↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/44

1.「旅立ちは突然に」


「よし。それじゃ行くぞ」

 久々に会った幼馴染を見送ろうと、村の入り口まで来ていた僕は、盛大に前につんのめった。


「え、ちょ。おとと……!」

 ブレーキをかける僕のサンダルが地面をガガガと削っていく。いや、この怪力め。つかまれた腕、めっちゃ痛いんですけど!?


「アダム? 手、離してよ?」

 構わず進む勇者は、ちらりと顔だけ振り返る。え、こわ。何の悪気もない顔で、不思議そうにされましても。


「離すよ? 今日の宿についたらね」

 掴んだ僕の腕を見下ろして、それから僕の顔を見て。すごく理解のありそうな笑みで、とんでもないこと言いやがる。


「いや、なんで宿までついて行くんだよ。僕の家はこの村――」

「今日からお前は、勇者パーティーの一員だ」


 こうして僕は旅立った。

 人はこれを、拉致と呼ぶ。




***

 こんにちは。僕は村人A。

 今日から勇者パーティーの一員さ!


 まずは自己紹介がてら、僕のスペックを紹介しよう。

 14才男児、身長体重はこの年頃の平均値。黒目黒髪の平凡な容姿だけれども、近隣の三村合同運動会では、走り比べでいつも表彰台に上ってるぜ。

 装備? 着の身着のまま、麻のシャツにズボン、サンダルに武器はなし――まさに村人A状態。いや、クワを持った農夫の方が、遥かに強いだろう。


「おーい、勇者さーん」

 せめて愛用のナイフと鞄くらいは持ってきたかった。小銭一枚持たない僕は、階段を登り、細い廊下を進むアダムの背中に呼びかける。


「この部屋だ。俺と同室だけど、いいよな?」

 人を半日隣町まで引きずっておいて、このマイペース。まったく呆れるが、とにかく今は休みたい。開かれた扉をくぐり――


「え……?」

 出迎えたのは、まるで実家の香りそのものだ。

 2つある寝台の片方に敷かれたシーツの色。縞模様のそば枕、それに毛布も僕の部屋のものとそっくりだ。ベッドの向かいにあるキャビネットは、一番上の引き出しに、見慣れた傷がついている。ガラリと引けば、僕の財布が――


「いや、これまんま僕のじゃん!?」

 僕の部屋がまるまる、隣町の宿屋の一室に移植されていた。


「お前、枕変わると寝れないってうるさいだろ?」

 毛布をめくり、シーツを撫でる。そば枕の形を整えていた僕に、アダムは盛大なため息をついた。


「あ、よく覚えてくれたね?」

 嬉しい。これで今夜は安眠だ。あ、まて。部屋の防犯は十分かしら。


「以前、俺はお前を旅に誘った」

 閉じられた窓の木製扉の強度を確認。錠前も問題ないな。


「そのときお前、『準備ができるまで待ってほしい』って言ったよな」

 出入り口は……内鍵じゃないのかあ。これじゃ宿の主人のマスターキーで侵入可能だな。


「アダム、工具箱取って。引き出しの一番下――」

「2年だっ!」

 応急処置の内鍵を付けようと試行錯誤する僕は、親友の突然の大声に驚いた。


「……2年、待った」

 今度は抑えた声。いつもちゃらんぽらんな友人の顔が、珍しく不機嫌に歪んでいる。


「お前、準備にどんだけかけんだよ!?」

「あー……」

 ポリポリとこめかみを掻く。

 思い出すのは2年前。12歳の「スキル鑑定の儀」の日。親友アダムは「勇者」に選ばれ旅立った。

 いつもバカ騒ぎしたり、女の子が大好きで、ヘラヘラ笑ってた親友が、珍しく硬い表情をしていたものだから。


『アダム、待ってて。僕も君を手伝いに行くから――!』

 誰もが「頑張れ!」「この村の誇りだ」「どうか国を守って」なんて騒ぎ立ててアダムを見送る中で、僕は居ても立ってもいられず、そう叫んだんだ。


「あの時、俺はホッとしたんだ。突然『勇者』になった俺を、まだ俺として見てくれる奴がいるんだって」

 ふっと表情を緩めたアダムは、遠い眼差しで過去を語った。本当に珍しい。こいつが自分の気持ちを話すなんて。


「なのに――」


 気づけば「氷炎の勇者」なんて二つ名が、辺境の村まで轟いていた。その頃の僕は必死で、冒険者登録をして、僕なりにいろいろと準備をしていたよ。だけどすぐに、「隣に並んで戦う」のは無理だって――社会に出て、自分の弱さを確認したから。


「僕は弱い。だから、僕にできるやり方で君を支えようと――」

「それはいつ? いつ隣に来てくれんの?」

 途端、胡乱げな目をした勇者が、僕に詰め寄った。


「俺、何度も言ったよね? 直接戦闘で助けてほしいわけじゃないって。隣にいて、相談にのってくれるだけでもいいって」

「でも、たとえ荷物持ちだとしてもさ? 勇者パーティーについて行くなら、いろいろ準備が――」

「何が?」

 おっと。すごい冷風が吹いてきた。


「部屋まるごと、持ってきたよ? まだ、なにか?」

「じ、十分です」

 ちょっと鼻先が凍ったよ。僕は目の前の勇者の気迫に、おとなしく口を噤むのだった。




あの頃の僕は、考えもしなかった。

いつまでも勇者は、バカで女好きで最強で、そして僕の一番の親友でそこにいてくれる――――

そう無意識に、未来を信じてたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。