↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/44

ex.2 僕と勇者の内緒事②

ご不浄陣・爆誕! 


紳士淑女のみなさま。

お気をつけあそばせ。

ブラウザバック推奨ですのよ。


注意喚起はいたしましたよ? よろしいですか???


「あ、ちょ、……だめ! やっぱダメっ!」

 堪えられずに僕は叫び、手近なタオルに身を隠した。


「おい、動くなよ」

 そんな僕に、不機嫌さが隠しきれない声が降り注ぐ。


――密室で、半裸の男に、筆を持った勇者が迫る。


 事案である。






***

 いま、僕は全身に、魔法陣を描いている。

 先の叫巨花(マンドラゴラ)討伐では、随分消費しちゃったからね。まさか花のくせに知性があって、人質(僕)をとりにくるなんて――

 おかげで服も装備も溶けて散々だ。勇者(アダム)め、「色気ねぇ」とか叫んでないでさっさと助けてよ。


 ま、それもこれも僕の魔法陣を信用してくれてのこと。勇者はさっくり本体を切り倒し、逆さ吊りの僕は救出された。


「やっぱ"酸無効"も入れときたいな」

 『断熱』『反射』『隔絶(小)』……初級魔法程度とはいえ、手札の多さは、それだけ生存の可能性を上げるのだ。刻めるだけ刻みたい。

 耳裏に、毛を剃った脇の下。爪や歯の一本一本だって描けるところは全て埋める。


「ほかに描けるところは――」

 全身をくまなく見回して、僕は気づいてしまった。


「お尻!」

 面積も大きいし、強力な魔法陣を描くのにぴったりだよね。威力も大きいほどに、紋様も煩雑で、場所も場所だし、後回しにしてたんだ。


「ふっふー♪ 今日はよい鏡も借りてきたんだ」

 宿屋の娘さんに頼み、大きめで写りのよい鏡を借りることができました。安全な宿の一室で、いざ、描画タイムー!




あれ?

うまく……見えない?







***


「おい、夕飯食いに行こうぜ」


 部屋を訪れた勇者は目撃した。

 ズボンから尻を突きだした状態で、床に張り付く不審者を。


「げ……なにしてんのお前」

「あ、アダム……」


 勇者は身構えた。この男、明らかに目つきがおかしい。


「そっか。アダム……。そうだ」

 男はぶつぶつと何かを呟くと、顔を上げた。


「尻に魔法陣を描きたい。手伝って」

 四つん這いのまま、爛々と怪しい光を湛える瞳。


「おまえ、とりあえずズボンはこうか」

 自分は勇者だ。まずは冷静に、目の前の事象に向き合った。

 しかし、相手は奇人。

 かつて"国食らい"と呼ばれる隕石龍《メテオドラゴン》と対峙したとき以来のプレッシャーに、勇者は知らず手に汗を握った――




 そして話は冒頭に戻る。


「はぁ……。なんだよ」

「くすぐったい」

「お前が描けって言ったんだろ」

「だって……手つきがなんか嫌らしい」


 かんっと固いものが床を弾く音。勇者が筆を投げ出したのだ。


「はぁ!? 誰が好んで男のケツなんか――」

「じゃあもうちょっと迷いなく。一気に描いてよ。変に迷わず!」

「ちっ」


 ひどい。舌打ちしやがった。

 だけど勇者は投げ出した筆を拾い、もういちどキャンバスという名の尻に向かう。


(ぐ……我慢)

 尻の上を柔らかな毛が這う感覚に、僕は唇を噛んで集中した。


「ん? え、ここはこっちか……?」

 僕が描いた見本図と見比べ、勇者が筆を動かしていく。細かな紋様に行き着くたびに、筆が迷うように揺れるのだ。


「ふ、は……っ」

 抗えないくすぐったさを、吐息に逃がす。

 今はとにかく集中だ。なぞられた箇所、皮膚のうえに魔力を集め、『描画』と『魔力固定』を――



「え? 違った。ここ――」

「ぶ、ふ――わぁあ! 無理っ!」

 ぐるりと筆を回し描かれて、僕は耐えかね、アダムの手を跳ね除けた。


「うわっ、ちょ。最悪! あと少しだったのに!」

「あ、ごめん」

 悪い。今のはどうしても耐えられなくて。



「なあ、もう諦めよーぜ」

 今度こそ「お手上げだ」というように、勇者はインクのつかない筆をぽーいと後ろへ放り投げた。


「僕は……」

 ポンと跳ねて転がる筆を目で追いながら、僕はタオルを被って膝を抱えた。


「僕は、守りたいんだ」

 そこらの並の兵士と変わらない身体能力。魔力だって魔術師の平均以下。


「こんな弱い僕だけど。一つでも可能性を上げられるなら、何だってしたいんだ」

 頭だって特別よいわけでもないし、出来ることといったらこれだけだ。一つでも多くの魔法陣を――


「ふう……」

 ぱちんと両手を打ち合わせ、勇者がその場に立ち上がる。


「指で。やるぞ」

「……え?」

 

 告げられた言葉の意味が、分からない。

 疑問符を浮かべた僕に、勇者は決死の覚悟を浮かべた瞳で、僕をまっすぐに見つめた。


「筆よりましだろ。指で、直になぞる」


「…………うん」


 友人の熱い想い。しかと受け止めてみせる。


 僕は僕たちの未来を守るため、覚悟を決めて尻を差し出した。





 ――――そして。


「二度と男の尻《ケツ》なんて見たくない!」

「待って! もう一回だけ!」


 そう叫ぶ勇者と、その後を必死に追いすがる従者らしき男の姿が目撃されたことで、勇者パーティーにまつわる“あらぬ噂”が広まったのは――――また、別のお話。




 予想していたよりも多くの方にお読みいただき、驚きびっくりと同時に、感謝の念に堪えません。

 そうして、読者の皆さまにお返しするには、やはりこの物語しかない。

 そう思い、「お尻の魔法陣」誕生秘話を、急遽追加させていただきました。……はい、ごめんなさい。お目汚しでございました。


 最後に、少しでも「変な話だけど面白かったぜ」という方は、よろしければ☆評価いただけますと、大変励みになります。


 数ある作品の中から、拙作に興味を持っていただき、誠にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。