僕は軽食を用意した。
お盆の上には、具材を挟んだパンとスープを人数分。片手で摘みやすいように、一口サイズに切ってみた。
台所から廊下を進み、皆が休む部屋の扉の前に来たところで、僕はドアノブに伸ばす手を止めた。
「おいアダム。いつまであいつ連れてんだ?」
太く通る戦士の声は、明らかに苛立っている。
「そうよ。いい加減にして? 戦場は子供の遊び場じゃないの」
スラリとしたお姉さん――軽戦士・ディディの声だ。初日から彼女は強く僕の同行に反対してる。
「皆さん、言い過ぎですよ。しかしアダム、あなたも考えがあるのでしょうが、別に戦地に連れる必要もないのでは?」
聖女ビビアンも一見理解あるように見えて、その実勇者に再考を求めている。
(そりゃそうだ)
ちらりとお盆の上を見る。こんなこと、誰にだってできるだろう。いや、むしろいくらでも上位互換がいるはずだ。現に、これまですれ違った高位の冒険者、名の知れた傭兵。多くの実力者たちが、勇者の隣になることを望み、アダムの隣の僕を見ては眉を潜めていたのだから――
そっとお盆を扉の側に下ろすと、僕はなるべく足音を潜め、その場を離れようとした。
カチャリ――
数歩進んだところで、誰かが廊下に出てきたようだ。無視するのもおかしいし、僕は重い体をなんとか励まし振り返る。
「ディディ……」
艷やかな長い黒髪。討伐から戻ったときのまま、皮鎧に身を包んだ、スラリと長身の女性がこちらを黙って見つめていた。
「あ――ごめん。盗み聞きのつもりは」
何も言わないディディ。身長もほぼ同じ彼女の黒目が、まっすぐ僕を睨んでいる。
「……あんたがいることくらい、皆気づいてたわよ」
彼女の得物である片手剣のように、鋭い言葉が斬りつけてくる。
「むしろ聞かせてたの。分からない?」
ディディが一歩、こちらへと踏み出した。
「いい? 悪いことは言わない。さっさと抜けなさい」
部屋の中にいるアダムに配慮したのか。顰めた声で囁かれる。
――僕だって、自分はここに相応しくない。そんなこと、誰よりも理解っている。だけど、
「アダムが僕を必要だと言ったんだ」
握った拳に力を込めて、僕は精一杯言葉を紡ぎ出す。
勇者パーティーの軽戦士。誰よりも早く敵を斬りつけ、刻み、翻弄する実力者。そんな彼女の圧になんとか耐えて応えたというのに。
はあ、とため息をつかれてしまった。
「あのね。アダムは少し疲れてるみたい。勇者としての責務にね。だから、幼馴染のあなたといる時間が、息抜きになってるんでしょう」
ディディの目つきが少しだけ、柔らかくなった気がした。しかし、それも一瞬のこと。
「だけど、勇者パーティーは仲良しごっこじゃない。いつまでも甘えてもらってたら困るの」
僕は口を開きかけ、一度言葉を飲み込んだ。自然と落ちた視線が、足元のカーペット、その繋ぎ目に吸い寄せられる。
「アダムは、なんで僕を連れてると思う?」
少しめくれたカーペットの端を、足で平らに整える。そんな僕の呟きに、ディディの声には戸惑いが混じった。
「は? そりゃあ、仲良い幼馴染――」
僕は敢えて言葉を遮った。
「勇者パーティーで一番強いのは?」
突然の話題転換に、ディディの戸惑いがさらに強まったようだ。一瞬、虚を突かれた表情が見えた。
「何よいきなり。アダムに決まってるでしょ。ていうか、敬語使いなさい」
むむ……怒らせてしまったか。しかし話を聞いてくれる姿勢にほっとする。
「じゃあ、アダムよりつよい敵が出てきたら……どうします?」
「どうって、そんなの――」
根は優しい女性なのだろう。つよい口調で僕を責めるが、表情を目まぐるしく変化させ、こうして耳を傾けてくれる。
僕はふっと息を吐き、しっかりと目の前の軽戦士と視線を合わせた。
「勇者の想定を超える敵。それにアダムを負けさせない。それが、僕の仕事だと思う……ます。」
「……それがあなたに、できるとでも?」
じっと値踏みするように、ディディが僕を見つめ返す。少し言葉尻が窄んでしまったものの、僕は視線を外さなかった。
「今はまだ足りない。だけど、絶対に。できるようにしてみせます」
半分は自身に言い聞かせるように。一言一句、丁寧に紡ぎ出していく。
「ディディ、さん。次の戦闘、手伝わせてください」
ディディはパーティーの中で一番のお姉さん




